48 / 53
48 牢獄塔突撃
しおりを挟む
「あの豚、デビュタント舞踏会の前日にいきなり自分の部下を連れて翡翠宮にやって来て、北塔に陣取りやがった。明日、混乱が起きる。そこで文官たちの動きを見て、大公派をあぶり出すって言っていたわ。」
では、あの婚約破棄はリリア妃が仕掛けたことではなかったんだ。
「信用できる者を宮廷内に配置してきたから、騒動の行方が見えるまで自分は北塔でしばらくバカンスだって言って、ルルヴァル兵をぞろぞろと連れ込んで籠ってしまった。あのルルヴァル兵がどこから来たのか解らないが、大変な事になったと私は肝を冷やした」
リリア妃はまたも怒りで声が大きくなる。
「あの豚は! 私があの豚との関係を公にできない事を逆手にとって、私を利用したのよ!」
そうか。バルリ候が強気なのは、リリア妃が叩いて叩かれての関係だったことを絶対に話さないと確信していたからか。
「リリア妃を殴っていたのはどなたなのです?」
「豚よ」
あら。叩かれるのがお好きでも女を殴るんだ。
「テオドリックとエルミナが予定外に早く捕まってしまって、そこからイライラし始めたわ。手紙で王宮の文官に指示を出しても、駒だと思ってたやつが大公派に傾きはじめたのを知って、それから殴られたわ。ブルージュ公爵家への同情票が多いと新聞で知ってまた殴られて」
リリア妃は神妙に語っているが、私は納得が行かない。
「なぜ殴り返さなかったのです? いつも叩いたり鞭打ったりしていたのでしょう?」
「あんたね! プレイと暴力は違うでしょう!」
……プレイ?
「あの豚は私を暴力で殴ったの。そして自分は北塔に引きこもってルルヴァルの兵士たちと何をしていたのやら。あなたも見たでしょう? バルリ候が発見された時のあらゆる液体にまみれた汚らしい姿を! 屈強な兵士相手に新たな境地を開拓したようね、あの豚は!」
顔をしかめるリリア妃。
無表情の衛兵と書記官。
ん?
何かところどころ理解していないのは私だけ?
―――リリア妃殿下はどうしている? まだ黙秘しているのだろう?
『地獄耳』が勝手に発動して、バルリ候の声が聞こえた。
「暴力で殴られると、何も出来なくなるのね。ずっと殴られて過ごすのかと思っていたら、いきなりあなたが現れた。助かったわ」
同時にこちらでは、リリア妃が何と「助かった」と礼を言った。
「え?」
―――お前らは私と妃殿下の関係を知っているのかね?
「何度も言わせるとか、本当に嫌な子だわ。……助かったって言ったのよ」
―――では、妃殿下の性癖を知っているか?
―――ルルヴァルの女は男にまたがって、自ら精を頂くのだそうだ。
―――王は生粋のラマティア人だ。ラマティアの男は女を征服して喜ぶ。だから王はサド気質のある妃殿下と合わなかったのだろう。
いーやーだー!!
本当に腹立つ!!
私は音を立てて席を立つと、大股で塔の見える窓の方へ向かった。
そびえる塔を見上げると、一つの場所に焦点が絞られた。
あそこにバルリ候がいるのだわ。
―――腕と鎖骨を出したドレスを着て、リリア妃殿下は鞭を片手に男をいたぶる事が大好きなんだ。
―――王もリリア妃殿下の甘美な責めに合われたのかもしれん。
それ以上言うな!!
私は早くバルリ候の口を止めたくて、ビクトリア様からお借りした、護身用の警棒に見立てた鞘からレイピアを抜いた。
「黙んなさいよ!」
と言ってレイピアを一振りし、目の前の壁を壊す。
鉄の壁だ。
メキメキっと音がして壁が窓から縦に避け、鉄格子が歪んだ。
私はレイピアを鉄格子に絡めて掴む。
メキョ。
と鉄格子が左右に割れた。
「リリア妃殿下! バルリ候の口を正しに行きましょう!」
私は片足を避けた窓の残骸にかけると、室内を振り返ってリリア妃を呼んだ。
リリア妃も衛兵も書記官も、顎が外れたかのように口を大きく開けて固まっている。
「あ、あなたも必要ね。書記官も一緒に行くわよ!」
私はリリア妃を手招いてその手を取ると、避けた窓から面会室の外へ出た。
「おおおおおお待ちください!!!!」
書記官も衛兵も付いて来る。
私は怒りに任せて一つの塔に向かって歩き、扉に向かって蹴りを入れる。
「うりゃ!!」
ドゴーン。
鉄の扉は吹っ飛んだ。
「この上で今まさにバルリ候が尋問中! 妃殿下のせせせせせぃ……を面白おかしく誇張して吹聴している真っ最中ですわ!! しかも王の事も馬鹿にして!!」
何事だー! と四方から警備兵がぞろぞろと現れる。
が、構ってられない。
「行きますよ!!」
リリア妃の腕を引っ張ったまま、私は塔の階段を上る。
まだ始めたばっかりではあるが、鍛錬の成果で、大分格好がつくようになってきたのではないかしら?
そんな調子がいい事を考えていたら、この塔、高い。
階段、長い。
私もリリア妃もしばらくすると足がガクガクしてきた。
「もどかしい! 今すぐバルリ候のお口チャックを閉じてやろうと思ったのに!」
ゼイゼイと息を吐きながらレイピアを杖代わりにしてヨタヨタと階段を上っていると、背後から声が掛かった。
「私を置いていくなよ、ルイーズ嬢」
息一つ切らしていない、爽やかな声だ。
振り返るとヴァレリー王太子がリリア妃を追い越して来たところだった。
では、あの婚約破棄はリリア妃が仕掛けたことではなかったんだ。
「信用できる者を宮廷内に配置してきたから、騒動の行方が見えるまで自分は北塔でしばらくバカンスだって言って、ルルヴァル兵をぞろぞろと連れ込んで籠ってしまった。あのルルヴァル兵がどこから来たのか解らないが、大変な事になったと私は肝を冷やした」
リリア妃はまたも怒りで声が大きくなる。
「あの豚は! 私があの豚との関係を公にできない事を逆手にとって、私を利用したのよ!」
そうか。バルリ候が強気なのは、リリア妃が叩いて叩かれての関係だったことを絶対に話さないと確信していたからか。
「リリア妃を殴っていたのはどなたなのです?」
「豚よ」
あら。叩かれるのがお好きでも女を殴るんだ。
「テオドリックとエルミナが予定外に早く捕まってしまって、そこからイライラし始めたわ。手紙で王宮の文官に指示を出しても、駒だと思ってたやつが大公派に傾きはじめたのを知って、それから殴られたわ。ブルージュ公爵家への同情票が多いと新聞で知ってまた殴られて」
リリア妃は神妙に語っているが、私は納得が行かない。
「なぜ殴り返さなかったのです? いつも叩いたり鞭打ったりしていたのでしょう?」
「あんたね! プレイと暴力は違うでしょう!」
……プレイ?
「あの豚は私を暴力で殴ったの。そして自分は北塔に引きこもってルルヴァルの兵士たちと何をしていたのやら。あなたも見たでしょう? バルリ候が発見された時のあらゆる液体にまみれた汚らしい姿を! 屈強な兵士相手に新たな境地を開拓したようね、あの豚は!」
顔をしかめるリリア妃。
無表情の衛兵と書記官。
ん?
何かところどころ理解していないのは私だけ?
―――リリア妃殿下はどうしている? まだ黙秘しているのだろう?
『地獄耳』が勝手に発動して、バルリ候の声が聞こえた。
「暴力で殴られると、何も出来なくなるのね。ずっと殴られて過ごすのかと思っていたら、いきなりあなたが現れた。助かったわ」
同時にこちらでは、リリア妃が何と「助かった」と礼を言った。
「え?」
―――お前らは私と妃殿下の関係を知っているのかね?
「何度も言わせるとか、本当に嫌な子だわ。……助かったって言ったのよ」
―――では、妃殿下の性癖を知っているか?
―――ルルヴァルの女は男にまたがって、自ら精を頂くのだそうだ。
―――王は生粋のラマティア人だ。ラマティアの男は女を征服して喜ぶ。だから王はサド気質のある妃殿下と合わなかったのだろう。
いーやーだー!!
本当に腹立つ!!
私は音を立てて席を立つと、大股で塔の見える窓の方へ向かった。
そびえる塔を見上げると、一つの場所に焦点が絞られた。
あそこにバルリ候がいるのだわ。
―――腕と鎖骨を出したドレスを着て、リリア妃殿下は鞭を片手に男をいたぶる事が大好きなんだ。
―――王もリリア妃殿下の甘美な責めに合われたのかもしれん。
それ以上言うな!!
私は早くバルリ候の口を止めたくて、ビクトリア様からお借りした、護身用の警棒に見立てた鞘からレイピアを抜いた。
「黙んなさいよ!」
と言ってレイピアを一振りし、目の前の壁を壊す。
鉄の壁だ。
メキメキっと音がして壁が窓から縦に避け、鉄格子が歪んだ。
私はレイピアを鉄格子に絡めて掴む。
メキョ。
と鉄格子が左右に割れた。
「リリア妃殿下! バルリ候の口を正しに行きましょう!」
私は片足を避けた窓の残骸にかけると、室内を振り返ってリリア妃を呼んだ。
リリア妃も衛兵も書記官も、顎が外れたかのように口を大きく開けて固まっている。
「あ、あなたも必要ね。書記官も一緒に行くわよ!」
私はリリア妃を手招いてその手を取ると、避けた窓から面会室の外へ出た。
「おおおおおお待ちください!!!!」
書記官も衛兵も付いて来る。
私は怒りに任せて一つの塔に向かって歩き、扉に向かって蹴りを入れる。
「うりゃ!!」
ドゴーン。
鉄の扉は吹っ飛んだ。
「この上で今まさにバルリ候が尋問中! 妃殿下のせせせせせぃ……を面白おかしく誇張して吹聴している真っ最中ですわ!! しかも王の事も馬鹿にして!!」
何事だー! と四方から警備兵がぞろぞろと現れる。
が、構ってられない。
「行きますよ!!」
リリア妃の腕を引っ張ったまま、私は塔の階段を上る。
まだ始めたばっかりではあるが、鍛錬の成果で、大分格好がつくようになってきたのではないかしら?
そんな調子がいい事を考えていたら、この塔、高い。
階段、長い。
私もリリア妃もしばらくすると足がガクガクしてきた。
「もどかしい! 今すぐバルリ候のお口チャックを閉じてやろうと思ったのに!」
ゼイゼイと息を吐きながらレイピアを杖代わりにしてヨタヨタと階段を上っていると、背後から声が掛かった。
「私を置いていくなよ、ルイーズ嬢」
息一つ切らしていない、爽やかな声だ。
振り返るとヴァレリー王太子がリリア妃を追い越して来たところだった。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。


(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる