病弱を理由に婚約破棄されました ~私、前世は狂戦士だったのです~

呉マチス

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48 牢獄塔突撃

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「あの豚、デビュタント舞踏会の前日にいきなり自分の部下を連れて翡翠宮にやって来て、北塔に陣取りやがった。明日、混乱が起きる。そこで文官たちの動きを見て、大公派をあぶり出すって言っていたわ。」

では、あの婚約破棄はリリア妃が仕掛けたことではなかったんだ。

「信用できる者を宮廷内に配置してきたから、騒動の行方が見えるまで自分は北塔でしばらくバカンスだって言って、ルルヴァル兵をぞろぞろと連れ込んで籠ってしまった。あのルルヴァル兵がどこから来たのか解らないが、大変な事になったと私は肝を冷やした」

リリア妃はまたも怒りで声が大きくなる。

「あの豚は! 私があの豚との関係を公にできない事を逆手にとって、私を利用したのよ!」

そうか。バルリ候が強気なのは、リリア妃が叩いて叩かれての関係だったことを絶対に話さないと確信していたからか。

「リリア妃を殴っていたのはどなたなのです?」

「豚よ」

あら。叩かれるのがお好きでも女を殴るんだ。

「テオドリックとエルミナが予定外に早く捕まってしまって、そこからイライラし始めたわ。手紙で王宮の文官に指示を出しても、駒だと思ってたやつが大公派に傾きはじめたのを知って、それから殴られたわ。ブルージュ公爵家への同情票が多いと新聞で知ってまた殴られて」

リリア妃は神妙に語っているが、私は納得が行かない。

「なぜ殴り返さなかったのです? いつも叩いたり鞭打ったりしていたのでしょう?」

「あんたね! プレイと暴力は違うでしょう!」

……プレイ?

「あの豚は私を暴力で殴ったの。そして自分は北塔に引きこもってルルヴァルの兵士たちと何をしていたのやら。あなたも見たでしょう? バルリ候が発見された時のあらゆる液体にまみれた汚らしい姿を! 屈強な兵士相手に新たな境地を開拓したようね、あの豚は!」

顔をしかめるリリア妃。
無表情の衛兵と書記官。
ん?
何かところどころ理解していないのは私だけ?



―――リリア妃殿下はどうしている? まだ黙秘しているのだろう?



『地獄耳』が勝手に発動して、バルリ候の声が聞こえた。

「暴力で殴られると、何も出来なくなるのね。ずっと殴られて過ごすのかと思っていたら、いきなりあなたが現れた。助かったわ」

同時にこちらでは、リリア妃が何と「助かった」と礼を言った。

「え?」



―――お前らは私と妃殿下の関係を知っているのかね?



「何度も言わせるとか、本当に嫌な子だわ。……助かったって言ったのよ」



―――では、妃殿下の性癖を知っているか?
―――ルルヴァルの女は男にまたがって、自ら精を頂くのだそうだ。
―――王は生粋のラマティア人だ。ラマティアの男は女を征服して喜ぶ。だから王はサド気質のある妃殿下と合わなかったのだろう。



いーやーだー!!
本当に腹立つ!!
私は音を立てて席を立つと、大股で塔の見える窓の方へ向かった。
そびえる塔を見上げると、一つの場所に焦点が絞られた。

あそこにバルリ候がいるのだわ。



―――腕と鎖骨を出したドレスを着て、リリア妃殿下は鞭を片手に男をいたぶる事が大好きなんだ。
―――王もリリア妃殿下の甘美な責めに合われたのかもしれん。



それ以上言うな!!
私は早くバルリ候の口を止めたくて、ビクトリア様からお借りした、護身用の警棒に見立てた鞘からレイピアを抜いた。

「黙んなさいよ!」

と言ってレイピアを一振りし、目の前の壁を壊す。
鉄の壁だ。
メキメキっと音がして壁が窓から縦に避け、鉄格子が歪んだ。
私はレイピアを鉄格子に絡めて掴む。
メキョ。
と鉄格子が左右に割れた。

「リリア妃殿下! バルリ候の口を正しに行きましょう!」

私は片足を避けた窓の残骸にかけると、室内を振り返ってリリア妃を呼んだ。
リリア妃も衛兵も書記官も、顎が外れたかのように口を大きく開けて固まっている。

「あ、あなたも必要ね。書記官も一緒に行くわよ!」

私はリリア妃を手招いてその手を取ると、避けた窓から面会室の外へ出た。

「おおおおおお待ちください!!!!」

書記官も衛兵も付いて来る。
私は怒りに任せて一つの塔に向かって歩き、扉に向かって蹴りを入れる。

「うりゃ!!」

ドゴーン。
鉄の扉は吹っ飛んだ。

「この上で今まさにバルリ候が尋問中! 妃殿下のせせせせせぃ……を面白おかしく誇張して吹聴している真っ最中ですわ!! しかも王の事も馬鹿にして!!」

何事だー! と四方から警備兵がぞろぞろと現れる。
が、構ってられない。

「行きますよ!!」

リリア妃の腕を引っ張ったまま、私は塔の階段を上る。
まだ始めたばっかりではあるが、鍛錬の成果で、大分格好がつくようになってきたのではないかしら?
そんな調子がいい事を考えていたら、この塔、高い。
階段、長い。
私もリリア妃もしばらくすると足がガクガクしてきた。

「もどかしい! 今すぐバルリ候のお口チャックを閉じてやろうと思ったのに!」

ゼイゼイと息を吐きながらレイピアを杖代わりにしてヨタヨタと階段を上っていると、背後から声が掛かった。

「私を置いていくなよ、ルイーズ嬢」

息一つ切らしていない、爽やかな声だ。
振り返るとヴァレリー王太子がリリア妃を追い越して来たところだった。
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