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鴻鵠の君(あるいは「大きな鳥と王子様」)
王子様、「宝箱」の開け方を思いつく。
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王子様の唇が僅かに開き、喉が小さく震えました。
♪瑠璃色鳥が梟を呼んだ。
「わたしゃ羽折れ飛べやせぬ
手紙を運んでくださいな」
瑠璃色鳥が王子を呼んだ。
「わたしゃ羽折れ飛べやせぬ
包帯巻いてくださいな」
瑠璃色鳥に小鳩が言った。
「羽が治って飛べたなら
お家に帰って来てください」
瑠璃色鳥が王子に言った。
「傷は治ってお空が飛べる
今日のこの日限りでお別れです」
瑠璃色鳥に王子が言った。
「お前がいないと寂しいよ
ずぅっとここに居ておくれ」
王子様は瑠璃色鳥を宝箱に入れた――。
水晶の広間で王子様の声は反響して、天井や壁から生え出ているような水晶の結晶が、ビリビリと振動しました。
王子様はあの手鞠歌の最後の一節の所を、もう一度、くり返して歌いました。
「♪『お前がいないと寂しいよ。
ずぅっとここに居ておくれ』
瑠璃色鳥を宝箱に入れた」
王子様は、ご自分が幼い頃から心に引っかかっていた物が突然取れたような気がして、急に心が軽くなりました。
「僕には歌の中の王子が何の術を使ったのかさっぱりわからないけれど、歌の中の王子の気持ちはよくわかる。
歌の中の王子は、このきれいな人が、自分の元から飛び立ってしまわないように、水晶の中に封印したんだ」
ですが、気持ちがさっぱりしたのは、ほんの一瞬のことでした。
もっと重い引っかかりが、王子様の心にのしかかってきたのです。
「僕にはわかる。歌の中の王子は、きっとこのこの人の美しさだけに心を奪われたんじゃない。
この人の声、言葉、表情、立ち振る舞い、全部を、全てを、歌の中の王子は愛したんだ。
だから絶対に失いたくなかったんだ。
ああ、この人はどんな声をしているのだろう。どんな言葉をしゃべったのだろう。どんな顔で笑い、どんな風に立ち振る舞ったのだろう。
そして、どんな風に……空を舞うのだろう」
王子様はまた、手鞠歌の最後の所を歌いました。
「♪瑠璃色鳥に王子が言った。
『お前がいないと寂しいよ。
ずぅっとここに居ておくれ』
瑠璃色鳥を宝箱に入れた」
王子様の声は反響して、天井や壁から生え出ているような水晶の結晶が、ミシミシと音を立てました。
小さな、砂粒のような水晶の欠片が、天井や壁からこぼれて落ちましたが、王子様はまるで気を取られませんでした。
何分にも王子様は、そのお心の内で、瑠璃色鳥の声を想像し、瑠璃色鳥の話す言葉を想像し、瑠璃色鳥の表情を想像し、瑠璃色鳥の立ち振る舞いを想像し、そして瑠璃色鳥が翼を打って空を飛ぶ様を想像するのに、とても忙しかったからです。
しかし、どれほど想像しても、瑠璃色鳥の声や、言葉や、表情や、立ち振る舞いや、まして空を飛ぶ様などは、想像できないのです。
王子様はあの手鞠歌の最後の一節の所を、もう一度、くり返して歌いました。
「♪『お前がいないと寂しいよ。
ずぅっとここに居ておくれ』
瑠璃色鳥を宝箱に入れた」
王子様の声は反響して、天井や壁から生え出ているような水晶の結晶が、ギリギリと音を立てました。
小ぶりな、石ころのような水晶の欠片が、天井や壁からこぼれて落ちましたが、王子様はまるで気を取られませんでした。
「ああ、歌の中の王子は、どうやって彼女をここに封じたのだろう? どのような技を使い、どのような術を使ったのだろう?」
このことも王子様はよくよく考えたのですが、どのような技で、どのような術なのかは、ちっとも判りません。
ただ、
「術を解かない限り、この人は、この瑠璃色鳥は、透明な壁の向こう側で、眠ったまま動かない」
そのことだけは判りました。
♪瑠璃色鳥が梟を呼んだ。
「わたしゃ羽折れ飛べやせぬ
手紙を運んでくださいな」
瑠璃色鳥が王子を呼んだ。
「わたしゃ羽折れ飛べやせぬ
包帯巻いてくださいな」
瑠璃色鳥に小鳩が言った。
「羽が治って飛べたなら
お家に帰って来てください」
瑠璃色鳥が王子に言った。
「傷は治ってお空が飛べる
今日のこの日限りでお別れです」
瑠璃色鳥に王子が言った。
「お前がいないと寂しいよ
ずぅっとここに居ておくれ」
王子様は瑠璃色鳥を宝箱に入れた――。
水晶の広間で王子様の声は反響して、天井や壁から生え出ているような水晶の結晶が、ビリビリと振動しました。
王子様はあの手鞠歌の最後の一節の所を、もう一度、くり返して歌いました。
「♪『お前がいないと寂しいよ。
ずぅっとここに居ておくれ』
瑠璃色鳥を宝箱に入れた」
王子様は、ご自分が幼い頃から心に引っかかっていた物が突然取れたような気がして、急に心が軽くなりました。
「僕には歌の中の王子が何の術を使ったのかさっぱりわからないけれど、歌の中の王子の気持ちはよくわかる。
歌の中の王子は、このきれいな人が、自分の元から飛び立ってしまわないように、水晶の中に封印したんだ」
ですが、気持ちがさっぱりしたのは、ほんの一瞬のことでした。
もっと重い引っかかりが、王子様の心にのしかかってきたのです。
「僕にはわかる。歌の中の王子は、きっとこのこの人の美しさだけに心を奪われたんじゃない。
この人の声、言葉、表情、立ち振る舞い、全部を、全てを、歌の中の王子は愛したんだ。
だから絶対に失いたくなかったんだ。
ああ、この人はどんな声をしているのだろう。どんな言葉をしゃべったのだろう。どんな顔で笑い、どんな風に立ち振る舞ったのだろう。
そして、どんな風に……空を舞うのだろう」
王子様はまた、手鞠歌の最後の所を歌いました。
「♪瑠璃色鳥に王子が言った。
『お前がいないと寂しいよ。
ずぅっとここに居ておくれ』
瑠璃色鳥を宝箱に入れた」
王子様の声は反響して、天井や壁から生え出ているような水晶の結晶が、ミシミシと音を立てました。
小さな、砂粒のような水晶の欠片が、天井や壁からこぼれて落ちましたが、王子様はまるで気を取られませんでした。
何分にも王子様は、そのお心の内で、瑠璃色鳥の声を想像し、瑠璃色鳥の話す言葉を想像し、瑠璃色鳥の表情を想像し、瑠璃色鳥の立ち振る舞いを想像し、そして瑠璃色鳥が翼を打って空を飛ぶ様を想像するのに、とても忙しかったからです。
しかし、どれほど想像しても、瑠璃色鳥の声や、言葉や、表情や、立ち振る舞いや、まして空を飛ぶ様などは、想像できないのです。
王子様はあの手鞠歌の最後の一節の所を、もう一度、くり返して歌いました。
「♪『お前がいないと寂しいよ。
ずぅっとここに居ておくれ』
瑠璃色鳥を宝箱に入れた」
王子様の声は反響して、天井や壁から生え出ているような水晶の結晶が、ギリギリと音を立てました。
小ぶりな、石ころのような水晶の欠片が、天井や壁からこぼれて落ちましたが、王子様はまるで気を取られませんでした。
「ああ、歌の中の王子は、どうやって彼女をここに封じたのだろう? どのような技を使い、どのような術を使ったのだろう?」
このことも王子様はよくよく考えたのですが、どのような技で、どのような術なのかは、ちっとも判りません。
ただ、
「術を解かない限り、この人は、この瑠璃色鳥は、透明な壁の向こう側で、眠ったまま動かない」
そのことだけは判りました。
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