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決着の付け方
模範解答
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取るべき言動を探すブライトは、のぞき見る視線を感じた。
寝室と居間との間のドアが僅かに開いている。隙間から、四つの声がなにやら勝手なことをささやきあっているのが、耳をそばだてる必要もなく漏れ聞こえる。
動く方の手で頭を掻いた。
ブライトはベッドの上とドアの向こうの、どちらの厄介事を先に対処するべきか、迷った。
やがて、クレールの背中の揺れが小さくなった。しゃくり上げながら、
「何か、仰ってください……」
指の隙間から、男を睨み付けている。
充血した目に恨めしげな色をしていた。さすがに返答をしないわけにゆかない。ブライトは短く、
「何を?」
「莫迦とか……泣くなとか……女々しいとか……愚鈍とか……。不甲斐ない愚か者を叱りつける言葉はいくらでもあるでしょう?」
クレールは一語ごとに鼻をすすりつつ、掛布の端で顔と手をゴシゴシと乱暴に拭いた。泣き腫らした目で、上目遣いにブライトを睨む。
暫し黙考したブライトは、不意に立ち上がった。
先に対処すると決めた者たちがいる、ドアに向かう
。
リゼッタ姉妹とその背中に貼り付いていたシルヴィー、そしてマダム・ルイゾンが、頬を引きつらせつつ、後ずさりする。
口を真一文字に引き結んみ、深く考え込でいるブライトの顔つきが、彼女らには途轍もなく恐ろしいモノに見えた。
ブライトは静かにドアを閉めた。ドアの向こう側で娘達が気を失わんばかりにしてへたり込んだことなどは、彼にとってはどうでも良いことだった。
ドアに向かって、クレールに背を見せたまま、
「コッチがチャラにしてくれって言ってる意味を、これっぽっちも察してくれないあたりは、確かに不敏だがね……。
まあ、そういう鈍いところがまた溜まらなくかわいいから、許す」
振り向きざまに、ニタリと笑った。
あっけにとられたクレールだったが、内心ほっと息を吐いていた。
彼の下心のありそうな下卑たにやけ顔が、普段のとおりであったからだ。
「そうやって、私を子供扱いなさるのだから」
クレール頬を膨らませた。本心から拗ねているのだが、目は笑っている。
「いつまでも子供でいてもらっちゃぁ困るンだが、可愛い子にはいつまでも子供でいて欲しい……。
男心は複雑なのさ」
ケラケラと笑いつつ、ブライトは窓辺に依った。
窓外の大通りの往来が激しくなっていた。
村祭りが始まる。
村始まって以来の大事件が起きたために、規模の縮小は余儀なくなった。
それでも人々は集う。
フレイドマル一座の掛小屋の上物は取り払われた。
広場に舞台だけがぽつりと残されている。
誰かがそこに登って音を鳴らせば、誰かが歌い、誰かが舞うだろう。
人の心の高まりは、止めようにも止められるものではない。
「とにかく、しばらくは温和しくしていることだ」
ブライトはもう一度振り向いて、笑った。
クレールが笑顔を返した。
「暇つぶしに、何か持ってきてやろう。欲しいモノがあれば、言ってみな?」
「史書を」
ブライトの太い眉が小さく上下した。眼差しには、困惑と驚きと、呆れがあった。
「幼い頃に『読まされて』以来、目にしておりませんから。もう一度しっかり『読んで』おく必要があると思うのです。本当のことを考えるために」
「模範解答だ。まったくお前さんの頭蓋の中には、美しい脳味噌が詰まっているに違いない」
言い残し、ブライトは窓枠を飛び越えた。
この章、了
寝室と居間との間のドアが僅かに開いている。隙間から、四つの声がなにやら勝手なことをささやきあっているのが、耳をそばだてる必要もなく漏れ聞こえる。
動く方の手で頭を掻いた。
ブライトはベッドの上とドアの向こうの、どちらの厄介事を先に対処するべきか、迷った。
やがて、クレールの背中の揺れが小さくなった。しゃくり上げながら、
「何か、仰ってください……」
指の隙間から、男を睨み付けている。
充血した目に恨めしげな色をしていた。さすがに返答をしないわけにゆかない。ブライトは短く、
「何を?」
「莫迦とか……泣くなとか……女々しいとか……愚鈍とか……。不甲斐ない愚か者を叱りつける言葉はいくらでもあるでしょう?」
クレールは一語ごとに鼻をすすりつつ、掛布の端で顔と手をゴシゴシと乱暴に拭いた。泣き腫らした目で、上目遣いにブライトを睨む。
暫し黙考したブライトは、不意に立ち上がった。
先に対処すると決めた者たちがいる、ドアに向かう
。
リゼッタ姉妹とその背中に貼り付いていたシルヴィー、そしてマダム・ルイゾンが、頬を引きつらせつつ、後ずさりする。
口を真一文字に引き結んみ、深く考え込でいるブライトの顔つきが、彼女らには途轍もなく恐ろしいモノに見えた。
ブライトは静かにドアを閉めた。ドアの向こう側で娘達が気を失わんばかりにしてへたり込んだことなどは、彼にとってはどうでも良いことだった。
ドアに向かって、クレールに背を見せたまま、
「コッチがチャラにしてくれって言ってる意味を、これっぽっちも察してくれないあたりは、確かに不敏だがね……。
まあ、そういう鈍いところがまた溜まらなくかわいいから、許す」
振り向きざまに、ニタリと笑った。
あっけにとられたクレールだったが、内心ほっと息を吐いていた。
彼の下心のありそうな下卑たにやけ顔が、普段のとおりであったからだ。
「そうやって、私を子供扱いなさるのだから」
クレール頬を膨らませた。本心から拗ねているのだが、目は笑っている。
「いつまでも子供でいてもらっちゃぁ困るンだが、可愛い子にはいつまでも子供でいて欲しい……。
男心は複雑なのさ」
ケラケラと笑いつつ、ブライトは窓辺に依った。
窓外の大通りの往来が激しくなっていた。
村祭りが始まる。
村始まって以来の大事件が起きたために、規模の縮小は余儀なくなった。
それでも人々は集う。
フレイドマル一座の掛小屋の上物は取り払われた。
広場に舞台だけがぽつりと残されている。
誰かがそこに登って音を鳴らせば、誰かが歌い、誰かが舞うだろう。
人の心の高まりは、止めようにも止められるものではない。
「とにかく、しばらくは温和しくしていることだ」
ブライトはもう一度振り向いて、笑った。
クレールが笑顔を返した。
「暇つぶしに、何か持ってきてやろう。欲しいモノがあれば、言ってみな?」
「史書を」
ブライトの太い眉が小さく上下した。眼差しには、困惑と驚きと、呆れがあった。
「幼い頃に『読まされて』以来、目にしておりませんから。もう一度しっかり『読んで』おく必要があると思うのです。本当のことを考えるために」
「模範解答だ。まったくお前さんの頭蓋の中には、美しい脳味噌が詰まっているに違いない」
言い残し、ブライトは窓枠を飛び越えた。
この章、了
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