21 / 78
夏休みの間
21.歩こう。
しおりを挟む
龍はお気に入りの青い野球帽を目深にかぶり直した。
首に自分の家の屋号と電話番号の入った薄いタオルを巻き付けた。
夏休み前に新しく買ってもらったスニーカーの紐をきつく結び直した。
「よし!」
龍は自分自身にかけ声をかけた。決意を固めて川上に向かって歩き出す。
小さな丸い石と、大きなごつごつした石が、足の裏の下でガリガリと鳴った。
乾いた地面とちょろちょろ流れる川の水の間から、青臭い匂いが立ち上る。
時々石ころの間で何かが光るのが見えた。
『もしかして、水晶かな』
見つけた瞬間はそう期待するのだけれど、拾い上げてよく見ると全部がガラス瓶のかけらだった。龍はそれを拾う度に、川岸のできるだけ端の方……誰かが自分みたいに岸を歩いても、踏んづけたり拾ったりしないような所……へ投げた。
どれくらい歩いただろう。両岸の上に新築のこぢんまりした家や、コンクリートのビルがぎっちりと立っている様が見え始め、同時に蘆や干からびた雑草の生えた「地面」がなくなった。
この川は古くからよく氾濫したそうだ。だから何度も護岸整備の工事が行われている。大昔に工事をしたところは石垣が積まれていて、昔に工事をしたところは積んだ石の間にコンクリートが打たれていて、最近工事したあたりは全部コンクリートで固められている。
特に住宅街を流れているところはしっかりと工事されていた。古い石垣じゃないところは岸だけでなく川底の半分ぐらいまでコンクリートで平らに整えられていた。
もしかしたらコンクリートでないように見える部分も、川上から押し流されてきた土や石ころや水草やコケで覆われて見えないだけで、コンクリートが打ってあるのかもしれない。しれないけれど、見えないから本当はどうなっているのか、龍には解らない。
コンクリートの護岸の龍の膝から踝ぐらいの高さには、緑がかった茶色の線ができている。
いつもならこのあたりまで川の水があるということだと思う。一ヶ月も雨がない日が続いている今だから足を濡らさずに川を遡ってゆけるけれど、本当ならそんなことはできない筈だ。
コンクリートの壁に囲まれた川の様子が、龍には舗装道路の脇の細い側溝を思わせた。
家の前の側溝は、年に一回自治会で「ドブさらい」をやるのだけれど、いつも水っ気のないものだから、出てくるのはカラカラに乾いた枯葉とか駄菓子の袋とか吸い殻ばかりだった。
「まるで大きな側溝の中を歩いているみたいだなぁ」
龍は独り言を、普通に喋る位の声の大きさで言った。もちろん誰も返事をしてくれないし、同意もしてくれない。
とにかく龍は、川上に向かって歩いた。
首に自分の家の屋号と電話番号の入った薄いタオルを巻き付けた。
夏休み前に新しく買ってもらったスニーカーの紐をきつく結び直した。
「よし!」
龍は自分自身にかけ声をかけた。決意を固めて川上に向かって歩き出す。
小さな丸い石と、大きなごつごつした石が、足の裏の下でガリガリと鳴った。
乾いた地面とちょろちょろ流れる川の水の間から、青臭い匂いが立ち上る。
時々石ころの間で何かが光るのが見えた。
『もしかして、水晶かな』
見つけた瞬間はそう期待するのだけれど、拾い上げてよく見ると全部がガラス瓶のかけらだった。龍はそれを拾う度に、川岸のできるだけ端の方……誰かが自分みたいに岸を歩いても、踏んづけたり拾ったりしないような所……へ投げた。
どれくらい歩いただろう。両岸の上に新築のこぢんまりした家や、コンクリートのビルがぎっちりと立っている様が見え始め、同時に蘆や干からびた雑草の生えた「地面」がなくなった。
この川は古くからよく氾濫したそうだ。だから何度も護岸整備の工事が行われている。大昔に工事をしたところは石垣が積まれていて、昔に工事をしたところは積んだ石の間にコンクリートが打たれていて、最近工事したあたりは全部コンクリートで固められている。
特に住宅街を流れているところはしっかりと工事されていた。古い石垣じゃないところは岸だけでなく川底の半分ぐらいまでコンクリートで平らに整えられていた。
もしかしたらコンクリートでないように見える部分も、川上から押し流されてきた土や石ころや水草やコケで覆われて見えないだけで、コンクリートが打ってあるのかもしれない。しれないけれど、見えないから本当はどうなっているのか、龍には解らない。
コンクリートの護岸の龍の膝から踝ぐらいの高さには、緑がかった茶色の線ができている。
いつもならこのあたりまで川の水があるということだと思う。一ヶ月も雨がない日が続いている今だから足を濡らさずに川を遡ってゆけるけれど、本当ならそんなことはできない筈だ。
コンクリートの壁に囲まれた川の様子が、龍には舗装道路の脇の細い側溝を思わせた。
家の前の側溝は、年に一回自治会で「ドブさらい」をやるのだけれど、いつも水っ気のないものだから、出てくるのはカラカラに乾いた枯葉とか駄菓子の袋とか吸い殻ばかりだった。
「まるで大きな側溝の中を歩いているみたいだなぁ」
龍は独り言を、普通に喋る位の声の大きさで言った。もちろん誰も返事をしてくれないし、同意もしてくれない。
とにかく龍は、川上に向かって歩いた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ごはんがあれば、だいじょうぶ。~美佳と瞳子のほっこり一皿~
五色ひいらぎ
ライト文芸
シェアハウスで共に暮らす、大学三年瀬川美佳(せがわみか)と、短大一年宮原瞳子(みやはらとうこ)。
美佳に嫌なことがあった日、瞳子はそっと手料理を作ってくれる。
凝った料理ではないけれど、あたたかな一皿は不思議と美佳の心を癒す。
クレーマーに遭った日も、
仲間と袂を分かった日も、
悲しい別れがあった日も、
世の理不尽に涙した日も、
きっと、おいしいごはんがあればだいじょうぶ。
※約3万字の短編です。ほんのり百合風味の日常物語。
※第7回ほっこり・じんわり大賞にエントリーしています。
※表紙素材: 写真AC/チョコクロ様より https://www.photo-ac.com/main/detail/553254
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる