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51 判決
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何だか妙にエレガントな装いになった。
白いシフォンが重なった美しいラインのドレスには、金糸の見事な刺繍が施されている。飾りや宝石は全て青。
未婚女性の象徴である結い上げない長い髪は、サイドを綺麗に編み込まれ、後ろの髪は美しく波を打って背中に下ろされている。
ビクトリア様は珍しく黒と金の将軍カラーを纏っている。
何でビクトリア様はシックなドレス?
装いのテーマが全く掴めない。
何か趣向があるのかもしれないので、「テーマは何?」などと無粋な質問はしないのが社交のマナーだ。
執務室でお話を伺うのかと思ったら、豪奢なサロンに案内された。
柱の意匠、壁紙の模様、シャンデリアの輝き、何をとっても素晴らしい夢のようなサロンだ。
大公様ご夫婦と私の両親は、既にソファーで歓談している。
私とビクトリア様が向かうと、紳士淑女の礼が交わされた。
「さて、裁判の結果だがな」
皆が席に座ると、早速大公様が言う。
私は背筋を正す。
「元宰相は、第二王妃を利用しルルヴァル兵を国内に引き入れ、王室を乗っ取ろうとした罪で、死刑となった」
いざ、大公様の硬い口調で判決を聞くと、背筋に汗が落ちる。
一気に喉が渇くのに、何も飲む気になれない。
死刑か。
当然だ。
「それに伴い元宰相の計画に関わった文官たちも、相応の罰を受ける。そして爵位はく奪、バルリ家は解体される。エルミナは必然的に平民に落ちる。つながりのある貴族も相当のダメージを負うから、誰かが身元を引き受けるのも難しい。彼女の今後は過酷だな」
私を気遣って、大公様はエルミナ様の情報もくれた。
隣のお母様が私の肩を抱いて慰めるように撫でる。
高位貴族令嬢であり、一時期は王太子の婚約者候補として若手社交界に君臨していたエルミナ様だ。
生きていけないかもしれない。
「第二王妃は、バルリ元宰相に利用され、結果としてルルヴァル兵を国内に引き入れたとして、王家と離縁、国外退去となった」
離縁すれば身分がなくなる。
公女、王妃として過ごして来た彼女にどうやって生きろというのか。
「だが、二十年に渡るリリア妃の不遇は多くが知るところであり、王からの嘆願もあって、彼女はルルヴァル王国に帰国する事となったよ」
「ルルヴァル王国での待遇は?」
公女とはいえ、ルルヴァル王国を出てもう二十数年も経つ。
ルルヴァル王国の勢力も変わっているだろうし、むしろ不名誉な扱いを受ける事が十分考えられる。
「まぁ、そこはな。こちらには干渉できない所だ。ご自分でなんとかなさるしかない。ヴァレリー王太子の婚約も解消となり、現公女に泥を塗った立場だ。ラマティア国内に派遣されたルルヴァル兵は全面撤収となる運びだし、あちらも食糧支援してくれる国の当てを無くしたわけだ。彼女も相当な厳しい状況に立つ事になる」
ルルヴァル王国への帰国は彼女が自ら望んだものらしい。
前国王の娘という立場は正直微妙だ。
好待遇はあり得ない。
が、元宰相を鞭打つ彼女の姿を思い出す。
以外に逞しい所があるし、まぁ、なんとかやって行くでしょう。
もう私には関係の無い人だ。
「テオドリック第二王子に関しては、うん。とにかくラマティアに留まる意向を示したから、リリア妃とは縁切りだ。それでも王の実子だだからと言って王宮に留まる事は出来ない。よって王位継承権返却の後、騎士団で預かる事になった。あいつの取柄は武力しかねぇからなぁ。半分ルルヴァルの血を引いてるから、武人としては使えそうなんだよな。因みに辺境に配属だ」
うーん。テオドリック様に関しては何とも言えない。
ルルヴァル兵が撤収すれば今後の辺境は危険地帯だ。
頑張ってくださいね。
「ということだ。つまるところ、国境がやばい。だが、ラマティアには秘策がある。上手く事が運べば、全て解決する秘策がな」
大公様は碧眼を意地悪く輝かせた。
「秘策とは?」
聞いて欲しそうだったので聞く。
別に聞かないで放っておく手もあったのだが、お世話になっている手前そうはいかない。
パチンと指を鳴らした大公様。
従者使用人たちがサロンの扉に向かい、お出迎えの態勢を取る。
「どなたかいらっしゃるの?」
私は小声で両隣の両親に尋ねた。
お父様は渋い顔。
お母様はにこやか。
ええ?
誰?
「王太子ヴァレリー殿下がお越しです」
執事の声で扉が開かれる。
衛兵を従えたヴァレリー王太子が、白と金の衣装で無駄な輝きを放って入室してくる。
私たちは一斉に立ち上がり、臣下の礼を取る。
「ルイーズ令嬢」
真っ先に私の名を呼ぶ王太子。
何々何事ですかまさかまさか!!
ヴァレリー王太子は硬直する私の手を取り、膝をついて晴れやかな笑顔で言った。
「正式に婚約を申し込みます。私の妻になって下さい」
やっぱりそう来たかーーー!!!
白いシフォンが重なった美しいラインのドレスには、金糸の見事な刺繍が施されている。飾りや宝石は全て青。
未婚女性の象徴である結い上げない長い髪は、サイドを綺麗に編み込まれ、後ろの髪は美しく波を打って背中に下ろされている。
ビクトリア様は珍しく黒と金の将軍カラーを纏っている。
何でビクトリア様はシックなドレス?
装いのテーマが全く掴めない。
何か趣向があるのかもしれないので、「テーマは何?」などと無粋な質問はしないのが社交のマナーだ。
執務室でお話を伺うのかと思ったら、豪奢なサロンに案内された。
柱の意匠、壁紙の模様、シャンデリアの輝き、何をとっても素晴らしい夢のようなサロンだ。
大公様ご夫婦と私の両親は、既にソファーで歓談している。
私とビクトリア様が向かうと、紳士淑女の礼が交わされた。
「さて、裁判の結果だがな」
皆が席に座ると、早速大公様が言う。
私は背筋を正す。
「元宰相は、第二王妃を利用しルルヴァル兵を国内に引き入れ、王室を乗っ取ろうとした罪で、死刑となった」
いざ、大公様の硬い口調で判決を聞くと、背筋に汗が落ちる。
一気に喉が渇くのに、何も飲む気になれない。
死刑か。
当然だ。
「それに伴い元宰相の計画に関わった文官たちも、相応の罰を受ける。そして爵位はく奪、バルリ家は解体される。エルミナは必然的に平民に落ちる。つながりのある貴族も相当のダメージを負うから、誰かが身元を引き受けるのも難しい。彼女の今後は過酷だな」
私を気遣って、大公様はエルミナ様の情報もくれた。
隣のお母様が私の肩を抱いて慰めるように撫でる。
高位貴族令嬢であり、一時期は王太子の婚約者候補として若手社交界に君臨していたエルミナ様だ。
生きていけないかもしれない。
「第二王妃は、バルリ元宰相に利用され、結果としてルルヴァル兵を国内に引き入れたとして、王家と離縁、国外退去となった」
離縁すれば身分がなくなる。
公女、王妃として過ごして来た彼女にどうやって生きろというのか。
「だが、二十年に渡るリリア妃の不遇は多くが知るところであり、王からの嘆願もあって、彼女はルルヴァル王国に帰国する事となったよ」
「ルルヴァル王国での待遇は?」
公女とはいえ、ルルヴァル王国を出てもう二十数年も経つ。
ルルヴァル王国の勢力も変わっているだろうし、むしろ不名誉な扱いを受ける事が十分考えられる。
「まぁ、そこはな。こちらには干渉できない所だ。ご自分でなんとかなさるしかない。ヴァレリー王太子の婚約も解消となり、現公女に泥を塗った立場だ。ラマティア国内に派遣されたルルヴァル兵は全面撤収となる運びだし、あちらも食糧支援してくれる国の当てを無くしたわけだ。彼女も相当な厳しい状況に立つ事になる」
ルルヴァル王国への帰国は彼女が自ら望んだものらしい。
前国王の娘という立場は正直微妙だ。
好待遇はあり得ない。
が、元宰相を鞭打つ彼女の姿を思い出す。
以外に逞しい所があるし、まぁ、なんとかやって行くでしょう。
もう私には関係の無い人だ。
「テオドリック第二王子に関しては、うん。とにかくラマティアに留まる意向を示したから、リリア妃とは縁切りだ。それでも王の実子だだからと言って王宮に留まる事は出来ない。よって王位継承権返却の後、騎士団で預かる事になった。あいつの取柄は武力しかねぇからなぁ。半分ルルヴァルの血を引いてるから、武人としては使えそうなんだよな。因みに辺境に配属だ」
うーん。テオドリック様に関しては何とも言えない。
ルルヴァル兵が撤収すれば今後の辺境は危険地帯だ。
頑張ってくださいね。
「ということだ。つまるところ、国境がやばい。だが、ラマティアには秘策がある。上手く事が運べば、全て解決する秘策がな」
大公様は碧眼を意地悪く輝かせた。
「秘策とは?」
聞いて欲しそうだったので聞く。
別に聞かないで放っておく手もあったのだが、お世話になっている手前そうはいかない。
パチンと指を鳴らした大公様。
従者使用人たちがサロンの扉に向かい、お出迎えの態勢を取る。
「どなたかいらっしゃるの?」
私は小声で両隣の両親に尋ねた。
お父様は渋い顔。
お母様はにこやか。
ええ?
誰?
「王太子ヴァレリー殿下がお越しです」
執事の声で扉が開かれる。
衛兵を従えたヴァレリー王太子が、白と金の衣装で無駄な輝きを放って入室してくる。
私たちは一斉に立ち上がり、臣下の礼を取る。
「ルイーズ令嬢」
真っ先に私の名を呼ぶ王太子。
何々何事ですかまさかまさか!!
ヴァレリー王太子は硬直する私の手を取り、膝をついて晴れやかな笑顔で言った。
「正式に婚約を申し込みます。私の妻になって下さい」
やっぱりそう来たかーーー!!!
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