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第17話 ヘルネの戦い
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「……現在、敵魔術師は城塞の砲台跡より攻撃している」
「航空隊は直ちにヘルネ湖上空に急行せよ!」
「観測部隊より敵航空魔術師の増援が報告された。注意されたし」
さっきから通信魔法は鳴りやむことを知らず、むしろ時間が経つごとにその数は増えていった。ここヘルネは湖に面した城塞が有名な美しい土地であるが、残念ながら今は王国軍に不法占拠されている。我が帝国軍は奪還すべく動かせる戦力を全て注いでいるが、依然として厳しい状況であった。
「司令、こちらシュトラウス。三人を撃墜したが、こちらは五人落とされた。航空隊の集結と再編には時間が必要だ」
「こちら司令。既に敵の航空魔術師はヘルネ湖上空に到達。制空権を握りつつある」
「もうそこまで攻められたのか?」
「探索魔法によれば敵は十数人。そのうち、かなりの魔力量の者が一人」
「……ジェルマンか」
「直ちに湖上空に急行されたし」
司令部からの通信はそこで切れた。このままではジェルマン率いる敵の部隊に一人で突っ込んでいくことになるが――制空権を握られればヘルネ奪還は不可能になる。……やるしかない。
「航空隊、こちらシュトラウス! ヘルネ湖上空の敵は自分が引き受ける! 動ける者は城塞周囲を固めている敵兵を叩け!」
「少佐、本気ですか!?」
「手出しは無用、味方の援護に集中しろ!」
俺は航空隊の隊員たちに指示を出してから、ヘルネ湖上空へ針路を向けた。城塞正面では味方の主力が敵と交戦している。俺が湖の上空に敵航空魔術師を引き付けている間に片がつくといいのだが。……と、もう気づかれたみたいだな。
「正面より敵の追尾魔法が多数接近、上空に退避する!」
視界に映る緑の光線を確認した俺は、一気に浮力を増大させて空高く舞い上がっていった。キインと風を切る音がして、どんどん空気が薄くなっていくのが分かる。それにつれて光線は勢いを失っていき、やがて消滅してしまった。しかし安易に追尾魔法を撃ってくるとはな。
「探索魔法により発射点を特定した! 追尾魔法を発射する!」
俺は光線の軌道を探索魔法で辿り、その座標に向かって追尾魔法を撃ち放った。軌道から発射点を逆算するのはまだまだ研究中の技術で、信頼度は高くない。……が、雑魚の航空魔術師どもには十分だろう。
「高高度より追尾魔法が!」
「回避は間に合わん、防御魔法だ!」
「ダメです、あれは破格魔法です――」
敵の会話を盗み聞きしていたが、間もなく途絶えてしまった。見下ろしてみれば五、六個の爆炎が広がっており、他の航空魔術師も必死に逃げまどっているのがよく分かる。
「ソラ・シュトラウス、近接戦闘に入る」
俺は不意を突くようにして、一気に高度を下げていった。重力の助けも借りながら、音速を上回る速度で降下していく。下方からは敵魔術師が火力魔法を連射しているが、この速度で飛行していればまず食らうことはない。自らの体を防御魔法で守りながら、俺は敵を蹴散らすように衝撃波を発生させていった。
「うわああっ!!」
「回避だ!!」
「無理です!!」
もはや爆風に近いそれは、湖の上空でウロチョロしていた敵の魔術師たちを次々に吹き飛ばした。ある者は湖面に叩きつけられ、ある者は味方と空中衝突。まるで玉突きのように連鎖していき、みるみる敵の数は減少していった。
「司令、こちらシュトラウス。十二人を撃墜、なおも交戦中」
「こちらも確認した。しかし高高度に大魔力を探知、警戒せよ!」
「了解」
ジェルマンの奴、俺が追尾魔法を撃ったのと入れ違いで上昇しやがったな。味方を囮にして逃げたようなもので、相変わらずの畜生ぶりだ。
「上空より大火力魔法!! 回避せよ!!」
その時、通信魔法を通じて耳をつんざくような大声が聞こえてきた。……まだ生き残っている王国の航空魔術師もいるってのに、味方ごと俺を焼き尽くすつもりなのか?
「城塞の味方にも警戒させろ!」
司令に通信魔法を入れつつ、俺は魔力を一気にふかしながら再び空高く舞い上がっていった。ジェルマンが使ったのは大火力魔法だが、湖に直撃させれば水蒸気爆発で城塞ごと吹き飛んでしまう。そうなりゃヘルネ奪還もクソもないのだが、一体どういうつもりなんだ……!
「聞こえているか、回避せよ!」
「このままでは全滅だ、大火力で打ち消す!」
「そんな無茶な――」
「数秒しかない、強行する!」
やいのやいのとうるさい司令を無視して、俺は大火力魔法を撃ち放った。魔法とは波動だ。防御魔法でなくとも、こちらから逆位相の魔法を撃ってやれば打ち消すことも出来るはず!
「今ッ!!」
そう叫んだ瞬間、俺は上空に閃光が発生するのを見た。稲妻かと見紛うほどの眩しさに、思わず目を背けてしまう。……が、その光は急速に失われていき、まるで何事もなかったかのような曇り空に戻っていった。ふと見上げてみれば、そこにはジェルマンとその周囲を取り囲む仮面の連中。
「聞こえているか、『悪魔』よ」
「ジェルマン……!」
俺の耳には聞きたくもない声が届いていた。我が帝国の優秀な航空魔術師たちを次々に撃墜する能力と、目的のためなら味方でさえも犠牲にするその悪魔的愛国心。……この世で一番相手にしたくない魔術師だ。
「まさか大火力魔法を消滅させるとは恐れ入った。あれだけの精度、探索魔法も得意と見える」
「俺よりずっと得意な奴を知ってるんでね。別に嬉しくもない」
「ぶわっはっは! そうか、『悪魔』はずいぶんと謙虚だな」
「……話はそれだけか?」
「ああ、では早速――」
「悪いが、消えろ」
次の瞬間、緑色の光線が一斉に仮面の魔術師たちに着弾した。特大の爆炎が上がり、周囲には煙がもうもうと立ち込めている。さっきの大火力魔法のついでに、高度五千で下向きにターンするよう仕掛けた追尾魔法を空高く繰り出していたのだ。どうせ上空にジェルマンがいるのは分かっていたのだし、当然のことだ。
「……死んだか?」
視界が悪く、敵の生死が確認できない。探索魔法を使おうと、少しだけ顔を下に向けたその瞬間――唐突に腹を突き飛ばされた。
「ごきげんよう」
「ぐっ……!?」
そう、ジェルマンが煙の中から現れ、俺の懐に直接飛び込んでいたのだ! 完全に不意を突かれてしまい、俺は勢いのままに体を引っ掴まれてしまう。ジェルマンは俺の体を引きずるようにして、一気に高度を下げていった。
「やはりお前は流石だな、悪魔よ……?」
「何をする、放せ!」
「そいつは無理な相談だ、このまま俺と一緒に落ちてもらう」
「正気か、ジェルマン!?」
「お前を落とせばこの戦争は――」
「てめえ、放せって!!」
俺はじたばたと必死に抵抗を続けるが、まったくと言っていいほど身動きがとれなかった。このままでは湖面に激突し、ジェルマンもろとも木っ端みじんだ。
「てめえ死ぬ気なのか!?」
「お前が死ぬならなんだっていいぞ」
「俺はよくねえんだよ、てめえだけ死ね!!」
「口が悪いな、ちゃんと教育を受けているのか?」
「この減らず口がッ――」
「じゃあ放してやるよ」
「なっ……!」
俺を引っ掴んでいた手が放され、今度は唐突に自由の身になってしまった。ジェルマンは上昇していくが、俺は慣性の法則でそのまま湖面へと突き落とされていく。ヤバいッ、体勢を立て直さないと――
「敵魔術師だ、撃てーッ!!」
その瞬間、城塞の砲台跡から対空魔法が発射されるのが見えた。もうかなりの低空だし、地上の魔術師にとってはうってつけの的というわけか。俺は慌てて防御魔法を展開し、なんとか防ごうとしたのだが――
「ぐっ!?」
もろに一発被弾してしまい、思わず声を上げてしまった。完璧ではないにしろ、それなりの防御魔法を張ったはず。こうもあっさり貫通されるとは、ただの魔術師じゃないぞ……!
「火力魔法、発射!!」
俺は本能的に恐怖を覚え、気づいたときには砲台跡に火力魔法を発射していた。間もなく大きな爆発があり、対空魔法はぴたりと止んでしまう。しかし、ほっと息をついたまさにその瞬間――
「ぐわあああああッ!!!」
俺の右足は、ジェルマンによって完璧に撃ち抜かれていた――
「航空隊は直ちにヘルネ湖上空に急行せよ!」
「観測部隊より敵航空魔術師の増援が報告された。注意されたし」
さっきから通信魔法は鳴りやむことを知らず、むしろ時間が経つごとにその数は増えていった。ここヘルネは湖に面した城塞が有名な美しい土地であるが、残念ながら今は王国軍に不法占拠されている。我が帝国軍は奪還すべく動かせる戦力を全て注いでいるが、依然として厳しい状況であった。
「司令、こちらシュトラウス。三人を撃墜したが、こちらは五人落とされた。航空隊の集結と再編には時間が必要だ」
「こちら司令。既に敵の航空魔術師はヘルネ湖上空に到達。制空権を握りつつある」
「もうそこまで攻められたのか?」
「探索魔法によれば敵は十数人。そのうち、かなりの魔力量の者が一人」
「……ジェルマンか」
「直ちに湖上空に急行されたし」
司令部からの通信はそこで切れた。このままではジェルマン率いる敵の部隊に一人で突っ込んでいくことになるが――制空権を握られればヘルネ奪還は不可能になる。……やるしかない。
「航空隊、こちらシュトラウス! ヘルネ湖上空の敵は自分が引き受ける! 動ける者は城塞周囲を固めている敵兵を叩け!」
「少佐、本気ですか!?」
「手出しは無用、味方の援護に集中しろ!」
俺は航空隊の隊員たちに指示を出してから、ヘルネ湖上空へ針路を向けた。城塞正面では味方の主力が敵と交戦している。俺が湖の上空に敵航空魔術師を引き付けている間に片がつくといいのだが。……と、もう気づかれたみたいだな。
「正面より敵の追尾魔法が多数接近、上空に退避する!」
視界に映る緑の光線を確認した俺は、一気に浮力を増大させて空高く舞い上がっていった。キインと風を切る音がして、どんどん空気が薄くなっていくのが分かる。それにつれて光線は勢いを失っていき、やがて消滅してしまった。しかし安易に追尾魔法を撃ってくるとはな。
「探索魔法により発射点を特定した! 追尾魔法を発射する!」
俺は光線の軌道を探索魔法で辿り、その座標に向かって追尾魔法を撃ち放った。軌道から発射点を逆算するのはまだまだ研究中の技術で、信頼度は高くない。……が、雑魚の航空魔術師どもには十分だろう。
「高高度より追尾魔法が!」
「回避は間に合わん、防御魔法だ!」
「ダメです、あれは破格魔法です――」
敵の会話を盗み聞きしていたが、間もなく途絶えてしまった。見下ろしてみれば五、六個の爆炎が広がっており、他の航空魔術師も必死に逃げまどっているのがよく分かる。
「ソラ・シュトラウス、近接戦闘に入る」
俺は不意を突くようにして、一気に高度を下げていった。重力の助けも借りながら、音速を上回る速度で降下していく。下方からは敵魔術師が火力魔法を連射しているが、この速度で飛行していればまず食らうことはない。自らの体を防御魔法で守りながら、俺は敵を蹴散らすように衝撃波を発生させていった。
「うわああっ!!」
「回避だ!!」
「無理です!!」
もはや爆風に近いそれは、湖の上空でウロチョロしていた敵の魔術師たちを次々に吹き飛ばした。ある者は湖面に叩きつけられ、ある者は味方と空中衝突。まるで玉突きのように連鎖していき、みるみる敵の数は減少していった。
「司令、こちらシュトラウス。十二人を撃墜、なおも交戦中」
「こちらも確認した。しかし高高度に大魔力を探知、警戒せよ!」
「了解」
ジェルマンの奴、俺が追尾魔法を撃ったのと入れ違いで上昇しやがったな。味方を囮にして逃げたようなもので、相変わらずの畜生ぶりだ。
「上空より大火力魔法!! 回避せよ!!」
その時、通信魔法を通じて耳をつんざくような大声が聞こえてきた。……まだ生き残っている王国の航空魔術師もいるってのに、味方ごと俺を焼き尽くすつもりなのか?
「城塞の味方にも警戒させろ!」
司令に通信魔法を入れつつ、俺は魔力を一気にふかしながら再び空高く舞い上がっていった。ジェルマンが使ったのは大火力魔法だが、湖に直撃させれば水蒸気爆発で城塞ごと吹き飛んでしまう。そうなりゃヘルネ奪還もクソもないのだが、一体どういうつもりなんだ……!
「聞こえているか、回避せよ!」
「このままでは全滅だ、大火力で打ち消す!」
「そんな無茶な――」
「数秒しかない、強行する!」
やいのやいのとうるさい司令を無視して、俺は大火力魔法を撃ち放った。魔法とは波動だ。防御魔法でなくとも、こちらから逆位相の魔法を撃ってやれば打ち消すことも出来るはず!
「今ッ!!」
そう叫んだ瞬間、俺は上空に閃光が発生するのを見た。稲妻かと見紛うほどの眩しさに、思わず目を背けてしまう。……が、その光は急速に失われていき、まるで何事もなかったかのような曇り空に戻っていった。ふと見上げてみれば、そこにはジェルマンとその周囲を取り囲む仮面の連中。
「聞こえているか、『悪魔』よ」
「ジェルマン……!」
俺の耳には聞きたくもない声が届いていた。我が帝国の優秀な航空魔術師たちを次々に撃墜する能力と、目的のためなら味方でさえも犠牲にするその悪魔的愛国心。……この世で一番相手にしたくない魔術師だ。
「まさか大火力魔法を消滅させるとは恐れ入った。あれだけの精度、探索魔法も得意と見える」
「俺よりずっと得意な奴を知ってるんでね。別に嬉しくもない」
「ぶわっはっは! そうか、『悪魔』はずいぶんと謙虚だな」
「……話はそれだけか?」
「ああ、では早速――」
「悪いが、消えろ」
次の瞬間、緑色の光線が一斉に仮面の魔術師たちに着弾した。特大の爆炎が上がり、周囲には煙がもうもうと立ち込めている。さっきの大火力魔法のついでに、高度五千で下向きにターンするよう仕掛けた追尾魔法を空高く繰り出していたのだ。どうせ上空にジェルマンがいるのは分かっていたのだし、当然のことだ。
「……死んだか?」
視界が悪く、敵の生死が確認できない。探索魔法を使おうと、少しだけ顔を下に向けたその瞬間――唐突に腹を突き飛ばされた。
「ごきげんよう」
「ぐっ……!?」
そう、ジェルマンが煙の中から現れ、俺の懐に直接飛び込んでいたのだ! 完全に不意を突かれてしまい、俺は勢いのままに体を引っ掴まれてしまう。ジェルマンは俺の体を引きずるようにして、一気に高度を下げていった。
「やはりお前は流石だな、悪魔よ……?」
「何をする、放せ!」
「そいつは無理な相談だ、このまま俺と一緒に落ちてもらう」
「正気か、ジェルマン!?」
「お前を落とせばこの戦争は――」
「てめえ、放せって!!」
俺はじたばたと必死に抵抗を続けるが、まったくと言っていいほど身動きがとれなかった。このままでは湖面に激突し、ジェルマンもろとも木っ端みじんだ。
「てめえ死ぬ気なのか!?」
「お前が死ぬならなんだっていいぞ」
「俺はよくねえんだよ、てめえだけ死ね!!」
「口が悪いな、ちゃんと教育を受けているのか?」
「この減らず口がッ――」
「じゃあ放してやるよ」
「なっ……!」
俺を引っ掴んでいた手が放され、今度は唐突に自由の身になってしまった。ジェルマンは上昇していくが、俺は慣性の法則でそのまま湖面へと突き落とされていく。ヤバいッ、体勢を立て直さないと――
「敵魔術師だ、撃てーッ!!」
その瞬間、城塞の砲台跡から対空魔法が発射されるのが見えた。もうかなりの低空だし、地上の魔術師にとってはうってつけの的というわけか。俺は慌てて防御魔法を展開し、なんとか防ごうとしたのだが――
「ぐっ!?」
もろに一発被弾してしまい、思わず声を上げてしまった。完璧ではないにしろ、それなりの防御魔法を張ったはず。こうもあっさり貫通されるとは、ただの魔術師じゃないぞ……!
「火力魔法、発射!!」
俺は本能的に恐怖を覚え、気づいたときには砲台跡に火力魔法を発射していた。間もなく大きな爆発があり、対空魔法はぴたりと止んでしまう。しかし、ほっと息をついたまさにその瞬間――
「ぐわあああああッ!!!」
俺の右足は、ジェルマンによって完璧に撃ち抜かれていた――
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