ねくろすおーにら-死者の夢-

神光寺かをり

文字の大きさ
上 下
9 / 34

2013年9月18日。こんな夢を見た。

しおりを挟む
 その文学賞は、公募のガイド誌にも文学賞告知サイトにも載っていない。
 大賞を取ったところで賞金も副賞も出ない。
 それどころか、入賞作は「ある文芸誌」が掲載されても、それに対して稿料どころか謝礼の図書券すらもが出ることもない。

 名誉という形のないメダルだけが授与される、そんな賞だった。

 そんな章であるから、まさに知る人ぞ知るであり、知らぬ者はその存在をまるで知らない。
 それでも、私のようなワナビI wanna be a writer……作家になりたくてなりたくて仕方のない素人……と、出版業界に住まう人々の間では評判が高く、一種の権威のようになっている。
 紙上で評判となれば、ベストセラー作家の仲間入りが約束されるという。

 しかし、何かしらヘマをやらかせば「文壇」とやらから永久追放されるという話だ。

 その文学賞が特に面白いのは、投稿規約の緩さだった。
 作品が未発表である必要もない。寧ろ同人誌や自分のウェブサイトに掲載されているモノの方が喜ばれるぐらいだ。
 唯一厳しいのは「同一作品を複数回投稿してはならない」ということ程度で、それ以外の決まりはない。
 投稿方法も簡単だった。
 文学賞のウェブサイトのメールフォームに、筆名と作品名とURLを入力して送信するだけ。
 それで入賞すれば、紙の本になる。
 競争率は高いのだろうが、そんなことはどうでもいいことだ。
 私は自分が書いたものを端からメールフォームに入力し、送信ボタンを押し続ける。
 すべての簡単な作業を終え、私は本屋へ向かった。

 古書店の奥で「ある文芸誌」のバックナンバーが埃をかぶっている。
 何年も前に発行された雑誌の、黄変したページをめくった。
 細かい文字がみっしりと詰め込まれた薄い紙の上に、私の名が、私が書いた文章が、印刷されている。
 つい先ほど、メールフォームから投稿したあの作品の――。

 規約を破ってしまった。
 もうこれでプロの作家には成れない。

 膝の力ががくりと抜けた。

 ……そんな夢を見た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ネオンと星空

Rg
現代文学
歓楽街で生まれ育った家出少女は、汚れきったその街で何を思うのだろう?

シニカルな話はいかが

小木田十(おぎたみつる)
現代文学
皮肉の効いた、ブラックな笑いのショートショート集を、お楽しみあれ。 /小木田十(おぎたみつる) フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。

ヘビー短編集

篁 しいら
現代文学
内容がヘビーな短編集です。 死ネタ有り/鬱表現有り

千夜の檻

深水千世
現代文学
檻の中から見たもの、外から見たもの。自由と不自由の短編。

遅れてきた先生

kitamitio
現代文学
中学校の卒業が義務教育を終えるということにはどんな意味があるのだろう。 大学を卒業したが教員採用試験に合格できないまま、何年もの間臨時採用教師として中学校に勤務する北田道生。「正規」の先生たち以上にいろんな学校のいろんな先生達や、いろんな生徒達に接することで見えてきた「中学校のあるべき姿」に思いを深めていく主人公の生き方を描いています。

処理中です...