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44 悪い計画
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「はい、テオドリック終了~。次、ヴァレリーね」
ビクトリア様は私が感慨に耽らないようにサクサクと話を進めていく。
「ルイーズ令嬢。私との結婚の話だが、前向きに検討……」
「はい、終了~」
ヴァレリー王太子の話の趣旨が見えて来た所で、ビクトリア様の駄目出しだ。
「なんでだよビクトリア」
「結婚の話はここではしないで。ムードも何もないわ。ヴァレリーにとっては政治判断でしょうけど、女性にとってはそう割り切れることじゃないのよ。本気でエルミナが不憫になてきたわ」
はっきりビクトリア様にデリカシー問題を指摘されて、ヴァレリー王太子も二の句を告げられない。
ビクトリア様の気遣いが私にはありがたい。
「はい次! テオドリックどうぞ」
先程の話を途中で断ち切られてシュンとしていたテオドリックが、再び回って来た順番に勢いよく顔を上げた。
「厚かましいのは解ってる。けど、ルイーズにお願いがあります」
私のお向かいで正座したテオドリック様は、今日初めて私の目を、真っ直ぐに見つめて来た。
「なんでしょう?」
「お母様の事です。アイアンゲートで黙秘を続けています。ルイーズ、お母様と面会してくれないか?」
「なんでルイーズが面会しなきゃならないのよ!」
またしても怒ったのはビクトリア様だ。
「だって、俺は面会させてもらえないんだもん。それにルイーズ相手にお母様が黙秘を続けられるとは思わないし。黙秘しなければ何とかしてやれるのにって、叔父上も言っていたんだ」
テオドリック様はモジモジと言う。
都合の良い事を言っているのは解っているらしい。
だが、確かに大公様が言うのなら、なにか良い決着点があるのかもしれない。
「お前ね、釈放されただけでもありがたいのに余計な画策するなよ。大人しく謹慎しておけ。表面だけ見れば、リリア妃とバルリ家と一緒になって、ルルヴァルの血族で王家乗っ取りを計画していたって疑われても、おかしくない立場なのだからな」
ヴァレリー王太子はどこまでいっても王太子だ。
王室の負担になってしまったテオドリック様を牽制している。
「よく疑われませんでしたわね」
ビクトリア様が素朴な疑問を口にする。
「こいつ、調べれば調べるほどシロなんだ。五歳で王子宮に移ってからはリリア妃とは形式的な関りしか無かったしな。関りの強さで言ったらブルージュ公爵家の方が断然強い。それにルルヴァル王国に行ったことも無ければ、かの国の王家に連なる名前すら覚えていない馬鹿だ。どう考えても……バルリ候と王家乗っ取りを考えられるような知能はないという結論に達した。結果、一年間の宮廷内謹慎で収まったところなんだよ」
頭をカキカキしているテオドリック様をビクトリア様は呆れた顔で見ていた。
「どうする? ルイーズ」
心配そうなビクトリア様の声。
「面会に行ったとしても、リリア様は拒否なさるでしょう。私、嫌われてましたから」
にっこり笑ってテオドリック様に顔を向けると、大型犬はまたもシュンと耳を垂らした。
「はい、次ヴァレリー。くだらない話はなしよ」
二人の王子にあくまでも強気なビクトリア様が、話題を転じる。
「はい。私もリリア妃とバルリ候の尋問に、ルイーズ嬢が立ち会ってくれると非常に助かると」
「はい終了~。その話は終わったでしょう?」
ビクトリア様、お強い。
「あ、じゃあね、『ブルージュ公爵家の伝統の焼き菓子』、すっごく美味しかったよ」
ヴァレリー王子はにこにこと違う話題を出した。
「まぁ。ちゃんと近衛さんたちにもお分けしてくれました?」
「近衛にも大好評だったよ。彼らにはなかなか食べられない人気のお菓子なんだって? ブルージュ公爵家も手広いね」
「気に入って頂けたなら良かったです」
「ええ~。『ブルージュ公爵家の伝統の焼き菓子』食べたの? 羨ましい」
ビクトリア様とテオドリック様がお菓子の話で盛り上がる。
賑やかさの中、ヴァレリー王太子は俯き加減でぼそりと言う。
「また、お菓子が飛んで行ってくれたら、……」
私は目を凝らす。
「正直、手間取ってる」
ごく小さく言うと、ヴァレリー王太子は私の目をじっと見た。
私も逸らさず見つめ返す。
綺麗な青い目が試すように私を見ている。
風は池の向こうから流れて来る。
そこには貴族が収容される宮廷牢獄がある。
ヴァレリー王子はなぜここで、今日、私と会おうとしたのかしら?
「殿下、少し歩きましょうか」
私は敷かれたシートの横に山積みされているお菓子を一つ手にして、ヴァレリー王太子を誘った。
「そう来なくっちゃね」
王太子は美しい笑顔で答えたが、私はその裏の悪いお顔を見逃さなかった。
私はため息が出る。
皆で立ち上がって靴を履く。
「では行きましょうか」
ビクトリア様もテオドリック様も一緒にお散歩だ。
ビクトリア様は私が感慨に耽らないようにサクサクと話を進めていく。
「ルイーズ令嬢。私との結婚の話だが、前向きに検討……」
「はい、終了~」
ヴァレリー王太子の話の趣旨が見えて来た所で、ビクトリア様の駄目出しだ。
「なんでだよビクトリア」
「結婚の話はここではしないで。ムードも何もないわ。ヴァレリーにとっては政治判断でしょうけど、女性にとってはそう割り切れることじゃないのよ。本気でエルミナが不憫になてきたわ」
はっきりビクトリア様にデリカシー問題を指摘されて、ヴァレリー王太子も二の句を告げられない。
ビクトリア様の気遣いが私にはありがたい。
「はい次! テオドリックどうぞ」
先程の話を途中で断ち切られてシュンとしていたテオドリックが、再び回って来た順番に勢いよく顔を上げた。
「厚かましいのは解ってる。けど、ルイーズにお願いがあります」
私のお向かいで正座したテオドリック様は、今日初めて私の目を、真っ直ぐに見つめて来た。
「なんでしょう?」
「お母様の事です。アイアンゲートで黙秘を続けています。ルイーズ、お母様と面会してくれないか?」
「なんでルイーズが面会しなきゃならないのよ!」
またしても怒ったのはビクトリア様だ。
「だって、俺は面会させてもらえないんだもん。それにルイーズ相手にお母様が黙秘を続けられるとは思わないし。黙秘しなければ何とかしてやれるのにって、叔父上も言っていたんだ」
テオドリック様はモジモジと言う。
都合の良い事を言っているのは解っているらしい。
だが、確かに大公様が言うのなら、なにか良い決着点があるのかもしれない。
「お前ね、釈放されただけでもありがたいのに余計な画策するなよ。大人しく謹慎しておけ。表面だけ見れば、リリア妃とバルリ家と一緒になって、ルルヴァルの血族で王家乗っ取りを計画していたって疑われても、おかしくない立場なのだからな」
ヴァレリー王太子はどこまでいっても王太子だ。
王室の負担になってしまったテオドリック様を牽制している。
「よく疑われませんでしたわね」
ビクトリア様が素朴な疑問を口にする。
「こいつ、調べれば調べるほどシロなんだ。五歳で王子宮に移ってからはリリア妃とは形式的な関りしか無かったしな。関りの強さで言ったらブルージュ公爵家の方が断然強い。それにルルヴァル王国に行ったことも無ければ、かの国の王家に連なる名前すら覚えていない馬鹿だ。どう考えても……バルリ候と王家乗っ取りを考えられるような知能はないという結論に達した。結果、一年間の宮廷内謹慎で収まったところなんだよ」
頭をカキカキしているテオドリック様をビクトリア様は呆れた顔で見ていた。
「どうする? ルイーズ」
心配そうなビクトリア様の声。
「面会に行ったとしても、リリア様は拒否なさるでしょう。私、嫌われてましたから」
にっこり笑ってテオドリック様に顔を向けると、大型犬はまたもシュンと耳を垂らした。
「はい、次ヴァレリー。くだらない話はなしよ」
二人の王子にあくまでも強気なビクトリア様が、話題を転じる。
「はい。私もリリア妃とバルリ候の尋問に、ルイーズ嬢が立ち会ってくれると非常に助かると」
「はい終了~。その話は終わったでしょう?」
ビクトリア様、お強い。
「あ、じゃあね、『ブルージュ公爵家の伝統の焼き菓子』、すっごく美味しかったよ」
ヴァレリー王子はにこにこと違う話題を出した。
「まぁ。ちゃんと近衛さんたちにもお分けしてくれました?」
「近衛にも大好評だったよ。彼らにはなかなか食べられない人気のお菓子なんだって? ブルージュ公爵家も手広いね」
「気に入って頂けたなら良かったです」
「ええ~。『ブルージュ公爵家の伝統の焼き菓子』食べたの? 羨ましい」
ビクトリア様とテオドリック様がお菓子の話で盛り上がる。
賑やかさの中、ヴァレリー王太子は俯き加減でぼそりと言う。
「また、お菓子が飛んで行ってくれたら、……」
私は目を凝らす。
「正直、手間取ってる」
ごく小さく言うと、ヴァレリー王太子は私の目をじっと見た。
私も逸らさず見つめ返す。
綺麗な青い目が試すように私を見ている。
風は池の向こうから流れて来る。
そこには貴族が収容される宮廷牢獄がある。
ヴァレリー王子はなぜここで、今日、私と会おうとしたのかしら?
「殿下、少し歩きましょうか」
私は敷かれたシートの横に山積みされているお菓子を一つ手にして、ヴァレリー王太子を誘った。
「そう来なくっちゃね」
王太子は美しい笑顔で答えたが、私はその裏の悪いお顔を見逃さなかった。
私はため息が出る。
皆で立ち上がって靴を履く。
「では行きましょうか」
ビクトリア様もテオドリック様も一緒にお散歩だ。
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