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24 軟禁王子テオドリック
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ビクトリア様は侍女たちを脅し半分で黙らせて、私に上級侍女の服を着せた。
髪を質素に結い直し、下を向けば顔が隠れるようにセットする。
私の侍女、アニーは黙って見守ってくれている。
「行くわよ」
怖い顔のビクトリア様に三歩程遅れて付いていく。私の前にはビクトリア様の侍女、隣にはアニーがいる状態だ。
邸内をしばらく歩くと、回廊の反対側の館に出たらしい。
そこから階段を何回か上がると、警備兵が二人いる通路の前に出た。
「ビクトリアお嬢様? どうなさいました?」
警備兵は気安くビクトリア様に話しかけている。どうやら知った者らしい。
こそこそお話しをしてそこを通してくれる。
一体何を交渉したのか。その手腕を後で聞かなければ。参考にさせてもらおう。
通路を進むと扉の前でビクトリア様は立ち止まった。
「ここが、テオドリックの部屋よ。隣がエルミナ。軟禁状態だから、室内は自由に動けるの」
私はこくりと頷くと、先を促す。
コンコン!
ビクトリア様が扉をノックする。
少しすると扉がゆっくり開くき、テオドリックが驚いた顔でビクトリア様を迎えた。
「どうしたんだい? ビクトリア。いや、来てくれてありがとう。入ってくれ」
あっさりと入室に成功する。
私たち侍女はドアの入口付近に待機し、ビクトリア様は奥のソファーへ通される。
私は俯いて室内を観察した。
意外に広い部屋に小ぶりながらソファーセットや文机が用意されている。衝立の向こうはベッドスペースだろう。さらにその向こうにドアがあり、浴室もある様子だ。
ただ、バルコニーは無く、窓は全て嵌め殺しになっている。
軟禁のための館だ。
外に出るにはかなりの高さを飛び降りるか、通路の兵士と闘うしかない。
テオドリック様は軟禁されているとは思えないしっかりとした身なりをしていた。
ラフな服装とはいえ、上等な白シャツにラインの綺麗な黒パンツを着ている。軟禁状態なのに輝く金髪碧眼は以前のままで、白い肌も健康そうだ。
通常はここでお茶がだされるのだが、さすがに飲食は管理されているのだろう。ティーセットの一つも置いていない。
「テオドリック。不便はない?」
ビクトリア様はそんなテオドリック様を気遣った。
「お茶の一つも出せないのが申し訳ないが、仕方が無い。良くしてもらってるよ」
意外な程穏やかなテオドリックの声。
「時間がないので、遠慮なく聞くわね。なんであんなことしたの?」
まっすぐに背中を伸ばしたビクトリア様は、厳しい声で単刀直入に聞いた。
「あんなこととは、婚約破棄の事? それともルイーズの館に隠れた事?」
ご自分の不義はテオドリック様も解っている様子だ。
「ルイーズの館に隠れたのは、そこしか当てがなかったのでしょう? 私の見ていた限り、あなたとルイーズは人間関係も価値観も、影響し合ってお互いが八割を占めていたもの。良い関係だったわ。他を求める必要がない程にね」
ビクトリア様の評価にテオドリック様は黙ってしまう。
そのまま膝に両肘をついて、うつむいてしまった。
そんな打ちのめされた姿はかつて見たことが無かった。
羽目を外す事も、失敗する事も多いテオドリック様だったが、いつだってケロッと明るく、それが憎めないのだった。
「それなのになぜ、婚約破棄なんて暴挙に出たの?」
テオドリック様の打ちひしがれた様子を見ても、ビクトリア様は厳しい。
「ルイーズは完璧な婚約者だった。強引に事を進めないと、婚約解消はできないから、破棄とういう方法を取らざるを得なかった」
「婚約を解消したかったの?」
「うん」
「なぜ?」
「エルミナが可哀想だったから」
「エルミナと結婚したかたの?」
「ルイーズかエルミナか、選ばなければならなかった」
テオドリック様の言葉に疑問が湧いて来る。
「なぜ選ばなければならないの? 側妃になることでも解決出来るわよね。しかもエルミナは側妃候補を決める時に辞退したじゃない」
「ルイーズより年上は側妃には選ばれないから辞退したんだ」
「ああ、そうか。」
ビクトリア様は納得の様子を見せた。
だが、私はやはり疑問が残る。側妃の選考基準は確かにある。でもそれは目ぼしい相手がいない時の基準なだけで、良いお相手がいるなら、そちらが選ばれる。エルミナ様は辞退しなければ選ばれたかもしれない。むしろ、宰相派の代表として歓迎されたことだろう。
「なによ、結局は単にルイーズとエルミナを天秤にかけて、エルミナを選んだってこと!?」
う、ビクトリア様、直接攻撃に出た。この攻撃は私にも効く。
「だってルイーズは幸せ者じゃん。家族にも、理解者にも、能力にも恵まれている。俺が婚約破棄したって、結局は誰かが助けるし救われる。そういう星回りなんだよ。でも、エルミナは違う。お母様と同じ、常に日陰の存在で表に出る事は許されない。可哀想じゃないか!」
私はさらにテオドリック様からも攻撃を受ける
え? 私、エルミナ様と比べられて、可愛そうじゃないから捨てられたの?
言葉の矢がぶすぶすと刺さって、私は扉の前で俯いたまま動くことが出来なかった。
髪を質素に結い直し、下を向けば顔が隠れるようにセットする。
私の侍女、アニーは黙って見守ってくれている。
「行くわよ」
怖い顔のビクトリア様に三歩程遅れて付いていく。私の前にはビクトリア様の侍女、隣にはアニーがいる状態だ。
邸内をしばらく歩くと、回廊の反対側の館に出たらしい。
そこから階段を何回か上がると、警備兵が二人いる通路の前に出た。
「ビクトリアお嬢様? どうなさいました?」
警備兵は気安くビクトリア様に話しかけている。どうやら知った者らしい。
こそこそお話しをしてそこを通してくれる。
一体何を交渉したのか。その手腕を後で聞かなければ。参考にさせてもらおう。
通路を進むと扉の前でビクトリア様は立ち止まった。
「ここが、テオドリックの部屋よ。隣がエルミナ。軟禁状態だから、室内は自由に動けるの」
私はこくりと頷くと、先を促す。
コンコン!
ビクトリア様が扉をノックする。
少しすると扉がゆっくり開くき、テオドリックが驚いた顔でビクトリア様を迎えた。
「どうしたんだい? ビクトリア。いや、来てくれてありがとう。入ってくれ」
あっさりと入室に成功する。
私たち侍女はドアの入口付近に待機し、ビクトリア様は奥のソファーへ通される。
私は俯いて室内を観察した。
意外に広い部屋に小ぶりながらソファーセットや文机が用意されている。衝立の向こうはベッドスペースだろう。さらにその向こうにドアがあり、浴室もある様子だ。
ただ、バルコニーは無く、窓は全て嵌め殺しになっている。
軟禁のための館だ。
外に出るにはかなりの高さを飛び降りるか、通路の兵士と闘うしかない。
テオドリック様は軟禁されているとは思えないしっかりとした身なりをしていた。
ラフな服装とはいえ、上等な白シャツにラインの綺麗な黒パンツを着ている。軟禁状態なのに輝く金髪碧眼は以前のままで、白い肌も健康そうだ。
通常はここでお茶がだされるのだが、さすがに飲食は管理されているのだろう。ティーセットの一つも置いていない。
「テオドリック。不便はない?」
ビクトリア様はそんなテオドリック様を気遣った。
「お茶の一つも出せないのが申し訳ないが、仕方が無い。良くしてもらってるよ」
意外な程穏やかなテオドリックの声。
「時間がないので、遠慮なく聞くわね。なんであんなことしたの?」
まっすぐに背中を伸ばしたビクトリア様は、厳しい声で単刀直入に聞いた。
「あんなこととは、婚約破棄の事? それともルイーズの館に隠れた事?」
ご自分の不義はテオドリック様も解っている様子だ。
「ルイーズの館に隠れたのは、そこしか当てがなかったのでしょう? 私の見ていた限り、あなたとルイーズは人間関係も価値観も、影響し合ってお互いが八割を占めていたもの。良い関係だったわ。他を求める必要がない程にね」
ビクトリア様の評価にテオドリック様は黙ってしまう。
そのまま膝に両肘をついて、うつむいてしまった。
そんな打ちのめされた姿はかつて見たことが無かった。
羽目を外す事も、失敗する事も多いテオドリック様だったが、いつだってケロッと明るく、それが憎めないのだった。
「それなのになぜ、婚約破棄なんて暴挙に出たの?」
テオドリック様の打ちひしがれた様子を見ても、ビクトリア様は厳しい。
「ルイーズは完璧な婚約者だった。強引に事を進めないと、婚約解消はできないから、破棄とういう方法を取らざるを得なかった」
「婚約を解消したかったの?」
「うん」
「なぜ?」
「エルミナが可哀想だったから」
「エルミナと結婚したかたの?」
「ルイーズかエルミナか、選ばなければならなかった」
テオドリック様の言葉に疑問が湧いて来る。
「なぜ選ばなければならないの? 側妃になることでも解決出来るわよね。しかもエルミナは側妃候補を決める時に辞退したじゃない」
「ルイーズより年上は側妃には選ばれないから辞退したんだ」
「ああ、そうか。」
ビクトリア様は納得の様子を見せた。
だが、私はやはり疑問が残る。側妃の選考基準は確かにある。でもそれは目ぼしい相手がいない時の基準なだけで、良いお相手がいるなら、そちらが選ばれる。エルミナ様は辞退しなければ選ばれたかもしれない。むしろ、宰相派の代表として歓迎されたことだろう。
「なによ、結局は単にルイーズとエルミナを天秤にかけて、エルミナを選んだってこと!?」
う、ビクトリア様、直接攻撃に出た。この攻撃は私にも効く。
「だってルイーズは幸せ者じゃん。家族にも、理解者にも、能力にも恵まれている。俺が婚約破棄したって、結局は誰かが助けるし救われる。そういう星回りなんだよ。でも、エルミナは違う。お母様と同じ、常に日陰の存在で表に出る事は許されない。可哀想じゃないか!」
私はさらにテオドリック様からも攻撃を受ける
え? 私、エルミナ様と比べられて、可愛そうじゃないから捨てられたの?
言葉の矢がぶすぶすと刺さって、私は扉の前で俯いたまま動くことが出来なかった。
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