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序詞篇 第零

伍子胥先輩のホームパーティーに招待されたっす。

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 チョリーっす。
 お招き頂いちゃってサンキューでーす。
 主催ホストしょ先輩が、オレんちまで立派な馬車ハイヤーを差し向けてくれて、玄関横付けで迎えてくれただけで嬉しいのに、着いたら着いたで先輩が自ら玄関先まで出てきてお出迎えウエルカムしてくれてるなんて……。オレ、チョー感激しましたよ。
 
 あ、ヤだなぁ、もう。その「孫子そんし」って呼び方、ホント勘弁してくださいって。
 だって、オレのコトこのの国に誘ってくれちゃって、家なんかも世話してくれてる、大恩人の伍子胥大先輩から、「そんセンセイ」なんて呼ばれたく無いんすから。マジ、トンデモナイ。
 いやいやいやいや、ホントっすよ。今のオレ、先輩のおかげで生きてるみたいなもんなんだし、アリガタすぎて申し訳ないっすもん。
 じゃあなんて呼べばいいのか問題、ですよね?
 ニックネーム長卿チョーキョーってんで、それで呼んで下さいよ。なんなら子供キッズ扱いして、阿武ぶっチャンって呼んでくれたっていいっすよ。先輩からだったらそれで全然ゼンゼン構わないっすから。
 まあ、なんとでも呼びやすいように呼んじゃってください。だけど絶対に「そんセンセイ」はナシですからね。
 そもそも今のオレはセンセイなんて言われるほど偉くないですし。
 確かに、家系的じっかが王族の系列ラインですけども。ですけども、今のオレは故郷クニから追ン出されてプラプラしてる身っすから。つまり仕送りナシの無職プーだもの。
 そもそも全然「センセイ」って柄じゃナイですからね。だからそんな風に言われちゃったら、むしろずかしくなっちゃう。穴があったら速攻ソッコーで入っちゃうくらい恥ズカシイ。
 だから「センセイ」だけは勘弁カンベンってことで、お願いしますよ、ホントに。

 ……で、他の面子メンツのご到着はコレからっすかね?
 いやぁ、オレってこういうお呼ばれパーティとか、開始時刻よりちょい早で来ちゃうクセがあるんですよ。最初に来て、他の人を待ち構えちゃうのが大好きなんで。一番乗りファーストライドってチョーサイコーな気分じゃナイですか。
 これからどんな方が来ちゃうんですか?
 へ? 来ない?
 誰も? 一人も?
 えぇー? ゲスト、オレだけ?
 マジか……。ってことは、オレと先輩でサシみ?
 いやいやいやいや、トンデモナイ。不満も不服もナッシングっすよ。
 むしろオレも、お世話になってる先輩と、一遍イッペン、膝つき合わせてじっくりお話する機会チャンスが欲しいなぁ、なんて思ってましたから。
 肝胆相照カンタンアイテラス斯為心腹之友ソレヲフクシンノトモトナスってのはこういうことですかね、みたいな? 

 そんじゃ、遠慮なくご馳走ちそうなんか頂戴しちゃいますか。
 もうね、オレ、わざわざ朝からメシ抜いて来ちゃいましたから。
 ここだけの話、割と生活費カツカツなんで。ほら、無職だから。
 だから先輩ンでご馳走を鱈腹タラフク食べちゃおうと思って、腹ぺこにしてきましたんすよ。

 しかし先輩も大変ですねぇ。ええ、オレなんかの耳にもしっかり聞こえてきてますよ、先輩の故郷ので起きた大事件のこと。

 楚の一個イッコ前の王様のへい王って人、若い頃はともかくとして、年取ってからは家来からの諫言おこごとを聞かなっちゃったンでしょ? その上でスケベ親爺オヤジ化したって。それも娘か孫かってくらい年下の可愛娘カワゥイコチャンが大好きなタイプ、ぶっちゃけロリコン? そんな狒々爺ヒヒジジイになっちゃったんですよね。

 しかも、可愛娘カワゥイコチャンを紹介して取り立ててもらおうなんて考えちまう、てめぇだけ甘い汁吸えりゃいいカンジの、小狡い女衒プロキュアーみたいな佞臣べんちゃらマンの言うことばっかり鵜呑うのみにしちゃうようになっちゃったなんて、ねぇ。
 アレですね。ソコソコいい上司だったヒトが、年齢トシいってから駄目人間にレベルダウンすると、周りの人が迷惑被っちゃうんすよねー。
 こういうとき頭の切れる家臣が取るパターンは……。
 忠を尽くして居残るか、見切りを付けて他所の国に亡命サヨナラするか、絶望してあの世に行くか、思い切って軍事政変クー・デターやっちゃうか。

 先輩のお父さんやお兄さんは最初のタイプの方だったんすよね。国家を第一に働く偉い人だ。残念なことに、その忠義ロイヤルティが平王に伝わんなかったんだよなぁ。

 なにしろお父さんは元々は平王にとても信頼されてて、太子クラウンプリンスけんさん……でしたっけ? その家庭教師役を仰せつかってた訳ですもんね。そういう重たい役目に自分達を置いてくれていた平王のを信頼して、正道に立ち返ることを期待しちゃってた。
 ところが平王は、もうどうにもならないくらいに駄目になっちゃってた……。
 平王からすれば、確かにちょっと口うるさいタイプだったんでしょう。でもすんげー能臣だった先輩のお父さんとお兄さんを、にしちゃったのは、ホント大失策ですよ。

 生き残る道を選んだ先輩の、骨髄こつずいまで染み込んだ恨みヘイトが、平王個人じゃなくて、楚っていう国家に向けられちゃう結果を呼んじゃったんですからね。

 いやいや。そのとき先輩が楚から脱出エスケープしたの、ホントに大正解だったンですよ。
 そのおかげでこのの国は、先輩っていう内政と外交の両方が出来るナイスな家臣をゲットできことになりますからね。
 それで、回り回ってオレなんかも結構ケッコーなおウチに住まわせてもらえるっていう、おこぼれ的な幸運ラッキー頂戴ゲットできたし。

 この時の先輩がゴイスーだったのは、ひとりでバックレるんじゃなくて、平王から嫌われちゃってた太子クラウンプリンスの健さんと一緒に脱出したトコロですね。
 だってそもそもが、平王が政略結婚でセガレである健さんのとこにお嫁に来るはずだった可愛カワゥいお姫様を、口先生まれの保身佞臣バカにおススメされちゃったからって、自分のお嫁さんにしちゃうなんて最悪サイアクな話が発端スタートでしょ。節操セッソーがないにも程ってもんがありますよ。
 それって、息子の健さんに対してもヒドい仕打ちだったし、そもそも相手の国に対してもめっちゃ失礼じゃ無いですか。列強国の未来を担う将来有望ショーライユーボーな若者の正室オクサマになれると思ってたら、スケベ爺さんの後宮ハーレムに入れられちゃったなんて。

 ともかく、先輩は健さんを連れて逃げて正解。
 これ、人としてナイスな行いでしたよ。だからこそ、戦略的にも最善の行動にもなった。
 ほら、ちゃんと道理ドーリってやつが解る人達から見れば、どう考えたって悪いのは平王ですもん。事情を知っる人たちとか、平王のこと嫌っちゃってる人たちなんかは、健さんを助けようと思うのが当然トーゼンの成り行きですよね。
 んで、その健さんに献身的に仕えちゃってる先輩のことも積極的にお助けしヘルプちゃおうって気持ちになってくれちゃう。

 それなのに、ねぇ……。
 せっかく、まだ一応は天下の主であるしゅう王朝と繋がってる、ちっちゃくてもめっちゃ高貴な国のていまで逃げて、ラッキーなことに好待遇でかくまってもらえたのに、健さんってば隣のしんから変なスカウトされたの真に受けちゃた。自分がていの領主になろう、なんて軍事政変クー・デターまがいのことやらかそうとしちゃうんだもの。
 それも、ほぼほぼ唯一アンド最強能臣である先輩に、コレッぽちも相談しないで。もう、シンジランナーイ。

 もし相談されたとして、先輩、当然止めたでしょ? 全力でいさめたでしょ?
 デスヨネー。それ、大正解ピンポンピンポンっすよ。人として、親切を反故ホゴにしちゃマズイっすからね。礼儀ってモンがありますからね。
 モチのロンで、戦略としても、名目上イチオーは「中華の頂点」ってことになってる周王朝と、ホッソ絹糸シルク一本のLINEだとしても、がっちり繋がってた方が断然ダンゼンお得ですし。
 まあ、先輩にまで内緒にしてた健さんの計画を、バッチリ見破ったてい宰相プライムミニスターの……公孫こうそんきょうって言いましたっけ? そいつも確かに優秀だったちゃぁ優秀でしたけどね。

 に、したって、公孫こうそんきょうって人も、ちょっとせっかちが過ぎますよね。健さんを逮捕したあと、即ばっさりになんてしなくても良かったと思うんだよなぁ。
 これ、亡くなった方に対しても遺族の方に対しても、かなり失礼な言い方になっちゃっうけどゴメンナサイです。俺から見たら、ぶっちゃけ、健さんってばかなり使だったと思うんですよね。

 オレがていサイドの人間で、謀反計画を察しちゃったら、かえって健さんのコトをうーんと厚遇しちゃうけどなぁ。
 それまで以上にめっちゃよくしてあげて、こっちを裏切ったのは不問ノーカンにして、かえってしんを裏切らせちゃう方向まで持ってっちゃいますよ。
 そうやって、晋や、それからついでに楚の情報なんかも引っ張り出す「スパイ」として扱っちゃいますね。

 だってていってば、形式カタチの上では天子様なシュウに繋がる高貴ロイヤルなお国ではあるけれども、国力こくりょくチッチャ過ぎな上に、ソコソコ強くなってきちゃってる晋と楚にサンドされちゃってるでしょ? あっちむいてペコペコ、こっち向いてニコニコの面従腹背メンジューフクハイしてなきゃなんない苦しい立場じゃないですか。
 まだ「高貴だから」って理由でどうにか生き残ってますけど、それだけじゃ今日日キョウビ「将来的な展望」ってのは、ヤバイ感じ? なんだから、ちょっとでも使えそうな「人材」は取っといた方が良いと思うんですけどねぇ。

 裏切りの裏切りで表返りさせるのが無理だったとして、ですよ。
 それでどうしても生かしておけない、殺しちゃわないといけない、ってんなら、軍事政変クー・デター計画がもっと「現実的」になってから執行したって間に合いますもん。
 対象を油断させて泳がせておくんですよ。んでその間に、身辺調査をこそっとがっちりやる。そこから国内の反乱分子わるいオトモダチ芋蔓いもずるズルズルっと引っ張り出して、全員とっ捕まえちゃっう。
 このほうが、禍根かこんがスパッと断てちゃうし、ずっと効率が良いと思いません? 
 それまで待てなかったんだから、つまりはせっかちなんだと思いますよ、喬って人は。
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