70 / 97
二人の王子様と一人のお姫様
勇猛な王子
しおりを挟む
さて、そのロウの国のゲオルグ王子とおっしゃるお方が、果たしてどのような御仁であったかと申しますと……。
有り体に言いますれば、フレイ様が仰った通りの、本当に「あまり評判のよろしくないバカ王子」でございます。
肩幅が広く、がっしりとした長身の、壮健な体躯。
きりりと太い眉に、きゅっと引き締まった口元、すっと鼻筋の通った彫り深い顔立ち。
というような、まあ中々に凛々しく逞しい見た目をお持ちの王子様でした。
そういったみてくれの上に、ヒラヒラとした羽根飾り、キラキラと輝く徽章、ピカピカに光った釦を、金糸銀糸を縫い込んだご衣装に盛り付けて、突如として諸国の宮殿やお金持ちのお屋敷で開かれる遊宴に現れては、貴婦人達をじろじろと品定めして、お気に召す令嬢がいればその手を握って放さず、いなければ誰とも踊りも語りもせず、ただ大いに飲み食いをなさり、腹がくちくなればさっさと帰って行かれるのです。
ゲオルグ王子は末息子でしたので、お父君のロウの王様に大変に愛されておりました。ですから、ロウの王様は王子が立って歩いてしゃべれるようになるとすぐに、国一番の学者達と国一番の武術家達を教師につけて、立派な王子に育てようとなさいました。
この英才教育で王子が身につけられたものと申しますと……。
学術指南の先生が七人ぐらい匙を投げた学力。
武術指南の先生を十人ほど再起不能にさせた腕力。
美しい乙女と見ればすぐに手を出して、一度に十四人の恋人と付き合う精力。
……と言った具合でありました。
先に申し上げましたとおり、文よりは武を尊ばれるゲオルグ王子でございましたから、時が違えば、あるいは並ぶ者の無い勇者・大将軍と呼ばれていたかも知れません。
ですけれども、残念ながらこの頃のその辺りは大変に平和でありました。小さな国々は表立って反目しあうようなことはなかったのです。つまり、ゲオルグ王子はその腕力を生かす事が出来ないのです。
だからといって、遊宴の開場で剣や拳を振るってどなたかと「力比べ」をしたなら、たとえ勝ったとしても評判を下げてしまいます。王子も、数回かそういった経験をお積みになった末には、それをお覚りになったご様子でした。
外で暴れられない王子は、お城の中で刀や槍を振り回し、馬場で馬を走らせる他にすることがありません。
何分にも、ゲオルグ王子はその上に四人も兄上がいらっしゃいましたので、もしロウの王様に万一のことがあったとしても、地位も領地も財産も何もかも相続するものがない、というお立場でありました。
それがまた、ロウの王様にとっては哀れでならないご様子で、
「どうしたものか。アレに立つ瀬はないものか」
と、腕を組んだり首を捻ったりして、色々とお考えになったのです。
そしてお気づきになりました。
可愛い末っ子を幸せにし、見かけの立派な穀潰しを国のために有効に使う手だて、を、です。
それは良縁を組むこと、です。有り体に申しますと、政略結婚です。
王様の血縁を、友好・同盟の証人として、どこかの国のお城の中に送り込むのです。
結婚できれば儲けものです。
相手の国を身方に付けるか、敵に回さぬように脅すか、あるいはわざと相手を怒らせてその国に攻め込む切っ掛けとするか、相手の国を乗っ取るか――。
そのためには、どうせなら少しでも自分の国に有利に働く相手を選んだ方がいいと考えるのは当然です。
では、ロウの国にとって有利な花嫁とは、いったいどんな国のお姫様でしょうか?
ロウの国というのは、つい最近独立したばかりの、豆粒のように小さな国です。
歴史の浅い国は、古い物にあこがれます。
キルハの国は、このあたりでも一、二を争うほどに、長い歴史と伝統を持った格式高いお国です。
ロウの国の王様は、歴史の長いキルハの国と縁を結ぶことによって、自分の国の歴史も長いものに変えようと考えたのでした。
ロウの王様の息子が、キルハのお姫様と結婚してできたなら、王様の願いは叶います。
しかしながら、これは中々にかなえることの難しい願いといえました。
まずもって、ゲオルグ王子は勇壮さだけが取り柄のお方です。そのことは、どうやら近隣諸国に知れ渡っている様子でもあります。
それから、彼の国の美しいお姫様には、従弟であり恋人である美しい王子様がぴったりと寄り添っていることです。このことは、近隣の国々にも知れておりますし、ロウの国にも聞こえてきます。
「だったら決闘でも喧嘩でもして、奪って来れば良い」
ロウの王様はゲオルグ王子にそう言ったのです。……子は親の鏡。この子にしてこの親あり。蛙の親は蛙。鳶はやっぱり鳶を産む。と、言うことでありましょう。
有り体に言いますれば、フレイ様が仰った通りの、本当に「あまり評判のよろしくないバカ王子」でございます。
肩幅が広く、がっしりとした長身の、壮健な体躯。
きりりと太い眉に、きゅっと引き締まった口元、すっと鼻筋の通った彫り深い顔立ち。
というような、まあ中々に凛々しく逞しい見た目をお持ちの王子様でした。
そういったみてくれの上に、ヒラヒラとした羽根飾り、キラキラと輝く徽章、ピカピカに光った釦を、金糸銀糸を縫い込んだご衣装に盛り付けて、突如として諸国の宮殿やお金持ちのお屋敷で開かれる遊宴に現れては、貴婦人達をじろじろと品定めして、お気に召す令嬢がいればその手を握って放さず、いなければ誰とも踊りも語りもせず、ただ大いに飲み食いをなさり、腹がくちくなればさっさと帰って行かれるのです。
ゲオルグ王子は末息子でしたので、お父君のロウの王様に大変に愛されておりました。ですから、ロウの王様は王子が立って歩いてしゃべれるようになるとすぐに、国一番の学者達と国一番の武術家達を教師につけて、立派な王子に育てようとなさいました。
この英才教育で王子が身につけられたものと申しますと……。
学術指南の先生が七人ぐらい匙を投げた学力。
武術指南の先生を十人ほど再起不能にさせた腕力。
美しい乙女と見ればすぐに手を出して、一度に十四人の恋人と付き合う精力。
……と言った具合でありました。
先に申し上げましたとおり、文よりは武を尊ばれるゲオルグ王子でございましたから、時が違えば、あるいは並ぶ者の無い勇者・大将軍と呼ばれていたかも知れません。
ですけれども、残念ながらこの頃のその辺りは大変に平和でありました。小さな国々は表立って反目しあうようなことはなかったのです。つまり、ゲオルグ王子はその腕力を生かす事が出来ないのです。
だからといって、遊宴の開場で剣や拳を振るってどなたかと「力比べ」をしたなら、たとえ勝ったとしても評判を下げてしまいます。王子も、数回かそういった経験をお積みになった末には、それをお覚りになったご様子でした。
外で暴れられない王子は、お城の中で刀や槍を振り回し、馬場で馬を走らせる他にすることがありません。
何分にも、ゲオルグ王子はその上に四人も兄上がいらっしゃいましたので、もしロウの王様に万一のことがあったとしても、地位も領地も財産も何もかも相続するものがない、というお立場でありました。
それがまた、ロウの王様にとっては哀れでならないご様子で、
「どうしたものか。アレに立つ瀬はないものか」
と、腕を組んだり首を捻ったりして、色々とお考えになったのです。
そしてお気づきになりました。
可愛い末っ子を幸せにし、見かけの立派な穀潰しを国のために有効に使う手だて、を、です。
それは良縁を組むこと、です。有り体に申しますと、政略結婚です。
王様の血縁を、友好・同盟の証人として、どこかの国のお城の中に送り込むのです。
結婚できれば儲けものです。
相手の国を身方に付けるか、敵に回さぬように脅すか、あるいはわざと相手を怒らせてその国に攻め込む切っ掛けとするか、相手の国を乗っ取るか――。
そのためには、どうせなら少しでも自分の国に有利に働く相手を選んだ方がいいと考えるのは当然です。
では、ロウの国にとって有利な花嫁とは、いったいどんな国のお姫様でしょうか?
ロウの国というのは、つい最近独立したばかりの、豆粒のように小さな国です。
歴史の浅い国は、古い物にあこがれます。
キルハの国は、このあたりでも一、二を争うほどに、長い歴史と伝統を持った格式高いお国です。
ロウの国の王様は、歴史の長いキルハの国と縁を結ぶことによって、自分の国の歴史も長いものに変えようと考えたのでした。
ロウの王様の息子が、キルハのお姫様と結婚してできたなら、王様の願いは叶います。
しかしながら、これは中々にかなえることの難しい願いといえました。
まずもって、ゲオルグ王子は勇壮さだけが取り柄のお方です。そのことは、どうやら近隣諸国に知れ渡っている様子でもあります。
それから、彼の国の美しいお姫様には、従弟であり恋人である美しい王子様がぴったりと寄り添っていることです。このことは、近隣の国々にも知れておりますし、ロウの国にも聞こえてきます。
「だったら決闘でも喧嘩でもして、奪って来れば良い」
ロウの王様はゲオルグ王子にそう言ったのです。……子は親の鏡。この子にしてこの親あり。蛙の親は蛙。鳶はやっぱり鳶を産む。と、言うことでありましょう。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる