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18 親子喧嘩
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一夜明けたらテオドリック様とエルミナ様は、従者や捕まえた間諜も一緒に大公将軍家にお預かりの身になっていた。
「被害者である我が家に置いておくことも、親元に帰すことも出来ないからな。将軍が仲介を買って出てくれた」
朝食の席でお父様から説明を受けたが、納得いかない。
「一番話を聞きたいのは私なのですが?」
今日、お二人からじっくりお話を聞こうと思っていたのに。
「その機会はちゃんと設けて頂ける」
そうまで言うなら仕方がない。
法的な事情もあるだろう。
「そんな事よりも、ルイーズはヴァレリー殿下に昨日お世話になったお礼に窺いますよ」
「!!!」
お母様の言葉に食事を詰まらせそうになる。
「嫌ですわ。お世話になんてなっておりません。あちらが勝手になさった事です!」
「とは言えお手を煩わせた事も、ご協力頂いた事も事実よ、ルイーズ」
「お父様! 私は嫌です!」
ガタンと立ち上がって反対した。
ここは、絶対に譲れない。
もう二度と王太子と顔を合わすなんて無理だ。
醜態を晒し過ぎている。
「ルイーズ、座って」
優しいお母様の声。
お母様の方が上手だ。
「まぁ、会わなくてもいいのではないか?」
お父様が助け船を出してくれる。
「お礼は昨晩十分にしたし、どうもヴァレリー殿下はルイーズに、その、気安いのが過ぎる」
そうですわよね!?
普通はあんなに殿方とひっついたりしない。
お父様やアルベールは親族だから私も安心ですけど、見知らぬ殿方に何度も抱っこされるなど、おかしなことだ。
「ルイーズはテオドリック殿下の件も片付いてないのだ。今は他の男に構ってられん」
お父様、わかってらっしゃる!
「あなた、わかってらっしゃらないのね!」
えー?
どういう事?
「このタイミングでヴァレリー王太子殿下がルイーズに目を止めて下さったなんて、千載一遇のチャンスですわよ! ルイーズはもう婚約者もいないただの独身レディーです。しかもいわく付きの! ならばこの際側室でもなんでも良いのです! ヴァレリー王太子殿下の寵愛を頂くべきよ!」
「!?」
赤裸々な母親の心の叫びに私もお父様も言葉が出ない。
「どこぞの王家の末端のお爺様の所に後妻で入って、財産だけ受け継いで、残りの人生一人で過ごすのとどちらがマシかってお話よ」
嫌ー! 怖いこと言わないでお母様。
「私でしたら、何か役職を頂いて・・・」
「ルイーズ、あなた王家に捨てられたのに王家で働くの? 王家に恨みを持つ人間としてマークされて生きることになるのよ」
「な、ならば、私もブルージュ家の人間です。騎士団に・・・」
「入れるわけないでしょう。その体力で。事務方でも無理よ」
「な、ならば、ならばビクトリアの侍女になります!」
「だからその体力では無理よ! ご迷惑よ!」
うう、どこまでいっても体力問題が付きまとう。
せっかく長年かけてガルガンの感情と仲良くし、能力を押さえ込んだのに、私の器では収まりきらなくて常に体力が微量に削られている状態だ。
もっと、根本的に私自身を鍛えて器を大きく強くしなければならない。
「ならばならば! 私は乗馬を習います!」
かしゃんと、わざと音を立ててカトラリーを置く。
私は席を立ち、母娘の喧嘩が終わるのを待っているだけのお父様の前を、これ見よがしにドレスの裾を翻して通り部屋を飛び出した。
「お嬢様! 深呼吸なさってーーー!」
アニーの叫び声が聞こえた。
「被害者である我が家に置いておくことも、親元に帰すことも出来ないからな。将軍が仲介を買って出てくれた」
朝食の席でお父様から説明を受けたが、納得いかない。
「一番話を聞きたいのは私なのですが?」
今日、お二人からじっくりお話を聞こうと思っていたのに。
「その機会はちゃんと設けて頂ける」
そうまで言うなら仕方がない。
法的な事情もあるだろう。
「そんな事よりも、ルイーズはヴァレリー殿下に昨日お世話になったお礼に窺いますよ」
「!!!」
お母様の言葉に食事を詰まらせそうになる。
「嫌ですわ。お世話になんてなっておりません。あちらが勝手になさった事です!」
「とは言えお手を煩わせた事も、ご協力頂いた事も事実よ、ルイーズ」
「お父様! 私は嫌です!」
ガタンと立ち上がって反対した。
ここは、絶対に譲れない。
もう二度と王太子と顔を合わすなんて無理だ。
醜態を晒し過ぎている。
「ルイーズ、座って」
優しいお母様の声。
お母様の方が上手だ。
「まぁ、会わなくてもいいのではないか?」
お父様が助け船を出してくれる。
「お礼は昨晩十分にしたし、どうもヴァレリー殿下はルイーズに、その、気安いのが過ぎる」
そうですわよね!?
普通はあんなに殿方とひっついたりしない。
お父様やアルベールは親族だから私も安心ですけど、見知らぬ殿方に何度も抱っこされるなど、おかしなことだ。
「ルイーズはテオドリック殿下の件も片付いてないのだ。今は他の男に構ってられん」
お父様、わかってらっしゃる!
「あなた、わかってらっしゃらないのね!」
えー?
どういう事?
「このタイミングでヴァレリー王太子殿下がルイーズに目を止めて下さったなんて、千載一遇のチャンスですわよ! ルイーズはもう婚約者もいないただの独身レディーです。しかもいわく付きの! ならばこの際側室でもなんでも良いのです! ヴァレリー王太子殿下の寵愛を頂くべきよ!」
「!?」
赤裸々な母親の心の叫びに私もお父様も言葉が出ない。
「どこぞの王家の末端のお爺様の所に後妻で入って、財産だけ受け継いで、残りの人生一人で過ごすのとどちらがマシかってお話よ」
嫌ー! 怖いこと言わないでお母様。
「私でしたら、何か役職を頂いて・・・」
「ルイーズ、あなた王家に捨てられたのに王家で働くの? 王家に恨みを持つ人間としてマークされて生きることになるのよ」
「な、ならば、私もブルージュ家の人間です。騎士団に・・・」
「入れるわけないでしょう。その体力で。事務方でも無理よ」
「な、ならば、ならばビクトリアの侍女になります!」
「だからその体力では無理よ! ご迷惑よ!」
うう、どこまでいっても体力問題が付きまとう。
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もっと、根本的に私自身を鍛えて器を大きく強くしなければならない。
「ならばならば! 私は乗馬を習います!」
かしゃんと、わざと音を立ててカトラリーを置く。
私は席を立ち、母娘の喧嘩が終わるのを待っているだけのお父様の前を、これ見よがしにドレスの裾を翻して通り部屋を飛び出した。
「お嬢様! 深呼吸なさってーーー!」
アニーの叫び声が聞こえた。
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