上 下
24 / 69
虚実篇 第六

虚実篇3・必勝パターンなんてナイっす。大切なことなので二度言ったっす。

しおりを挟む
 結局、究極的には「パターン化しない」ってのがパターンになるんじゃないですかね。
 何か決まった形ってものが無ければ、例えば、敵の間者スパイが忍んで来て情報とか盗んでいったとしても、結局役に立たないでしょ? だってこっちは盗んでった情報にある形の通りには動かないんだもの。
 ちょっとぐらい頭が良い奴でも、規則性のない動きからはこっちの出方を予測出来ない訳ですよ。予測が出来なきゃ、作戦の立てようがなくなくないですか。

 それで、こっちは敵さんの行動パターンを――できればこっちの思うツボなパターンに填めちゃって――その動きを見切って、それに対処して勝つっていう「段取り」を踏めば良いんです。
 でもこの方法だと、普通の人には「どうやって勝ったか」は理解できないでしょーね。

 みんな、
「あの超絶格好いい孫軍師様は、ああいう形にしたから勝った」
 ってトコまではなんとか判るかもしれません。

 でも、
「あの軍師はなぜああいう形で勝てたのか、どうしてその作戦を採用したのか、なぜ敵は負けるような行動を取ってしまったのか」
 ってとこまではワカンナイと思いますよ。

 例えば、オレが上手いことやったのを誰かが真似ッこしてみたとしましょうか。
 多分、上手くいかないんじゃないかかなぁ。うん、きっと成功しないですよ。

 だって、その方法で勝てるのは、その瞬間が、
「その方法を取るのがベストの状況だったから」
 なんで。

 別の状況で同じ事もう一回やったって無駄っすよ。

 もしも、ですよ。
 もしも敵さんが「超絶格好いい孫軍師様のレーな成功例」をそっくり真似て攻めて来たとしましょうよ。
 でも怖がるこたぁないですよ。こっちはそれに対応した別の手段を考えちゃえば良いだけですから。

 そんなわけだから、自分のパターンなんてものは決めちゃわない方が良いんですよ。

 いやいや、ホントに、戦争は水物っすよねー。
 ほら、水は高いところから低いところに流れるでしょ?
 居辛いところに無理して居座るようなことはしないで、動きやすい形に変わりながら留まりやすい場所へ移動しちゃう。それが水の性質。
 ですから、センソーするなら、水みたいにするっと動きましょうよ。
 真っ正面切ってカッチカチに堅い「ジツ」の部分を叩くような、やり辛い方法はやんない方が良いんですから。そういうところはするっと回避して、潰しやすそうな、相手がしれっと忘れてるペラッペラな「キョ」の部分を、ドーッっと叩いちゃいましょうよ。

 それで、ですね。
 水は地面の形に沿って――時々地形の方を変えちゃったりしながら――一つの形に留まらないで流れて行きますよね。
 戦争も、敵の形によって作戦を変化させながら、勝利に向かったらイイじゃないかなぁと思うんですよ。

 何度も言っちゃいますけども、戦争に必勝パターンなんてナイですよ。水はいつも同じ「形」をしていないでしょ? それと同じ事です。
 だから、こっちはガチガチの大きな「形」を作る事にこだわらないほうがイイ。
 敵さんの方のパターン解析をして、それに柔軟に対応して、その場にあった「形」を作ればイイ。
 そうすれば勝てるんです。
 このやり方こそが「神」ってものです。

 ギョウソウコクっていうじゃないですか。
 シンバンショーは「木」と「土」と「水」と「火」と「金」の、五つの元素ファイブ・エレメンツで出来てて、元素にはそれぞれに強いモノがあって、って言う、あれ。

 木は土の養分を吸い取って自分は成長し、相手を痩せさせる。だから木は土につ。
 土は水を濁らせ、吸い込み、川をせき止める。だから土は水につ。
 水は火から熱を奪い、消し止める。だから水は火につ。
 火は堅い金属を溶かし、形を変えさせる。だから火は金につ。
 金属の道具は木を切り倒し、加工することが出来る。だから金は木につ。

 ……そうそう、ルールの面倒くさいジャンケンみたいなあれですよ。

 それでですね。
 例えば「木は土より強い」からっていって、じゃあ別の元素に対しても「土に対して勝った木のやり方」を、そのまま同じにぶつけたとして、勝てるか、ってお話ですよ。
 いくら根っこを張って養分を取ろうとしても金属が相手じゃ勝てないし、水には押し流されちゃうし、火には燃やされちゃって、負けちゃいますからね。
 それにほら、木は金に対しては元からして弱い設定ですし。
 だから、それぞれにやり方を変えないといけないですよね。

 あと、季節。
 オレ、春って大好きな季節なんですけど、だからってずっと春がイイって思ったところで、そのご陽気を引き留めるなんてのは無理でしょ?
 人間が何をどうやったところで、春の次は夏が来て、秋がになって、冬がやってくるんですよ。
 そうなれば、ずっと春の気分でふわふわ過ごしてる訳にはいかなくなりますでしょ?
 夏には夏の、秋には秋の、冬には冬の過ごし方に変える必要がありますよね。

 季節どこの話じゃないですよ。朝夕の時間だって長くなったり短くなったりしてますもん。
 一年中、一日だって秒までで同じニッショーカンってのはそうそうないんですよ。
 早起きしんどいから夜が長い方が良い、なんて思ってみたところで、人間はお天道様には勝てません。朝はお天道様の都合でやってきちゃう。
 結局、その日その日の夜明けの時間に起きて、その日の夕焼け小焼けでお家に帰らないとないとダメなんです。

 お月様なんかもそうですよね。
 満月になったと思ったらドンドン痩せてって、十五日もすれば見えなくなっちゃう。だからて消えてなくなったってワケじゃなく、また太っていって、十五日もすればまん丸になる。以下、エンドレスループ。
 月の形によって月明かりの強さだって変わるんですから、夜道の歩き方だって、使う灯明ランプの芯の長さの長さだって、まるっきり違ってきちゃいますでしょうよ。

 つまり、どんなもの対しても、どんな時でも、
「いつも同じ対策を取ってればイイ」
 なんてことは、世の中にはないんですよ。
 日常生活だってそうなんですから、当然、戦争だって……ねぇ?
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――

黒鯛の刺身♪
歴史・時代
戦国の巨獣と恐れられた『武田信玄』の実質的後継者である『諏訪勝頼』。  一般には武田勝頼と記されることが多い。  ……が、しかし、彼は正統な後継者ではなかった。  信玄の遺言に寄れば、正式な後継者は信玄の孫とあった。  つまり勝頼の子である信勝が後継者であり、勝頼は陣代。  一介の後見人の立場でしかない。  織田信長や徳川家康ら稀代の英雄たちと戦うのに、正式な当主と成れず、一介の後見人として戦わねばならなかった諏訪勝頼。  ……これは、そんな悲運の名将のお話である。 【画像引用】……諏訪勝頼・高野山持明院蔵 【注意】……武田贔屓のお話です。  所説あります。  あくまでも一つのお話としてお楽しみください。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

武田信玄の奇策・東北蝦夷地侵攻作戦ついに発動す!

沙羅双樹
歴史・時代
歴史的には、武田信玄は上洛途中で亡くなったとされていますが、もしも、信玄が健康そのもので、そして、上洛の前に、まずは東北と蝦夷地攻略を考えたら日本の歴史はどうなっていたでしょうか。この小説は、そんな「夢の信玄東北蝦夷地侵攻大作戦」です。 カクヨムで連載中の小説を加筆訂正してお届けします。

不屈の葵

ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む! これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。 幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。 本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。 家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。 今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。 家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。 笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。 戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。 愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目! 歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』 ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

処理中です...