病弱を理由に婚約破棄されました ~私、前世は狂戦士だったのです~

呉マチス

文字の大きさ
上 下
21 / 53

21 交換条件はバルリ侯爵邸の偵察です

しおりを挟む
「交換条件があります。宰相閣下バルリ侯爵の情報を全て下さい」

私の要求を王妃は見透かしていたご様子で、ガスパール親衛隊長は眉ひとつ動かさない。

「それは出来ません。公平さを欠くという理由で、大公家から情報の取扱いに配慮するよう言われています」

ふん、そう来たか。
つまりは大公将軍が抑えた情報は王妃様にも渡っていないということだ。
私は少しでも状況を知りたくて粘る。
だって私は当事者ですからね。

「では、宰相様の情報ではなく状況は?」

「行方不明です」

「は!?」

「大公将軍からの呼び出しに応じず、バルリ侯爵家へ出向いたところ、数日前からお帰りになられていないとのことです」

ええ~?
私は不安になりアルベールを振り返る。

「失踪ではありませんよ。自発的に行方を明かしていないだけです。数日前、忙しくて仕事に専念したいから行方を探すな、と言って出て行ったきりだそうです」

アルベールの言葉に私はホッとする。
生きていらっしゃるならいいのです。

「では、ガスパール隊長。王都を散策したいのでお付き合い頂けたら、王宮へ出向きますわ」

私はアルベールに頼んで、遠乗りの帰り道は王都散策にしてもらう。

「・・・承知しました」

これはさすがの王妃様も想定出来なかっただろう。
ガスパール隊長も私の目的が解らずに困惑している様子だ。
だが、王都内をふらふら気ままに散策しているつもりが、目的地がはっきりしてくると、ガスパール隊長の表情が険しくなってくる。

「アルベール。私、寝たふりするので、ぐるっと二周くらい回ってみて」

「オッケー」

「ちょっ!!」

ガスパール隊長は慌てる。
ぐるっと回るのは、バルリ侯爵邸の周辺だからだ。

「散策ですよ」

アルベールは両腕で私を隠すようにして馬を操る。
当然私やアルベールはバルリ侯爵邸の周辺を全く知らないので、ガスパール隊長の情報を頼りに、目立たないように公爵邸の周囲をふらふらと巡る。
店先でスピードを落としたり、偶然会った治安部隊の知り合いと声を掛け合ったりしながら、時間をかけてバルリ侯爵家の周囲を散策する。

もちろんその間、私は『地獄耳』を発動して、バルリ邸の内情を探っていたのです。

「ガスパール隊長、宰相様の居場所、目星は付いているの?」

目をつぶったまま私は隊長に問いかける。

「・・・憶測でしか」

返事は頼りないものだ。

「では、宰相様はエルミナ様の状況をご存じなの?」

「もちろんです。逐一連絡しています。でも、デビュタント舞踏会の前日から姿が見えないようなので、宰相が何も知らなかったといえば、そうなる事も可能です」

つまりはエルミナ様は捨てられたも同然。
親の知らないところで勝手にやらかしたとしてエルミナ様を吊るし上げれば、宰相様には罪は及ばない。

私はぱちりと目を開ける。

「アルベール、そろそろ帰りましょう。明日はヴァレリー王太子殿下へお礼に伺わなければなりませんね」

言うとガスパール隊長が驚いていた。

「よろしいのですか?」

聞いてくるがよろしいも何も、王妃様の頼みをお断り出来るはずがない。

「偵察させて頂きましたし、王妃様は私の味方です。何とかやってみますわ」

にっこり笑うと、ガスパール隊長は目を丸くした。

「偵察?」

「はい。ご協力感謝致しますわ」

私の能力を知らないガスパール隊長は、腑に落ちない様子で帰って行ったのだった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

処理中です...