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05 鳥の糞
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ブルージュ家は代々騎士団をまとめる武力の家系である。
現ブルージュ公爵は、王弟殿下が指揮する、王立騎士団の一軍を担う近衛騎士団の団長をしている。
その娘ルイーズはブルージュ公爵家に生まれた特別だった。
幼い頃から可愛らしく人々を虜にする魅力に溢れていたが、何より目を引いたのはその儚さだった。
生まれつき身体が弱く、少しの刺激で倒れてしまうルイーズは皆の心配の種で、親や親族だけでなく、従者や使用人までもが彼女について回り、見守り隊となった。
細く小さく幼い少女は時折失神したり、熱を出したりしたものの、皆に見守られて優しくおしとやかに育った。
体力面では恵まれなかった一方、頭の良さは並外れていた。
記憶力も良く、一を教えて十を知る、どころではなく、百も二百も理解を及ぼす素晴らしさであった。
そのちぐはぐさにブルージュ公爵は一抹の不安を抱えていた。
頭脳における早熟さは、ブルージュ家に伝わる不思議現象の共通点である。
「でもルイーズは女の子だし、あまりに体力がない。気のせいだと良いのだが」
親族の間でもルイーズのアンバランスさは話題になっていたが、彼女が愛すべき少女であることは変わらない。一様に注意深く見守っていた。
ブルージュ家には秘密の不思議現象があった。
それは、このラマティア王国1000年の歴史に名を残す戦士が、時折転生してくるという怪奇に近い現象だった。
それはブルージュの血が濃い男に限られていた。
転生者の魂を抱えて生まれた子供は一様に早熟で、長じるとクソ強かった。ブルージュ家を武力の家系と位置付けるのも、この不思議現象のお陰だ。
そしてこの秘密は、王家にのみ明かされていた。その為、いつ転生者が生まれても対応出来るように、代々騎士団の要職に収まっていることがブルージュ家の義務となったのだ。
ルイーズが歴史上初めての女性転生者かもしれない。
ブルージュ家の心配が当たってしまったのは、ルイーズが8歳になった頃だ。
旅行に出かけた湖の畔で、ルイーズは日向ぼっこをしていた。
長椅子に寝転んでいると、空を飛ぶ鳥が、よりによってルイーズの真上で糞をした。
ルイーズはその瞬間を見たと言う。
糞が降って来るのがスローモーションのように分かったが、避ける事が出来なかったと言っている。
なぜなら急な動きは体に悪いと、8年間生きてきて知っていたからだ。
だから瞬時に状況を分析し、ケガはしないだろうと判断し、敢えて糞を受けた。
額に。
それがきっかけだった。
ルイーズが思ったよりも額に糞を受けた衝撃は大きかった。
ポツン、という刺激を予想していたのに、実際はガーンと脳みそを震わせる衝撃がルイーズを襲った。
「ひっ!」
短い悲鳴を上げてルイーズは、鳥の糞による脳震盪で気を失ってしまった。
そして意識が戻らないまま十日間も寝込み、親族一同を心配させた。
目を覚ました時には、ルイーズの記憶に前世の記憶がはっきりと蘇っていた。
予感が的中してしまったブルージュ公爵は、百五十年振りの転生者となってしまった娘を心配した。
だが、娘はいつもの娘で、人格が入れ替わった訳ではないらしい。
ルイーズの記憶に、前世の記憶が追加されただけのようだ。
華奢な肢体に可憐な容姿の娘が醸し出す儚さは、前世の記憶が蘇っても変わらなかった。
「それで、前世での名前は解る?」
ブルージュ公爵の問いかけに娘は細い愛らしい声で
「ガルガン」
と答えた。
「!!!」
その場にいた皆に衝撃が走った。
ガルガンとはラマティア王国建国の立役者の一人、『白い災い』という異名で語り継がれている狂戦士の名だったのだ。
現ブルージュ公爵は、王弟殿下が指揮する、王立騎士団の一軍を担う近衛騎士団の団長をしている。
その娘ルイーズはブルージュ公爵家に生まれた特別だった。
幼い頃から可愛らしく人々を虜にする魅力に溢れていたが、何より目を引いたのはその儚さだった。
生まれつき身体が弱く、少しの刺激で倒れてしまうルイーズは皆の心配の種で、親や親族だけでなく、従者や使用人までもが彼女について回り、見守り隊となった。
細く小さく幼い少女は時折失神したり、熱を出したりしたものの、皆に見守られて優しくおしとやかに育った。
体力面では恵まれなかった一方、頭の良さは並外れていた。
記憶力も良く、一を教えて十を知る、どころではなく、百も二百も理解を及ぼす素晴らしさであった。
そのちぐはぐさにブルージュ公爵は一抹の不安を抱えていた。
頭脳における早熟さは、ブルージュ家に伝わる不思議現象の共通点である。
「でもルイーズは女の子だし、あまりに体力がない。気のせいだと良いのだが」
親族の間でもルイーズのアンバランスさは話題になっていたが、彼女が愛すべき少女であることは変わらない。一様に注意深く見守っていた。
ブルージュ家には秘密の不思議現象があった。
それは、このラマティア王国1000年の歴史に名を残す戦士が、時折転生してくるという怪奇に近い現象だった。
それはブルージュの血が濃い男に限られていた。
転生者の魂を抱えて生まれた子供は一様に早熟で、長じるとクソ強かった。ブルージュ家を武力の家系と位置付けるのも、この不思議現象のお陰だ。
そしてこの秘密は、王家にのみ明かされていた。その為、いつ転生者が生まれても対応出来るように、代々騎士団の要職に収まっていることがブルージュ家の義務となったのだ。
ルイーズが歴史上初めての女性転生者かもしれない。
ブルージュ家の心配が当たってしまったのは、ルイーズが8歳になった頃だ。
旅行に出かけた湖の畔で、ルイーズは日向ぼっこをしていた。
長椅子に寝転んでいると、空を飛ぶ鳥が、よりによってルイーズの真上で糞をした。
ルイーズはその瞬間を見たと言う。
糞が降って来るのがスローモーションのように分かったが、避ける事が出来なかったと言っている。
なぜなら急な動きは体に悪いと、8年間生きてきて知っていたからだ。
だから瞬時に状況を分析し、ケガはしないだろうと判断し、敢えて糞を受けた。
額に。
それがきっかけだった。
ルイーズが思ったよりも額に糞を受けた衝撃は大きかった。
ポツン、という刺激を予想していたのに、実際はガーンと脳みそを震わせる衝撃がルイーズを襲った。
「ひっ!」
短い悲鳴を上げてルイーズは、鳥の糞による脳震盪で気を失ってしまった。
そして意識が戻らないまま十日間も寝込み、親族一同を心配させた。
目を覚ました時には、ルイーズの記憶に前世の記憶がはっきりと蘇っていた。
予感が的中してしまったブルージュ公爵は、百五十年振りの転生者となってしまった娘を心配した。
だが、娘はいつもの娘で、人格が入れ替わった訳ではないらしい。
ルイーズの記憶に、前世の記憶が追加されただけのようだ。
華奢な肢体に可憐な容姿の娘が醸し出す儚さは、前世の記憶が蘇っても変わらなかった。
「それで、前世での名前は解る?」
ブルージュ公爵の問いかけに娘は細い愛らしい声で
「ガルガン」
と答えた。
「!!!」
その場にいた皆に衝撃が走った。
ガルガンとはラマティア王国建国の立役者の一人、『白い災い』という異名で語り継がれている狂戦士の名だったのだ。
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