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30 王子宮での寸劇
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昨晩夜遅くまで忙しくしていたとしても、突然に騎士団の所属になろうとも、私は今日、ヴァレリー王太子の元にお礼に伺わなければならない。
王妃様からお願いされているのだ。
「全く、殿方に会いに行く前日に夜更かしとか、気が知れないわ。しかも騎士団所属って何事よ? これから結婚相手を探さなきゃならないのよ?」
お母様の小言を聞きながら、朝早くから完璧にドレスアップする。
キラッキラのフワッフワだ。
髪の一房まで整えられながら、私はどうやってリリア妃の元まで辿り着くかを考える。
王妃様は一悶着起こして欲しいと言っていた。
宰相バルリ侯爵の行方も目星はついていると。
何か策を練って……無いな。
特に接点の無いリリア妃と交流する策などあるはずがない。
だから王妃様も悶着を起こせと言っているのだ。
「仕上がったわよ、ルイーズ」
お母様がため息をついて私を見つめている。
「今日もお綺麗です」
アニーのいつものセリフ。
だか、お母様はまじまじと私を見回す。
「あなた。何か、舞踏会の時よりも輝いているわね。あの時は儚く可憐でそれはそれで美しかったけど。うん、強くなったわ。私は好きよ」
強くなった。
お母様の言葉に私はじんわり胸が熱くなる。
婚約破棄を言い渡されたあの日から数日しか経ってない。
それでも、色々なことがあって、色々な事を考えた。
強くなった、という言葉は今の私には何よりも嬉しい誉め言葉だ。
「お母様、ありがとうございます。行ってきますわ!」
寝不足など何のその、お母様のお陰で晴れやかな気分になった私は、侍女のアニーと従兄弟のアルベールを連れて宮殿へと向かった。
二ヶ月前まで毎日訪れていた王子宮に向かう道程に、思わぬ懐かしさを感じる。
あの時期が私の人生で一番華やいでいた時になるのだろう。
そんな感慨に耽っていると、自分の感覚とは逆の方向にぐいんと馬車が曲がった。
ああそうだ。テオドリック様の宮殿は南側で、ヴァレリー王太子殿下の宮殿は東側だ。
馬車の進行によって無理やり断ち切られた未練に笑ってしまう。
もう、本当に決着を付けなきゃ、強く健康に生きていけないわね。
初めて来たヴァレリー王太子殿下の王子宮は白と青の爽やかな宮殿だった。
執事によって庭園のガゼボに案内される。
まだ早い時間なので日陰は清々しい。
「また会えましたね。ルイーズ令嬢」
直ぐにヴァレリー王太子は現れた。私はスムーズに立ち上がり、膝を折って王子へご挨拶をする。
「先日は大変見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした。また、我が家での不審者確保にご協力頂き、感謝申し上げます」
三度目の正直!
ちゃんと挨拶出来た!
さあ、次は一悶着をどうするかだ。
この王子とはタイミングが悪いから、さっさと用件を済ませたい!
「いやいや、十分弱っている姿も可愛かったよ。またいつでも運んで上げるから、遠慮しないでね」
せっかく使命感に燃えていたのに、出鼻を挫くヴァレリー王太子殿下の言葉にカチンと来る。
忘れて欲しかった、みすぼらしい自分の姿を思い出させるなんて、意地悪でしかない。
「こちら」
私は腹が立って、焼き菓子のプレゼントをアニーから受け取る。
我が家の焼き菓子は王都で数日待ちの人気がある商品だ。
それをわざわざヴァレリー王太子の横を通りすぎ、後方に控えていた近衛に差し出した。
「剣を無断使用したお詫びに伺うと約束しましたものね。我が家の焼き菓子です。休憩の時にでも食べて下さい」
「えっ? あの、えぇ!?」
近衛の方は慌てているが、構わず私はその手を取ってお菓子のバスケットを渡した。
ごうっと音がしそうな程、不機嫌な空気がヴァレリー王太子を包んでいる。
背後でアルベールとアニーが冷や汗をかいている気配がした。
「お礼は要らないと言ったはずです。これはこちらで預かります」
王子はお菓子のバスケットを近衛から取り上げる。
「いいえ。お礼の気持ちは他人に言われて収まるものではありませんわ。これは近衛さんに」
私もヴァレリー王太子が手にしたバスケットを奪い返そうと、ぐいっと掴む。が、王子も手を離さない。
ぐいぐいぐい……。
静かな攻防だが、両者一歩も引かない。
『あ! 一悶着!!』
私は突如使命を思い出した。
「返してくださいませ!」
ガルガン腕力を発揮して私はブンとバスケットを奪い取ると、勢いに乗って一回転する。
「あ~れ~」
とその流れで私はバスケットをリリア妃の宮殿の方向に向かって投げ飛ばし、吹っ飛んでいってしまったわ、という演出をする。
「……」
「……」
凄い飛距離だ。あり得ない。
「……おほほほほほ。私ったら。直ぐに回収しますわね」
私は呆然としているヴァレリー王太子一行を無視して、ピュンッと素早くその場を後にした。
向かうはリリア妃の庭園だ。
「ルイーズ!」
「お嬢様!」
アルベールとアニーは着いてきている。
優秀!
「アルベール、抱っこ! お菓子を拾いに行くわよ!」
ああ! 相変わらずなんて締まらない命令なのかしら!!
王妃様からお願いされているのだ。
「全く、殿方に会いに行く前日に夜更かしとか、気が知れないわ。しかも騎士団所属って何事よ? これから結婚相手を探さなきゃならないのよ?」
お母様の小言を聞きながら、朝早くから完璧にドレスアップする。
キラッキラのフワッフワだ。
髪の一房まで整えられながら、私はどうやってリリア妃の元まで辿り着くかを考える。
王妃様は一悶着起こして欲しいと言っていた。
宰相バルリ侯爵の行方も目星はついていると。
何か策を練って……無いな。
特に接点の無いリリア妃と交流する策などあるはずがない。
だから王妃様も悶着を起こせと言っているのだ。
「仕上がったわよ、ルイーズ」
お母様がため息をついて私を見つめている。
「今日もお綺麗です」
アニーのいつものセリフ。
だか、お母様はまじまじと私を見回す。
「あなた。何か、舞踏会の時よりも輝いているわね。あの時は儚く可憐でそれはそれで美しかったけど。うん、強くなったわ。私は好きよ」
強くなった。
お母様の言葉に私はじんわり胸が熱くなる。
婚約破棄を言い渡されたあの日から数日しか経ってない。
それでも、色々なことがあって、色々な事を考えた。
強くなった、という言葉は今の私には何よりも嬉しい誉め言葉だ。
「お母様、ありがとうございます。行ってきますわ!」
寝不足など何のその、お母様のお陰で晴れやかな気分になった私は、侍女のアニーと従兄弟のアルベールを連れて宮殿へと向かった。
二ヶ月前まで毎日訪れていた王子宮に向かう道程に、思わぬ懐かしさを感じる。
あの時期が私の人生で一番華やいでいた時になるのだろう。
そんな感慨に耽っていると、自分の感覚とは逆の方向にぐいんと馬車が曲がった。
ああそうだ。テオドリック様の宮殿は南側で、ヴァレリー王太子殿下の宮殿は東側だ。
馬車の進行によって無理やり断ち切られた未練に笑ってしまう。
もう、本当に決着を付けなきゃ、強く健康に生きていけないわね。
初めて来たヴァレリー王太子殿下の王子宮は白と青の爽やかな宮殿だった。
執事によって庭園のガゼボに案内される。
まだ早い時間なので日陰は清々しい。
「また会えましたね。ルイーズ令嬢」
直ぐにヴァレリー王太子は現れた。私はスムーズに立ち上がり、膝を折って王子へご挨拶をする。
「先日は大変見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした。また、我が家での不審者確保にご協力頂き、感謝申し上げます」
三度目の正直!
ちゃんと挨拶出来た!
さあ、次は一悶着をどうするかだ。
この王子とはタイミングが悪いから、さっさと用件を済ませたい!
「いやいや、十分弱っている姿も可愛かったよ。またいつでも運んで上げるから、遠慮しないでね」
せっかく使命感に燃えていたのに、出鼻を挫くヴァレリー王太子殿下の言葉にカチンと来る。
忘れて欲しかった、みすぼらしい自分の姿を思い出させるなんて、意地悪でしかない。
「こちら」
私は腹が立って、焼き菓子のプレゼントをアニーから受け取る。
我が家の焼き菓子は王都で数日待ちの人気がある商品だ。
それをわざわざヴァレリー王太子の横を通りすぎ、後方に控えていた近衛に差し出した。
「剣を無断使用したお詫びに伺うと約束しましたものね。我が家の焼き菓子です。休憩の時にでも食べて下さい」
「えっ? あの、えぇ!?」
近衛の方は慌てているが、構わず私はその手を取ってお菓子のバスケットを渡した。
ごうっと音がしそうな程、不機嫌な空気がヴァレリー王太子を包んでいる。
背後でアルベールとアニーが冷や汗をかいている気配がした。
「お礼は要らないと言ったはずです。これはこちらで預かります」
王子はお菓子のバスケットを近衛から取り上げる。
「いいえ。お礼の気持ちは他人に言われて収まるものではありませんわ。これは近衛さんに」
私もヴァレリー王太子が手にしたバスケットを奪い返そうと、ぐいっと掴む。が、王子も手を離さない。
ぐいぐいぐい……。
静かな攻防だが、両者一歩も引かない。
『あ! 一悶着!!』
私は突如使命を思い出した。
「返してくださいませ!」
ガルガン腕力を発揮して私はブンとバスケットを奪い取ると、勢いに乗って一回転する。
「あ~れ~」
とその流れで私はバスケットをリリア妃の宮殿の方向に向かって投げ飛ばし、吹っ飛んでいってしまったわ、という演出をする。
「……」
「……」
凄い飛距離だ。あり得ない。
「……おほほほほほ。私ったら。直ぐに回収しますわね」
私は呆然としているヴァレリー王太子一行を無視して、ピュンッと素早くその場を後にした。
向かうはリリア妃の庭園だ。
「ルイーズ!」
「お嬢様!」
アルベールとアニーは着いてきている。
優秀!
「アルベール、抱っこ! お菓子を拾いに行くわよ!」
ああ! 相変わらずなんて締まらない命令なのかしら!!
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