22 / 78
夏休みの間
22.川の始まるところ。
しおりを挟む
車の通れる太い橋、人が通る為の細い橋、コンクリートの橋、鉄の橋、木の橋。
幾本もの橋をくぐって、川上へずんずん進んで行く。進むにつれて、川幅はどんどん狭くなった。
最初の頃、岸の上にある家は新築のかわいらしい家がきっちり並んで立っていたけれど、上流になると、昔ながらの白壁の土蔵やお屋敷が増えて、家々の間隔が広くなった。
コンクリートブロック、黒い板塀、生け垣、畑、空き地、空き地、なまこ壁、生け垣、畑、空き地……。
川幅が狭くなるにつれて、景色が変わって行く。
川下の方の石ころは角のない丸い形をしていたけれど、川上に来るにつれてごつごつと尖ったもが増えた。
川幅は助走をつければ飛び越えられそうなほど細くなっていた。
どれくらいの時間歩いただろう。
太陽は頭のてっぺんよりは少し西の方に移動しているし、お腹の虫も小さく鳴き声を上げている。
尖った石の角を踏んだら、靴の底にめり込んで、足の裏がちょっと痛くなった。
靴の片足のを脱いで、ケンケンで立ったまま、靴裏に刺さった小石を引っこ抜いて、川の仲に投げた。
「くたびれたよ、帰ろうかな」
口に出していった龍が、顔を上げた目の前に、大きな壁と、鉄の柵があった。
近づいて柵の隙間から覗くと、向こう側はトンネルというか、洞窟のような通路になっている。
龍がそこを「水路」じゃなくて「通路」だと思ったのは、柵に扉がついていたからだ。扉の取っ手の所に南京錠が掛かっている。
『水だけが通るのなら、扉なんていらないじゃないか』
俄然、龍の興味が湧き出た。
奥の方がどうなっているのか、その通路がどれくらいの距離なのかは、真っ暗なのでよくわからない。
「ここが、川の一番最初のところ……かな?」
鉄の柵にしがみついて、龍は暗がりの奥をじっと見た。
透明な水がちょろちょろと流れている。
水と一緒に冷たい空気も流れ出てくる。
龍の背筋がぶるぶるっと震えた。
通路の奥に、白い綺麗な女の人の顔が見えたような気がする。
暗い地の底で笑う白い顔。「トラ」の顔をした寅姫の、優しくて悲しい笑顔。
龍はあわてて柵から手を放し、三歩ぐらい後ろへ飛び退いた。
幾本もの橋をくぐって、川上へずんずん進んで行く。進むにつれて、川幅はどんどん狭くなった。
最初の頃、岸の上にある家は新築のかわいらしい家がきっちり並んで立っていたけれど、上流になると、昔ながらの白壁の土蔵やお屋敷が増えて、家々の間隔が広くなった。
コンクリートブロック、黒い板塀、生け垣、畑、空き地、空き地、なまこ壁、生け垣、畑、空き地……。
川幅が狭くなるにつれて、景色が変わって行く。
川下の方の石ころは角のない丸い形をしていたけれど、川上に来るにつれてごつごつと尖ったもが増えた。
川幅は助走をつければ飛び越えられそうなほど細くなっていた。
どれくらいの時間歩いただろう。
太陽は頭のてっぺんよりは少し西の方に移動しているし、お腹の虫も小さく鳴き声を上げている。
尖った石の角を踏んだら、靴の底にめり込んで、足の裏がちょっと痛くなった。
靴の片足のを脱いで、ケンケンで立ったまま、靴裏に刺さった小石を引っこ抜いて、川の仲に投げた。
「くたびれたよ、帰ろうかな」
口に出していった龍が、顔を上げた目の前に、大きな壁と、鉄の柵があった。
近づいて柵の隙間から覗くと、向こう側はトンネルというか、洞窟のような通路になっている。
龍がそこを「水路」じゃなくて「通路」だと思ったのは、柵に扉がついていたからだ。扉の取っ手の所に南京錠が掛かっている。
『水だけが通るのなら、扉なんていらないじゃないか』
俄然、龍の興味が湧き出た。
奥の方がどうなっているのか、その通路がどれくらいの距離なのかは、真っ暗なのでよくわからない。
「ここが、川の一番最初のところ……かな?」
鉄の柵にしがみついて、龍は暗がりの奥をじっと見た。
透明な水がちょろちょろと流れている。
水と一緒に冷たい空気も流れ出てくる。
龍の背筋がぶるぶるっと震えた。
通路の奥に、白い綺麗な女の人の顔が見えたような気がする。
暗い地の底で笑う白い顔。「トラ」の顔をした寅姫の、優しくて悲しい笑顔。
龍はあわてて柵から手を放し、三歩ぐらい後ろへ飛び退いた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
アマテラスの力を継ぐ者【第一記】
モンキー書房
ファンタジー
小学六年生の五瀬稲穂《いつせいなほ》は運動会の日、不審者がグラウンドへ侵入したことをきっかけに、自分に秘められた力を覚醒してしまった。そして、自分が天照大神《あまてらすおおみかみ》の子孫であることを宣告される。
保食神《うけもちのかみ》の化身(?)である、親友の受持彩《うけもちあや》や、素戔嗚尊《すさのおのみこと》の子孫(?)である御饌津神龍《みけつかみりゅう》とともに、妖怪・怪物たちが巻き起こす事件に関わっていく。
修学旅行当日、突如として現れる座敷童子たちに神隠しされ、宮城県ではとんでもない事件に巻き込まれる……
今後、全国各地を巡っていく予定です。
☆感想、指摘、批評、批判、大歓迎です。(※誹謗、中傷の類いはご勘弁ください)。
☆作中に登場した文章は、間違っていることも多々あるかと思います。古文に限らず現代文も。
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
少年少女たちの日々
原口源太郎
恋愛
とある大国が隣国へ武力侵攻した。
世界の人々はその行為を大いに非難したが、争いはその二国間だけで終わると思っていた。
しかし、その数週間後に別の大国が自国の領土を主張する国へと攻め入った。それに対し、列国は武力でその行いを押さえ込もうとした。
世界の二カ所で起こった戦争の火は、やがてあちこちで燻っていた紛争を燃え上がらせ、やがて第三次世界戦争へと突入していった。
戦争は三年目を迎えたが、国連加盟国の半数以上の国で戦闘状態が続いていた。
大海を望み、二つの大国のすぐ近くに位置するとある小国は、激しい戦闘に巻き込まれていた。
その国の六人の少年少女も戦いの中に巻き込まれていく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる