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異世界で生き残るには? 選挙で勝て!
異世界で生き残るには? 選挙が終わっても気をぬくな!
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候補二人が、ここがチャンスと見てローゼを亡き者にしようとした事件。ローゼ殺害未遂につては「気持ちはわかる」「情状酌量の余地あり」「これで裁くのはかわいそうでは」などなど、ずいぶんと同情の声も多かったと言うが、さすがに市長候補二人が軍団率いて暴れたと言うのは見捨てて置けないし、いくらめんどくさい女だったからと言って、選挙委員会の聖女までついでに亡き者にしようとしたのはまずい……いや、これも結構同情の意見多かったと聞くが——ともかく!
「さすがにクランプトンもトランクもこれじゃ市長候補のままじゃいられなかったか……」
「それはそうですわ。この聖女に弓を引いいたのですもの。私個人は皆様にどう思われているか分かりませんが、私に楯突いたと言うことは聖協会い楯突いたと言うことなのです。それがバレたら無事ですむ人などこの世界にはおりませんよ」
「そうなのか……」
「そうですよ」
「じゃあ、市長選がまったくやり直しになったのもしょうがないな……」
結句、市長選挙は、そのまま両派の副市長候補同士で選挙を強行する案もあったようだが、ここまで混乱したのなら完全にやり直そうと言うことで、現職の市長の任期を議会の承認で一ヶ月延長して、来月行うことになったのだった。
その選挙に向かっては、各派とも、個性が強すぎて市民に引かれていた前候補の反省を生かして、地味だが実務派の行政能力重視の人材を候補として立てるらしい。これだけ選挙戦が混乱したなら、そう言う候補の方が好まれるだろうと言うのが各派の打算といえば打算的な戦略なのだが、特に大きな問題抱えていないこの朝日ケ丘市ならば、とりあえずそう言う市長で無難に任期分をこなしてもらうのが間違い無いのでは? 俺もそんな風に思うのだった。
そして、
「この市も、まあ一旦頭冷やして、真面目な市長を選んで、今後の進むべき方向を行く末考えるのが良いと思いますよ」
ロータスは優しく微笑みながら言うのだった。
俺は、それもそうだなと思いながらも、
「でも、と言うことは、君は来月までずっとこの街にいると言うわけ?」
うっとりと陶酔した表情からいきなり現実に引き戻されたと言った風に、ギクッといった顔になったロータスに向かって言う。
「そ、それは、そうですよ……だって私は選挙管理委員会の長ですから! この街の選挙が終わるまでは、ここにずっといなくちゃけません!」
「でも……」
「なんで、毎日、使い魔殿の部屋にやってくるんですか?」
「うっ……」
あのサラマンダー騒ぎの日以来、つまりあのキスの日以来、今日もまた俺の部屋にやってきた聖女様は、キッチンでなんだか凝った手料理を作りながら、顔を真っ赤にして下を向く。
「そ、それは……ローゼとサクア! あなたたちがまた選挙を邪魔しないように見張っているんですよ!」
「そうですかあ? なんだか、ローゼ様と私がいなくても使い魔殿の部屋に長居しているような?」
「そっ、そんなことないですわ! ここに張っていればあなたたちが現れる確率が大きいからですわ。そうですわ! だから私はこの部屋に控えているんですわ……」
「そうかなあ? なんかこの部屋にロータス様入り浸りすぎじゃないですか? もしかしてあのキスでこんな男のことが気になるようになってしまったとか?」
ちょっとヤグされ風味のエチエンヌ少年が、聖女をなんだか疑っているような目で見つめながら言う。
「そ、そんなわけあるわけないでしょうが! 私は聖女ですよ! あんなキスのひとつやふたつで動じるわけあるわけがないじゃないですか! いくらファーストキスでも! いくら、——実は魔女の使い魔、よく見たらそれほど悪い男じゃないんじゃないかと思ってたとしても! いえ、この世界の男がみんな私の評判聞いいて逃げまくるから、異世界の男なら騙せるかもって思ってるからじゃないですよ! これが堅苦しい聖女から還俗する最後のチャンスと思ってるからじゃないですよ!」
なんだか願望ダダ漏れの聖女さまだが、
「いいですよ、僕は別に。どうせロータス様とうまく行く男なんているわけもないし。なら結局これも霊力のチャージするための黒歴史になると思いますし」
「な、何をいってるんですかエチエンヌ。私は、ただローゼの悪さを見張るためにこの部屋に来ているんだと言いましたのに! あなたは自分の主人の言葉を信じないんですか?」
「はいはい、分かりました。分かりました。どうせ黒歴史、黒歴史。せいぜい選挙まで恥辱ずっとためておきましょう——どうせこんなめんどくさい女、絶対に振られるんですから」
「だから、エチエンヌ、それは違うって……」
「どうだか……」
「エチエンヌ!」
「………………」
ああ。
——とまあ。
なんだか、ますます騒々しく、混乱を極める俺の部屋であった。
チンチクリン魔法使いのローゼ。そのメイドのホムンクルスであるサクア。
ドジっ娘聖女ロータスとその天然騎士エチエンヌ。
異世界に召喚された俺の周りには、悪気がなくてもはた迷惑な、無自覚にも騒々しい、一癖も二癖もある連中が集まって……
——簡単には落ち着かせてはくれないらしい。
ならば今日も、
「うわあああ!」
「……? どうしたのエチエンヌ?」
どうやら、また何かが始まったらしい。
「ロータス様聖堂会本部から緊急連絡です! 聖堂付属保育園の児童をあやすために渡してたラッパがうっかり黙示録のラッパでした! 始まっちゃったみたいです……」
「それって……」
もちろん黙示録だよな?
俺は、立ち上がると、
「む!」
すぐさまに魔法陣を作り出すローゼの、事件が起きて嬉しそうな姿を眺めながら、
「ああ、それじゃ——今日も行くぞ!」
ちょっとヤケクソ気味に叫ぶのだった。
もう、黙示録でもラグナロクでもなんでもこい!
俺はローゼの作った魔法陣に体を包まれながら思うのだった。
スマホを握りしめながら、黙示録についてググりながら……
異世界で生き残るにには、
「ググれカス!」
と叫びながら……
今日もまた間抜けでハードボイルドな日々が始まって行くのを思い知るのだった。
「さすがにクランプトンもトランクもこれじゃ市長候補のままじゃいられなかったか……」
「それはそうですわ。この聖女に弓を引いいたのですもの。私個人は皆様にどう思われているか分かりませんが、私に楯突いたと言うことは聖協会い楯突いたと言うことなのです。それがバレたら無事ですむ人などこの世界にはおりませんよ」
「そうなのか……」
「そうですよ」
「じゃあ、市長選がまったくやり直しになったのもしょうがないな……」
結句、市長選挙は、そのまま両派の副市長候補同士で選挙を強行する案もあったようだが、ここまで混乱したのなら完全にやり直そうと言うことで、現職の市長の任期を議会の承認で一ヶ月延長して、来月行うことになったのだった。
その選挙に向かっては、各派とも、個性が強すぎて市民に引かれていた前候補の反省を生かして、地味だが実務派の行政能力重視の人材を候補として立てるらしい。これだけ選挙戦が混乱したなら、そう言う候補の方が好まれるだろうと言うのが各派の打算といえば打算的な戦略なのだが、特に大きな問題抱えていないこの朝日ケ丘市ならば、とりあえずそう言う市長で無難に任期分をこなしてもらうのが間違い無いのでは? 俺もそんな風に思うのだった。
そして、
「この市も、まあ一旦頭冷やして、真面目な市長を選んで、今後の進むべき方向を行く末考えるのが良いと思いますよ」
ロータスは優しく微笑みながら言うのだった。
俺は、それもそうだなと思いながらも、
「でも、と言うことは、君は来月までずっとこの街にいると言うわけ?」
うっとりと陶酔した表情からいきなり現実に引き戻されたと言った風に、ギクッといった顔になったロータスに向かって言う。
「そ、それは、そうですよ……だって私は選挙管理委員会の長ですから! この街の選挙が終わるまでは、ここにずっといなくちゃけません!」
「でも……」
「なんで、毎日、使い魔殿の部屋にやってくるんですか?」
「うっ……」
あのサラマンダー騒ぎの日以来、つまりあのキスの日以来、今日もまた俺の部屋にやってきた聖女様は、キッチンでなんだか凝った手料理を作りながら、顔を真っ赤にして下を向く。
「そ、それは……ローゼとサクア! あなたたちがまた選挙を邪魔しないように見張っているんですよ!」
「そうですかあ? なんだか、ローゼ様と私がいなくても使い魔殿の部屋に長居しているような?」
「そっ、そんなことないですわ! ここに張っていればあなたたちが現れる確率が大きいからですわ。そうですわ! だから私はこの部屋に控えているんですわ……」
「そうかなあ? なんかこの部屋にロータス様入り浸りすぎじゃないですか? もしかしてあのキスでこんな男のことが気になるようになってしまったとか?」
ちょっとヤグされ風味のエチエンヌ少年が、聖女をなんだか疑っているような目で見つめながら言う。
「そ、そんなわけあるわけないでしょうが! 私は聖女ですよ! あんなキスのひとつやふたつで動じるわけあるわけがないじゃないですか! いくらファーストキスでも! いくら、——実は魔女の使い魔、よく見たらそれほど悪い男じゃないんじゃないかと思ってたとしても! いえ、この世界の男がみんな私の評判聞いいて逃げまくるから、異世界の男なら騙せるかもって思ってるからじゃないですよ! これが堅苦しい聖女から還俗する最後のチャンスと思ってるからじゃないですよ!」
なんだか願望ダダ漏れの聖女さまだが、
「いいですよ、僕は別に。どうせロータス様とうまく行く男なんているわけもないし。なら結局これも霊力のチャージするための黒歴史になると思いますし」
「な、何をいってるんですかエチエンヌ。私は、ただローゼの悪さを見張るためにこの部屋に来ているんだと言いましたのに! あなたは自分の主人の言葉を信じないんですか?」
「はいはい、分かりました。分かりました。どうせ黒歴史、黒歴史。せいぜい選挙まで恥辱ずっとためておきましょう——どうせこんなめんどくさい女、絶対に振られるんですから」
「だから、エチエンヌ、それは違うって……」
「どうだか……」
「エチエンヌ!」
「………………」
ああ。
——とまあ。
なんだか、ますます騒々しく、混乱を極める俺の部屋であった。
チンチクリン魔法使いのローゼ。そのメイドのホムンクルスであるサクア。
ドジっ娘聖女ロータスとその天然騎士エチエンヌ。
異世界に召喚された俺の周りには、悪気がなくてもはた迷惑な、無自覚にも騒々しい、一癖も二癖もある連中が集まって……
——簡単には落ち着かせてはくれないらしい。
ならば今日も、
「うわあああ!」
「……? どうしたのエチエンヌ?」
どうやら、また何かが始まったらしい。
「ロータス様聖堂会本部から緊急連絡です! 聖堂付属保育園の児童をあやすために渡してたラッパがうっかり黙示録のラッパでした! 始まっちゃったみたいです……」
「それって……」
もちろん黙示録だよな?
俺は、立ち上がると、
「む!」
すぐさまに魔法陣を作り出すローゼの、事件が起きて嬉しそうな姿を眺めながら、
「ああ、それじゃ——今日も行くぞ!」
ちょっとヤケクソ気味に叫ぶのだった。
もう、黙示録でもラグナロクでもなんでもこい!
俺はローゼの作った魔法陣に体を包まれながら思うのだった。
スマホを握りしめながら、黙示録についてググりながら……
異世界で生き残るにには、
「ググれカス!」
と叫びながら……
今日もまた間抜けでハードボイルドな日々が始まって行くのを思い知るのだった。
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