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第八 繋がり
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全てのものは一点につづく
いつも通りのいつもの場所。昼間とは打って変わって、人の子一人いない道の駅は、少し湿った風が吹いている。
この近くには、生態系豊かな水辺があるのだ。
昆虫と水辺には、密接な関係がある。トンボの幼虫であるヤゴが水生なのもそうだし、蛍の幼虫も水生で、羽化したのちも水辺に生息している事は、ほぼ常識と言っても差し支えないだろう。
実のところ、クワガタも水辺を好む傾向にある。知っている人は知っている事なのだが、何気ない河川敷には、結構な数のクワガタ、特にドルクス属の一部・・・ヒラタクワガタやコクワガタが生息している。
なぜ、このような性質を持っているのか、この時点での私にはわからなかったが、クワガタと水辺には、密接な関係があるのだ。
その点において、この「いつもの場所」は、立地に恵まれている。
近くに、生態系豊かな水辺があり、豊かな土を持つ山があり、夜間は常に電灯が点いている。
なぜ、近くに、生態系豊かな水辺があり、山に豊かな土があるのかがわかるかというと、飛来してくるクワガタ以外の昆虫で判別がつくからだ。
まず、道中、このすぐ近く、春の終わりが近づくと、大量の蛍が飛び回るスポットがある。
何度か、一旦捕獲して観察したことがあるが、ヘイケボタルだ。それも毎年、凄まじい数。
夜空の下に、まるで、もう一つの星空があるかの如く、熱をほとんど発しない柔らかな光が、辺りを包み込む。
ヘイケボタルの幼虫は、幼い頃からも淡い光を発し、淡水に生息する巻貝を捕食して成長する。ぱっと見美しい外観に反して、肉食なのだ。
また、「いつもの場所」には、ヘビトンボと呼ばれる昆虫がよく飛来してくる。
トンボと蝶を混ぜ合わせたような、この奇しき外観の昆虫もまた、幼生時はマゴタロウムシと呼ばれるムカデのような姿で、水に棲み、その他の水棲生物を捕食する。
すなわち、その場所は、生態系が豊かな水辺なのだ。
そして、夏がある程度深まると、今度はカブトムシが飛来し始める。
昆虫の王様と言えど、自身の縄張りを確保できず、居場所を失う事もあるのだ。
カブトムシの幼虫が土を食べて育つのは、周知の事実だが、健康に大きく育つには、もちろん条件がある。
土といっても、ただの土ではない。良質な、広葉樹の腐葉土が必要なのだ。
良質な腐葉土を生み出すためには、多くの生物が存在している必要がある。まずは、言わずと知れたミミズだ。
彼らは、木の葉を始めとした有機物を食べてはフンとして排泄し、それがよき土となる。
ここらでよく見かけるダンゴムシも、また、同じようにして、よき土を作る。
また、ここには、しばしばダイコクコガネという、1cm少ししかない、小さなカブトムシのような甲虫が飛来してくる事もある。
彼らは、獣のフンを主な餌とし、また、それを排泄する事で新たに土を作るのだ。
ダイコクコガネが居るという事は、自ずと、彼らの餌を用意する獣が生息しているということになる。
実際、この周辺では、鹿、狸、猿、猪といった哺乳類が、よく目撃される。
そういった獣達もまた、果物や樹皮、どんぐりや昆虫などを摂取し、それを排泄する。
それを、先程述べた生き物や、他の分解者が摂取、排泄することによって、よき土を作る。
これらのことから、この周辺には、生態系豊かな水辺と、栄養豊かな土を有する山があるということが解るのだ。
まさに、人の介入さえなければ、生き物達にとって、この周辺一帯は「ユートピアのパロディ」たる場所なのだ。
毎度の如く、ヘッドライトをつけっぱなしにして昆虫達を待っていると、見慣れない軽自動車が駐車場に入ってきた。
どうやら、ここに甲虫が集うという噂を聞きつけ、家族で昆虫採取に来たようだ。
子供が二人いること、親御さんらしき人が、明らかに安っぽい、何も入っていないケースと、露骨に百均で買ったであろう捕虫網を持っていたため、何も知らないのに噂だけ聞いて虫を採りにきた、という事はすぐにわかった。
人の子一人いない道の駅は、突然、複数の人間で満たされた。
私は日頃、赤の他人とは話さないし、話したくもないのだが、これだけ恵まれた土地であれば、危険な生物も、勿論、生息している。
それに、何も知らない状態で昆虫を捕まえたところで、ろくに管理もできず死なせてしまう・・・単に拉致し、あやめてしまうことになる。
なので、危険生物に関する警告と、昆虫を見つけた際の管理を教えることにした・・・のだが、先に話しかけてきたのは向こうの御一行だった。
「こんばんは。」
「どうも、こんばんは。」
お母さまらしき人が、先に挨拶をしてくれた。
「こんばんは!」
「こんばんは。ちゃんと挨拶できて偉いねぇ。」
恐らく姉弟と思われる子供達が、お母さまに続き、元気に挨拶をしてくれた。幼いながら、礼儀礼節がしっかりしているのは、実に素晴らしいことだ。
お父様らしき人物はいなかったが、おばあさまらしきマダムが、続いて挨拶と話を続けてくださった。
「どうもこんばんはぁ。この辺りでねえ、カブトムシが捕まえられると聞いてねえ、寄ってみたのよぉ。」
「こんばんは、やはりそういうことでしたか。」
寄ってみた、という言い方が道中ついでなのか、それとも単に来てみた、という意味なのか気になったが、他人様のことを必要以上に考えるのも野暮だ。
私は、伝えるべき情報を伝えるべく、話を進めた。
「この一帯は夜になると、ムカデやスズメバチ、マムシも出てくるので、どうかお気をつけて。」
「あらまあ、そうなんですか。」
お母さまらしき人が、応えた。やはり、何も知らずに来たようだ。
「マムシねえ、最近めっきりみなくなったけど、やっぱりまだいるのねぇ。」
おばあさまらしき人も、続けて応えた。日本古来から存在する毒蛇・・・マムシの恐ろしさは、この土地の開拓があまり進んでいない時代を知っている人なら、よく知っているはずだ。
「子供達から目を離さないように気を付けてください。他にも危険な生物が居ますので・・・」
危険な生物とは、毒を持った生き物だけに限らない。
先程述べたヘビトンボは、強靭な顎を持っており、刺激を与えると、積極的に噛み付いてくる。
ましてや、子供の薄い皮膚では、その強靭な顎に耐える事はできない。
無論、ヒラタクワガタや、ミヤマクワガタのような、力の強いクワガタも同様である。
そして、種類を問わずクワガタのメスは、総じて、短くも強靭な大顎を持つ。コクワガタでさえも。狙っている対象のつもりが、一転して危険生物となりうる。
「これ何?」
姉らしき子供が、ケースに何匹かのコガネムシ達を入れ、聞いたが、他の大人達は全くわからないようだった。
「これは、コフキコガネだねえ。こっちは、クロドウガネ。そしてこれは・・・小さいけどカブトムシのメスだ。」
「あら、随分とお詳しいのですね。」
「わたくし、個人で生物に関する研究をしているものでして。昆虫が専門なのです。」
私は、ただ生き物が好きなだけの凡人である。
専門で研究中というと大袈裟な様だが、他に、当てられる言葉も見つからなかった。
昆虫オタクというのも些か違和感を覚えるし、私は別に、そこまで知識が深いわけでも無い。
「なるほど、そういう事ですか。」
お母さまは納得した様子でありながら、聞いたこともない虫の名前を覚えるべくぶつぶつと繰り返し言っていた。
「カブトムシ!これカブトムシなの?」
弟らしき子供が言った。どうやら、昆虫にはあまり詳しくないらしい。
「そうだよ、カブトムシのメスにはツノが無いの。でも、頭をよくみてご覧?」
「なんか他のと違う!デコボコ?トゲトゲ?してる!」
十歳にも満たないであろう幼さで語彙が弱いにもかかわらず、自分の感じたものを、はっきりと、言葉として表現している。この子は立派に育ちそうだ。
「そう。これがカブトムシのメス。」
「ほかのは・・・なんだっけ。」
「こっちがコフキコガネ、こっちがクロドウガネよ。」
「わかんないけどわかった!ありがと先生!」
やはり、聞いたこともない虫の名前を言ったところで、すぐには理解できない様子だ。当然である。
それよりも、こんな夜中に、独り、スポーツカーの前で突っ立っている変人を、「先生」などと呼んでくれるとは、心外であった。悪い気分では無い。
「あ!カブトムシ!」
姉らしき子が、中型のカブトムシの雄を見つけた。それも、排水溝のすぐ近くだ。
大人でも気付かないところに気付く、子供の観察力の広さには、時々驚かされる。
危なっかしいので、代わりに採ってやることにした。
「カブトムシはね、こっちのツノを持つか、この『胸』という部分を持つのよ。頭のツノや他の部分を掴んじゃダメだからね。」
「わかった!でもなんか触るの怖い・・・」
弟らしき子は、恐らく初めて実物を見るのか、若干怖がっているようであった。
「こっちを後ろから掴んでやると・・・ほら、足も頭のツノも届かないでしょう?大丈夫だよ。」
私は、カブトムシの胸角を掴んで、持ち上げて見せた。
これなら、虫に負担がかかりにくく、持ちやすく、安全なのである。
「うん、わかった!」
子供というのは、実に単純だ。単純であるからこそ、物事を吸収するのが早い。
二人共、あっという間に、カブトムシと戯れあうようになっていった。
「どうも、ありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそ。」
私は、適切な飼育法や、避けた方が良い事、何より、それも一つの命であることを伝え、先程採取したノコギリクワガタを数匹渡し、その御一行を見送った。
カブトムシは、子供達が先に見つけ、結局、私はその後見つけられなかったのだが、なぜか私は、どこか満足した気分で居た。
ひとまず、今回は撤収だ。ほとんど収穫がなかったが、私は、少しうかれた様な気分で、峠道で、いつもの様に、ギアをサードに入れ、アクセルを踏み込んだ。
いつも通りのいつもの場所。昼間とは打って変わって、人の子一人いない道の駅は、少し湿った風が吹いている。
この近くには、生態系豊かな水辺があるのだ。
昆虫と水辺には、密接な関係がある。トンボの幼虫であるヤゴが水生なのもそうだし、蛍の幼虫も水生で、羽化したのちも水辺に生息している事は、ほぼ常識と言っても差し支えないだろう。
実のところ、クワガタも水辺を好む傾向にある。知っている人は知っている事なのだが、何気ない河川敷には、結構な数のクワガタ、特にドルクス属の一部・・・ヒラタクワガタやコクワガタが生息している。
なぜ、このような性質を持っているのか、この時点での私にはわからなかったが、クワガタと水辺には、密接な関係があるのだ。
その点において、この「いつもの場所」は、立地に恵まれている。
近くに、生態系豊かな水辺があり、豊かな土を持つ山があり、夜間は常に電灯が点いている。
なぜ、近くに、生態系豊かな水辺があり、山に豊かな土があるのかがわかるかというと、飛来してくるクワガタ以外の昆虫で判別がつくからだ。
まず、道中、このすぐ近く、春の終わりが近づくと、大量の蛍が飛び回るスポットがある。
何度か、一旦捕獲して観察したことがあるが、ヘイケボタルだ。それも毎年、凄まじい数。
夜空の下に、まるで、もう一つの星空があるかの如く、熱をほとんど発しない柔らかな光が、辺りを包み込む。
ヘイケボタルの幼虫は、幼い頃からも淡い光を発し、淡水に生息する巻貝を捕食して成長する。ぱっと見美しい外観に反して、肉食なのだ。
また、「いつもの場所」には、ヘビトンボと呼ばれる昆虫がよく飛来してくる。
トンボと蝶を混ぜ合わせたような、この奇しき外観の昆虫もまた、幼生時はマゴタロウムシと呼ばれるムカデのような姿で、水に棲み、その他の水棲生物を捕食する。
すなわち、その場所は、生態系が豊かな水辺なのだ。
そして、夏がある程度深まると、今度はカブトムシが飛来し始める。
昆虫の王様と言えど、自身の縄張りを確保できず、居場所を失う事もあるのだ。
カブトムシの幼虫が土を食べて育つのは、周知の事実だが、健康に大きく育つには、もちろん条件がある。
土といっても、ただの土ではない。良質な、広葉樹の腐葉土が必要なのだ。
良質な腐葉土を生み出すためには、多くの生物が存在している必要がある。まずは、言わずと知れたミミズだ。
彼らは、木の葉を始めとした有機物を食べてはフンとして排泄し、それがよき土となる。
ここらでよく見かけるダンゴムシも、また、同じようにして、よき土を作る。
また、ここには、しばしばダイコクコガネという、1cm少ししかない、小さなカブトムシのような甲虫が飛来してくる事もある。
彼らは、獣のフンを主な餌とし、また、それを排泄する事で新たに土を作るのだ。
ダイコクコガネが居るという事は、自ずと、彼らの餌を用意する獣が生息しているということになる。
実際、この周辺では、鹿、狸、猿、猪といった哺乳類が、よく目撃される。
そういった獣達もまた、果物や樹皮、どんぐりや昆虫などを摂取し、それを排泄する。
それを、先程述べた生き物や、他の分解者が摂取、排泄することによって、よき土を作る。
これらのことから、この周辺には、生態系豊かな水辺と、栄養豊かな土を有する山があるということが解るのだ。
まさに、人の介入さえなければ、生き物達にとって、この周辺一帯は「ユートピアのパロディ」たる場所なのだ。
毎度の如く、ヘッドライトをつけっぱなしにして昆虫達を待っていると、見慣れない軽自動車が駐車場に入ってきた。
どうやら、ここに甲虫が集うという噂を聞きつけ、家族で昆虫採取に来たようだ。
子供が二人いること、親御さんらしき人が、明らかに安っぽい、何も入っていないケースと、露骨に百均で買ったであろう捕虫網を持っていたため、何も知らないのに噂だけ聞いて虫を採りにきた、という事はすぐにわかった。
人の子一人いない道の駅は、突然、複数の人間で満たされた。
私は日頃、赤の他人とは話さないし、話したくもないのだが、これだけ恵まれた土地であれば、危険な生物も、勿論、生息している。
それに、何も知らない状態で昆虫を捕まえたところで、ろくに管理もできず死なせてしまう・・・単に拉致し、あやめてしまうことになる。
なので、危険生物に関する警告と、昆虫を見つけた際の管理を教えることにした・・・のだが、先に話しかけてきたのは向こうの御一行だった。
「こんばんは。」
「どうも、こんばんは。」
お母さまらしき人が、先に挨拶をしてくれた。
「こんばんは!」
「こんばんは。ちゃんと挨拶できて偉いねぇ。」
恐らく姉弟と思われる子供達が、お母さまに続き、元気に挨拶をしてくれた。幼いながら、礼儀礼節がしっかりしているのは、実に素晴らしいことだ。
お父様らしき人物はいなかったが、おばあさまらしきマダムが、続いて挨拶と話を続けてくださった。
「どうもこんばんはぁ。この辺りでねえ、カブトムシが捕まえられると聞いてねえ、寄ってみたのよぉ。」
「こんばんは、やはりそういうことでしたか。」
寄ってみた、という言い方が道中ついでなのか、それとも単に来てみた、という意味なのか気になったが、他人様のことを必要以上に考えるのも野暮だ。
私は、伝えるべき情報を伝えるべく、話を進めた。
「この一帯は夜になると、ムカデやスズメバチ、マムシも出てくるので、どうかお気をつけて。」
「あらまあ、そうなんですか。」
お母さまらしき人が、応えた。やはり、何も知らずに来たようだ。
「マムシねえ、最近めっきりみなくなったけど、やっぱりまだいるのねぇ。」
おばあさまらしき人も、続けて応えた。日本古来から存在する毒蛇・・・マムシの恐ろしさは、この土地の開拓があまり進んでいない時代を知っている人なら、よく知っているはずだ。
「子供達から目を離さないように気を付けてください。他にも危険な生物が居ますので・・・」
危険な生物とは、毒を持った生き物だけに限らない。
先程述べたヘビトンボは、強靭な顎を持っており、刺激を与えると、積極的に噛み付いてくる。
ましてや、子供の薄い皮膚では、その強靭な顎に耐える事はできない。
無論、ヒラタクワガタや、ミヤマクワガタのような、力の強いクワガタも同様である。
そして、種類を問わずクワガタのメスは、総じて、短くも強靭な大顎を持つ。コクワガタでさえも。狙っている対象のつもりが、一転して危険生物となりうる。
「これ何?」
姉らしき子供が、ケースに何匹かのコガネムシ達を入れ、聞いたが、他の大人達は全くわからないようだった。
「これは、コフキコガネだねえ。こっちは、クロドウガネ。そしてこれは・・・小さいけどカブトムシのメスだ。」
「あら、随分とお詳しいのですね。」
「わたくし、個人で生物に関する研究をしているものでして。昆虫が専門なのです。」
私は、ただ生き物が好きなだけの凡人である。
専門で研究中というと大袈裟な様だが、他に、当てられる言葉も見つからなかった。
昆虫オタクというのも些か違和感を覚えるし、私は別に、そこまで知識が深いわけでも無い。
「なるほど、そういう事ですか。」
お母さまは納得した様子でありながら、聞いたこともない虫の名前を覚えるべくぶつぶつと繰り返し言っていた。
「カブトムシ!これカブトムシなの?」
弟らしき子供が言った。どうやら、昆虫にはあまり詳しくないらしい。
「そうだよ、カブトムシのメスにはツノが無いの。でも、頭をよくみてご覧?」
「なんか他のと違う!デコボコ?トゲトゲ?してる!」
十歳にも満たないであろう幼さで語彙が弱いにもかかわらず、自分の感じたものを、はっきりと、言葉として表現している。この子は立派に育ちそうだ。
「そう。これがカブトムシのメス。」
「ほかのは・・・なんだっけ。」
「こっちがコフキコガネ、こっちがクロドウガネよ。」
「わかんないけどわかった!ありがと先生!」
やはり、聞いたこともない虫の名前を言ったところで、すぐには理解できない様子だ。当然である。
それよりも、こんな夜中に、独り、スポーツカーの前で突っ立っている変人を、「先生」などと呼んでくれるとは、心外であった。悪い気分では無い。
「あ!カブトムシ!」
姉らしき子が、中型のカブトムシの雄を見つけた。それも、排水溝のすぐ近くだ。
大人でも気付かないところに気付く、子供の観察力の広さには、時々驚かされる。
危なっかしいので、代わりに採ってやることにした。
「カブトムシはね、こっちのツノを持つか、この『胸』という部分を持つのよ。頭のツノや他の部分を掴んじゃダメだからね。」
「わかった!でもなんか触るの怖い・・・」
弟らしき子は、恐らく初めて実物を見るのか、若干怖がっているようであった。
「こっちを後ろから掴んでやると・・・ほら、足も頭のツノも届かないでしょう?大丈夫だよ。」
私は、カブトムシの胸角を掴んで、持ち上げて見せた。
これなら、虫に負担がかかりにくく、持ちやすく、安全なのである。
「うん、わかった!」
子供というのは、実に単純だ。単純であるからこそ、物事を吸収するのが早い。
二人共、あっという間に、カブトムシと戯れあうようになっていった。
「どうも、ありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそ。」
私は、適切な飼育法や、避けた方が良い事、何より、それも一つの命であることを伝え、先程採取したノコギリクワガタを数匹渡し、その御一行を見送った。
カブトムシは、子供達が先に見つけ、結局、私はその後見つけられなかったのだが、なぜか私は、どこか満足した気分で居た。
ひとまず、今回は撤収だ。ほとんど収穫がなかったが、私は、少しうかれた様な気分で、峠道で、いつもの様に、ギアをサードに入れ、アクセルを踏み込んだ。
応援ありがとうございます!
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