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夏休みの間
37.柔らかなタオル。
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龍はそのまま脱衣所に出た。
脱衣かごの中にふわふわのバスタオルがあった。引っ張り出して頭からかぶって、頭も顔もぐしゃぐしゃっといっぺんにまとめて拭いた。
それから背中とお腹、お尻から脚、足の指の間の一つ一つまで、全部拭き終わると、彼はタオルを脱衣かごに投げた。
彼の体に付いた水滴を全部吸い尽くしていたバスタオルは、べっとりと重たそうに籠の中へ落ちた。
それは何かに似ている。龍はバスタオルをじっと見た。
白い大判のバスタオル。
龍が自分の家のお風呂や水泳の授業で使うような、薄くてちょっとごわっとしていて、からっと軽いのとは少し違う、毛足のふわっと長いバスタオル。
保育園の頃、夏のお昼寝の時間にかぶった、タオルケットによく似た感触。
家のタオルは粉石鹸の涼しい匂いがしてピンと皺がないのだけれど、龍が通っていた(というか預けられていた)保育園で洗った物は、お昼寝タオルケットもおもらしパンツもみんな花の匂いがしてふわふわしてた。
龍は洗濯物がふわふわになる柔軟仕上げ剤とかいう物のことは知らない。でも、洗濯物がピンとなる洗濯のりのことはチョット知っている。
龍は小さい頃に、台所の洗剤と洗濯用の粉石けんと洗濯のりを大量にお風呂場の浴槽に注ぎ込んでぐちゃぐちゃに混ぜた事がある……らしい。大きなシャボン玉が作れるシャボン液の配合をどこかから聞き込んできて試したのだ。ただし、龍本人は全然覚えていない。
ただ、母親に酷く怒られたことは覚えている。小学校に上がって、台分からだが大きくなってからも、母親は龍が台所と洗濯機に近づく度に、大きな声で叱って、追い出した。
洗濯機に近づかせてもらえない龍は、洗濯のりの存在は知っていても、それを何のために使うのかまではわからない。柔軟仕上げ剤を入れると柔らかくなるとか、洗濯のりを入れるとパリッとする、なんて理屈を知らないから、
『お母さんが洗うとカタい、保育園の先生が洗うと柔らかい』
と単純に考えていた。
バスタオルは保育園の先生が洗った柔らかなタオルと感触は似ていたけど、それとはチョット違った。
もっと別な、何か他のタオルに似ている。
龍は裸のまま、カゴの中のバスタオルをじっと見た。
つい最近、こんなモノを見たような気がして、それが何かを思い出そうとしていると、タオルの周囲が急に暗くなった。
驚いて顔を上げた龍は、磨りガラスのドアに人影を見つけた。
ドアはカラカラと軽快な音を立てた。
「あら、もう上がったの?」
Y先生が目を丸くして立っている。腕の中にタオルと着替えを抱えていた。
脱衣かごの中にふわふわのバスタオルがあった。引っ張り出して頭からかぶって、頭も顔もぐしゃぐしゃっといっぺんにまとめて拭いた。
それから背中とお腹、お尻から脚、足の指の間の一つ一つまで、全部拭き終わると、彼はタオルを脱衣かごに投げた。
彼の体に付いた水滴を全部吸い尽くしていたバスタオルは、べっとりと重たそうに籠の中へ落ちた。
それは何かに似ている。龍はバスタオルをじっと見た。
白い大判のバスタオル。
龍が自分の家のお風呂や水泳の授業で使うような、薄くてちょっとごわっとしていて、からっと軽いのとは少し違う、毛足のふわっと長いバスタオル。
保育園の頃、夏のお昼寝の時間にかぶった、タオルケットによく似た感触。
家のタオルは粉石鹸の涼しい匂いがしてピンと皺がないのだけれど、龍が通っていた(というか預けられていた)保育園で洗った物は、お昼寝タオルケットもおもらしパンツもみんな花の匂いがしてふわふわしてた。
龍は洗濯物がふわふわになる柔軟仕上げ剤とかいう物のことは知らない。でも、洗濯物がピンとなる洗濯のりのことはチョット知っている。
龍は小さい頃に、台所の洗剤と洗濯用の粉石けんと洗濯のりを大量にお風呂場の浴槽に注ぎ込んでぐちゃぐちゃに混ぜた事がある……らしい。大きなシャボン玉が作れるシャボン液の配合をどこかから聞き込んできて試したのだ。ただし、龍本人は全然覚えていない。
ただ、母親に酷く怒られたことは覚えている。小学校に上がって、台分からだが大きくなってからも、母親は龍が台所と洗濯機に近づく度に、大きな声で叱って、追い出した。
洗濯機に近づかせてもらえない龍は、洗濯のりの存在は知っていても、それを何のために使うのかまではわからない。柔軟仕上げ剤を入れると柔らかくなるとか、洗濯のりを入れるとパリッとする、なんて理屈を知らないから、
『お母さんが洗うとカタい、保育園の先生が洗うと柔らかい』
と単純に考えていた。
バスタオルは保育園の先生が洗った柔らかなタオルと感触は似ていたけど、それとはチョット違った。
もっと別な、何か他のタオルに似ている。
龍は裸のまま、カゴの中のバスタオルをじっと見た。
つい最近、こんなモノを見たような気がして、それが何かを思い出そうとしていると、タオルの周囲が急に暗くなった。
驚いて顔を上げた龍は、磨りガラスのドアに人影を見つけた。
ドアはカラカラと軽快な音を立てた。
「あら、もう上がったの?」
Y先生が目を丸くして立っている。腕の中にタオルと着替えを抱えていた。
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