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45 アイアンゲート
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確かに、一介の尋問官にリリア妃とバルリ候の証言を取る事が出来るのか。
私も密かに心配していたことではある。
あの二人が捕らえられたのは、私の寸劇がいつの間にか宮廷内戦闘に発展してしまったからだ。
王家乗っ取り計画の暴露も、『地獄耳』による偵察があったからである。
その後の調査で数々の証拠が出ているが、リリア妃の情状酌量には、当人の証言が必要だ。
「ここがアイアンゲートですか」
少し歩くと、窓も赤い屋根も、鉄の格子で覆われた小さな館があった。
よく見ると、白壁も鉄製、大きな馬車が通れる扉も鉄製だ。
門の前には門番衛兵が二人いて、ふらりと歩いて現れた王子たちに驚きの表情を見せていた。
その厳重な館からは左右に隔壁が伸びていて、敷地をぐるっと囲っているようだ。
奥には塔がいくつかあり、壁を這い上った蔦が雰囲気を出している。
あそこにバルリ候がいる。
「殿下、やってみます」
私が手を差し出すと、ヴァレリー王太子はその手の下に拳を差し出して私を支えた。
「ルイーズ、大丈夫?」
「少し歩きすぎたかな。きっといつもの貧血だ」
ビクトリア様とテオドリック様が私の具合が悪くなったと勘違いする。
私は二人を無視する形で、体重を半分ヴァレリー王太子に預けて目を閉じ集中する。
サーチ。
サーチ。
各部屋で聴取が行われている。
ほとんどがリリア妃の宮殿に勤めていた侍女たちだ。
彼女たちも下級貴族なので、宮廷牢獄に収容されたのだろう。
―――どうせ今日も何も話さないだろう。
―――新たな証拠も無い。毎回切り口が一緒じゃ暖簾に腕押しだ。
―――バルリ候を相手にするよりマシだぞ。あっちは永遠べらべらと無駄話しているらしいからな。
―――いい加減、自分たちの未熟さを認めたらどうだね。
―――私と取引するのがそんなに怖いのか?
―――ブルージュを呼べ。そうだな、令嬢を呼べたら話をしなくもない。
―――フフフ。着飾って来させろよ。腕も鎖骨も見えるようにな!
ギャー!
余計な事を聞いてしまった。
バルリ候だ。
こんなゲスな奴だったの?
私は本格的に眩暈をおこしてふらついてしまう。
「ルイーズ!」
ヴァレリー王太子に支えられて地面に倒れるのを免れた。
離れた位置から従者たちが駆けつけて来る。
「誰か、湖畔に待機している馬車を呼んで来てくれ」
テオドリック様が従者に指示を出す。
何といっても八年の付き合いだ。
私の体調不良には慣れている。
「少し室内で休ませて頂くのはまずいか?」
ヴァレリー王太子が駆け寄って来たアイアンゲートの門番衛兵に入館の許可を得ている。
「何を言ってるの、ヴァレリー!」
ビクトリア様が反対する。
「入館控室でしたらお使い頂けます」
衛兵が余計な情報を出すので、ビクトリア様は「必要ないわ」と言うが、ヴァレリー王太子が私を横抱きにしてアイアンゲートの扉を開かせる。
「ヴァレリー!!」
ビクトリア様とテオドリック様が王太子を呼ぶ。
テオドリック様はそもそも入館できないのだろう。
ビクトリア様は牢獄になど入りたくないようだ。
私を抱いた王子は、呼び留める二人を置いて、躊躇なくアイアンゲートをくぐってしまう。
「飲み水と冷たい濡れタオルを数枚用意してくれ」
控室に入ると、鮮やかな命令で衛兵を退出させるヴァレリー王太子。
私をソファーに横たえると、意外にも本気で心配している様子だ。
「殿下、演技ですよ?」
私が小さく言うと、ヴァレリー王太子は目を見張ってた。
「だとしても本当に一気に顔色が悪くなったぞ? 真夏なのに長時間外に居たから身体が火照ってる」
そう言うと、私の額に手を当てて熱を計った。
「失礼致します」
衛兵が戻って来る。
「あんまり解らないな。どれ」
手では熱を計れなかったヴァレリー王太子が、おもむろに寝ている私の額に、その秀麗な額をくっつける。
私はあまりの顔の近さに息を止めた。
キャー、近い近い近い!
「し、し、しっ、失礼いたしました!」
衛兵が盆にのせた水とタオルをテーブルに置くと、早足で出て行ってしまった。
「なんだ、無礼だな」
とヴァレリー王太子は扉を振り返っている。
あのね。絶対誤解したんですよ。
キ、キ、キ、キ……をしていると思ったはずです。
噂になったらどうしてくれるのよ!
「殿下、天然ですか?」
私の問いかけにヴァレリー王太子は邪気が無い顔をしている。
「何が? ああ、熱は無いみたいだけど、ほら、水飲んで」
私はソファーに座り直すと、差し出された水を頂いた。
「お菓子が飛んで行ってくれれは、牢獄に潜入できるのに、っておっしゃってましたよね。手間取っているって」
「やっぱり、聞こえるんだね」
王太子は確信していたのだろう。
私はまだ持っていたお菓子の小さな箱を目の前に掲げた。
「お菓子が飛ばなくても、侵入できちゃいましたね」
私も密かに心配していたことではある。
あの二人が捕らえられたのは、私の寸劇がいつの間にか宮廷内戦闘に発展してしまったからだ。
王家乗っ取り計画の暴露も、『地獄耳』による偵察があったからである。
その後の調査で数々の証拠が出ているが、リリア妃の情状酌量には、当人の証言が必要だ。
「ここがアイアンゲートですか」
少し歩くと、窓も赤い屋根も、鉄の格子で覆われた小さな館があった。
よく見ると、白壁も鉄製、大きな馬車が通れる扉も鉄製だ。
門の前には門番衛兵が二人いて、ふらりと歩いて現れた王子たちに驚きの表情を見せていた。
その厳重な館からは左右に隔壁が伸びていて、敷地をぐるっと囲っているようだ。
奥には塔がいくつかあり、壁を這い上った蔦が雰囲気を出している。
あそこにバルリ候がいる。
「殿下、やってみます」
私が手を差し出すと、ヴァレリー王太子はその手の下に拳を差し出して私を支えた。
「ルイーズ、大丈夫?」
「少し歩きすぎたかな。きっといつもの貧血だ」
ビクトリア様とテオドリック様が私の具合が悪くなったと勘違いする。
私は二人を無視する形で、体重を半分ヴァレリー王太子に預けて目を閉じ集中する。
サーチ。
サーチ。
各部屋で聴取が行われている。
ほとんどがリリア妃の宮殿に勤めていた侍女たちだ。
彼女たちも下級貴族なので、宮廷牢獄に収容されたのだろう。
―――どうせ今日も何も話さないだろう。
―――新たな証拠も無い。毎回切り口が一緒じゃ暖簾に腕押しだ。
―――バルリ候を相手にするよりマシだぞ。あっちは永遠べらべらと無駄話しているらしいからな。
―――いい加減、自分たちの未熟さを認めたらどうだね。
―――私と取引するのがそんなに怖いのか?
―――ブルージュを呼べ。そうだな、令嬢を呼べたら話をしなくもない。
―――フフフ。着飾って来させろよ。腕も鎖骨も見えるようにな!
ギャー!
余計な事を聞いてしまった。
バルリ候だ。
こんなゲスな奴だったの?
私は本格的に眩暈をおこしてふらついてしまう。
「ルイーズ!」
ヴァレリー王太子に支えられて地面に倒れるのを免れた。
離れた位置から従者たちが駆けつけて来る。
「誰か、湖畔に待機している馬車を呼んで来てくれ」
テオドリック様が従者に指示を出す。
何といっても八年の付き合いだ。
私の体調不良には慣れている。
「少し室内で休ませて頂くのはまずいか?」
ヴァレリー王太子が駆け寄って来たアイアンゲートの門番衛兵に入館の許可を得ている。
「何を言ってるの、ヴァレリー!」
ビクトリア様が反対する。
「入館控室でしたらお使い頂けます」
衛兵が余計な情報を出すので、ビクトリア様は「必要ないわ」と言うが、ヴァレリー王太子が私を横抱きにしてアイアンゲートの扉を開かせる。
「ヴァレリー!!」
ビクトリア様とテオドリック様が王太子を呼ぶ。
テオドリック様はそもそも入館できないのだろう。
ビクトリア様は牢獄になど入りたくないようだ。
私を抱いた王子は、呼び留める二人を置いて、躊躇なくアイアンゲートをくぐってしまう。
「飲み水と冷たい濡れタオルを数枚用意してくれ」
控室に入ると、鮮やかな命令で衛兵を退出させるヴァレリー王太子。
私をソファーに横たえると、意外にも本気で心配している様子だ。
「殿下、演技ですよ?」
私が小さく言うと、ヴァレリー王太子は目を見張ってた。
「だとしても本当に一気に顔色が悪くなったぞ? 真夏なのに長時間外に居たから身体が火照ってる」
そう言うと、私の額に手を当てて熱を計った。
「失礼致します」
衛兵が戻って来る。
「あんまり解らないな。どれ」
手では熱を計れなかったヴァレリー王太子が、おもむろに寝ている私の額に、その秀麗な額をくっつける。
私はあまりの顔の近さに息を止めた。
キャー、近い近い近い!
「し、し、しっ、失礼いたしました!」
衛兵が盆にのせた水とタオルをテーブルに置くと、早足で出て行ってしまった。
「なんだ、無礼だな」
とヴァレリー王太子は扉を振り返っている。
あのね。絶対誤解したんですよ。
キ、キ、キ、キ……をしていると思ったはずです。
噂になったらどうしてくれるのよ!
「殿下、天然ですか?」
私の問いかけにヴァレリー王太子は邪気が無い顔をしている。
「何が? ああ、熱は無いみたいだけど、ほら、水飲んで」
私はソファーに座り直すと、差し出された水を頂いた。
「お菓子が飛んで行ってくれれは、牢獄に潜入できるのに、っておっしゃってましたよね。手間取っているって」
「やっぱり、聞こえるんだね」
王太子は確信していたのだろう。
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