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夏休みの間

21.歩こう。

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 龍はお気に入りの青い野球帽を目深にかぶり直した。
 首に自分の家の屋号と電話番号の入った薄いタオルを巻き付けた。
 夏休み前に新しく買ってもらったスニーカーのひもをきつく結び直した。

「よし!」

 龍は自分自身にかけ声をかけた。決意を固めて川上に向かって歩き出す。
 小さな丸い石と、大きなごつごつした石が、足の裏の下でガリガリと鳴った。
 乾いた地面とちょろちょろ流れる川の水の間から、青臭い匂いが立ち上る。
 時々石ころの間で何かが光るのが見えた。

『もしかして、水晶スイショーかな』

 見つけた瞬間はそう期待するのだけれど、拾い上げてよく見ると全部がガラス瓶のかけらだった。龍はそれを拾う度に、川岸のできるだけ端の方……誰かが自分みたいに岸を歩いても、踏んづけたり拾ったりしないような所……へ投げた。

 どれくらい歩いただろう。両岸の上に新築のこぢんまりした家や、コンクリートのビルがぎっちりと立っている様が見え始め、同時にあしや干からびた雑草の生えた「地面」がなくなった。

 この川は古くからよく氾濫したそうだ。だから何度も護岸整備の工事が行われている。大昔に工事をしたところは石垣が積まれていて、昔に工事をしたところは積んだ石の間にコンクリートが打たれていて、最近工事したあたりは全部コンクリートで固められている。
 特に住宅街を流れているところはしっかりと工事されていた。古い石垣じゃないところは岸だけでなく川底の半分ぐらいまでコンクリートで平らに整えられていた。
 もしかしたらコンクリートでないように見える部分も、川上から押し流されてきた土や石ころや水草やコケで覆われて見えないだけで、コンクリートが打ってあるのかもしれない。しれないけれど、見えないから本当はどうなっているのか、龍には解らない。

 コンクリートの護岸の龍のひざからくるぶしぐらいの高さには、緑がかった茶色の線ができている。
 いつもならこのあたりまで川の水があるということだと思う。一ヶ月も雨がない日が続いている今だから足を濡らさずに川をさかのぼってゆけるけれど、本当ならそんなことはできない筈だ。

 コンクリートの壁に囲まれた川の様子が、龍には舗装道路の脇の細い側溝を思わせた。

 家の前の側溝は、年に一回自治会で「ドブさらい」をやるのだけれど、いつも水っ気のないものだから、出てくるのはカラカラに乾いた枯葉とか駄菓子の袋とか吸い殻ばかりだった。

「まるで大きな側溝ソッコーの中を歩いているみたいだなぁ」

 龍は独り言を、普通に喋る位の声の大きさで言った。もちろん誰も返事をしてくれないし、同意もしてくれない。

 とにかく龍は、川上に向かって歩いた。
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