3 / 16
第3話 幼馴染が親友との仲を進展させようとしている
しおりを挟む
今日も今日とて、机に突っ伏して寝ているふりをしつつ、前の席に座る洋一の様子を窺う。その前に立っているのは笑顔の朱里。朝のホームルーム前、二人は相変わらず和やかに雑談を楽しんでおり、それにつられてクラスの雰囲気まで明るくなってしまったようだった。こうしてただ見ているだけの自分が情けない。
「お前ら、席につけー」
「じゃあ菊池くん、またあとで!」
「うん、じゃあね」
担任がやってきたことで、ようやく二人のおしゃべりが中断された。そのことに安堵してしまう自分がいることに嫌悪感を覚える。別にクラスメイトが仲良く話すことは良いことじゃないか。それなのに、どうしてこんなに嫌な気持ちがするんだろうか。
「……俺のほうがずっと一緒だってのに」
一人、ぼそりと悪態をつく。幼稚園の頃から一緒だったのに。同じ風呂にまで入った仲なのに。なあ朱里、どうして今更洋一なんだよ。お前だって洋一とは中学の頃から一緒だったじゃないか。それなのに、今になって洋一のことが好きになるなんてさ。……俺、馬鹿みたいじゃんか。
あーあ、情けねえ。もとはと言えばさっさと告白しなかった俺が悪かったのかな。でも、それこそこの歳になって「お前が好きだ」なんて言えるはずがない。家が隣同士で、ずっと家族同然の仲だったんだ。この期に及んで愛の告白なんて、恥ずかしいったらありゃしない。……なんて、恥ずかしがり屋の朱里のことを笑えなくなっちまったな――
「いてっ!」
「おい、話聞いてるのか嶋田!」
クラスメイトからどっと笑いが巻き起こる。あまりに俺がうわの空だったものだから、担任がチョークを投げつけてきたらしい。おいおい、朱里までクスクス笑ってるよ。今日は最悪な一日になりそうだ……。
***
「じゃあねー!」
「また明日ー!」
憂鬱なまま授業を受けていたら、いつの間にか放課後になっていた。昇降口に着くと、周囲からは他の生徒たちが元気に別れの挨拶をしているのが聞こえてくる。俺はそんなに大声を張れるほど元気じゃねえなあ。
「……」
無言のまま、下駄箱から自分の運動靴を取り出す。結局、今日も朱里とはほとんど話すことが出来なかった。話しかけようにも、ずっと洋一と喋っているんだもんな。俺も洋一とは仲が良いので、二人の会話に混ざるのはそんなに難しくないはずなのだが、あんなに楽し気に会話していると邪魔をするのも気が引けるというもの。
「ねえ、菊池くん」
「うん、分かってる」
そんな時、下駄箱を挟んだ向こうから朱里と洋一の声が聞こえてきた。何やら小声で会話をしているらしい。駄目だと分かっていながら、俺はそっと聞き耳を立てる。
「明日の放課後……ですよ?」
「もちろん、授業が終わったらすぐ行くよ」
明日の放課後? そういえば、明日はたしか職員会議で全部活が休みだったよな。ってことは、この二人も暇ってわけか。……まさか、デートの約束でもしようって話じゃないだろうな。いやいや、朱里が俺以外と遊びに行くなんてありえない。
「えへへ、いよいよですね」
「そうだね。俺も楽しみにしてる」
楽しみ? サッカーとゲームにしか興味のない洋一がそんなことを言い出すなんて、よっぽどのことってことだよな。なあ、嘘だよな?
「でも、ちょっと時期が早かったかもしれません」
「いいんだよ! いずれはすることになるんだからさ」
洋一、なんでそこまで乗り気なんだ? そして「いずれはすることになる」ってなんのことだよ? 二人が何を言いたいのか分からず、ただただ困惑していた。だが次の瞬間――朱里は決定的な一言を発した。
「じゃあ約束通り、明日は『私の家』に来てくださいねっ!」
「あはは、緊張しちゃうなあ」
朱里の家に行って、「いずれはすること」をする。その意味を理解した瞬間、体中から血の気が引くような思いがした――
「お前ら、席につけー」
「じゃあ菊池くん、またあとで!」
「うん、じゃあね」
担任がやってきたことで、ようやく二人のおしゃべりが中断された。そのことに安堵してしまう自分がいることに嫌悪感を覚える。別にクラスメイトが仲良く話すことは良いことじゃないか。それなのに、どうしてこんなに嫌な気持ちがするんだろうか。
「……俺のほうがずっと一緒だってのに」
一人、ぼそりと悪態をつく。幼稚園の頃から一緒だったのに。同じ風呂にまで入った仲なのに。なあ朱里、どうして今更洋一なんだよ。お前だって洋一とは中学の頃から一緒だったじゃないか。それなのに、今になって洋一のことが好きになるなんてさ。……俺、馬鹿みたいじゃんか。
あーあ、情けねえ。もとはと言えばさっさと告白しなかった俺が悪かったのかな。でも、それこそこの歳になって「お前が好きだ」なんて言えるはずがない。家が隣同士で、ずっと家族同然の仲だったんだ。この期に及んで愛の告白なんて、恥ずかしいったらありゃしない。……なんて、恥ずかしがり屋の朱里のことを笑えなくなっちまったな――
「いてっ!」
「おい、話聞いてるのか嶋田!」
クラスメイトからどっと笑いが巻き起こる。あまりに俺がうわの空だったものだから、担任がチョークを投げつけてきたらしい。おいおい、朱里までクスクス笑ってるよ。今日は最悪な一日になりそうだ……。
***
「じゃあねー!」
「また明日ー!」
憂鬱なまま授業を受けていたら、いつの間にか放課後になっていた。昇降口に着くと、周囲からは他の生徒たちが元気に別れの挨拶をしているのが聞こえてくる。俺はそんなに大声を張れるほど元気じゃねえなあ。
「……」
無言のまま、下駄箱から自分の運動靴を取り出す。結局、今日も朱里とはほとんど話すことが出来なかった。話しかけようにも、ずっと洋一と喋っているんだもんな。俺も洋一とは仲が良いので、二人の会話に混ざるのはそんなに難しくないはずなのだが、あんなに楽し気に会話していると邪魔をするのも気が引けるというもの。
「ねえ、菊池くん」
「うん、分かってる」
そんな時、下駄箱を挟んだ向こうから朱里と洋一の声が聞こえてきた。何やら小声で会話をしているらしい。駄目だと分かっていながら、俺はそっと聞き耳を立てる。
「明日の放課後……ですよ?」
「もちろん、授業が終わったらすぐ行くよ」
明日の放課後? そういえば、明日はたしか職員会議で全部活が休みだったよな。ってことは、この二人も暇ってわけか。……まさか、デートの約束でもしようって話じゃないだろうな。いやいや、朱里が俺以外と遊びに行くなんてありえない。
「えへへ、いよいよですね」
「そうだね。俺も楽しみにしてる」
楽しみ? サッカーとゲームにしか興味のない洋一がそんなことを言い出すなんて、よっぽどのことってことだよな。なあ、嘘だよな?
「でも、ちょっと時期が早かったかもしれません」
「いいんだよ! いずれはすることになるんだからさ」
洋一、なんでそこまで乗り気なんだ? そして「いずれはすることになる」ってなんのことだよ? 二人が何を言いたいのか分からず、ただただ困惑していた。だが次の瞬間――朱里は決定的な一言を発した。
「じゃあ約束通り、明日は『私の家』に来てくださいねっ!」
「あはは、緊張しちゃうなあ」
朱里の家に行って、「いずれはすること」をする。その意味を理解した瞬間、体中から血の気が引くような思いがした――
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~
下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。
一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。
かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。
芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。
乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。
その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる