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鴻鵠の君(あるいは「大きな鳥と王子様」)

王子様、「宝物」を見付ける。

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 王子様は、自分が何を探しに来たのかをすっかり忘れて、石拾いに夢中になりました。

 一つ見付けると、その一歩先にも見つかります。
 二つ拾い上げると、その下も埋まっています。

 あちらにもある、こちらにもある。
 向こうにもある、その先にもある。

 王子様は下を見たままあちこち歩き続けました。
 遠目に見れば、いのしし彷徨うろついているようにも見えたかも知れません。

 やがて、堅パンを食べきって空になっていた鞍袋サドルバッグが、美しい水晶の欠片かけらで満たされました。松明たいまつだけが入っていた背嚢サックパックも、美しい水晶の欠片で一杯になりました。
 そこにいたって、ようやく顔を持ち上げた王子様は、辺りが真っ暗だということに気付いたのでした。

「ああ、もう日が暮れた」

 そう思い、驚いた王子様は、あわてて背嚢サックパックの中をかき回しました。
 王子様が探していた松明たいまつ背嚢サックパックの底の方で、水晶の欠片達の下敷きになっていました。
 王子様は水晶の欠片をこぼさぬようにそっと松明を取り出して、火をけました。

 途端とたん、王子様は四方八方からまぶしい光を浴びせられたのです。
 それはさながら、水面ではねる朝日、あるいは鏡に反射した夕日のような輝きでした。ですけれども、太陽の光のような暖かさはまるでありません。

 薄く閉じてまぶしさにれた王子様が周囲を見ますと、なんと、自分の周りに水晶の柱が立ち並んでいるではありませんか。

 その光景を言葉でいい表すならば、水晶の森と呼ぶのが一番ふさわしいでしょう。
 水晶が松明の光を反射はんしゃさせ、その光をまた別の水晶が屈折くっせつさせ、隣の水晶が、向かいの水晶が、上の水晶が、下の水晶が、手前の水晶が、奥の水晶が、ぜんぶ光り輝いていました。

 つい先ほどまで王子様が夢中になっていた、土埃つちぼこりまみれの小さな欠片かけらよりも数十倍も美しく、数百倍も大きな水晶が、右にも左にも前にも後ろにも整然と林立しているのです。
 急に、王子様は、己の手の中のものを、みすぼらしく思えました。
 拾い集めて袋に詰めたものが、ごみ我楽多がらくたであるように思えてきました。

 王子様はその直前までは「とても美しい宝」に見えていた割れた水晶の欠片達を、袋を逆しまにして、全部地面に捨てたのでした。
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