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2013年9月18日。こんな夢を見た。
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その文学賞は、公募のガイド誌にも文学賞告知サイトにも載っていない。
大賞を取ったところで賞金も副賞も出ない。
それどころか、入賞作は「ある文芸誌」が掲載されても、それに対して稿料どころか謝礼の図書券すらもが出ることもない。
名誉という形のないメダルだけが授与される、そんな賞だった。
そんな章であるから、まさに知る人ぞ知るであり、知らぬ者はその存在をまるで知らない。
それでも、私のようなワナビ……作家になりたくてなりたくて仕方のない素人……と、出版業界に住まう人々の間では評判が高く、一種の権威のようになっている。
紙上で評判となれば、ベストセラー作家の仲間入りが約束されるという。
しかし、何かしらヘマをやらかせば「文壇」とやらから永久追放されるという話だ。
その文学賞が特に面白いのは、投稿規約の緩さだった。
作品が未発表である必要もない。寧ろ同人誌や自分のウェブサイトに掲載されているモノの方が喜ばれるぐらいだ。
唯一厳しいのは「同一作品を複数回投稿してはならない」ということ程度で、それ以外の決まりはない。
投稿方法も簡単だった。
文学賞のウェブサイトのメールフォームに、筆名と作品名とURLを入力して送信するだけ。
それで入賞すれば、紙の本になる。
競争率は高いのだろうが、そんなことはどうでもいいことだ。
私は自分が書いたものを端からメールフォームに入力し、送信ボタンを押し続ける。
すべての簡単な作業を終え、私は本屋へ向かった。
古書店の奥で「ある文芸誌」のバックナンバーが埃をかぶっている。
何年も前に発行された雑誌の、黄変したページをめくった。
細かい文字がみっしりと詰め込まれた薄い紙の上に、私の名が、私が書いた文章が、印刷されている。
つい先ほど、メールフォームから投稿したあの作品の――。
規約を破ってしまった。
もうこれでプロの作家には成れない。
膝の力ががくりと抜けた。
……そんな夢を見た。
大賞を取ったところで賞金も副賞も出ない。
それどころか、入賞作は「ある文芸誌」が掲載されても、それに対して稿料どころか謝礼の図書券すらもが出ることもない。
名誉という形のないメダルだけが授与される、そんな賞だった。
そんな章であるから、まさに知る人ぞ知るであり、知らぬ者はその存在をまるで知らない。
それでも、私のようなワナビ……作家になりたくてなりたくて仕方のない素人……と、出版業界に住まう人々の間では評判が高く、一種の権威のようになっている。
紙上で評判となれば、ベストセラー作家の仲間入りが約束されるという。
しかし、何かしらヘマをやらかせば「文壇」とやらから永久追放されるという話だ。
その文学賞が特に面白いのは、投稿規約の緩さだった。
作品が未発表である必要もない。寧ろ同人誌や自分のウェブサイトに掲載されているモノの方が喜ばれるぐらいだ。
唯一厳しいのは「同一作品を複数回投稿してはならない」ということ程度で、それ以外の決まりはない。
投稿方法も簡単だった。
文学賞のウェブサイトのメールフォームに、筆名と作品名とURLを入力して送信するだけ。
それで入賞すれば、紙の本になる。
競争率は高いのだろうが、そんなことはどうでもいいことだ。
私は自分が書いたものを端からメールフォームに入力し、送信ボタンを押し続ける。
すべての簡単な作業を終え、私は本屋へ向かった。
古書店の奥で「ある文芸誌」のバックナンバーが埃をかぶっている。
何年も前に発行された雑誌の、黄変したページをめくった。
細かい文字がみっしりと詰め込まれた薄い紙の上に、私の名が、私が書いた文章が、印刷されている。
つい先ほど、メールフォームから投稿したあの作品の――。
規約を破ってしまった。
もうこれでプロの作家には成れない。
膝の力ががくりと抜けた。
……そんな夢を見た。
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