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21 交換条件はバルリ侯爵邸の偵察です
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「交換条件があります。宰相閣下バルリ侯爵の情報を全て下さい」
私の要求を王妃は見透かしていたご様子で、ガスパール親衛隊長は眉ひとつ動かさない。
「それは出来ません。公平さを欠くという理由で、大公家から情報の取扱いに配慮するよう言われています」
ふん、そう来たか。
つまりは大公将軍が抑えた情報は王妃様にも渡っていないということだ。
私は少しでも状況を知りたくて粘る。
だって私は当事者ですからね。
「では、宰相様の情報ではなく状況は?」
「行方不明です」
「は!?」
「大公将軍からの呼び出しに応じず、バルリ侯爵家へ出向いたところ、数日前からお帰りになられていないとのことです」
ええ~?
私は不安になりアルベールを振り返る。
「失踪ではありませんよ。自発的に行方を明かしていないだけです。数日前、忙しくて仕事に専念したいから行方を探すな、と言って出て行ったきりだそうです」
アルベールの言葉に私はホッとする。
生きていらっしゃるならいいのです。
「では、ガスパール隊長。王都を散策したいのでお付き合い頂けたら、王宮へ出向きますわ」
私はアルベールに頼んで、遠乗りの帰り道は王都散策にしてもらう。
「・・・承知しました」
これはさすがの王妃様も想定出来なかっただろう。
ガスパール隊長も私の目的が解らずに困惑している様子だ。
だが、王都内をふらふら気ままに散策しているつもりが、目的地がはっきりしてくると、ガスパール隊長の表情が険しくなってくる。
「アルベール。私、寝たふりするので、ぐるっと二周くらい回ってみて」
「オッケー」
「ちょっ!!」
ガスパール隊長は慌てる。
ぐるっと回るのは、バルリ侯爵邸の周辺だからだ。
「散策ですよ」
アルベールは両腕で私を隠すようにして馬を操る。
当然私やアルベールはバルリ侯爵邸の周辺を全く知らないので、ガスパール隊長の情報を頼りに、目立たないように公爵邸の周囲をふらふらと巡る。
店先でスピードを落としたり、偶然会った治安部隊の知り合いと声を掛け合ったりしながら、時間をかけてバルリ侯爵家の周囲を散策する。
もちろんその間、私は『地獄耳』を発動して、バルリ邸の内情を探っていたのです。
「ガスパール隊長、宰相様の居場所、目星は付いているの?」
目をつぶったまま私は隊長に問いかける。
「・・・憶測でしか」
返事は頼りないものだ。
「では、宰相様はエルミナ様の状況をご存じなの?」
「もちろんです。逐一連絡しています。でも、デビュタント舞踏会の前日から姿が見えないようなので、宰相が何も知らなかったといえば、そうなる事も可能です」
つまりはエルミナ様は捨てられたも同然。
親の知らないところで勝手にやらかしたとしてエルミナ様を吊るし上げれば、宰相様には罪は及ばない。
私はぱちりと目を開ける。
「アルベール、そろそろ帰りましょう。明日はヴァレリー王太子殿下へお礼に伺わなければなりませんね」
言うとガスパール隊長が驚いていた。
「よろしいのですか?」
聞いてくるがよろしいも何も、王妃様の頼みをお断り出来るはずがない。
「偵察させて頂きましたし、王妃様は私の味方です。何とかやってみますわ」
にっこり笑うと、ガスパール隊長は目を丸くした。
「偵察?」
「はい。ご協力感謝致しますわ」
私の能力を知らないガスパール隊長は、腑に落ちない様子で帰って行ったのだった。
私の要求を王妃は見透かしていたご様子で、ガスパール親衛隊長は眉ひとつ動かさない。
「それは出来ません。公平さを欠くという理由で、大公家から情報の取扱いに配慮するよう言われています」
ふん、そう来たか。
つまりは大公将軍が抑えた情報は王妃様にも渡っていないということだ。
私は少しでも状況を知りたくて粘る。
だって私は当事者ですからね。
「では、宰相様の情報ではなく状況は?」
「行方不明です」
「は!?」
「大公将軍からの呼び出しに応じず、バルリ侯爵家へ出向いたところ、数日前からお帰りになられていないとのことです」
ええ~?
私は不安になりアルベールを振り返る。
「失踪ではありませんよ。自発的に行方を明かしていないだけです。数日前、忙しくて仕事に専念したいから行方を探すな、と言って出て行ったきりだそうです」
アルベールの言葉に私はホッとする。
生きていらっしゃるならいいのです。
「では、ガスパール隊長。王都を散策したいのでお付き合い頂けたら、王宮へ出向きますわ」
私はアルベールに頼んで、遠乗りの帰り道は王都散策にしてもらう。
「・・・承知しました」
これはさすがの王妃様も想定出来なかっただろう。
ガスパール隊長も私の目的が解らずに困惑している様子だ。
だが、王都内をふらふら気ままに散策しているつもりが、目的地がはっきりしてくると、ガスパール隊長の表情が険しくなってくる。
「アルベール。私、寝たふりするので、ぐるっと二周くらい回ってみて」
「オッケー」
「ちょっ!!」
ガスパール隊長は慌てる。
ぐるっと回るのは、バルリ侯爵邸の周辺だからだ。
「散策ですよ」
アルベールは両腕で私を隠すようにして馬を操る。
当然私やアルベールはバルリ侯爵邸の周辺を全く知らないので、ガスパール隊長の情報を頼りに、目立たないように公爵邸の周囲をふらふらと巡る。
店先でスピードを落としたり、偶然会った治安部隊の知り合いと声を掛け合ったりしながら、時間をかけてバルリ侯爵家の周囲を散策する。
もちろんその間、私は『地獄耳』を発動して、バルリ邸の内情を探っていたのです。
「ガスパール隊長、宰相様の居場所、目星は付いているの?」
目をつぶったまま私は隊長に問いかける。
「・・・憶測でしか」
返事は頼りないものだ。
「では、宰相様はエルミナ様の状況をご存じなの?」
「もちろんです。逐一連絡しています。でも、デビュタント舞踏会の前日から姿が見えないようなので、宰相が何も知らなかったといえば、そうなる事も可能です」
つまりはエルミナ様は捨てられたも同然。
親の知らないところで勝手にやらかしたとしてエルミナ様を吊るし上げれば、宰相様には罪は及ばない。
私はぱちりと目を開ける。
「アルベール、そろそろ帰りましょう。明日はヴァレリー王太子殿下へお礼に伺わなければなりませんね」
言うとガスパール隊長が驚いていた。
「よろしいのですか?」
聞いてくるがよろしいも何も、王妃様の頼みをお断り出来るはずがない。
「偵察させて頂きましたし、王妃様は私の味方です。何とかやってみますわ」
にっこり笑うと、ガスパール隊長は目を丸くした。
「偵察?」
「はい。ご協力感謝致しますわ」
私の能力を知らないガスパール隊長は、腑に落ちない様子で帰って行ったのだった。
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