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トートおじさんの工房
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「わぁ……!」
そこは天井の高い、体育館のような場所だった。飛行機も入ってしまうんじゃないか、それくらい大きい部屋だった。
「トートおじさん、この猫ちゃん触っていい?」
「いいよ、許可なんていらない。ここは俺の遊び場のような所だからな、好きにしてもらって構わないよ」
やった、触り放題だ!
目の前にいる銅色の猫ちゃんを触ってみた。体はつるつるしているが、顔はざらざらしていて、糊にくっつけた砂みたいだ。
「みぃー」
と、猫が、か細く鳴いた。その鳴き声は蚊が飛ぶ音くらい小さくて。
え、鳴くの、機械人形の猫って!
私が驚いた顔をすれば、トートおじさんは苦笑いして言った。
「それは俺が最初の頃に創った機械人形の猫でね。俺は死んだばかりの生物の心臓を使えば、声を出す機械人形を創ることができる。だがその頃は始めたばかりで下手くそでね。音が小さくなってしまったんだ」
するとトートおじさんは俯いて言った。
「本当はドラゴンの機械人形もいたんだが……娘と一緒に燃え尽きてしまってね。……ああ、その猫は川から持ってきた砂とダナを使ったんだ」
「ダナ?」
「この地方で銅で出来た鍋を意味するんだ。川に行ったら捨てられていてね」
この世界にも不法投棄ってあるんだな……。
「そういえば機械人形の作り方が気になっていたね。こっちだ、来てごらん」
と、倉庫のような部屋の隅っこに案内された。
そこには作業している人がいて。
「誰、ですか?」
「言ってなかったね、俺の息子だ。正確には妻が拾ってきた子だ」
紹介された人は仮面のようなものを取って、私に深く一礼して微笑んだ。
琥珀色の袴に大きめのシャツをだぼっと着ていた。白い半袖のシャツは所々、違う色で染まっている。群青色の瞳に紺色の肩までの髪を結んでいて、縁が丸い眼鏡を掛けている。ちょっと女の子みたい。
「ウールと申します。これからよろしくお願いします」
これからって何?
え、どういうこと?
「行くあてもないだろう、俺の家に住みなさい」
「ええっ、いいんですか!?」
「良いも何も、捨てるぐらい悪い者ではございませんから」
今度は執事のように恭しく礼をしたウールさんは、作業机に戻っていった。
「話が逸れたね、すまない。ここでは俺とウールで作業をしているんだ。ゴミは自分達で拾ってくるが、あとは魔法で済ませてしまうから簡易な所だが」
魔法か……ドラゴンがいたら、魔法もあるよね。
「魔法って、どんな感じなんですか?」
「魔法なら、あいつが今やろうとしているから見てごらん。機械人形を創るための魔法は俺たち特有の能力なんだ。俺は心臓を使って声を出す機械人形を創ることができる能力、ウールは機械人形を染めることができる能力、といった風にな」
トートおじさんの目線の先を辿ってみれば、そこには完成した犬の機械人形に向き合っているウールさんがいた。
「紺青に染まれ、ミレーライト!」
大声で機械人形に向かって叫べば、勝手に脚がくっついて犬が出来上がり、そして叫んだ通り紺青色になった。
目の前で見たら想像していたよりも迫力があって、つい拍手をしてしまった。
「凄いですね!」
私も創ってみたいなぁ、なんて。うっとりとした目でその作業に見とれていれば、トートおじさんが話しかけてきた。
「今あいつが創ったのは依頼の品だ。だがあれで依頼の品はひとまず全部できた。ウールも作業が終わったし、俺も見守っといてやるから何か創ってみるか?」
「いいんですか!」
じゃあ……と、言葉に詰まった。
いや、一気に言ってしまおう。
「私、ドラゴンを創りたいです!」
そこは天井の高い、体育館のような場所だった。飛行機も入ってしまうんじゃないか、それくらい大きい部屋だった。
「トートおじさん、この猫ちゃん触っていい?」
「いいよ、許可なんていらない。ここは俺の遊び場のような所だからな、好きにしてもらって構わないよ」
やった、触り放題だ!
目の前にいる銅色の猫ちゃんを触ってみた。体はつるつるしているが、顔はざらざらしていて、糊にくっつけた砂みたいだ。
「みぃー」
と、猫が、か細く鳴いた。その鳴き声は蚊が飛ぶ音くらい小さくて。
え、鳴くの、機械人形の猫って!
私が驚いた顔をすれば、トートおじさんは苦笑いして言った。
「それは俺が最初の頃に創った機械人形の猫でね。俺は死んだばかりの生物の心臓を使えば、声を出す機械人形を創ることができる。だがその頃は始めたばかりで下手くそでね。音が小さくなってしまったんだ」
するとトートおじさんは俯いて言った。
「本当はドラゴンの機械人形もいたんだが……娘と一緒に燃え尽きてしまってね。……ああ、その猫は川から持ってきた砂とダナを使ったんだ」
「ダナ?」
「この地方で銅で出来た鍋を意味するんだ。川に行ったら捨てられていてね」
この世界にも不法投棄ってあるんだな……。
「そういえば機械人形の作り方が気になっていたね。こっちだ、来てごらん」
と、倉庫のような部屋の隅っこに案内された。
そこには作業している人がいて。
「誰、ですか?」
「言ってなかったね、俺の息子だ。正確には妻が拾ってきた子だ」
紹介された人は仮面のようなものを取って、私に深く一礼して微笑んだ。
琥珀色の袴に大きめのシャツをだぼっと着ていた。白い半袖のシャツは所々、違う色で染まっている。群青色の瞳に紺色の肩までの髪を結んでいて、縁が丸い眼鏡を掛けている。ちょっと女の子みたい。
「ウールと申します。これからよろしくお願いします」
これからって何?
え、どういうこと?
「行くあてもないだろう、俺の家に住みなさい」
「ええっ、いいんですか!?」
「良いも何も、捨てるぐらい悪い者ではございませんから」
今度は執事のように恭しく礼をしたウールさんは、作業机に戻っていった。
「話が逸れたね、すまない。ここでは俺とウールで作業をしているんだ。ゴミは自分達で拾ってくるが、あとは魔法で済ませてしまうから簡易な所だが」
魔法か……ドラゴンがいたら、魔法もあるよね。
「魔法って、どんな感じなんですか?」
「魔法なら、あいつが今やろうとしているから見てごらん。機械人形を創るための魔法は俺たち特有の能力なんだ。俺は心臓を使って声を出す機械人形を創ることができる能力、ウールは機械人形を染めることができる能力、といった風にな」
トートおじさんの目線の先を辿ってみれば、そこには完成した犬の機械人形に向き合っているウールさんがいた。
「紺青に染まれ、ミレーライト!」
大声で機械人形に向かって叫べば、勝手に脚がくっついて犬が出来上がり、そして叫んだ通り紺青色になった。
目の前で見たら想像していたよりも迫力があって、つい拍手をしてしまった。
「凄いですね!」
私も創ってみたいなぁ、なんて。うっとりとした目でその作業に見とれていれば、トートおじさんが話しかけてきた。
「今あいつが創ったのは依頼の品だ。だがあれで依頼の品はひとまず全部できた。ウールも作業が終わったし、俺も見守っといてやるから何か創ってみるか?」
「いいんですか!」
じゃあ……と、言葉に詰まった。
いや、一気に言ってしまおう。
「私、ドラゴンを創りたいです!」
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