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2020-06-28 【こんな夢を見た】

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 子どもの頃に、よくその道を通った。
 そしてそこに建つ家が、その建物が、うらやましかった。

 漆喰しっくいの壁に黒い木製の窓枠。
 その頃の私にも古風に見えた星空模様のかた板硝子いたガラスがはまった引き戸。
 白い花の咲く、斑入りのマサキの生け垣。

 昭和中期の和風建築の小さなその家には、小さな老婦人が住んでいた。
 白い服を着た、痩せた小さな、かわいらしいおばあさんは、いつもほうき塵取ちりとりと、それから大きな如雨露じょうろを持って、玄関先に立っていた。

 土の匂いがした。花の香りがした。
 玄関先の素焼きテラコッタの植木鉢にも、手入れの行き届いた坪庭つぼにわにも、たくさんの可憐な花が咲いていた。

 ああ、あの頃、あの道の両脇には、そんな小さな家が建ち並んでいて、住人たちが皆、競うようにして花を育てていたはずだ。
 小さな家にはいくつもの植木鉢を並べ、ちょっと大きな家では背の低い果樹と丸みを帯びた石で区切られた花壇かだんのある庭を手入れしていた。

 季節ごとに花が咲いて、葉が茂って、実がなった。

 ガーデニングなんて言葉ヨコモジが、普通の人々の口にはのぼせなかったあの頃、私の憧れた世界には、花が満ちていた。

 あれから何年経ったろう。
 どれくらいぶりにその道を通ったのだろう。
 どれくらいぶりにその家を見たのだろう。

 漆喰が割れ落ちて土壁がむき出しになっている。
 窓ガラスがひび割れている。
 引き戸にベニヤ板が打ち付けられている。
 柾の葉の白いまだらは美しい斑ではなく、虫食いの跡だ。
 残された葉もまばらに散り落ちて、隙間から灰色の痩せた枝と幹が見える。
 庭は枯れ草に覆い尽くされ、植木鉢は干からびた土を吐き出しながら倒れ転がっている。

 その両隣には、新築の、立派な、煉瓦風の壁材を張り巡らせた家が立っていた。

 向かいの家は、屋根をブルーシートで覆っている。

 その隣には、背の高い立派なビルディングが建っている。

――そうだ。あの家の老婦人はどうしたのだろう。

 無作法に人の家をのぞき込んだ。

 割れたガラスの向こうの、ほこりっぽい部屋の中で、揺り椅子が、静かに揺れている。

 白い服を着た、痩せた小さな、しなびて乾いた人影を乗せて、音も立てずに揺れている。


……そんな夢を見た。
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