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地上に巨人が生まれて、そのあと絶えた訳

人々を説得できるのは、喜ばしいことです

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 ミーミルは彼の一族が棲む土地の開墾されている場所の中で一番西の外れまで走りました。それは彼の歩幅でたったの七十歩でたどり着ける所でした。
 彼の従兄弟たちの中では一番小さい者でしたが、それでも背丈が二百と五十クデあるのです。この頃の一クデは、この世で最初のお父さんの指の先から肘までの長さと決まっておりました。

 七十歩行った先で、彼は二つの小さな人影を見つけました。一つの人影は、鉄の鍬をふるって畑を耕していました。もう一つの人影は、経糸の先を畦に生えた細い木に結びつけた居坐機いざりばたで帯を負っておりました。

「ああ私は、私たちの母の母、母の父、この世の総ての人々の偉大な両親の家にたどり着いた」

 ミーミルはこの世で一番最初のお父さんと、この世で一番最初のお母さんの前に進んで、地面に頭が付くほどに腰を曲げ、跪きました。
 すると、この世で最初のお父さんが、彼を見上げて、

「偉大で小さな息子、私たちの最初の子供の最後の子供、遠いところから良くここまで来てくれたね」

 そう言いますと、小さな水瓶を彼の前に差し出しました。

「さあお飲み。ほんの一滴の水だけれども、ここにある総ての清い水を、お前にあげよう」

 それからこの世で最初のお母さんも彼を見上げて、

「偉大で小さな息子、私たちの最初の子供の最後の子供、遠いところから良くここまで来てくれたね」

 そう言いますと、小さな籠を彼の前に差し出しました。

「さあお食べ。ほんの一切れのパンだけれども、ここにある総ての食べ物を、お前にあげよう」

 ミーミルは二人の前にひれ伏して泣きました。彼等が持っている物総てを自分たちのためでなく、疲れた旅人のために捧げてくれたからです。

「お祖父じい様、お祖母ばあ様、どうかそれはあなた方自身のためにとっておいてください。私の喉は喜びの為に潤い、私の腹は幸福の為に満ちていますから」

 そういいますと、ミーミルは顔を上げて二人に語りました。

「偉大な両親よ、私はここに来る途中で、兄弟たちが争って、互いの血肉を貪るのを見ました」

 この世で最初のお父さんが答えて言いました。

「彼等は自分たちで食べ物を得る術を知らないので、互いに争って奪い合うことしかできないのだ。彼等がここに来たならば、一緒に畑を耕して、作物を作る術を教えてやれるのに」

 この世で最初のお母さんも言いました。

「彼等がここに来たならば、一緒に糸を紡ぎ機を織って、身に纏う物を作る術を教えてやれるのに」

 二人はとても悲しそうでした。
 ミーミルは彼等に言いました。

「最も尊き御方は、私たちの兄弟が大地を血でけがしていることをおなげきになっています。その穢れを流すため、天の海があふれることをお許しになりました。私はそのことを皆に知らせるために駆けてきました」

「ああ、とうとうそうお決めにななられたのか」

 この世で最初の夫婦は声を揃えて言い、肩を抱き合って泣きました。そして泣きながらミーミルに問いました。

「お前はそのことを他の子供たちに伝えましたか?」

 ミーミルは、彼が彼の父と一緒に火の山へぼったことから、御使いに告げられたこと、それから山を下って駆け戻り、総ての兄弟たちにこのことを告げたことを、最初から最後まで全部語りました。
 全部語り終えますと、ミーミルは言いました。

「もしも私の言ったことが正しくなく、いつまでも天の波が来ず、永遠に地が水につからなかったなら、私は私の身を裂いて皆に血肉を分け与えましょう。
 お祖父様、お祖母様、どうか私を信じて、すぐ高い山へ向かってください。今あなた方の手の中にあるものをは捨ててください。持っている土地を惜しんではなりません。そのためにあなた方は命を失うことになるからです」

 この世で最初の夫婦は、彼の目をしっかり見つめて言いました。

「私たちはお前の言うことを全部信じよう。そしてこれをお前に告げてくれた最も高き所におられる尊い御方に感謝しよう。私たち人間が総て滅んでしまうことを、あの方は望んでおられない。あの方は私たちを哀れみ、祝福して下さった」

 ミーミルは地にひれ伏して泣きました。嬉しくて悲しくて、涙が止まりませんでした。
 あまりにたくさん泣きましたので、ミーミルが流した涙の浸みた土地では、今でも井戸を掘ると塩気のある水が湧くのです。
 ミーミルはこの世で最初の夫婦に言いました。

「私たち兄弟総ての偉大な父母よ。どうか私の肩に掴まってください。そうして、私はあなた方を背負って、高い山へ登りましょう。そうすれば、例え水が大地を覆い始めても、私の背丈になるまでは、あなた方が溺れてしまうことはありませんから」

 この世で最初の夫婦は、

「偉大で小さな息子、私たちの最初の子供の最後の子供。私たちはあなたに従いましょう。私たちは老いてしまって、山へ行く力が残っていないのだから」

 こういって、素直にミーミルの肩に掴まり、振り落とされないようにと、彼の髪の毛で身体を縛りました。
 ミーミルは残る力を全部振り絞って立ち上がり、二人を背負って駆け出しました。
 空は真っ暗に曇っておりました。雷鳴はとどろき、稲光いなびかりが光り、稲妻いなづまが大地にいくつも突き刺さりました。
 黒い雲は大地の彼方からどんどん低く垂れ下がり、風は湿った土の匂いを運び始めました。

「天の門が開き、天の海があふれた!」

 ミーミルは叫びました。走りながら叫びました。お腹の底から、魂の奥から、叫びました。

「天の水が総て落ちてくる! 大地は水で満たされる! 兄弟たち、兄弟たち、私の声を聞け! 高みへ走れ、振り返るな、命を惜しめ、物を惜しむな!」

 湿った空気が震えて、ミーミルの声は地の果てまで届きました。喉が破けて血があふれました。ミーミルは血を吐き出しながら、ただひたすらに走りました。

 やがて大粒の雨が降り始めました。降ってきた雨は雨粒の形をしておりませんでした。空の端から端までが総て川になって、大地の端から端までがすべて海になったような雨でした。
 ミーミルが平らなところを走っている間に、水は彼のくるぶしまで達しました。
 ミーミルが少し坂になり始めたあたりまで走ってきた頃になりますと、水は彼の膝下あたりまで達しておりました。
 ミーミルが山道にさしかかりますと、水は彼の腰の下にまで達しておりました。
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