43 / 53
43 テオドリックの謝罪とエルミナの勘違い
しおりを挟む
花が咲き乱れる小池の畔でピクニック。
なんてのどかな光景かしら。
だが、ここに顔を突き合わせているのは、婚約を破棄した者された者、そこに更に結婚を申し込む者、それに反対する者。
まさにカオスだ。
木陰と水辺を通ってきた風は、少し涼しくて気持ちがいい。
布シートにクッションが置かれて、快適空間が出来上がったが、皆の顔色は悪かった。
シートに向かい合ったテオドリック様はおどおどしながら頭を下げて来た。
「ルイーズ、ごめんなさい」
うう、垂れた耳とお腹に回されたしっぽが見えるわ。
「どうしても謝罪がしたくて、ビクトリアに機会を作ってくれるようお願いしてたんだ」
ああ駄目だ。テオドリック様が落ち込んでいる大型犬にしか見えない。
私の怒りも落ち着いたんだとわかる。
するともう、感覚は以前に戻ってしまう。
この王子はいつだって私の母性本能に突き刺さって来るのだ。
『ルイーズ、どうしよう?』
『ルイーズ、お願い』
婚約していた八年の間、そう言って何度も私に助けを求めて来たテオドリック様と、今目の前に居る婚約者ではなくなったテオドリック様に何も違いはない。
そう思って私はため息を吐いた。
「どうしてあんなことをしてしまったの? どうして最後の最後だけ、私に相談してくれなかったの?」
尋ねるとテオドリック様はシュンと耳を垂らして、胡坐をかいた足の間にはめ込んだ自分の拳をじっと見つめた。
少し考えてから言う。
「ルイーズが休暇に入った時にはもう、お母様とエルミナは本当の親子みたいに仲良しになっていたんだ。今思えば、国と家族に不満があるお母様と、母がいなくて国に裏切られたエルミナは、依存し合っていたんだと思う。」
いつになくしっとりとしたテオドリック様の声に、私は聞き入った。
「俺はその二人の依存関係に、いつの間にか巻き込まれちゃって。エルミナに自分の事は自分で考えるべきだって言われて、言われ続けているうちにそうかなって」
エルミナ様か~。
テオドリック様、エルミナ様好きだったもんね~。
男を見せたくなっちゃったか~。
「ピンポーン。はい、ぎもーん」
雰囲気をぶち壊すヴァレリー王子。
片手で膝を叩き、反対の手を上げている。
クイズじゃないんだから!
「はい、ヴァレリー、どうぞ」
ビクトリア様が司会進行を買って出た。
「エルミナが国に裏切られたって何の事? 聞き捨てならないんだけど」
えええ!?
何言ってるの、ヴァレリー王太子!
「エルミナはずっとヴァレリーの婚約者候補だったじゃないか! なのに、十八歳まで放置して他国の公女と婚約して、結果エルミナを捨てたのは王とヴァレリーだろ!?」
はい、ワンコが吠えています。
迫力の無いテオドリック様の抗議に、ヴァレリー王太子は「は~ん?」とお耳ホジホジ状態だ。
「エルミナっていつから私の婚約者候補だったの?」
ヴァレリー王太子の言葉に私たちは驚きを隠せない。
「えええ!? ヴァレリー、違うの?」
ビクトリア様はヴァレリー王太子に詰め寄る。
「そんな事、聞いた事ないな。私の婚約者候補はルルヴァル公女と、A国公女と、B国公女だったよ」
何とまあ、全ての前提が覆ってしまった!
「ちょ、じゃあ、エルミナがずっと婚約しなかったもの、社交界デビューでヴァレリーの未来の妻を気取っていたのも、その後あんたと婚約出来なくて行き遅れ令嬢になっちゃったのも、何のためよ!?」
身も蓋も無いビクトリア様の言い様に、エルミナ様への同情が湧く。
「うわ。聞くだけで悲惨だな」
他人事なヴァレリー王太子の言葉にビクトリア様が吠えた。
「これだから王家の人間はよう!!」
「だから、王家のせいにするのは聞き捨てならないって。こっちにしたら何の事だか解らないんだから」
ギャース、ギャースと、ヴァレリー王太子とビクトリア様の言い合いが始まる。
「エルミナ様はどう思ってらしたの?」
私はテオドリック様に聞く。
「エルミナは、ずっとヴァレリーの事が好きだったし、ずっと自分が婚約者になるんだって思ってたはずだよ。他国の公女が婚約者候補に挙がってるなんて聞いた事なかったし」
A国とB国の公女の件はテオドリック様もご存じなかった様だ。
私も知らなかった。
いや、興味が無かったので、エルミナ様の悲惨な状況すら知らなかったのだが。
「では、宰相、いえ、元宰相のバルリ侯が情報操作をなさってたのではないの?」
思い付きを呟くと、王太子とビクトリア様が静かになった。
「自分の娘を王妃に添えたくて、裏で画策してたのかな?」
ヴァレリー王太子が憶測を言う。
「エルミナを婚約者に出来なかったから、次はリリア様を通してルルヴァルの公女を標的にしたとか?」
ビクトリア様も言うが、お二人の会話は憶測に過ぎない。
だが、多分、事実に近いのだろう。
「きゅ~ん」
テオドリック様のお声がもう犬の鳴き声にしか聞こえないわ。
とにかく、私が休暇に入った時、テオドリック様には想像も出来ない状況が彼を襲っていたのだ。
「う~ん。やっぱり私に相談するべきでしたよ。テオドリック様」
なんてのどかな光景かしら。
だが、ここに顔を突き合わせているのは、婚約を破棄した者された者、そこに更に結婚を申し込む者、それに反対する者。
まさにカオスだ。
木陰と水辺を通ってきた風は、少し涼しくて気持ちがいい。
布シートにクッションが置かれて、快適空間が出来上がったが、皆の顔色は悪かった。
シートに向かい合ったテオドリック様はおどおどしながら頭を下げて来た。
「ルイーズ、ごめんなさい」
うう、垂れた耳とお腹に回されたしっぽが見えるわ。
「どうしても謝罪がしたくて、ビクトリアに機会を作ってくれるようお願いしてたんだ」
ああ駄目だ。テオドリック様が落ち込んでいる大型犬にしか見えない。
私の怒りも落ち着いたんだとわかる。
するともう、感覚は以前に戻ってしまう。
この王子はいつだって私の母性本能に突き刺さって来るのだ。
『ルイーズ、どうしよう?』
『ルイーズ、お願い』
婚約していた八年の間、そう言って何度も私に助けを求めて来たテオドリック様と、今目の前に居る婚約者ではなくなったテオドリック様に何も違いはない。
そう思って私はため息を吐いた。
「どうしてあんなことをしてしまったの? どうして最後の最後だけ、私に相談してくれなかったの?」
尋ねるとテオドリック様はシュンと耳を垂らして、胡坐をかいた足の間にはめ込んだ自分の拳をじっと見つめた。
少し考えてから言う。
「ルイーズが休暇に入った時にはもう、お母様とエルミナは本当の親子みたいに仲良しになっていたんだ。今思えば、国と家族に不満があるお母様と、母がいなくて国に裏切られたエルミナは、依存し合っていたんだと思う。」
いつになくしっとりとしたテオドリック様の声に、私は聞き入った。
「俺はその二人の依存関係に、いつの間にか巻き込まれちゃって。エルミナに自分の事は自分で考えるべきだって言われて、言われ続けているうちにそうかなって」
エルミナ様か~。
テオドリック様、エルミナ様好きだったもんね~。
男を見せたくなっちゃったか~。
「ピンポーン。はい、ぎもーん」
雰囲気をぶち壊すヴァレリー王子。
片手で膝を叩き、反対の手を上げている。
クイズじゃないんだから!
「はい、ヴァレリー、どうぞ」
ビクトリア様が司会進行を買って出た。
「エルミナが国に裏切られたって何の事? 聞き捨てならないんだけど」
えええ!?
何言ってるの、ヴァレリー王太子!
「エルミナはずっとヴァレリーの婚約者候補だったじゃないか! なのに、十八歳まで放置して他国の公女と婚約して、結果エルミナを捨てたのは王とヴァレリーだろ!?」
はい、ワンコが吠えています。
迫力の無いテオドリック様の抗議に、ヴァレリー王太子は「は~ん?」とお耳ホジホジ状態だ。
「エルミナっていつから私の婚約者候補だったの?」
ヴァレリー王太子の言葉に私たちは驚きを隠せない。
「えええ!? ヴァレリー、違うの?」
ビクトリア様はヴァレリー王太子に詰め寄る。
「そんな事、聞いた事ないな。私の婚約者候補はルルヴァル公女と、A国公女と、B国公女だったよ」
何とまあ、全ての前提が覆ってしまった!
「ちょ、じゃあ、エルミナがずっと婚約しなかったもの、社交界デビューでヴァレリーの未来の妻を気取っていたのも、その後あんたと婚約出来なくて行き遅れ令嬢になっちゃったのも、何のためよ!?」
身も蓋も無いビクトリア様の言い様に、エルミナ様への同情が湧く。
「うわ。聞くだけで悲惨だな」
他人事なヴァレリー王太子の言葉にビクトリア様が吠えた。
「これだから王家の人間はよう!!」
「だから、王家のせいにするのは聞き捨てならないって。こっちにしたら何の事だか解らないんだから」
ギャース、ギャースと、ヴァレリー王太子とビクトリア様の言い合いが始まる。
「エルミナ様はどう思ってらしたの?」
私はテオドリック様に聞く。
「エルミナは、ずっとヴァレリーの事が好きだったし、ずっと自分が婚約者になるんだって思ってたはずだよ。他国の公女が婚約者候補に挙がってるなんて聞いた事なかったし」
A国とB国の公女の件はテオドリック様もご存じなかった様だ。
私も知らなかった。
いや、興味が無かったので、エルミナ様の悲惨な状況すら知らなかったのだが。
「では、宰相、いえ、元宰相のバルリ侯が情報操作をなさってたのではないの?」
思い付きを呟くと、王太子とビクトリア様が静かになった。
「自分の娘を王妃に添えたくて、裏で画策してたのかな?」
ヴァレリー王太子が憶測を言う。
「エルミナを婚約者に出来なかったから、次はリリア様を通してルルヴァルの公女を標的にしたとか?」
ビクトリア様も言うが、お二人の会話は憶測に過ぎない。
だが、多分、事実に近いのだろう。
「きゅ~ん」
テオドリック様のお声がもう犬の鳴き声にしか聞こえないわ。
とにかく、私が休暇に入った時、テオドリック様には想像も出来ない状況が彼を襲っていたのだ。
「う~ん。やっぱり私に相談するべきでしたよ。テオドリック様」
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる