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23 深夜の友人訪問
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結局丸一日を乗馬で過ごした私は、最後は疲れ果て、アルベールに抱っこされての帰宅となった。
そのまま侍女たちにより入浴させられ、疲労回復ジュースを飲み、仮眠を取って目覚めたのは夜も深くなる頃だ。
部屋に運んでもらった軽い食事を食べながら、明日、ヴァレリー王太子の宮殿へお礼に伺う事を思い出す。
「そうだった! どうしよう!」
まずお礼の品が必要だし、リリア妃殿下に接触するための材料も必要だ。
「時間が足りないわ」
私は大公将軍の娘であるビクトリア様へ使いを出すと、直ぐにドレスに着替えた。
友人のもとへ相談に行くのだ。
「なんで、こんな時間に!?」
お母様に叱られながらも、明日の王太子殿下への訪問を伝えると、急に乗り気になる。
「ビクトリア令嬢に王太子殿下の情報を伺うのね! お礼の品は私が用意しておくから、しっかり聞いてらっしゃい!」
本当の所は、大公家に行けば『地獄耳』でテオドリック様とエルミナ様の情報が手に入るかも知れないという、打算があるのだ。
いつか設けて頂けるであろう面会の時を待っていられない状況になった。
ビクトリア様を利用するようで悪いが、王妃様からのお願いなので、背に腹は変えられないのだ。
「こんな夜中にごめんなさい。ビクトリア様」
「いいのよ。緊急事態だもの。相談に乗るわルイーズ」
もう寝る支度も整ったであろう時間なのに、ビクトリアはきちんとしたドレス姿で私を迎えてくれた。
私的な訪問なので直接ビクトリア様の私室に通してもらう。
ソファーに腰かけると早速ビクトリア様が前のめりで聞いてくる。
「明日ヴァレリーの所へ行くってどういうこと?」
楽しそうです、ビクトリア様。
「期待するような色っぽい事じゃないのよ。実は内々に王妃様から頼まれたの」
「王妃陛下に?」
今度は目を剥いて驚いている。この年下の少女は本当に可愛らしい。でも、可愛らしいだけではご令嬢としてやっていけない。彼女は賢いのだ。
「王妃陛下は心からルイーズを娘として迎えるのを楽しみにしていたわ。テオドリックがダメならヴァレリーってこと? いや、ルルヴァル王国の事を考えれば無理ね。・・・ルイーズ。王妃陛下に何を頼まれたの?」
ほら。簡単に核心に辿り着いてしまう。
「ビクトリア様。これは内緒なのですが」
ここまで言うと、侍女たちが部屋から出て行った。
人払いが出来たので私は続ける。
「ヴァレリー殿下の元を訪れるついでに、体調不良で宮殿に立てこもっているリリア妃殿下を表に引きずり出して欲しいとの事なの」
「ええ!? どうやって!?」
本当に賢いビクトリア様。そこが本題なのだ。
「どうしたらいいと思います?」
私の問いかけに、ビクトリア様はきれいな眉をハの字にした。
侍女にコーヒーを頼む。
ビクトリア様も思考中だ。
待っている間に私は『地獄耳』を使った。
サーチ。サーチ。どのあたりにテオドリック様とエルミナ様はいるのだろう。
―――テオドリック。聞いてるの?
とか弱い声がする。
エルミナ様だ。
―――ねえ、テオ。今日は何を聞かれました? ちゃんと約束は守ってくれています?
エルミナはテオドリック様と一緒にいるのではないらしい。隣の部屋にいるのか、壁越しに語り掛けているようだ。
―――ねえ。あの事、内緒にして下さってるわよね? 待っていれば必ず私たちに良いようになるから。絶対に言わないでね。お願いよ。
―――ねえ、テオ。答えて。
―――うるさいな! 言えるわけないだろう。宰相が母上の所にいるなんて!
んんんんん!?
―――しー! 誰が聞いているかわからないのよ。余計な事は言わないで! ただ、救済を待てばいいの、わかる? テオ!
宰相が?
リリア妃のところにいる?
なんで?
「私を、テオドリック様たちに会わせて頂けないかしら?」
コーヒーを飲み干して、私はビクトリア様に提案した。
「テオドリック様の様子をお知らせすると言うだけでも、リリア妃殿下にお会いする理由にはなるわ」
ビクトリアもコーヒーの最後の一口を飲み干す。
「そうね。私もそれしかないと思うわ。ただ、公式には絶対無理。だからお父様に内緒で会わないとならないわ。私一人ならなんとか会えるかもしれないけど、当事者で被害者立場のルイーズが会うのは・・・」
「じゃあ、私、侍女になります」
思わず口を衝いた言葉だが、あら。いいんじゃないの?
ビクトリアもにんまりと笑った。
そのまま侍女たちにより入浴させられ、疲労回復ジュースを飲み、仮眠を取って目覚めたのは夜も深くなる頃だ。
部屋に運んでもらった軽い食事を食べながら、明日、ヴァレリー王太子の宮殿へお礼に伺う事を思い出す。
「そうだった! どうしよう!」
まずお礼の品が必要だし、リリア妃殿下に接触するための材料も必要だ。
「時間が足りないわ」
私は大公将軍の娘であるビクトリア様へ使いを出すと、直ぐにドレスに着替えた。
友人のもとへ相談に行くのだ。
「なんで、こんな時間に!?」
お母様に叱られながらも、明日の王太子殿下への訪問を伝えると、急に乗り気になる。
「ビクトリア令嬢に王太子殿下の情報を伺うのね! お礼の品は私が用意しておくから、しっかり聞いてらっしゃい!」
本当の所は、大公家に行けば『地獄耳』でテオドリック様とエルミナ様の情報が手に入るかも知れないという、打算があるのだ。
いつか設けて頂けるであろう面会の時を待っていられない状況になった。
ビクトリア様を利用するようで悪いが、王妃様からのお願いなので、背に腹は変えられないのだ。
「こんな夜中にごめんなさい。ビクトリア様」
「いいのよ。緊急事態だもの。相談に乗るわルイーズ」
もう寝る支度も整ったであろう時間なのに、ビクトリアはきちんとしたドレス姿で私を迎えてくれた。
私的な訪問なので直接ビクトリア様の私室に通してもらう。
ソファーに腰かけると早速ビクトリア様が前のめりで聞いてくる。
「明日ヴァレリーの所へ行くってどういうこと?」
楽しそうです、ビクトリア様。
「期待するような色っぽい事じゃないのよ。実は内々に王妃様から頼まれたの」
「王妃陛下に?」
今度は目を剥いて驚いている。この年下の少女は本当に可愛らしい。でも、可愛らしいだけではご令嬢としてやっていけない。彼女は賢いのだ。
「王妃陛下は心からルイーズを娘として迎えるのを楽しみにしていたわ。テオドリックがダメならヴァレリーってこと? いや、ルルヴァル王国の事を考えれば無理ね。・・・ルイーズ。王妃陛下に何を頼まれたの?」
ほら。簡単に核心に辿り着いてしまう。
「ビクトリア様。これは内緒なのですが」
ここまで言うと、侍女たちが部屋から出て行った。
人払いが出来たので私は続ける。
「ヴァレリー殿下の元を訪れるついでに、体調不良で宮殿に立てこもっているリリア妃殿下を表に引きずり出して欲しいとの事なの」
「ええ!? どうやって!?」
本当に賢いビクトリア様。そこが本題なのだ。
「どうしたらいいと思います?」
私の問いかけに、ビクトリア様はきれいな眉をハの字にした。
侍女にコーヒーを頼む。
ビクトリア様も思考中だ。
待っている間に私は『地獄耳』を使った。
サーチ。サーチ。どのあたりにテオドリック様とエルミナ様はいるのだろう。
―――テオドリック。聞いてるの?
とか弱い声がする。
エルミナ様だ。
―――ねえ、テオ。今日は何を聞かれました? ちゃんと約束は守ってくれています?
エルミナはテオドリック様と一緒にいるのではないらしい。隣の部屋にいるのか、壁越しに語り掛けているようだ。
―――ねえ。あの事、内緒にして下さってるわよね? 待っていれば必ず私たちに良いようになるから。絶対に言わないでね。お願いよ。
―――ねえ、テオ。答えて。
―――うるさいな! 言えるわけないだろう。宰相が母上の所にいるなんて!
んんんんん!?
―――しー! 誰が聞いているかわからないのよ。余計な事は言わないで! ただ、救済を待てばいいの、わかる? テオ!
宰相が?
リリア妃のところにいる?
なんで?
「私を、テオドリック様たちに会わせて頂けないかしら?」
コーヒーを飲み干して、私はビクトリア様に提案した。
「テオドリック様の様子をお知らせすると言うだけでも、リリア妃殿下にお会いする理由にはなるわ」
ビクトリアもコーヒーの最後の一口を飲み干す。
「そうね。私もそれしかないと思うわ。ただ、公式には絶対無理。だからお父様に内緒で会わないとならないわ。私一人ならなんとか会えるかもしれないけど、当事者で被害者立場のルイーズが会うのは・・・」
「じゃあ、私、侍女になります」
思わず口を衝いた言葉だが、あら。いいんじゃないの?
ビクトリアもにんまりと笑った。
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