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第9話 思わぬ才能
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改めてよく見てみたが、先頭以外の四人は全て仮面をつけて飛行していた。気味が悪いが、綺麗なV字の編隊を作っているあたり練度は高いと見える。俺は再度、クラーラに航空魔術師の正体を確認した。
「校長、本当にジェルマンでありますか?」
「細かい術式までは分からなかったが、魔力量は紛れもなくジェルマンだ!」
クラーラはかつて探索魔法で大きく部隊に貢献していた。コイツが言うなら間違いなくジェルマンなのだろう。……厄介なことになった。俺は右足を引きずりながら、なんとかクラーラとエレナのもとに向かった。
「エレナ、もう無理だ。逃げるしかない」
「でも、このままだとやられっぱなしだよ」
「迂闊に抵抗すればここが標的になる。下手すりゃ全校生徒が木っ端みじんだ」
「……分かったよ、せんせー」
エレナはようやく納得したようで、構えを解いた。しかしどうしてコイツは自分の魔法にこだわっていたのだろう。まだ新入生のエレナが、航空魔術師を撃ち落とすような魔法を使えるとは思えないのだが。
「校長、行きましょう」
「ああ、そうだな」
クラーラを促し、俺たちは校舎の方へと移動しようと歩き始めた。街の方からは依然として爆発音が響き渡っている。街外れにあるとはいえ、家で待っているベルが心配だな。まあアイツも魔術師のようだし、最悪の場合は自分で防御魔法くらい使えるだろう。
「……レムシャイトの民に告げる。こちらは王国軍である!」
「なっ……!?」
しかしその時、上空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。その方向を見ると、そこにいたのは空中に留まるジェルマンの編隊。恐らく拡声魔法を使って自分の声を響かせているのだろう。
「校長、奴らは何をする気でありましょうか」
「分からん。だがろくなことではあるまい」
俺の存在が王国に知れ渡っているように、ジェルマンもまた帝国軍では悪名高い存在であった。民間人への攻撃も厭わず、戦場における勝利のみを目的に行動している。……俺が「悪魔」なら、ジェルマンは「怪物」であるのだ。
「我々の目的は攻撃ではない。ただ一つ、この街に潜伏する『ハイルブロンの悪魔』に用がある」
「校長……!」
「……やっぱり貴様か」
クラーラはこちらを再び睨みつけた。案の定、ジェルマンの目的はこの俺だったというわけか。しかしベルがいなければ、飛んでいって奴に「やあ」と挨拶することすら出来ない。
「『ハイルブロンの悪魔』に告げる! 今ここで姿を現さなければ――このレムシャイトに大火力魔法を使用する!」
「だ、大火力魔法だと……!?」
明らかにクラーラの顔が険しくなった。大火力魔法が使用されれば街の広範囲が焼き尽くされてしまう。……そこまでして俺を引っ張り出したいというのか。
「ソラ、貴様は」
「自分は飛べる状態にありません。……残念であります」
「我々には奴らに対抗できる手段がない。ここはやはり校舎に――」
「せんせー、私が撃つよ」
エレナは再びジェルマンの方へと体を向けていた。半身になり、魔法を撃つ構えを見せている。俺とクラーラは戸惑って顔を見合わせたが、やがて何かを確かめるように頷いた。
「……生徒に頼るとは情けないな」
「しかし、他に方法がないのであります」
「分かっている。エレナ、貴様には自信があるんだな?」
「当ててみせるよ」
エレナは真剣な表情をしていた。普段の呑気な顔つきは消え、今やしっかりと標的をその眼で捉えている。……やはりコイツには適性があるのかもしれぬ。
「そうか。では――アーレント学生、貴官に我が領空を侵犯する敵魔術師の撃墜を命令する」
「はいっ! 敵魔術師を撃墜します!」
「シュトラウス教官にはアーレント学生の援護を命ずる。必要に応じて防御魔法を使用せよ」
「はっ! アーレント学生を援護します!」
「私は探索魔法で敵魔術師の位置を把握する。アーレント学生はそれに従って攻撃せよ」
俺は杖を置き、魔力を体外へと押し出し始めた。簡単な防御魔法を使うくらいなら右足に負担はかからない。ジェルマンの魔法を防ぐほどの魔力を発揮できるかは分からないが、どのみちこれしか手段はないだろう。
「探索を開始する。敵魔術師五人、レムシャイト上空にて停止中。敵の座標をアーレント学生に転送する」
「確認しました。方位三十度、高度三百」
「防御魔法を展開中。アーレント学生の射撃方向のみ、展開を解除する」
当然だが、防御魔法を展開すれば味方の攻撃をも打ち消してしまうことになる。うまくやれば展開したまま攻撃出来るのだが、今の俺ではそんな器用な真似は出来ないのだ。
「あと十秒間で現れなければ、我々は攻撃を開始する。これは脅しではない」
上空では、ジェルマンの編隊がまさに術式を展開しているところだった。遠目で分からないが、やはり大火力魔法を使うつもりなのだろう。……そんなことをすれば間違いなく停戦が終わるのだが、アイツらにはその覚悟があるのだろうか?
「じゅう、きゅう、はち……」
「アーレント学生、魔法の術式を伝えよ」
「火力魔法を使います。攻撃用意よし!」
エレナは完全に敵を捕捉していた。新入生でこれほど肝が据わった者はそう多くないだろう。というか、こんな真面目な言葉遣いが出来たとは知らなかった。
「ご、よん、さん……」
そうこうしているうちにも、ジェルマンのカウントダウンは進んでいく。エレナは目を閉じ、意識を身体に集中させているようだ。かなりの魔力が体内に集積しているのが隣に立っている俺にも伝わってくる。そして間もなく――クラーラが大きな声で命令を下した。
「目標、敵魔術師! 攻撃開始!」
「はいっ!」
次の瞬間、エレナの右手から橙色の光線が放たれた。一直線に編隊の方へと向かっていき、青い空を切り裂いていく。ジェルマンはすぐさま反応し、どうやら防御魔法を展開したようだ。光線はそのまま編隊の近くに到達し、防御魔法に弾かれてしまった。
「弾かれた!」
「いや、よく見ろ!」
頭を抱えたエレナに対し、クラーラが敵を見るように伝えた。よく見ると、ジェルマンのすぐ近くにいた魔術師がふらふらと離脱していっている。他の魔術師たちは散開し、態勢を立て直しつつあった。
「校長、状況は!?」
「弾かれた光線がジェルマンの手下に直撃したようだ」
「ええっ?」
ジェルマンは弾いた敵の魔法を味方に当てるような間抜けな真似はしないはずだ。そもそも、奴の魔力量なら敵の魔法など打ち消すのが普通。弾いている時点で何かがおかしい。……まさか。
「ソラ、アーレント学生の魔法診断の結果は?」
「まだ受領しておりません」
「……この魔法、ただの魔法じゃないかもしれんぞ」
クラーラも同じことを考えていたようで、目を丸くしてエレナの方を見ていた。そのエレナはというと、次弾に備えて再び魔力を充填しつつある。……って、今は考えている場合じゃない!
「クラーラ、次の座標!」
「あ、ああ! アーレント学生に座標を転送する!」
「確認しました! 攻撃用意よし!」
「離脱した魔術師を追撃する! 撃てっ!」
「はいっ!」
エレナはまたも火力魔法を繰り出した。橙色の光線が一直線に伸びていき、単独飛行する魔術師の方へと向かっていく。
「風っ……!?」
するとエレナの周囲に突風が巻き起こり、俺はふらふらとよろめいてしまった。どうやらエレナの火力魔法には風魔法の成分が混ざっているみたいだ。……間違いない。
「命中!」
そう叫ぶエレナの視線の先には、大きな爆炎があった。俺とクラーラは驚きのあまり何の声も上げることが出来ない。ジェルマンの部下ともなれば、単純な火力魔法なら容易に防げるはずなのだ。それが出来ずに撃墜されたということは、つまり――
「校長……!」
「ああ、間違いない。彼女は――」
「生まれついての破格魔術師だ!」
「校長、本当にジェルマンでありますか?」
「細かい術式までは分からなかったが、魔力量は紛れもなくジェルマンだ!」
クラーラはかつて探索魔法で大きく部隊に貢献していた。コイツが言うなら間違いなくジェルマンなのだろう。……厄介なことになった。俺は右足を引きずりながら、なんとかクラーラとエレナのもとに向かった。
「エレナ、もう無理だ。逃げるしかない」
「でも、このままだとやられっぱなしだよ」
「迂闊に抵抗すればここが標的になる。下手すりゃ全校生徒が木っ端みじんだ」
「……分かったよ、せんせー」
エレナはようやく納得したようで、構えを解いた。しかしどうしてコイツは自分の魔法にこだわっていたのだろう。まだ新入生のエレナが、航空魔術師を撃ち落とすような魔法を使えるとは思えないのだが。
「校長、行きましょう」
「ああ、そうだな」
クラーラを促し、俺たちは校舎の方へと移動しようと歩き始めた。街の方からは依然として爆発音が響き渡っている。街外れにあるとはいえ、家で待っているベルが心配だな。まあアイツも魔術師のようだし、最悪の場合は自分で防御魔法くらい使えるだろう。
「……レムシャイトの民に告げる。こちらは王国軍である!」
「なっ……!?」
しかしその時、上空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。その方向を見ると、そこにいたのは空中に留まるジェルマンの編隊。恐らく拡声魔法を使って自分の声を響かせているのだろう。
「校長、奴らは何をする気でありましょうか」
「分からん。だがろくなことではあるまい」
俺の存在が王国に知れ渡っているように、ジェルマンもまた帝国軍では悪名高い存在であった。民間人への攻撃も厭わず、戦場における勝利のみを目的に行動している。……俺が「悪魔」なら、ジェルマンは「怪物」であるのだ。
「我々の目的は攻撃ではない。ただ一つ、この街に潜伏する『ハイルブロンの悪魔』に用がある」
「校長……!」
「……やっぱり貴様か」
クラーラはこちらを再び睨みつけた。案の定、ジェルマンの目的はこの俺だったというわけか。しかしベルがいなければ、飛んでいって奴に「やあ」と挨拶することすら出来ない。
「『ハイルブロンの悪魔』に告げる! 今ここで姿を現さなければ――このレムシャイトに大火力魔法を使用する!」
「だ、大火力魔法だと……!?」
明らかにクラーラの顔が険しくなった。大火力魔法が使用されれば街の広範囲が焼き尽くされてしまう。……そこまでして俺を引っ張り出したいというのか。
「ソラ、貴様は」
「自分は飛べる状態にありません。……残念であります」
「我々には奴らに対抗できる手段がない。ここはやはり校舎に――」
「せんせー、私が撃つよ」
エレナは再びジェルマンの方へと体を向けていた。半身になり、魔法を撃つ構えを見せている。俺とクラーラは戸惑って顔を見合わせたが、やがて何かを確かめるように頷いた。
「……生徒に頼るとは情けないな」
「しかし、他に方法がないのであります」
「分かっている。エレナ、貴様には自信があるんだな?」
「当ててみせるよ」
エレナは真剣な表情をしていた。普段の呑気な顔つきは消え、今やしっかりと標的をその眼で捉えている。……やはりコイツには適性があるのかもしれぬ。
「そうか。では――アーレント学生、貴官に我が領空を侵犯する敵魔術師の撃墜を命令する」
「はいっ! 敵魔術師を撃墜します!」
「シュトラウス教官にはアーレント学生の援護を命ずる。必要に応じて防御魔法を使用せよ」
「はっ! アーレント学生を援護します!」
「私は探索魔法で敵魔術師の位置を把握する。アーレント学生はそれに従って攻撃せよ」
俺は杖を置き、魔力を体外へと押し出し始めた。簡単な防御魔法を使うくらいなら右足に負担はかからない。ジェルマンの魔法を防ぐほどの魔力を発揮できるかは分からないが、どのみちこれしか手段はないだろう。
「探索を開始する。敵魔術師五人、レムシャイト上空にて停止中。敵の座標をアーレント学生に転送する」
「確認しました。方位三十度、高度三百」
「防御魔法を展開中。アーレント学生の射撃方向のみ、展開を解除する」
当然だが、防御魔法を展開すれば味方の攻撃をも打ち消してしまうことになる。うまくやれば展開したまま攻撃出来るのだが、今の俺ではそんな器用な真似は出来ないのだ。
「あと十秒間で現れなければ、我々は攻撃を開始する。これは脅しではない」
上空では、ジェルマンの編隊がまさに術式を展開しているところだった。遠目で分からないが、やはり大火力魔法を使うつもりなのだろう。……そんなことをすれば間違いなく停戦が終わるのだが、アイツらにはその覚悟があるのだろうか?
「じゅう、きゅう、はち……」
「アーレント学生、魔法の術式を伝えよ」
「火力魔法を使います。攻撃用意よし!」
エレナは完全に敵を捕捉していた。新入生でこれほど肝が据わった者はそう多くないだろう。というか、こんな真面目な言葉遣いが出来たとは知らなかった。
「ご、よん、さん……」
そうこうしているうちにも、ジェルマンのカウントダウンは進んでいく。エレナは目を閉じ、意識を身体に集中させているようだ。かなりの魔力が体内に集積しているのが隣に立っている俺にも伝わってくる。そして間もなく――クラーラが大きな声で命令を下した。
「目標、敵魔術師! 攻撃開始!」
「はいっ!」
次の瞬間、エレナの右手から橙色の光線が放たれた。一直線に編隊の方へと向かっていき、青い空を切り裂いていく。ジェルマンはすぐさま反応し、どうやら防御魔法を展開したようだ。光線はそのまま編隊の近くに到達し、防御魔法に弾かれてしまった。
「弾かれた!」
「いや、よく見ろ!」
頭を抱えたエレナに対し、クラーラが敵を見るように伝えた。よく見ると、ジェルマンのすぐ近くにいた魔術師がふらふらと離脱していっている。他の魔術師たちは散開し、態勢を立て直しつつあった。
「校長、状況は!?」
「弾かれた光線がジェルマンの手下に直撃したようだ」
「ええっ?」
ジェルマンは弾いた敵の魔法を味方に当てるような間抜けな真似はしないはずだ。そもそも、奴の魔力量なら敵の魔法など打ち消すのが普通。弾いている時点で何かがおかしい。……まさか。
「ソラ、アーレント学生の魔法診断の結果は?」
「まだ受領しておりません」
「……この魔法、ただの魔法じゃないかもしれんぞ」
クラーラも同じことを考えていたようで、目を丸くしてエレナの方を見ていた。そのエレナはというと、次弾に備えて再び魔力を充填しつつある。……って、今は考えている場合じゃない!
「クラーラ、次の座標!」
「あ、ああ! アーレント学生に座標を転送する!」
「確認しました! 攻撃用意よし!」
「離脱した魔術師を追撃する! 撃てっ!」
「はいっ!」
エレナはまたも火力魔法を繰り出した。橙色の光線が一直線に伸びていき、単独飛行する魔術師の方へと向かっていく。
「風っ……!?」
するとエレナの周囲に突風が巻き起こり、俺はふらふらとよろめいてしまった。どうやらエレナの火力魔法には風魔法の成分が混ざっているみたいだ。……間違いない。
「命中!」
そう叫ぶエレナの視線の先には、大きな爆炎があった。俺とクラーラは驚きのあまり何の声も上げることが出来ない。ジェルマンの部下ともなれば、単純な火力魔法なら容易に防げるはずなのだ。それが出来ずに撃墜されたということは、つまり――
「校長……!」
「ああ、間違いない。彼女は――」
「生まれついての破格魔術師だ!」
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