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招かれざる客来るの報
もう一度最初から
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歴戦の剣士の強さがあって、直情的であるにもかかわらず、人見知りの激しいか弱い心根を持つ、姫君のように麗しい【美少年】が、自分から離れてゆくのことが、マイヨールには途方もなく惜しい。そして途轍もなく恐ろしい。
『求めても手に入れられぬと諦めていたところへ、向こうから現れてくだすった格好のモチーフだ。
いや、物書きへ名声を運んでくださるという芸術神の化身だ。ここでみすみす逃がしてなるものか!』
留めておきたい、留めねばならぬ。
「裏からお出になってくださいな。ただし、街道は一本道ですから、今外に出てはかえってグラーヴ卿閣下の目につきます。
ご不便でしょうが、暫し楽屋にお隠れを」
若様の手を己が手で引いてご案内差し上げたいのは山々だが、そんなことをしたら間違いなく忠実な剣士に斬りつけられる。
出しかけた手を引っ込めるた彼は、くるりと踵を返し、足早に舞台袖へ向かった。
「学習能力のあることだ」
マイヨールの心中を読み取ったブライトは、にたりと笑って彼の後に続いた。そのさらに後ろを、クレールも追う。
舞台裏は蜂の巣を突いた騒ぎとなっていた。
折角引っ張り出した最終幕のセットを片付け、しまい込んだ一幕の書き割りを引きずり出さねばならなくなった裏方達は、口々に不平を垂れ、仲間同志で罵声を浴びせあいながら、それでも的確にやるべき事をこなしている。
踊り子達も同様に文句を言い悪態を吐きながら、汗で崩れた化粧を直し、熱を帯びた肉体を鎮めるストレッチを行っていた。
「……ああ皆はグラーヴ卿のためにもう一度最初から演技をしなければならないのですね。体は大丈夫なのでしょうか?」
先を行く道連れの背に問いかけるような口調で、クレールは一人呟いた。
答えは背後から追ってきた。
「朝から続けてに三,四度もすることもしょっちゅうですから。これからすぐにと言われたとしても、それはすこし間が詰まっていますけれど、それでも、これくらいのことは何でもありません」
鈴が鳴るような愛らしい声の主は無論ブライトではなかった。
歩みながら振り返ると、ゆったりとした白い衣裳をまとった踊り子が、上気した顔をこちらに向けていた。
「……君は、たしかシルヴィーといったね」
足を止めずに、クレールは踊り子に声を掛けた。もとより熱を帯びていた頬を更に赤く染め、彼女は
「はい、若様」
さも嬉しげに返答し、つま先立ちで駆け寄った。
「名前を覚えていただけたなんて、嬉しゅうございます」
「あれほどすばらしい舞いを見せて貰っては、演技者の名前を忘れることなど、できようもない。私はできることなら君と直接話をしたいと思っていたのだよ」
クレールはいかにも貴族の若者らしい口調で言う。紅潮を耳先にまで広げたシルヴィーは、宙に浮くよに歩きながら、裳裾を抓んで頭を下げた。
事実、クレールはシルヴィーと話をしたいと考えていた。
彼女が演じている「男になりきっている女」について、彼女自身はどう思うているのか、直に訊ねてみたかった。
「わたしも、若様とお話ししたくて。お聞きしたいことがたくさんあるんです」
『求めても手に入れられぬと諦めていたところへ、向こうから現れてくだすった格好のモチーフだ。
いや、物書きへ名声を運んでくださるという芸術神の化身だ。ここでみすみす逃がしてなるものか!』
留めておきたい、留めねばならぬ。
「裏からお出になってくださいな。ただし、街道は一本道ですから、今外に出てはかえってグラーヴ卿閣下の目につきます。
ご不便でしょうが、暫し楽屋にお隠れを」
若様の手を己が手で引いてご案内差し上げたいのは山々だが、そんなことをしたら間違いなく忠実な剣士に斬りつけられる。
出しかけた手を引っ込めるた彼は、くるりと踵を返し、足早に舞台袖へ向かった。
「学習能力のあることだ」
マイヨールの心中を読み取ったブライトは、にたりと笑って彼の後に続いた。そのさらに後ろを、クレールも追う。
舞台裏は蜂の巣を突いた騒ぎとなっていた。
折角引っ張り出した最終幕のセットを片付け、しまい込んだ一幕の書き割りを引きずり出さねばならなくなった裏方達は、口々に不平を垂れ、仲間同志で罵声を浴びせあいながら、それでも的確にやるべき事をこなしている。
踊り子達も同様に文句を言い悪態を吐きながら、汗で崩れた化粧を直し、熱を帯びた肉体を鎮めるストレッチを行っていた。
「……ああ皆はグラーヴ卿のためにもう一度最初から演技をしなければならないのですね。体は大丈夫なのでしょうか?」
先を行く道連れの背に問いかけるような口調で、クレールは一人呟いた。
答えは背後から追ってきた。
「朝から続けてに三,四度もすることもしょっちゅうですから。これからすぐにと言われたとしても、それはすこし間が詰まっていますけれど、それでも、これくらいのことは何でもありません」
鈴が鳴るような愛らしい声の主は無論ブライトではなかった。
歩みながら振り返ると、ゆったりとした白い衣裳をまとった踊り子が、上気した顔をこちらに向けていた。
「……君は、たしかシルヴィーといったね」
足を止めずに、クレールは踊り子に声を掛けた。もとより熱を帯びていた頬を更に赤く染め、彼女は
「はい、若様」
さも嬉しげに返答し、つま先立ちで駆け寄った。
「名前を覚えていただけたなんて、嬉しゅうございます」
「あれほどすばらしい舞いを見せて貰っては、演技者の名前を忘れることなど、できようもない。私はできることなら君と直接話をしたいと思っていたのだよ」
クレールはいかにも貴族の若者らしい口調で言う。紅潮を耳先にまで広げたシルヴィーは、宙に浮くよに歩きながら、裳裾を抓んで頭を下げた。
事実、クレールはシルヴィーと話をしたいと考えていた。
彼女が演じている「男になりきっている女」について、彼女自身はどう思うているのか、直に訊ねてみたかった。
「わたしも、若様とお話ししたくて。お聞きしたいことがたくさんあるんです」
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