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40 爆弾発言投下 【ヴァレリー視点】
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※39を飛ばし読みした方へ。床が落ちた先は地下通路で、瓦礫の下に気絶した宰相バルリ侯爵を発見した所から40が始まります。ルイーズは、宰相があまりにも汚らしかったので、王子の元に逃げました。
「何があったのです? 宰相様は何であんなことに?」
ヴァレリーの腕の中で、ドレスで戦った姫君が今見た出来事を把握出来ずにいた。
「うーん。ルイーズ嬢はお父上から説明してもらいなさい」
ヴァレリー自身の口から言うのは憚られる。
汚い者を美しく表現するには限度かあるので、詳細説明はブルージュ公爵にお任せだ。
将軍である叔父からの承諾も出たので、ルイーズ嬢を戦闘現場から引き離した。
取り敢えず王宮に戻って、両親と合流だ。
ルイーズ嬢もあの場に居たくなかったらしく、珍しく素直に腕の中に納まっている。
どこからともなくルイーズ付の侍女が現れて、後ろに従った。
未だ大事に焼き菓子のバスケットを持っているあたり、優秀だ。
裸で、秘密通路を逃げようとしていた宰相バルリ侯。
恐らく北塔に居たのだろうが、戦闘が始まり、気付いた時には世話人も何もかもいなくなり、着の身着のままで地下通路に下りたのだろう。
誰も知らない秘密の地下通路だ。
ルイーズがいなければ宰相を取り逃がしていたかもしれない。
宰相もまさか、通路の天井が抜け落ちて、騎士団が降って来るとは思っていなかったであろう。
「くふっ。くはは!」
このご令嬢、とんでもないな。
ヴァレリーは小さく笑うが、なかなか笑いが収まらない。
「殿下、思い出し笑い、気持ち悪いです」
隣を歩く近衛が言う。
うるさいな、解ってるよ。
「ルイーズ令嬢、寝ちゃったみたいですよ」
反対側の近衛もルイーズを気に掛ける。
腕の中の可愛らしい令嬢はおでこをヴァレリーの胸に預けてすーすーと寝息を立てていた。
子供か!?
突っ込みたくなるが、ルイーズの寝顔を見る近衛たちは、一戦交えた後とは思えないほっこりした雰囲気だ。
近衛たちと数回顔を合わせただけのルイーズは、彼らのハートを完全に掴んでいた。
天然の人たらしだな。
「ところで殿下。あれ。戦闘中の素早く動くやつ、あれは何だったんです?」
ヴァレリーは先程、混戦の中で体験した不思議な現象を思い出す。
光が溢れ、周囲と自分の時間経過の速度がずれていた。
「わからない。あれのお陰で助かったのは確かだがな」
落ち着いたらルイーズに聞いてみよう。
絶対このお嬢様の仕業だ。
ルイーズを王宮の客間でひと眠りさせている間に、宰相の捕獲も翡翠宮北塔の制圧も終わった。
父王の無駄にでかい執務室で母王妃と一緒に状況が落ち着くのを待っていると、叔父の大公将軍と、ブルージュ近衛隊長、そして親衛隊の面々が鎧を脱いだ軽装になって報告に訪れた。
「リリア妃はアイアンゲートの貴賓室だ。宰相は宮廷牢獄の貴族部屋にいる。他の使用人たちは宮廷牢獄の地下室だ。で、ルルヴァル兵は国交問題に対応出来るように捕虜扱いで、王都外交館の捕虜収容所に送った」
ドカッと遠慮ない勢いでソファーに座る、いつ見ても暑苦しい筋肉お化けの叔父が簡潔に報告する。
「ご苦労」
王の言葉も簡潔だ。
そして沈黙が訪れる。
今回の騒動はテオドリックの婚約破棄に端を発しているが、裏には根深い怨恨と計画があった。
それは王に対するものだ。
誰も口に出せない。
「陛下が面倒を後回しにするから悪いのよ」
だが、王妃は流石に文句を言う。
言って良い立場だ。
「リリア妃と何年、公務以外で顔を合わせていなかったことか。様々な手続きもテオドリックとルイーズを間に挟んで任せっきりで、リリア妃の状態など誰も気にかけていなかった。側室とはいえ一国の王妃なのに」
母に言われてしょぼんとする父。
「宰相が、バルリ候が良くしてくれているからそれでいいかと思っていたのだ」
父の言い訳も、今となっては何と浅はかな事か。
「それでリリア妃とバルリ侯爵がくっついて悪事を企んでいたなんて、気付かない私たちもどうかしているわ!」
この場合の私たちとは、王宮の政治に関わる者たちの事だ。
不幸な第二王妃として、誰もが問題とそこに生じる歪を放置してしまっていた。
ここでもきっとルイーズが、両陛下とリリア妃の緩衝材になっていたのだろう。
「何事も詳しく話を聞いて調査してからだが、バルリ候は政治犯に変わりねえよ。情けをかける必要はない。リリア第二王妃については、小さく収めてやりたいもんだな」
ふがいない兄王を庇って、叔父はため息を吐いた。
ひとしきり父が責められ終わったところで、ルイーズが侍女やら従属やら近衛やら親衛隊やら、ありとあらゆるものを引き連れてやって来た。
いつの間にどんだけの人間をたらしているのか、計り知れない令嬢だ。
「ルイーズゥゥ! お疲れ様だったわね。大活躍は聞いたわよ。さすがルイーズね!!」
母がルイーズを丁重に迎えて、隣の席へ座らせる。
「!!!」
これも異常事態だぞ。
一介の令嬢が王妃と同列の上座に座らされてしまった。
ルイーズも良し悪しがわからず慌てている。
「すまなかったな、ルイーズ。全ては私のリリアに対する態度が招いた事だったらしい」
王もルイーズの位置取りに何も言わず、しかも謝罪までしている。
叔父もブルージュ公爵もこの部屋に居る全ての人間が、序列を無視したこの配置に混乱していた。
「お詫びと言ってはなんだけど、ルイーズ、あなた、ヴァレリーと結婚してはどうかしら?」
臣下の前で、王妃が爆弾を落とした。
「何があったのです? 宰相様は何であんなことに?」
ヴァレリーの腕の中で、ドレスで戦った姫君が今見た出来事を把握出来ずにいた。
「うーん。ルイーズ嬢はお父上から説明してもらいなさい」
ヴァレリー自身の口から言うのは憚られる。
汚い者を美しく表現するには限度かあるので、詳細説明はブルージュ公爵にお任せだ。
将軍である叔父からの承諾も出たので、ルイーズ嬢を戦闘現場から引き離した。
取り敢えず王宮に戻って、両親と合流だ。
ルイーズ嬢もあの場に居たくなかったらしく、珍しく素直に腕の中に納まっている。
どこからともなくルイーズ付の侍女が現れて、後ろに従った。
未だ大事に焼き菓子のバスケットを持っているあたり、優秀だ。
裸で、秘密通路を逃げようとしていた宰相バルリ侯。
恐らく北塔に居たのだろうが、戦闘が始まり、気付いた時には世話人も何もかもいなくなり、着の身着のままで地下通路に下りたのだろう。
誰も知らない秘密の地下通路だ。
ルイーズがいなければ宰相を取り逃がしていたかもしれない。
宰相もまさか、通路の天井が抜け落ちて、騎士団が降って来るとは思っていなかったであろう。
「くふっ。くはは!」
このご令嬢、とんでもないな。
ヴァレリーは小さく笑うが、なかなか笑いが収まらない。
「殿下、思い出し笑い、気持ち悪いです」
隣を歩く近衛が言う。
うるさいな、解ってるよ。
「ルイーズ令嬢、寝ちゃったみたいですよ」
反対側の近衛もルイーズを気に掛ける。
腕の中の可愛らしい令嬢はおでこをヴァレリーの胸に預けてすーすーと寝息を立てていた。
子供か!?
突っ込みたくなるが、ルイーズの寝顔を見る近衛たちは、一戦交えた後とは思えないほっこりした雰囲気だ。
近衛たちと数回顔を合わせただけのルイーズは、彼らのハートを完全に掴んでいた。
天然の人たらしだな。
「ところで殿下。あれ。戦闘中の素早く動くやつ、あれは何だったんです?」
ヴァレリーは先程、混戦の中で体験した不思議な現象を思い出す。
光が溢れ、周囲と自分の時間経過の速度がずれていた。
「わからない。あれのお陰で助かったのは確かだがな」
落ち着いたらルイーズに聞いてみよう。
絶対このお嬢様の仕業だ。
ルイーズを王宮の客間でひと眠りさせている間に、宰相の捕獲も翡翠宮北塔の制圧も終わった。
父王の無駄にでかい執務室で母王妃と一緒に状況が落ち着くのを待っていると、叔父の大公将軍と、ブルージュ近衛隊長、そして親衛隊の面々が鎧を脱いだ軽装になって報告に訪れた。
「リリア妃はアイアンゲートの貴賓室だ。宰相は宮廷牢獄の貴族部屋にいる。他の使用人たちは宮廷牢獄の地下室だ。で、ルルヴァル兵は国交問題に対応出来るように捕虜扱いで、王都外交館の捕虜収容所に送った」
ドカッと遠慮ない勢いでソファーに座る、いつ見ても暑苦しい筋肉お化けの叔父が簡潔に報告する。
「ご苦労」
王の言葉も簡潔だ。
そして沈黙が訪れる。
今回の騒動はテオドリックの婚約破棄に端を発しているが、裏には根深い怨恨と計画があった。
それは王に対するものだ。
誰も口に出せない。
「陛下が面倒を後回しにするから悪いのよ」
だが、王妃は流石に文句を言う。
言って良い立場だ。
「リリア妃と何年、公務以外で顔を合わせていなかったことか。様々な手続きもテオドリックとルイーズを間に挟んで任せっきりで、リリア妃の状態など誰も気にかけていなかった。側室とはいえ一国の王妃なのに」
母に言われてしょぼんとする父。
「宰相が、バルリ候が良くしてくれているからそれでいいかと思っていたのだ」
父の言い訳も、今となっては何と浅はかな事か。
「それでリリア妃とバルリ侯爵がくっついて悪事を企んでいたなんて、気付かない私たちもどうかしているわ!」
この場合の私たちとは、王宮の政治に関わる者たちの事だ。
不幸な第二王妃として、誰もが問題とそこに生じる歪を放置してしまっていた。
ここでもきっとルイーズが、両陛下とリリア妃の緩衝材になっていたのだろう。
「何事も詳しく話を聞いて調査してからだが、バルリ候は政治犯に変わりねえよ。情けをかける必要はない。リリア第二王妃については、小さく収めてやりたいもんだな」
ふがいない兄王を庇って、叔父はため息を吐いた。
ひとしきり父が責められ終わったところで、ルイーズが侍女やら従属やら近衛やら親衛隊やら、ありとあらゆるものを引き連れてやって来た。
いつの間にどんだけの人間をたらしているのか、計り知れない令嬢だ。
「ルイーズゥゥ! お疲れ様だったわね。大活躍は聞いたわよ。さすがルイーズね!!」
母がルイーズを丁重に迎えて、隣の席へ座らせる。
「!!!」
これも異常事態だぞ。
一介の令嬢が王妃と同列の上座に座らされてしまった。
ルイーズも良し悪しがわからず慌てている。
「すまなかったな、ルイーズ。全ては私のリリアに対する態度が招いた事だったらしい」
王もルイーズの位置取りに何も言わず、しかも謝罪までしている。
叔父もブルージュ公爵もこの部屋に居る全ての人間が、序列を無視したこの配置に混乱していた。
「お詫びと言ってはなんだけど、ルイーズ、あなた、ヴァレリーと結婚してはどうかしら?」
臣下の前で、王妃が爆弾を落とした。
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