病弱を理由に婚約破棄されました ~私、前世は狂戦士だったのです~

呉マチス

文字の大きさ
上 下
30 / 53

30 王子宮での寸劇

しおりを挟む
昨晩夜遅くまで忙しくしていたとしても、突然に騎士団の所属になろうとも、私は今日、ヴァレリー王太子の元にお礼に伺わなければならない。
王妃様からお願いされているのだ。

「全く、殿方に会いに行く前日に夜更かしとか、気が知れないわ。しかも騎士団所属って何事よ? これから結婚相手を探さなきゃならないのよ?」

お母様の小言を聞きながら、朝早くから完璧にドレスアップする。
キラッキラのフワッフワだ。

髪の一房まで整えられながら、私はどうやってリリア妃の元まで辿り着くかを考える。

王妃様は一悶着起こして欲しいと言っていた。
宰相バルリ侯爵の行方も目星はついていると。

何か策を練って……無いな。
特に接点の無いリリア妃と交流する策などあるはずがない。
だから王妃様も悶着を起こせと言っているのだ。

「仕上がったわよ、ルイーズ」

お母様がため息をついて私を見つめている。

「今日もお綺麗です」

アニーのいつものセリフ。
だか、お母様はまじまじと私を見回す。

「あなた。何か、舞踏会の時よりも輝いているわね。あの時は儚く可憐でそれはそれで美しかったけど。うん、強くなったわ。私は好きよ」

強くなった。
お母様の言葉に私はじんわり胸が熱くなる。
婚約破棄を言い渡されたあの日から数日しか経ってない。
それでも、色々なことがあって、色々な事を考えた。
強くなった、という言葉は今の私には何よりも嬉しい誉め言葉だ。

「お母様、ありがとうございます。行ってきますわ!」

寝不足など何のその、お母様のお陰で晴れやかな気分になった私は、侍女のアニーと従兄弟のアルベールを連れて宮殿へと向かった。



二ヶ月前まで毎日訪れていた王子宮に向かう道程に、思わぬ懐かしさを感じる。
あの時期が私の人生で一番華やいでいた時になるのだろう。

そんな感慨に耽っていると、自分の感覚とは逆の方向にぐいんと馬車が曲がった。
ああそうだ。テオドリック様の宮殿は南側で、ヴァレリー王太子殿下の宮殿は東側だ。
馬車の進行によって無理やり断ち切られた未練に笑ってしまう。
もう、本当に決着を付けなきゃ、強く健康に生きていけないわね。

初めて来たヴァレリー王太子殿下の王子宮は白と青の爽やかな宮殿だった。
執事によって庭園のガゼボに案内される。
まだ早い時間なので日陰は清々しい。

「また会えましたね。ルイーズ令嬢」

直ぐにヴァレリー王太子は現れた。私はスムーズに立ち上がり、膝を折って王子へご挨拶をする。

「先日は大変見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした。また、我が家での不審者確保にご協力頂き、感謝申し上げます」

三度目の正直!
ちゃんと挨拶出来た!
さあ、次は一悶着をどうするかだ。
この王子とはタイミングが悪いから、さっさと用件を済ませたい!

「いやいや、十分弱っている姿も可愛かったよ。またいつでも運んで上げるから、遠慮しないでね」

せっかく使命感に燃えていたのに、出鼻を挫くヴァレリー王太子殿下の言葉にカチンと来る。
忘れて欲しかった、みすぼらしい自分の姿を思い出させるなんて、意地悪でしかない。

「こちら」

私は腹が立って、焼き菓子のプレゼントをアニーから受け取る。
我が家の焼き菓子は王都で数日待ちの人気がある商品だ。
それをわざわざヴァレリー王太子の横を通りすぎ、後方に控えていた近衛に差し出した。

「剣を無断使用したお詫びに伺うと約束しましたものね。我が家の焼き菓子です。休憩の時にでも食べて下さい」

「えっ? あの、えぇ!?」

近衛の方は慌てているが、構わず私はその手を取ってお菓子のバスケットを渡した。
ごうっと音がしそうな程、不機嫌な空気がヴァレリー王太子を包んでいる。

背後でアルベールとアニーが冷や汗をかいている気配がした。

「お礼は要らないと言ったはずです。これはこちらで預かります」

王子はお菓子のバスケットを近衛から取り上げる。

「いいえ。お礼の気持ちは他人に言われて収まるものではありませんわ。これは近衛さんに」

私もヴァレリー王太子が手にしたバスケットを奪い返そうと、ぐいっと掴む。が、王子も手を離さない。

ぐいぐいぐい……。

静かな攻防だが、両者一歩も引かない。

『あ! 一悶着!!』

私は突如使命を思い出した。

「返してくださいませ!」

ガルガン腕力を発揮して私はブンとバスケットを奪い取ると、勢いに乗って一回転する。

「あ~れ~」

とその流れで私はバスケットをリリア妃の宮殿の方向に向かって投げ飛ばし、吹っ飛んでいってしまったわ、という演出をする。

「……」

「……」

凄い飛距離だ。あり得ない。

「……おほほほほほ。私ったら。直ぐに回収しますわね」

私は呆然としているヴァレリー王太子一行を無視して、ピュンッと素早くその場を後にした。
向かうはリリア妃の庭園だ。

「ルイーズ!」

「お嬢様!」

アルベールとアニーは着いてきている。
優秀!

「アルベール、抱っこ! お菓子を拾いに行くわよ!」

ああ! 相変わらずなんて締まらない命令なのかしら!!
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

処理中です...