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2020-10-31。【こんな夢を見た】

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 何かとても大変なことがあったらしい。
 それが何なのか解らないのだけれど。

 何かとても大変なことがあったらしい。
 私は一人きりでそこにいた。帰りたいと願って立っていた。

 私の服は土埃にまみれて、あちらこちらが裂けている。
 靴下はなく、靴もない。足指が、地面を掴んでいた。

 町は破壊され、道は寸断されている。
 そんな中、鉄路はどうやら動いているらしい。

 何かとても大変なことがあったらしい。
 ひび割れた道路を、私は駅へ向かって歩いた。

 見知った建物は壊れ、新しい建物が建ちつつあり、景色は一変していて、つまりは、行くべき道筋がさっぱり解らない。
 見たことのない人々が行き交い、足取りは軒並み重く、顔色が虚ろであり、つまりは、ここがどこだかさっぱり解らない。

 私は本当に故郷いえに帰れるのだろうか。

 どれだけ歩いたか解らない。どれだけ人に尋ねたか解らない。どれだけ答えを貰えなかったか解らない。
 それでもどうにか駅舎につながっているという建物を見付けた。

 中に入ってみると、外の破壊が信じられないほどに明るく、美しく、活気に満ちていた。
 その場所にだけ、生き生きとした人々が集まっている。
 
 「駅舎への連絡通路は二階だ」

 と言った誰かの後に付いて行く。

 静かに動くエスカレーターに乗った。
 筋状の金属が足の裏に冷たく食い込んだ。

 紺色の制服を着た愛らしい「」が現れて、私に言う。

「裸足はいけません。巻き込まれて怪我をします。早く降りてください」

 目の前のステップが床の中に吸い込まれてゆく。
 私は到着したフロアの、磨かれててらてら光るリノリウムの上へ飛び移った。

 困り顔をしている「」に、私は訊ねた。

「駅はどこですか」

「そこになければ、ないでしょう」

 彼女が掌で指し示す方へ、私は歩いて行った。

 連絡通路の先の閉まった両開きドアを開けると、そこには田舎道があった。
 鐘の鳴る踏切の傍らに、道祖神とだけ彫り込まれた、大きな石が転がっている。

 茶色い電車が走って行く先に、確かに駅はあった。
 トタンの波板の屋根を支える木の柱にホーローの駅名表示が打ち付けられた、古い、古い駅舎。

『次の電車に乗れば、かも知れない』

 私は少しだけ早足で駅に向かった。
 小石やタイルの欠片や、燃えさしの木の枝が、足の裏に食い込む。

 地面が冷たい。
 行く先の解らないあの電車に、私は飛び乗れるのだろうか。



……そんな夢を見た。
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