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第九 灰に棲むもの達
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ブルーカラーのシンデレラ
アッシュカラーの舞踏会
そこに混ざるは犬と蠅
気がつけば、いつの間にやら、赤トンボ。
八月も終わりに差し掛かり、いつしかの足音はすでに遠ざかり、新たな足音が近づき始めていた。
この頃から、私は実家に移り住み、研究と仕事、そして療養に集中していた。
庭には、様々な植物が植えてある。ブルーベリーや柿の木、夏グミやジューンベリーといった、果実を宿すものが多い。
中には、紅葉の木や木蓮もある。
いつもの様に、刃を石に当てていると、上から、真紅に染まった、人の手の様な形状の葉が落ちてきた。
紅葉がまさに、紅葉となりつつある。これぞ、聞こえない秋の足音だ。
私は、小腹満たしに少し青い柿の実をかじりながら、その、季節のドップラー効果を感じ、聞こえない足音を聴いていた。
話は変わるが、今日は、海岸沿いに車乗り達が集まる日でもある。
淘汰されつつある、旧き好き内燃機関。それをこよなく愛する者達は、時折そうして集い、各々の感情を吐露し合うのだ。
それは、言葉のみならず、自らの「外骨格」を通して伝え合うことも多い。
海岸沿いの道は、狭く、長く、また、獲物を探す蛇の様にうねっている。
そこは、昼間は、海の美しさを通して、地球の丸さを感じられる、絶景の、観光客達の、聖地である。
夜間は、大地を通して、内燃機関の素晴らしさを感じられる、絶世の、外骨格達の、聖地である。
空は晴れており、月は、全体的にその「一方しか向けない顔」を輝かせていた。
私は、この日の分の作業を済ませると、身を清め、大空を宿す外骨格を纏い、聖地へと向かった。
私のこの・・・「異形」は、海岸のうねるアスファルトを、蛇の様に滑らかに進んでゆく。
あのガラスの靴とは全く異なる、この黒の革のブーツは、あの南瓜の馬車とは全く異なる、この蛇の外骨格を操るのに丁度良い。
しばらく、海の湿った風を感じながら進んでゆくと、前方に、あの「異形」が現れた。
友人の外骨格・・・他のものとは明らかに異なるその外骨格は、野を駆け巡る猫の様に、キビキビと走り回っていた。
しかし、しばらくすると、我々の「異形」は「普遍的」な動きになった。どうやら、更なる前方に、軽自動車が何台も連なっている様だ。
我々は、車間を広く取り、有事に対し即座に対応できる様にした。
広く車間をとっていれば、万が一、前方でトラブルが発生しても、それに巻き込まれることなく、即座に対応できるからだ。
我々の前方に居る、その偽物の龍は、愚かにも、時折赤いランプを何度もちらつかせている。
まるで「自分はお前よりも速いのだぞ」と言いたげに、何台も連なった軽自動車は、車間が狭く、ことあるたびにわざわざ減速しているのだ。
龍といっても、それは、ただネズミが長く連なって、そう見えているだけである。
蛇と猫からすれば、ネズミは餌にしかならない。だが、今はただ聖地へと向かっているだけであり、猫も蛇も、さして飢えていない。
車間を広くとっていれば一定の速度で走れるのに・・・そう思いながら、我々は龍ならぬ、無知蒙昧なネズミの群からさらに一歩引いた距離で進み続けた。
しばらくすると、偽物の龍は散り、ネズミたちは巣へと戻っていった。
猫と蛇は再び、大地を感じながら聖地へと向かった。
黒、黒、黒、黒、黒。白、白、白、白。
大半が、平たく同じ形状をした外骨格である。
その中に、一つの異形な白と、一つの異形な青が加わった。
半数は見知らぬ人、もう半数は顔見知りや先輩、後輩たちだ。
もうすでに「外骨格を通じた語り合い」は始まっているらしい。雄々しき咆哮と、漆黒の足が発する鳴き声が、辺りに響いている。
五つの黒に、五つの白、その中に孤独だった小さな青は、その後、すぐ孤独ではなくなった。
腹の底に響く様な咆哮をあげながら、既存の小さな青の隣に、一回り大きな青が留まった。
クワガタの件とは異なる先輩だ。
ネズミしか喰えない小さな蛇と異なり、彼の外骨格・・・その本物の龍は、四肢を屈強に動かし、全てを喰らう。
「おっつー」
「おつかれさまです。」
私と友人は、先輩に挨拶をした。
この人は、私にとって「師匠」でもある。この地において最速であるその龍は、私の憧れの存在でもある。
蛇は、水を得たところで、龍にはなれない。だから憧れ、努力するしかない。現実はそうなのだ。
「わぁ、今日も皆元気だねぇ。」
語り合う、二台の外骨格達を眺めながら、先輩は言った。
先に、控えめな咆哮を上げ、ととのった鳴き声を発する、太めな白。
少し遅れて、けたましい咆哮を上げ、いびつな鳴き声を発する、平たい黒。
それぞれの外骨格が、私達の前を通り過ぎた。
「あのクーペはまだまだやな。」
「でも、相手はセダンってったってかなりハイパワーですよ。」
「軽さを活かしてコーナリングで追いつけない様じゃ、まだまだだよ。それにあのサルーン、直線ではペースを落としている。完全に負けているんだよ。」
確かに、その平たい黒は、私の蛇でも追いつけそうだった。
無駄にアクセルを踏み、コーナーの出口で、ヨロヨロと、制御を失いかけている。
それに・・・
「コーナーの中で何度もステアを切っていますよね。」
「その通り。」
単に自動車を運転するだけの人は、気にも留めないことだが、コーナーの中で必要以上にステアリングを切る事は、好ましくない。
コーナーに侵入する際は、予め安定した要素を作り、その安定を維持させる必要があるのだ。
それは、何事であろうと、誰にでも、日常的な事にさえ、同じことが言える。
その、黒の外骨格は、その安定を、自らの手で不安定にしている。いや、そもそも予め作るべき安定さえ、作れていなかった。
まるで、無謀にも強者に挑んだ挙句、案の定敗北し、縄張りを追われ、滑稽に退散する、コクワガタの様だった。
一方でその、白の外骨格は、予め作った安定を、しっかりと維持しながら、滑らかに進んでいる。
まるで、落ち着ける場所を見つけ、繭をこしらえ、丁寧に羽化し、美しく飛び去る、ヤママユガの様だった。
二周目だろうか、ヤママユガは先程同様、滑らかにコーナーを飛び去った。
だが、コクワガタは、今度は制御を完全に失い、コーナーの出口で逃げ場を見失ってしまった。
「おぉうスピン。危なかったなぁ。」
「危なかったっすね。侵入速度が低かったからこれで済みましたけど・・・」
そう先輩と話し合っていると、黒い翼を持った灰色の外骨格が、けたましい咆哮を立ててやってきた。
「おっすうううう」
「こんばんは。」
その外骨格よりも、けたましい人が降りてきた。あの、クワガタの先輩だ。
「どうよ最近?」
恐らく、私の研究について聴いているのだと思われる。なので、私はこう返した。
「良い感じですよ。例の『彼』は、やっぱりどこかおかしいということが、はっきりと判りました。」
「お、そうか。あー、で、なんかお前に言っておきたいことがあったんだが・・・」
先輩が話そうとしたとき、今までの音を全てかき消す程の、やかましい雑音が近づいてきた。
族・・・と自ら名乗っている、うるさいだけのただの蠅。珍走団である。
我々は、単にアバンギャルドな意思疎通をはかっているだけなのだが・・・
連中は、何もできない、ただの羽虫でありながら、「自分は他の奴らとは違うんだぞ」と、そう主張したいらしい。
悪目立ちしたところで、潰されるだけだ。目の前に蠅がたかってきたら、ハエ叩きの仕事が増えるだけ。
頑強な甲殻を持たないあれらの蠅は、もし、我々が少しでも接触すれば、瞬く間に散ってしまうだろう。
二十匹程度の蠅共が通り過ぎ、しばらくすると、赤いランプをチラつかせた、白と黒の調和した外骨格がやってきた。
そして、その中から、二人の青い犬が降りてきて、こちらに話しかけてきた。
「こんばんは、先程この周辺で『暴走族』が暴れているとの通報を受けまして。」
青に身を包んだ、背の高い犬はそう言った。
「こんばんは、珍走団ならとっくに散って行きましたよ。あっちの方です。」
青色の犬からすれば、我々は灰色、蠅共は黒色なのだそうだ。どちらもダメではないか・・・
そう私は思っていたが、私もまた、灰色の身であるからして、これ以上深く考えないことにした。
「ああー、やはりそうでしたか。」
黒とみなしておきながら、捕まえる気はさほどないらしい。
背の高い犬は、やる気なさげに、灰色の外骨格たちを見て回った。
「おや、随分と珍しい車に乗っているんですね。」
もう一人の、背の低い犬が、私の外骨格に興味を示している。それは、この中で唯一のオープンカーであり、同時にマイナーな年式の車種である。
一応、国内外問わず名の知れた車種なのだが、なぜかこの年式のものだけは認知度と評価が低い。
「ええ、まあ・・・確かにこの辺ではあまり見かけませんね。」
「しかし、随分と手をかけてますねえ・・・」
背の低い犬は、私の異形な外骨格を、目、胴、そして翼の順に眺めてそう言った。
「見た目だけですよ。周りからは、センスがないってよく言われますけどね。」
「私はかっこいいと思いますよ。」
「それはどうも。」
「では、我々は仕事に戻りますので、この辺で・・・」
「はい、お気をつけて。」
二人の犬は、その黒と白の調和が取れた外骨格を再び身に纏い、赤色のランプをちらつかせながら、聖地を後にした。
彼らは、白か黒のどちらかしか決められないのだろうか。
それらの混ざった灰色は、仕事の上で、眼中にさえないというのだろうか。
私は、並んでいる一の灰、十の白と黒、そして蛇と龍を見ながらそう思った。
「ああ、思い出した。」
先輩が、話を続けた。
「それで、言っておきたいことって?」
「知り合いから聞いた話なんだけどさあ、近くの森っつーか林っつーか、そこに黒いクワガタを沢山逃してる奴を見かけたらしいのよ。」
「!!!!!」
刃の影に潜んだ、嫌な予感は的中してしまった。
下水道は、どうやら、水を浄化するどころか、さらに汚染させ、それを広げている様だ。自分達の利益のためだけに。
私は、怒りと言う感情は持たないに等しいが、どこか悲しい様な、そこに使命感がある様な、混沌とした感情に満たされた。
「研究を続けます。」
私の腕にくっついている時計の針は、短針、長針、共々、重なって十二を指している。
私は、即座に外骨格を再び身に纏った。そして、いつもの様に、ギアをサードに入れ、アクセルを踏み込んだ。
大小ともに、青は再び、孤独になってしまった。
アッシュカラーの舞踏会
そこに混ざるは犬と蠅
気がつけば、いつの間にやら、赤トンボ。
八月も終わりに差し掛かり、いつしかの足音はすでに遠ざかり、新たな足音が近づき始めていた。
この頃から、私は実家に移り住み、研究と仕事、そして療養に集中していた。
庭には、様々な植物が植えてある。ブルーベリーや柿の木、夏グミやジューンベリーといった、果実を宿すものが多い。
中には、紅葉の木や木蓮もある。
いつもの様に、刃を石に当てていると、上から、真紅に染まった、人の手の様な形状の葉が落ちてきた。
紅葉がまさに、紅葉となりつつある。これぞ、聞こえない秋の足音だ。
私は、小腹満たしに少し青い柿の実をかじりながら、その、季節のドップラー効果を感じ、聞こえない足音を聴いていた。
話は変わるが、今日は、海岸沿いに車乗り達が集まる日でもある。
淘汰されつつある、旧き好き内燃機関。それをこよなく愛する者達は、時折そうして集い、各々の感情を吐露し合うのだ。
それは、言葉のみならず、自らの「外骨格」を通して伝え合うことも多い。
海岸沿いの道は、狭く、長く、また、獲物を探す蛇の様にうねっている。
そこは、昼間は、海の美しさを通して、地球の丸さを感じられる、絶景の、観光客達の、聖地である。
夜間は、大地を通して、内燃機関の素晴らしさを感じられる、絶世の、外骨格達の、聖地である。
空は晴れており、月は、全体的にその「一方しか向けない顔」を輝かせていた。
私は、この日の分の作業を済ませると、身を清め、大空を宿す外骨格を纏い、聖地へと向かった。
私のこの・・・「異形」は、海岸のうねるアスファルトを、蛇の様に滑らかに進んでゆく。
あのガラスの靴とは全く異なる、この黒の革のブーツは、あの南瓜の馬車とは全く異なる、この蛇の外骨格を操るのに丁度良い。
しばらく、海の湿った風を感じながら進んでゆくと、前方に、あの「異形」が現れた。
友人の外骨格・・・他のものとは明らかに異なるその外骨格は、野を駆け巡る猫の様に、キビキビと走り回っていた。
しかし、しばらくすると、我々の「異形」は「普遍的」な動きになった。どうやら、更なる前方に、軽自動車が何台も連なっている様だ。
我々は、車間を広く取り、有事に対し即座に対応できる様にした。
広く車間をとっていれば、万が一、前方でトラブルが発生しても、それに巻き込まれることなく、即座に対応できるからだ。
我々の前方に居る、その偽物の龍は、愚かにも、時折赤いランプを何度もちらつかせている。
まるで「自分はお前よりも速いのだぞ」と言いたげに、何台も連なった軽自動車は、車間が狭く、ことあるたびにわざわざ減速しているのだ。
龍といっても、それは、ただネズミが長く連なって、そう見えているだけである。
蛇と猫からすれば、ネズミは餌にしかならない。だが、今はただ聖地へと向かっているだけであり、猫も蛇も、さして飢えていない。
車間を広くとっていれば一定の速度で走れるのに・・・そう思いながら、我々は龍ならぬ、無知蒙昧なネズミの群からさらに一歩引いた距離で進み続けた。
しばらくすると、偽物の龍は散り、ネズミたちは巣へと戻っていった。
猫と蛇は再び、大地を感じながら聖地へと向かった。
黒、黒、黒、黒、黒。白、白、白、白。
大半が、平たく同じ形状をした外骨格である。
その中に、一つの異形な白と、一つの異形な青が加わった。
半数は見知らぬ人、もう半数は顔見知りや先輩、後輩たちだ。
もうすでに「外骨格を通じた語り合い」は始まっているらしい。雄々しき咆哮と、漆黒の足が発する鳴き声が、辺りに響いている。
五つの黒に、五つの白、その中に孤独だった小さな青は、その後、すぐ孤独ではなくなった。
腹の底に響く様な咆哮をあげながら、既存の小さな青の隣に、一回り大きな青が留まった。
クワガタの件とは異なる先輩だ。
ネズミしか喰えない小さな蛇と異なり、彼の外骨格・・・その本物の龍は、四肢を屈強に動かし、全てを喰らう。
「おっつー」
「おつかれさまです。」
私と友人は、先輩に挨拶をした。
この人は、私にとって「師匠」でもある。この地において最速であるその龍は、私の憧れの存在でもある。
蛇は、水を得たところで、龍にはなれない。だから憧れ、努力するしかない。現実はそうなのだ。
「わぁ、今日も皆元気だねぇ。」
語り合う、二台の外骨格達を眺めながら、先輩は言った。
先に、控えめな咆哮を上げ、ととのった鳴き声を発する、太めな白。
少し遅れて、けたましい咆哮を上げ、いびつな鳴き声を発する、平たい黒。
それぞれの外骨格が、私達の前を通り過ぎた。
「あのクーペはまだまだやな。」
「でも、相手はセダンってったってかなりハイパワーですよ。」
「軽さを活かしてコーナリングで追いつけない様じゃ、まだまだだよ。それにあのサルーン、直線ではペースを落としている。完全に負けているんだよ。」
確かに、その平たい黒は、私の蛇でも追いつけそうだった。
無駄にアクセルを踏み、コーナーの出口で、ヨロヨロと、制御を失いかけている。
それに・・・
「コーナーの中で何度もステアを切っていますよね。」
「その通り。」
単に自動車を運転するだけの人は、気にも留めないことだが、コーナーの中で必要以上にステアリングを切る事は、好ましくない。
コーナーに侵入する際は、予め安定した要素を作り、その安定を維持させる必要があるのだ。
それは、何事であろうと、誰にでも、日常的な事にさえ、同じことが言える。
その、黒の外骨格は、その安定を、自らの手で不安定にしている。いや、そもそも予め作るべき安定さえ、作れていなかった。
まるで、無謀にも強者に挑んだ挙句、案の定敗北し、縄張りを追われ、滑稽に退散する、コクワガタの様だった。
一方でその、白の外骨格は、予め作った安定を、しっかりと維持しながら、滑らかに進んでいる。
まるで、落ち着ける場所を見つけ、繭をこしらえ、丁寧に羽化し、美しく飛び去る、ヤママユガの様だった。
二周目だろうか、ヤママユガは先程同様、滑らかにコーナーを飛び去った。
だが、コクワガタは、今度は制御を完全に失い、コーナーの出口で逃げ場を見失ってしまった。
「おぉうスピン。危なかったなぁ。」
「危なかったっすね。侵入速度が低かったからこれで済みましたけど・・・」
そう先輩と話し合っていると、黒い翼を持った灰色の外骨格が、けたましい咆哮を立ててやってきた。
「おっすうううう」
「こんばんは。」
その外骨格よりも、けたましい人が降りてきた。あの、クワガタの先輩だ。
「どうよ最近?」
恐らく、私の研究について聴いているのだと思われる。なので、私はこう返した。
「良い感じですよ。例の『彼』は、やっぱりどこかおかしいということが、はっきりと判りました。」
「お、そうか。あー、で、なんかお前に言っておきたいことがあったんだが・・・」
先輩が話そうとしたとき、今までの音を全てかき消す程の、やかましい雑音が近づいてきた。
族・・・と自ら名乗っている、うるさいだけのただの蠅。珍走団である。
我々は、単にアバンギャルドな意思疎通をはかっているだけなのだが・・・
連中は、何もできない、ただの羽虫でありながら、「自分は他の奴らとは違うんだぞ」と、そう主張したいらしい。
悪目立ちしたところで、潰されるだけだ。目の前に蠅がたかってきたら、ハエ叩きの仕事が増えるだけ。
頑強な甲殻を持たないあれらの蠅は、もし、我々が少しでも接触すれば、瞬く間に散ってしまうだろう。
二十匹程度の蠅共が通り過ぎ、しばらくすると、赤いランプをチラつかせた、白と黒の調和した外骨格がやってきた。
そして、その中から、二人の青い犬が降りてきて、こちらに話しかけてきた。
「こんばんは、先程この周辺で『暴走族』が暴れているとの通報を受けまして。」
青に身を包んだ、背の高い犬はそう言った。
「こんばんは、珍走団ならとっくに散って行きましたよ。あっちの方です。」
青色の犬からすれば、我々は灰色、蠅共は黒色なのだそうだ。どちらもダメではないか・・・
そう私は思っていたが、私もまた、灰色の身であるからして、これ以上深く考えないことにした。
「ああー、やはりそうでしたか。」
黒とみなしておきながら、捕まえる気はさほどないらしい。
背の高い犬は、やる気なさげに、灰色の外骨格たちを見て回った。
「おや、随分と珍しい車に乗っているんですね。」
もう一人の、背の低い犬が、私の外骨格に興味を示している。それは、この中で唯一のオープンカーであり、同時にマイナーな年式の車種である。
一応、国内外問わず名の知れた車種なのだが、なぜかこの年式のものだけは認知度と評価が低い。
「ええ、まあ・・・確かにこの辺ではあまり見かけませんね。」
「しかし、随分と手をかけてますねえ・・・」
背の低い犬は、私の異形な外骨格を、目、胴、そして翼の順に眺めてそう言った。
「見た目だけですよ。周りからは、センスがないってよく言われますけどね。」
「私はかっこいいと思いますよ。」
「それはどうも。」
「では、我々は仕事に戻りますので、この辺で・・・」
「はい、お気をつけて。」
二人の犬は、その黒と白の調和が取れた外骨格を再び身に纏い、赤色のランプをちらつかせながら、聖地を後にした。
彼らは、白か黒のどちらかしか決められないのだろうか。
それらの混ざった灰色は、仕事の上で、眼中にさえないというのだろうか。
私は、並んでいる一の灰、十の白と黒、そして蛇と龍を見ながらそう思った。
「ああ、思い出した。」
先輩が、話を続けた。
「それで、言っておきたいことって?」
「知り合いから聞いた話なんだけどさあ、近くの森っつーか林っつーか、そこに黒いクワガタを沢山逃してる奴を見かけたらしいのよ。」
「!!!!!」
刃の影に潜んだ、嫌な予感は的中してしまった。
下水道は、どうやら、水を浄化するどころか、さらに汚染させ、それを広げている様だ。自分達の利益のためだけに。
私は、怒りと言う感情は持たないに等しいが、どこか悲しい様な、そこに使命感がある様な、混沌とした感情に満たされた。
「研究を続けます。」
私の腕にくっついている時計の針は、短針、長針、共々、重なって十二を指している。
私は、即座に外骨格を再び身に纏った。そして、いつもの様に、ギアをサードに入れ、アクセルを踏み込んだ。
大小ともに、青は再び、孤独になってしまった。
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