アマビエ日和―こんな日常を、普通に生きてます―

神光寺かをり

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コンビニのバックルームで私と君が話したこと。

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「本当なら今日は、おんさいのはずだったじゃないですか」

「ああ、今年は東京でオリンピックをやる都合で、日付がずらされたんだっけ」

「日付ずらされた挙げ句、中止になっちゃいましたけど」

「うん、まあね」

「で、お祭の時って、わたしいつも、朝番やって、お昼で一回上がってから、夜番に呼び出される感じなんですよね」

「そうだね、祇園に限らず、お祭ごとのときは、毎回そんな感じだね」

「朝すごく早く入って、お昼過ぎまで。
 それで一旦上がるんですけど、そこから家に帰っちゃうとまた夜番に出てくるのが、チョットしんどいって言うか、ぶっちゃけ面倒って言うか……」

「確かになぁ。家に帰っちゃうと、また仕事に出てくるのは嫌になる」

「だから、家には帰らなくて、姉のところに依るんです。姉の家はすぐ近くだから」

「へぇ」

「姉の夫は……義兄にいさんは、祭で輿こしを担ぐ人で。
 だからお昼は自治会まちの仕出しのオードブルとか、そういうののお下がりがあるんですよ。揚げ物とか、おにぎりとか、お漬物とか。
 そういうのを、姉と二人でお昼ご飯として食べるんです。
 義兄にいさんはもう準備のために、さっさと神社に行っちゃってるから」

「そうやって町中がお祭で浮かれてる時に、一人で留守番させられる方も大変だなぁ。
 だれかが来てくれれば、少しは気が紛れるだろうから、お姉さんの方もあなたが来てくれるのを待っているのかもね」

「ええ、多分。そうだといいんですけど。
……それで、お昼を食べて、夜番で入る時間まで、ちょっとお昼寝なんかしちゃって。休みながらケーブルテレビの定点カメラで町の様子とか眺めたりして」

「お祭前の、なんだかそわそわする町の様子を、悠然と見てるわけだ」

「ふふっ。画面の端っこに、香具師やしさんたちが屋台の準備してるのがちらっと映るのとか、気の早い若い子たちが浴衣なんか着て歩いてるのとか」

「旧市街に住んでる人たちは大体祭りに参加する方だろうから――お義兄にいさんみたいに御神輿担いだりして――だから早い時間からそぞろ歩いているのは、旧市街地以外から来る見物の場所取りの人たちかな」

「でも結構遠くの自治会まちも参加するみたいですよ。トラックで御神輿を運んできたりして」

「この辺では一番大きなお祭だもんね。神輿が七十ぐらい出るんだっけ?」

「一つの自治会まちで三つぐらい出すところもあるんですよ。子ども神輿とか女神輿とか、ちっちゃい子も山車を引いたりして。そういうのも入れると百ぐらいだって」

「そう考えるととんでもない祭りだねぇ」

「ホント、とんでもないお祭」

「それで、だんだん人出が増えてきて、駅からこっちの中央一番街しょうてんがいが『車両通行止め』になって……」

「お城の中の神社から最初の神輿が繰り出してくる頃合いに、私はまた『出勤』する、と」

「ははっ、ご苦労様」

「それで、目が回るなんてものじゃない忙しさで、日が暮れて、夜が更けるまで働いて」

「おはやと、かけ声と、歓声と……」

の怒声と」

「ははは。って笑えないわ」

「本当に。それで、お祭が終わって、人並みが引いて」

「夜の十時ぐらいに退勤、かぁ」

「ええその頃。それでまた姉のところへ帰るんです」

「家じゃなくて?」

「姉さん、義兄にいさんが帰ってくるまで独りだし……おそうめん茹でて、待っててくれるから」

「察するに、お義兄にいさんは、祭が跳ねたら打ち上げの酒盛り、か」

「ええ。だから二人でおそうめんを食べて、それから家に帰るんです」

「もう大分遅いよね」

「はい。お祭が終わって、真っ暗になった、空気がグルグル回ってる感じの、静かだけど騒がしい町を抜けて帰るんです。
 いつも、お祭が終わると、そうやって……」

「……楽しみにしてたのね、お祭」

「ええ……」

「来年は、やれるのか、ね……?」

「さて、どうでしょうね。
……じゃあ、わたし今日はこれで上がりますので」

「定時退勤ね。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」

「……ああ、疫病退散祈願が由来のお祭なのに、ねぇ……」
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感想 1

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みんなの感想(1件)

kikazu
2021.08.31 kikazu

面白かったです!

2021.09.01 神光寺かをり

ありがとうございます!

解除

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