11 / 123
第一部 切り札の男
第十一話 打破
しおりを挟む
九回裏、大林高校の攻撃が始まろうとしていた。藤山高校のマウンドには、依然としてエースの内藤が立っている。ブラスバンドが元気よく演奏しているなか、場内アナウンスが流れた。
「九回裏、大林高校の攻撃は、三番センター、岡本くん」
岡本は三年生で、右投左打の外野手だ。俊足とミート力が持ち味であり、クリーンナップにおいて重要な役割を果たしている。
「岡本先輩、頼みます!!」
「岡本ー、出塁してくれー!!」
ベンチからも懸命な声援が飛ぶ。この後は四番に神林、五番に竜司という打順。岡本が出塁すれば、サヨナラ勝ちがぐっと近づく。
内藤が足を上げ、第一球を投じた。外へのストレートだったが、岡本は見逃した。
「ストライク!!」
審判がコールし、内藤が捕手からの返球を受け取った。岡本は一度打席を外し、呼吸を整えた。
「岡本先輩、落ち着いてー!!」
まなが声援を送る。岡本は打席に戻り、構えた。続けて内藤は第二球を投じる。またアウトコースへの球だ。岡本はスイングをしていくが、ホームベースの直前で球が外に逃げて行った。キンという高い音が響き、打球が前に飛ぶ。
「ショート!!」
打球は平凡な内野ゴロとなり、遊撃手の方へ転がっていった。岡本の懸命な走塁もむなしく、ワンアウトとなってしまった。
「ワンアウトワンアウトー!!」
「ナイスピッチ内藤ー!!」
藤山高校のベンチが盛り上がった。一方で、大林高校のベンチにはため息がこだまする。カットボールで内野ゴロを打たされる。今日何度も見たパターンで、再び打ち取られてしまった。間もなく、場内アナウンスが流れた。
「四番、キャッチャー、神林くん」
そして、神林が右打席に入った。状況はワンアウトランナー無し。
「神林ー、お前が塁に出てくれー!!」
ネクストバッターズサークルから、竜司が大声で叫んだ。神林は集中力を高め、じっと内藤の方を見る。負ければ終わりの、夏の大会。その独特な緊張感は、九回になってさらに濃度を増していた。
両校が必死に声援を送るなか、内藤が初球を投じた。また外への球だ。すると神林は躊躇なく左足を踏み込み、逆方向へと思い切り打ち返した。
カーンと良い音が響き、打球が一気に右中間へと飛んで行く。ボールが外野を転々とする間に、神林は二塁へと到達した。これでワンアウト二塁だ。
「ナイバッチ神林先輩!!」
「よくやったー、神林!!」
大林高校の応援席が一気に湧いた。竜司が打席に向かおうとすると、藤山高校はタイムを取った。それを見たまなは、ベンチの裏から久保を呼びだした。
「久保くん、出番だよ!!」
「おう、任せろ」
久保はバットを持ち、ベンチに姿を現した。グラウンドの状況を見た彼は不思議に思い、まなに問いかけた。
「あれ、竜司さんに代打か?」
「ううん、違うよ。あなたの仕事は、そこで突っ立ってること」
まなはそう言うと、ネクストバッターズサークルを指さした。
「どういうことだ?」
「多分、このままだとおにーちゃんは歩かされる。そうさせないために、そこで立ってて」
久保はまなの意図を理解し、ネクストバッターズサークルに向かった。それを見て、マウンドに集まっていた内野陣が騒がしくなった。
そう、あの練習試合で名を馳せたのは竜司だけではない。久保は自英学院の斎藤からスリーランホームランを放ったのだ。となれば、竜司同様にその名が知れ渡るのも当然のことだったのだ。
まなは、竜司を敬遠すれば久保と勝負せざるを得ない――という状況を作りたかったのだ。代打の切り札は、打席に立たずとも役目を果たすことが出来る。彼女はそのことをよく理解していた。
藤山高校の内野陣が散っていく。それに合わせて場内アナウンスが流れた。
「バッターは、五番、ピッチャー、滝川くん」
「頼むぞー!!!」
「頑張ってー!!!!」
球場全体がさらに騒がしくなった。会場中から、竜司に対する熱い視線が注がれる。サヨナラのチャンスで、打席には快投を見せた剛腕投手。今まさに、試合は大詰めを迎えていた。
ブラスバンドの応援がさらに活気を帯びていく。竜司は右打席に入り、すうと息をついた。内藤はセットポジションから、第一球を投じた。
インコースへのカットボールだ。竜司はぴくっと反応したが、振りに行かずそのまま見逃がした。
「ボール!!!」
審判がそうコールすると、ベンチから声援が飛ぶ。
「竜司さんナイスセン!!」
「落ち着いて!!!」
竜司の狙いは、外の球だった。さっき神林が見せた逆方向へのバッティング。それを手本に、右中間に流し打ちをしようと企んでいたのである。
内藤の第二球は、ボールゾーンへのカーブだった。竜司は落ち着いて見逃し、カウントはツーボールノーストライクとなった。
「狙っていけ竜司ー!!」
「おにーちゃんお願い!!」
ボール先行で、打者有利な状況。藤山高校の捕手が外角に構えた。
(おにーちゃん、来るよ……!)
まなは心の中で念を送った。内藤が第三球を投じる。やはり、外へのストレートだった。
竜司はそれに反応し、神林と同じように左足を踏み込む。カキーンと快音を残し、打球は右方向へ飛んで行った。
「やったー!」
思わずまなは声を出した。しかし、やや右寄りに守っていたセカンドが打球に飛びついた。
「あー!!」
とまなが再び声を出す。セカンドは素早く起き上がり、一塁に送球した。その間に神林は三塁に進み、これでツーアウト三塁となった。
「オッケーオッケー!!」
「ツーアウトだぞ、内藤ー!!」
藤山高校のベンチからも必死の応援が続いていた。エースが打ち取られ、試合の流れが敵に傾きかけている。そう判断したまなは久保のもとに駆け寄って耳打ちし、そのまま打席へと送り込んだ。
「大林高校、バッターの交代をお知らせいたします。六番の岩沢くんに代わりまして、久保くん」
「頼むぞー、久保ー!!」
「久保、打てー!!」
球場の雰囲気が最高潮になった。久保はネクストバッターズサークルからゆっくりと歩き出す。相手の持ち球は、今の球数は、前のバッターへの配球は。頭の中を整理しながら、バッターボックスへと入った。
一方、アウトになった竜司はベンチに帰ってきた。バットを置き、延長に備えてグラブを手に取っている。久保の方をじっと見つめるまなを見て、竜司は声を掛けた。
「さっき、久保になんて声を掛けてたんだ?」
「別に、大したことないよ。『三塁ランナーが帰ればいいから』って」
「そんなこと言ったって、もうツーアウトだろ。出来ることはそんなにない」
「いーから、見てなよおにーちゃん」
ワンアウトなら内野ゴロや犠牲フライで生還出来るが、今はツーアウトだ。安打を打つしか点を取る手段は無い。竜司は首をかしげながら、投球練習のためにベンチを出た。打席では、久保がバットを構えてふうと息をついていた。
「かっとばせー、くーぼー!!」
応援席から一段と大きい声援が送られる。内藤は小さく足を上げ、第一球を投じた。
久保はスイングを開始する。しかし、彼の目には山なりの軌道を描くボールが写っていた。そう、カーブだ。
「ストライク!!」
久保が空振りをして、審判がコールした。前の打者二人には初球に速いボールを投じていたため、彼もそれを狙っていた。しかし、藤山高校バッテリーは慎重だったのだ。
(連続でカーブはない)
久保は頭の中でそう考え、改めて構えた。続けて、内藤が第二球を投じる。今度こそとスイングを開始するが、なんと二球目もカーブだった。久保は辛うじてバットに当てたものの、力のないファウルボールとなった。
「ファール!!」
「内藤ナイスピッチー!!」
「追い込んでるぞー!!」
予想外の配球に、久保は困惑していた。速球中心だったバッテリーが、ここに来てカーブを連投してきたのだ。そうなるのも当然だった。
「落ち着いて、久保くん!!!」
そんな久保の耳に、まなの声が届いた。彼女は久保の方を見ながら、神林の方を指さした。そうだ、三塁ランナーを返しさえすれば良いんだ。そう思った久保は深呼吸し、開き直ったように再び打席に入った。
内藤は第三球を投じた。またカーブだが、やや低い。久保は落ち着いてバットを止め、見逃した。すると、ワンバウンドしたボールを捕手が捕り切れずに弾いてしまった。
「チャンス!!」
まなはそう叫んだ。神林が本塁に向かってスタートを切ろうとしたが、ボールはそれほど転がっていなかった。それを見た久保は、左手を出して神林を制した。神林は三塁に戻り、捕手もボールを掴んだ。
「三球連続でカーブとは、キツイな」
ベンチでは、岡本がまなに話しかけていた。それに対し、まなは冷静に答える。
「いえ、今ので向こうはカーブが投げづらくなったはずです。チャンスは必ず来ます」
「でも、これでワンツーだぞ。もしカットボールが来たら」
「大丈夫です。久保くんは分かってます」
まなははっきりとそう言った。一方で、久保もカーブはもう来ないと判断していた。
(裏の裏をかかれてカーブが来たら、それはもう諦めだ)
久保はバットを握り直し、内藤と対する。捕手は外にミットを構えた。内藤は小さく息をつき、第四球を投じた。
彼が投じたのは、カーブ――ではなく、速球だった。
(来たっ!!)
久保は迷わずバットを出しに行った。だがホームベースの直前で、ボールは小さく変化する。そう、カットボールだ。
(ヤバい!!)
ベンチの岡本が、心の中でそう叫んだ。大林高校の打者が散々苦しめられてきたこのボール。また、このパターンか……。彼はため息をつきそうになった。
だが、久保は厭わずバットを振りに行く。左打者の久保にとって、内藤のカットボールは逃げる軌道を描く。ボールがバットの先に当たり、カキッという打球音が響いた。打球の行方を見ないまま、彼は一目散に駆け出した――
「九回裏、大林高校の攻撃は、三番センター、岡本くん」
岡本は三年生で、右投左打の外野手だ。俊足とミート力が持ち味であり、クリーンナップにおいて重要な役割を果たしている。
「岡本先輩、頼みます!!」
「岡本ー、出塁してくれー!!」
ベンチからも懸命な声援が飛ぶ。この後は四番に神林、五番に竜司という打順。岡本が出塁すれば、サヨナラ勝ちがぐっと近づく。
内藤が足を上げ、第一球を投じた。外へのストレートだったが、岡本は見逃した。
「ストライク!!」
審判がコールし、内藤が捕手からの返球を受け取った。岡本は一度打席を外し、呼吸を整えた。
「岡本先輩、落ち着いてー!!」
まなが声援を送る。岡本は打席に戻り、構えた。続けて内藤は第二球を投じる。またアウトコースへの球だ。岡本はスイングをしていくが、ホームベースの直前で球が外に逃げて行った。キンという高い音が響き、打球が前に飛ぶ。
「ショート!!」
打球は平凡な内野ゴロとなり、遊撃手の方へ転がっていった。岡本の懸命な走塁もむなしく、ワンアウトとなってしまった。
「ワンアウトワンアウトー!!」
「ナイスピッチ内藤ー!!」
藤山高校のベンチが盛り上がった。一方で、大林高校のベンチにはため息がこだまする。カットボールで内野ゴロを打たされる。今日何度も見たパターンで、再び打ち取られてしまった。間もなく、場内アナウンスが流れた。
「四番、キャッチャー、神林くん」
そして、神林が右打席に入った。状況はワンアウトランナー無し。
「神林ー、お前が塁に出てくれー!!」
ネクストバッターズサークルから、竜司が大声で叫んだ。神林は集中力を高め、じっと内藤の方を見る。負ければ終わりの、夏の大会。その独特な緊張感は、九回になってさらに濃度を増していた。
両校が必死に声援を送るなか、内藤が初球を投じた。また外への球だ。すると神林は躊躇なく左足を踏み込み、逆方向へと思い切り打ち返した。
カーンと良い音が響き、打球が一気に右中間へと飛んで行く。ボールが外野を転々とする間に、神林は二塁へと到達した。これでワンアウト二塁だ。
「ナイバッチ神林先輩!!」
「よくやったー、神林!!」
大林高校の応援席が一気に湧いた。竜司が打席に向かおうとすると、藤山高校はタイムを取った。それを見たまなは、ベンチの裏から久保を呼びだした。
「久保くん、出番だよ!!」
「おう、任せろ」
久保はバットを持ち、ベンチに姿を現した。グラウンドの状況を見た彼は不思議に思い、まなに問いかけた。
「あれ、竜司さんに代打か?」
「ううん、違うよ。あなたの仕事は、そこで突っ立ってること」
まなはそう言うと、ネクストバッターズサークルを指さした。
「どういうことだ?」
「多分、このままだとおにーちゃんは歩かされる。そうさせないために、そこで立ってて」
久保はまなの意図を理解し、ネクストバッターズサークルに向かった。それを見て、マウンドに集まっていた内野陣が騒がしくなった。
そう、あの練習試合で名を馳せたのは竜司だけではない。久保は自英学院の斎藤からスリーランホームランを放ったのだ。となれば、竜司同様にその名が知れ渡るのも当然のことだったのだ。
まなは、竜司を敬遠すれば久保と勝負せざるを得ない――という状況を作りたかったのだ。代打の切り札は、打席に立たずとも役目を果たすことが出来る。彼女はそのことをよく理解していた。
藤山高校の内野陣が散っていく。それに合わせて場内アナウンスが流れた。
「バッターは、五番、ピッチャー、滝川くん」
「頼むぞー!!!」
「頑張ってー!!!!」
球場全体がさらに騒がしくなった。会場中から、竜司に対する熱い視線が注がれる。サヨナラのチャンスで、打席には快投を見せた剛腕投手。今まさに、試合は大詰めを迎えていた。
ブラスバンドの応援がさらに活気を帯びていく。竜司は右打席に入り、すうと息をついた。内藤はセットポジションから、第一球を投じた。
インコースへのカットボールだ。竜司はぴくっと反応したが、振りに行かずそのまま見逃がした。
「ボール!!!」
審判がそうコールすると、ベンチから声援が飛ぶ。
「竜司さんナイスセン!!」
「落ち着いて!!!」
竜司の狙いは、外の球だった。さっき神林が見せた逆方向へのバッティング。それを手本に、右中間に流し打ちをしようと企んでいたのである。
内藤の第二球は、ボールゾーンへのカーブだった。竜司は落ち着いて見逃し、カウントはツーボールノーストライクとなった。
「狙っていけ竜司ー!!」
「おにーちゃんお願い!!」
ボール先行で、打者有利な状況。藤山高校の捕手が外角に構えた。
(おにーちゃん、来るよ……!)
まなは心の中で念を送った。内藤が第三球を投じる。やはり、外へのストレートだった。
竜司はそれに反応し、神林と同じように左足を踏み込む。カキーンと快音を残し、打球は右方向へ飛んで行った。
「やったー!」
思わずまなは声を出した。しかし、やや右寄りに守っていたセカンドが打球に飛びついた。
「あー!!」
とまなが再び声を出す。セカンドは素早く起き上がり、一塁に送球した。その間に神林は三塁に進み、これでツーアウト三塁となった。
「オッケーオッケー!!」
「ツーアウトだぞ、内藤ー!!」
藤山高校のベンチからも必死の応援が続いていた。エースが打ち取られ、試合の流れが敵に傾きかけている。そう判断したまなは久保のもとに駆け寄って耳打ちし、そのまま打席へと送り込んだ。
「大林高校、バッターの交代をお知らせいたします。六番の岩沢くんに代わりまして、久保くん」
「頼むぞー、久保ー!!」
「久保、打てー!!」
球場の雰囲気が最高潮になった。久保はネクストバッターズサークルからゆっくりと歩き出す。相手の持ち球は、今の球数は、前のバッターへの配球は。頭の中を整理しながら、バッターボックスへと入った。
一方、アウトになった竜司はベンチに帰ってきた。バットを置き、延長に備えてグラブを手に取っている。久保の方をじっと見つめるまなを見て、竜司は声を掛けた。
「さっき、久保になんて声を掛けてたんだ?」
「別に、大したことないよ。『三塁ランナーが帰ればいいから』って」
「そんなこと言ったって、もうツーアウトだろ。出来ることはそんなにない」
「いーから、見てなよおにーちゃん」
ワンアウトなら内野ゴロや犠牲フライで生還出来るが、今はツーアウトだ。安打を打つしか点を取る手段は無い。竜司は首をかしげながら、投球練習のためにベンチを出た。打席では、久保がバットを構えてふうと息をついていた。
「かっとばせー、くーぼー!!」
応援席から一段と大きい声援が送られる。内藤は小さく足を上げ、第一球を投じた。
久保はスイングを開始する。しかし、彼の目には山なりの軌道を描くボールが写っていた。そう、カーブだ。
「ストライク!!」
久保が空振りをして、審判がコールした。前の打者二人には初球に速いボールを投じていたため、彼もそれを狙っていた。しかし、藤山高校バッテリーは慎重だったのだ。
(連続でカーブはない)
久保は頭の中でそう考え、改めて構えた。続けて、内藤が第二球を投じる。今度こそとスイングを開始するが、なんと二球目もカーブだった。久保は辛うじてバットに当てたものの、力のないファウルボールとなった。
「ファール!!」
「内藤ナイスピッチー!!」
「追い込んでるぞー!!」
予想外の配球に、久保は困惑していた。速球中心だったバッテリーが、ここに来てカーブを連投してきたのだ。そうなるのも当然だった。
「落ち着いて、久保くん!!!」
そんな久保の耳に、まなの声が届いた。彼女は久保の方を見ながら、神林の方を指さした。そうだ、三塁ランナーを返しさえすれば良いんだ。そう思った久保は深呼吸し、開き直ったように再び打席に入った。
内藤は第三球を投じた。またカーブだが、やや低い。久保は落ち着いてバットを止め、見逃した。すると、ワンバウンドしたボールを捕手が捕り切れずに弾いてしまった。
「チャンス!!」
まなはそう叫んだ。神林が本塁に向かってスタートを切ろうとしたが、ボールはそれほど転がっていなかった。それを見た久保は、左手を出して神林を制した。神林は三塁に戻り、捕手もボールを掴んだ。
「三球連続でカーブとは、キツイな」
ベンチでは、岡本がまなに話しかけていた。それに対し、まなは冷静に答える。
「いえ、今ので向こうはカーブが投げづらくなったはずです。チャンスは必ず来ます」
「でも、これでワンツーだぞ。もしカットボールが来たら」
「大丈夫です。久保くんは分かってます」
まなははっきりとそう言った。一方で、久保もカーブはもう来ないと判断していた。
(裏の裏をかかれてカーブが来たら、それはもう諦めだ)
久保はバットを握り直し、内藤と対する。捕手は外にミットを構えた。内藤は小さく息をつき、第四球を投じた。
彼が投じたのは、カーブ――ではなく、速球だった。
(来たっ!!)
久保は迷わずバットを出しに行った。だがホームベースの直前で、ボールは小さく変化する。そう、カットボールだ。
(ヤバい!!)
ベンチの岡本が、心の中でそう叫んだ。大林高校の打者が散々苦しめられてきたこのボール。また、このパターンか……。彼はため息をつきそうになった。
だが、久保は厭わずバットを振りに行く。左打者の久保にとって、内藤のカットボールは逃げる軌道を描く。ボールがバットの先に当たり、カキッという打球音が響いた。打球の行方を見ないまま、彼は一目散に駆け出した――
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
美少女に恐喝されてフットサル部入ったけど、正直もう辞めたい
平山安芸
青春
史上最高の逸材と謳われた天才サッカー少年、ハルト。
とあるきっかけで表舞台から姿を消した彼は、ひょんなことから学校一の美少女と名高い長瀬愛莉(ナガセアイリ)に目を付けられ、半ば強引にフットサル部の一員となってしまう。
何故か集まったメンバーは、ハルトを除いて女の子ばかり。かと思ったら、練習場所を賭けていきなりサッカー部と対決することに。未来を掴み損ねた少年の日常は、少女たちとの出会いを機に少しずつ変わり始める。
恋も部活も。生きることさえ、いつだって全力。ハーフタイム無しの人生を突っ走れ。部活モノ系甘々青春ラブコメ、人知れずキックオフ。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜
三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。
父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です
*進行速度遅めですがご了承ください
*この作品はカクヨムでも投稿しております
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる