34 / 97
最初の夫婦と最初の娘たちの話
この世界で最初の夫婦に最初の双子の赤ん坊が生まれた時のこと。
しおりを挟む
この世で最初のお百姓さんが耕す畑は少し広くなり、この世で最初の機織り職人が織る布は少し大きくななっていました。
でも相変わらずお百姓さんはこの世に一人しかおらず、機織り職人はこの世に一人しかおりません。
こういったわけですから、二人の間に赤ちゃんができて、月が満ちて明日にも赤ん坊が生まれるかも知れないと判っていても、この世で最初のお父さんは畑から離れるわけにはゆきませんでした。
月が満ちて明日にも赤ん坊が出てくるかも知れないと判ってみても、この世で最初のお母さんは糸錘を手放すわけには行きませんでした。
最初の時と違ったのは、この世にいるのは二人きりではなく、この世で最初の娘のフッラという産婆の役をできる三人目がいるということでした。
この世で最初の赤ん坊で、この世で最初のお医者さんで、この世で最初のお産婆さんのフッラは、自分が生まれたときのことをよくよく思い出しました。
何がいるのか、どうすればよいのか、よくよく考えました。
そうしてたった一人で産湯を沸かし、たった一人で産着を仕立て、たった一人で準備を整えました。
それから、この世で最初のお母さんの大きなお腹に、よくよく聞こえる方の耳を当てました。
お母さんのお腹の中では、小さな心の臓の拍動が
「ととと、ととと」
「ととと、ととと」
と、二つ重なって鳴っておりました。
「私の弟妹はきっと双子に違いない」
フッラが言いますと、お母さんは大変びっくりしました。
だって、この世にはこのお母さんより先に双子のお母さんになった人が一人もないのです。
ですから、誰も双子の取り上げ方を知りませんし、誰も双子の取り上げ方を教えてはやれないのです。
兎にも角にも、ホウセンカの花の咲いた頃、この世で最初のお母さんは産気づきました。
そうして、この世で最初の夫婦が住まいにしていた岩の洞窟の中の、布団にしていた藁の山の中で、最初の双子の赤ん坊は生まれたのです。
この世で最初にお産婆さんをすることになったフッラは、この世で最初の双子の最初の子の右の手が出てきたときに、
「この子が先に生まれた子」
と判るようにホウセンカの花びらの汁を小さな爪に塗りつけました。双子で生まれた赤ん坊の見分けが付かなくなったら大変だからです。
ホウセンカの花の汁を塗り終わると、フッラはその赤い爪の赤ん坊を引っ張り出すために手を掴もうとしました。すると、その手はヒュッと引っ込んでしまいました。
「この子はなんてのんびりやさんなのだろう。皆が自分の生まれるのを待っているというのに」
フッラはため息を吐きました。
でもゆっくりとはしていられません。直ぐにまた手が出てきたからです。
その爪にホウセンカの印が付いておりませんでしたので、この世で最初のお産婆さんは、これが始めに手を出した赤ん坊では無いと判りました。
「この子はなんてせっかちさんなんだろう。姉を追い越して生まれようとするなんて」
フッラはため息を吐きました。
でもゆっくりとはしていられません。
こちらの手まで引っ込んでしまっては大変ですので、この世で最初のお産婆さんは大急ぎで手を握り、大慌てて手を引っ張りました。
こうして、この世で二番目に生まれてきた赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきたのです。
勢いの良さは、最初の赤ん坊の時と同じか、もっとずっとありました。
でも最初の時とはちがって、今度はしっかり受け止めてくれるお産婆さんがおります。
この世で二番目の赤ん坊は、頭のてっぺんから藁の布団の上に落ちたりはしませんでした。
赤ん坊の顔が半分は石ころにぶつかって潰れることもありませんでした。
この世で最初のお産婆さんは急いで赤ん坊に産湯を使わせ、慌てて産着を着せました。
何しろもう一人の赤ん坊が残っているのですからね。
思った通りに、すぐに爪の赤い手が出てきました。また引っ込んでしまっては大変ですので、この世で最初のお産婆さんは大急ぎで手を握り、大慌てて手を引っ張りました。
この世で三番目の赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきました。
ですけれど、今度はしっかり受け止めてくれるお産婆さんがおりました。
この世で三番目の赤ん坊は、藁の布団の上で三度もころがりませんでした。
赤ん坊の体の半分が石ころに挟まって潰れることもありませんでした。
この世で最初のお産婆さんは急いで赤ん坊に産湯を使わせ、慌てて産着を着せました。
双子で生まれた娘達は、二人揃って大きな声で泣きました。
この世で最初のお母さんは、赤ん坊を抱き上げて首を傾げました。畑から戻ってきたこの世で最初のお父さんも、とてもとても不安になりました。
一度に二人の赤ん坊を同時に育てた人など、この世には一人だっていないのです。この世で最初の夫婦は心配になったのです。
するとこの世で最初の双子の赤ん坊は、不安がる両親に向かって元気の良い声で言ったのです。
「お父さん、お母さん、ついこの間までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが悲しむことは、この世の総てが悲しむことと同じででした。
でも今は私たち姉妹がおります。
この世に生まれてよろこんでいる私たちのために、この世には悲しみだけでなく、喜びの声にも満ちるでしょう。
お父さん、お母さん、ついこの間までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが苦しむことは、この世の総てが苦しむことと同じでした。
でも今は私たち姉妹がおります。
私たちはお父さんを助けることができ、私たちはお母さんを助けることができます。
さあ泣かないで、悲しまないで。
どうかよろこんで、笑ってください」
この世で最初のお父さんとお母さんは大変よろこんで、この最初の双子の赤ん坊を抱きしめました。
この世で最初のお父さんとお母さんは、この世で最初のこの双子の娘に名前を付けました。
後から手を出したのに先に生まれた、爪の白い娘はマッハと言う名前です。
先に手を出したのに後から生まれた、爪の赤い娘はジョカと言う名前です。
それは、赤いホウセンカの花の咲いた日のことでした。
でも相変わらずお百姓さんはこの世に一人しかおらず、機織り職人はこの世に一人しかおりません。
こういったわけですから、二人の間に赤ちゃんができて、月が満ちて明日にも赤ん坊が生まれるかも知れないと判っていても、この世で最初のお父さんは畑から離れるわけにはゆきませんでした。
月が満ちて明日にも赤ん坊が出てくるかも知れないと判ってみても、この世で最初のお母さんは糸錘を手放すわけには行きませんでした。
最初の時と違ったのは、この世にいるのは二人きりではなく、この世で最初の娘のフッラという産婆の役をできる三人目がいるということでした。
この世で最初の赤ん坊で、この世で最初のお医者さんで、この世で最初のお産婆さんのフッラは、自分が生まれたときのことをよくよく思い出しました。
何がいるのか、どうすればよいのか、よくよく考えました。
そうしてたった一人で産湯を沸かし、たった一人で産着を仕立て、たった一人で準備を整えました。
それから、この世で最初のお母さんの大きなお腹に、よくよく聞こえる方の耳を当てました。
お母さんのお腹の中では、小さな心の臓の拍動が
「ととと、ととと」
「ととと、ととと」
と、二つ重なって鳴っておりました。
「私の弟妹はきっと双子に違いない」
フッラが言いますと、お母さんは大変びっくりしました。
だって、この世にはこのお母さんより先に双子のお母さんになった人が一人もないのです。
ですから、誰も双子の取り上げ方を知りませんし、誰も双子の取り上げ方を教えてはやれないのです。
兎にも角にも、ホウセンカの花の咲いた頃、この世で最初のお母さんは産気づきました。
そうして、この世で最初の夫婦が住まいにしていた岩の洞窟の中の、布団にしていた藁の山の中で、最初の双子の赤ん坊は生まれたのです。
この世で最初にお産婆さんをすることになったフッラは、この世で最初の双子の最初の子の右の手が出てきたときに、
「この子が先に生まれた子」
と判るようにホウセンカの花びらの汁を小さな爪に塗りつけました。双子で生まれた赤ん坊の見分けが付かなくなったら大変だからです。
ホウセンカの花の汁を塗り終わると、フッラはその赤い爪の赤ん坊を引っ張り出すために手を掴もうとしました。すると、その手はヒュッと引っ込んでしまいました。
「この子はなんてのんびりやさんなのだろう。皆が自分の生まれるのを待っているというのに」
フッラはため息を吐きました。
でもゆっくりとはしていられません。直ぐにまた手が出てきたからです。
その爪にホウセンカの印が付いておりませんでしたので、この世で最初のお産婆さんは、これが始めに手を出した赤ん坊では無いと判りました。
「この子はなんてせっかちさんなんだろう。姉を追い越して生まれようとするなんて」
フッラはため息を吐きました。
でもゆっくりとはしていられません。
こちらの手まで引っ込んでしまっては大変ですので、この世で最初のお産婆さんは大急ぎで手を握り、大慌てて手を引っ張りました。
こうして、この世で二番目に生まれてきた赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきたのです。
勢いの良さは、最初の赤ん坊の時と同じか、もっとずっとありました。
でも最初の時とはちがって、今度はしっかり受け止めてくれるお産婆さんがおります。
この世で二番目の赤ん坊は、頭のてっぺんから藁の布団の上に落ちたりはしませんでした。
赤ん坊の顔が半分は石ころにぶつかって潰れることもありませんでした。
この世で最初のお産婆さんは急いで赤ん坊に産湯を使わせ、慌てて産着を着せました。
何しろもう一人の赤ん坊が残っているのですからね。
思った通りに、すぐに爪の赤い手が出てきました。また引っ込んでしまっては大変ですので、この世で最初のお産婆さんは大急ぎで手を握り、大慌てて手を引っ張りました。
この世で三番目の赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきました。
ですけれど、今度はしっかり受け止めてくれるお産婆さんがおりました。
この世で三番目の赤ん坊は、藁の布団の上で三度もころがりませんでした。
赤ん坊の体の半分が石ころに挟まって潰れることもありませんでした。
この世で最初のお産婆さんは急いで赤ん坊に産湯を使わせ、慌てて産着を着せました。
双子で生まれた娘達は、二人揃って大きな声で泣きました。
この世で最初のお母さんは、赤ん坊を抱き上げて首を傾げました。畑から戻ってきたこの世で最初のお父さんも、とてもとても不安になりました。
一度に二人の赤ん坊を同時に育てた人など、この世には一人だっていないのです。この世で最初の夫婦は心配になったのです。
するとこの世で最初の双子の赤ん坊は、不安がる両親に向かって元気の良い声で言ったのです。
「お父さん、お母さん、ついこの間までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが悲しむことは、この世の総てが悲しむことと同じででした。
でも今は私たち姉妹がおります。
この世に生まれてよろこんでいる私たちのために、この世には悲しみだけでなく、喜びの声にも満ちるでしょう。
お父さん、お母さん、ついこの間までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが苦しむことは、この世の総てが苦しむことと同じでした。
でも今は私たち姉妹がおります。
私たちはお父さんを助けることができ、私たちはお母さんを助けることができます。
さあ泣かないで、悲しまないで。
どうかよろこんで、笑ってください」
この世で最初のお父さんとお母さんは大変よろこんで、この最初の双子の赤ん坊を抱きしめました。
この世で最初のお父さんとお母さんは、この世で最初のこの双子の娘に名前を付けました。
後から手を出したのに先に生まれた、爪の白い娘はマッハと言う名前です。
先に手を出したのに後から生まれた、爪の赤い娘はジョカと言う名前です。
それは、赤いホウセンカの花の咲いた日のことでした。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる