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15 抱かれていません!抱っこです!
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ご令嬢のへなちょこ剣技が、手練れと思しき敵を一撃で吹き飛ばした瞬間を目撃したヴァレリー王太子は
「ほう!」
と一言。
近衛の方々は目を剥いており
「な、なんだ?」
「何が起こった?」
と状況が掴めない様子だ。
「さすがっすね!」
「俺、初めて見させてもらった。ラッキー!」
騎士団の方はブルージュ家の血筋なのだろう。目をキラキラさせている。
近衛の方に剣を返す。
「ごめんなさい。つい、怖くて、あなたの大事な剣を使ってしまったわ。今度何かお詫びをさせて下さいね」
剣を受け取った近衛は顔を赤らめてアタフタしていた。
味方に、とはいえ、騎士なのに剣を勝手に抜かれたなど、言葉だけ聞けばただの恥なのである。
丁重にお詫びしなければならない。
「要らないですよ」
突然ヴァレリーが言う。
「うちの近衛が格下なだけです。お詫びは要りません」
どうやらヴァレリー王太子は厳しい上司らしい。
「は、はい。お詫びなどとんでもないです! なので本当に、本当にお気になさらずに!!」
近衛は怯えた様子で目も合わせずに後方に下がってしまう。
いいのでしょうか?
いや、上司の目の前で剣を取ったのは私の失策だわ。
やはり後でお詫びに伺おう。
暗闇の中、騎士たちに取り押さえられたのは若い男で、騎士が縄で腕をグルグル巻きにした。
足技も危険なのでひざ下がグルグル巻きだ。
猿轡までされた敵の顔はなかなかのハンサムだ。
「私、彼を見たことあります。王宮で」
「え? テオドリックの従者じゃないの?」
ヴァレリー王太子はそう思い込んでいたらしい。
「僭越ながら、私、紹介された方は忘れませんの。テオドリック様の従者なら八年来のおなじみですので、端の端まで存じています。この方は・・・」
私は目を閉じて記憶を呼び起こす。
呼び起こした記憶をピ―――と見回し、ピピピとロックオンし、グオンと拡大して。
「あ、いました。リリア妃の関係ですね。間諜でしょう」
と、問い詰める必要もなく、相手の素性が明かされる。
因みにこの記憶再生はガルガンではなく、私の得意技です。
何もせず正体がバレてしまった間諜は汗をかいてジタバタしている。
「凄いね、ルイーズ嬢。さっきの剣さばきと言い、索敵といい。頭も切れるし、こんなにか弱いのになかなかの戦士だね」
私を抱き直したヴァレリー王子は感嘆の表情で私に顔を近づけてくる。
「か、か弱いは余計です。あと、お顔が近いです」
私は必死に俯いて距離を取るが、大前提として王子の腕の中なので、全く効果が無い。
「はいはい、殿下。まだ周囲を調べているところだ。油断なさらないで下さい」
お父様が戦い終わった一団を引き連れてやってくる。
その後ろにいるのは・・・。
「テオドリック様・・・」
私は頭にも体にもたくさんの干し草をくっつけた、金髪碧眼の婚約者を呼んだ。
「ルイーズ・・・」
泣きそうな顔で私と目を合わせるテオドリック。
なんでどうしてどういうつもりで。聞きたい事がたくさんあって、言葉が出ない。
と、感情の整理をしようと思ったら、テオドリックが叫び出した。
「ルイーズ、なんでヴァレリーに抱かれているんだよ! やっぱりルイーズは男好きって噂は本当だったんだな!!」
な、なんですと!?
訳が分からず反論しようとしたら、テオドリック様の後ろから、こちらも体中に干し草を引っ付けたご令嬢が騒ぎ出す。
「そうよ! そんな女に騙されちゃいけないわ、テオ! あの女はね、周囲の男という男に抱かれまくっているのよ! それこそ従兄弟だって父親だって抱きまくっているっていう話よ!」
語弊―――!
語弊があります!
抱かれていません!
抱っこされているのです!
「ほう!」
と一言。
近衛の方々は目を剥いており
「な、なんだ?」
「何が起こった?」
と状況が掴めない様子だ。
「さすがっすね!」
「俺、初めて見させてもらった。ラッキー!」
騎士団の方はブルージュ家の血筋なのだろう。目をキラキラさせている。
近衛の方に剣を返す。
「ごめんなさい。つい、怖くて、あなたの大事な剣を使ってしまったわ。今度何かお詫びをさせて下さいね」
剣を受け取った近衛は顔を赤らめてアタフタしていた。
味方に、とはいえ、騎士なのに剣を勝手に抜かれたなど、言葉だけ聞けばただの恥なのである。
丁重にお詫びしなければならない。
「要らないですよ」
突然ヴァレリーが言う。
「うちの近衛が格下なだけです。お詫びは要りません」
どうやらヴァレリー王太子は厳しい上司らしい。
「は、はい。お詫びなどとんでもないです! なので本当に、本当にお気になさらずに!!」
近衛は怯えた様子で目も合わせずに後方に下がってしまう。
いいのでしょうか?
いや、上司の目の前で剣を取ったのは私の失策だわ。
やはり後でお詫びに伺おう。
暗闇の中、騎士たちに取り押さえられたのは若い男で、騎士が縄で腕をグルグル巻きにした。
足技も危険なのでひざ下がグルグル巻きだ。
猿轡までされた敵の顔はなかなかのハンサムだ。
「私、彼を見たことあります。王宮で」
「え? テオドリックの従者じゃないの?」
ヴァレリー王太子はそう思い込んでいたらしい。
「僭越ながら、私、紹介された方は忘れませんの。テオドリック様の従者なら八年来のおなじみですので、端の端まで存じています。この方は・・・」
私は目を閉じて記憶を呼び起こす。
呼び起こした記憶をピ―――と見回し、ピピピとロックオンし、グオンと拡大して。
「あ、いました。リリア妃の関係ですね。間諜でしょう」
と、問い詰める必要もなく、相手の素性が明かされる。
因みにこの記憶再生はガルガンではなく、私の得意技です。
何もせず正体がバレてしまった間諜は汗をかいてジタバタしている。
「凄いね、ルイーズ嬢。さっきの剣さばきと言い、索敵といい。頭も切れるし、こんなにか弱いのになかなかの戦士だね」
私を抱き直したヴァレリー王子は感嘆の表情で私に顔を近づけてくる。
「か、か弱いは余計です。あと、お顔が近いです」
私は必死に俯いて距離を取るが、大前提として王子の腕の中なので、全く効果が無い。
「はいはい、殿下。まだ周囲を調べているところだ。油断なさらないで下さい」
お父様が戦い終わった一団を引き連れてやってくる。
その後ろにいるのは・・・。
「テオドリック様・・・」
私は頭にも体にもたくさんの干し草をくっつけた、金髪碧眼の婚約者を呼んだ。
「ルイーズ・・・」
泣きそうな顔で私と目を合わせるテオドリック。
なんでどうしてどういうつもりで。聞きたい事がたくさんあって、言葉が出ない。
と、感情の整理をしようと思ったら、テオドリックが叫び出した。
「ルイーズ、なんでヴァレリーに抱かれているんだよ! やっぱりルイーズは男好きって噂は本当だったんだな!!」
な、なんですと!?
訳が分からず反論しようとしたら、テオドリック様の後ろから、こちらも体中に干し草を引っ付けたご令嬢が騒ぎ出す。
「そうよ! そんな女に騙されちゃいけないわ、テオ! あの女はね、周囲の男という男に抱かれまくっているのよ! それこそ従兄弟だって父親だって抱きまくっているっていう話よ!」
語弊―――!
語弊があります!
抱かれていません!
抱っこされているのです!
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