「追放王子の冒険譚」

蛙鮫

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「アルドュヴラ」

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 洞窟奥深くの中、アーケオは死の危険を感じていた。

「キュエエエエエエエエエエ!」
 アルドュヴラが侵入者に向かって奇声を上げた。凄まじい気圧を感じる。叫び声一つでアーケオは即座に理解した。今まで出くわしてきた魔物とは明らかに強さの格が違う。

 突然、アルドュヴラが移動を始めた。まるでアーケオ達を見定めるように彼らの周りを旋回し始めたのだ。

「なんて速さ。砂の上にいてここまで早く動けるなんて」
 アルドュヴラがまるで滑るように砂の上を移動している。そして、鋭利な尻尾の先端を鞭のように伸ばして来た。先端に刺さっても危険。尾の打撃を受けてもおそらく骨折は免れない。

「ふん!」
 アーケオは力強く木刀を叩きつけたが、びくともしない。全身を覆う殻があまりにも硬かったのだ。
「アーケオ様! 下がってください!」
 マシュロが下がるように言った瞬間、アルドュヴラの尻尾の先端から粘着質な紫色の球をいくつも飛ばしてきた。それが砂に触れた時、砂が紫に変色した。

「気をつけろ! 猛毒だ!」
 リーシアの言葉に緊張感を覚えた。

「ふん!」
 クリスが接近して剣で切りつけた。しかし、硬い鱗のせいか傷一つついていない。

「鉄みたいに固い!」
 リーシアが苦虫を噛みながら、後方に引き下がった。当初は巣の特定次第、帰る予定だったが今はそれどころではなくなった。

 マシュロがナイフを構えて、アルドュヴラの方に走っていく。そして、足元に滑り込んで、足を斬りつけた。

 するとアルドュヴラが態勢を崩した。

「みなさん! 関節部分を狙ってください! 関節部分は殻で覆われていません!」

「そうか。体の構造上。関節の部分は覆えないんだ!」

「いくぞ!」
 アーケオはクリス、リーシアとともに足の関節部分めがけて走った。

 しかし、アルドュヴラも察したのか。尻尾の先端から猛毒をいくつも飛ばしてきた。アーケオ達はなんとか躱して、関節への攻撃を開始した。

 アルドュヴラがコバエを振り払うように全身を左右に大きく揺らしている。危険を感じたところでアーケオ達は足元から離れた。

「関節が弱点なのは分かったけど致命傷にはならないか」
 アーケオは歯ぎしりをしながら強敵に目を向けた。彼の中に残っていた打開策は一つしかなかった。

「やるしかない!」
 アーケオは木刀を強く握った。木刀が黄金の輝きを放ち始めて、日光で明るくなった洞窟内をさらに光一色にした。

「これでどうだ!」
 木刀を勢いよく降ると黄金の斬撃が飛び出た。斬撃が砂漠の主に直撃して、衝撃で砂埃が宙を舞った。

「やったか」
 アーケオは息を殺すように砂埃の向こう側を眺める。埃が晴れた。巨大な魔物は倒れていなかった。右肩から青色の血を吹き出しながら、アーケオを睨みつけていた。

「あれで倒れないなんて」
 アーケオは動揺しているとアルドュヴラが察したのか、凄まじい速度で距離を詰めてきた。

 するとアルドュヴラが出した尾がクリスの胴に直撃した。

「がはっ!」
 クリスが口から血を吐きながら、岩壁に飛んでいった。

「クリス!」
 リーシアが彼の元に駆け寄った。しかし、それを防ごうとアルドュヴラが彼女の背中を追いかける。

 そんな砂漠の長をマシュロが未だに治らない傷口にナイフを刺して、止めた。アーケオは斬撃の影響で疲労がきていた。

 このままでは全滅してしまう。アーケオの脳裏に最悪のシナリオが浮かんだ。
 その時、数日前の事を思い出した。魔法鑑定の件だ。自分の能力は斬撃ではない。勇者の武器を生み出すことだ。

 アーケオは木刀を握った。そして、いつもと同じように力を込めた。その際、視界の端ではマシュロがアルドュヴラと格闘している。早くしなければ彼女が危ない。

「僕が守る! もっと力を!」
 その時、木刀がさらに輝きを増し始めた。すると木刀の形が変わり始めた。そこにはあったのは黄金に輝く剣だった。アーケオはこの剣に見覚えがあった。

 それは父であるルーベルト・ローゼンが腰からかけていた勇者の剣そのものだった。木刀が変化したのだ。

「体がつらいな」
 勇者の剣を作り出すと途端に体が重くなったのを感じた。まだ能力を使いこなせていない証拠だ。しかし、それでもアーケオは戦わなくてはいけないのだ。

「いくぞ!」
 アーケオは砂を蹴って、駆け出した。アーケオは剣をアルドュヴラに向かって振った。ビクともしなかった殻が薄氷のように割れたのだ。

「オオオオオオオオ!」
 アルドュヴラがマシュロの相手をやめて、アーケオに向かってきた。アーケオは気だるさを置いていくように全力で体を動かした。

「ふん!」
 アルドュヴラの真正面に近づいて、目を切って視界を奪った。洞窟内に巨大サソリの叫び声が響き渡った。

「はあああ!」
 アーケオは確実に仕留められるようにアルドュヴラの脳天を剣で突き刺した。脳天を覆っていた硬い殻が砕けて、そのまま脳を潰した。

「オオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 アルドュヴラが脳天から血を噴き出しながら、のたうちまわっている。耳が壊れそうなほどの奇声を発した後、動かなくなった。

「やったあ」
 アーケオはその場に膝から崩れ落ちた。今までこんな相手と戦ったことがなかったから思った以上に気を張っていたようだ。

「アーケオ様! ご無事ですか!」
 マシュロが額から汗を流しながら、駆け寄って来た。

「うん。なんとか」
 アーケオの足は疲労で震えていた。今までこんな経験はなかったので、彼自身驚いていた。

「三皇魔の一角を討伐したんです。誇ってください」
 マシュロが荷物入れから水を差し出してくれた。アーケオは受け取って、強敵との戦いで乾ききった体を潤した。

「アーケオ! 無事か!」
 クリスとリーシアが砂に足を取られながら、歩いて来た。
「木刀が・・・・・・」
 マシュロがアーケオの持つ剣を見て、呟いた。

「どうやらこれが僕の魔法の真の効果らしいね」
 アーケオは疲労感を浮かべながら、笑みを作った。アーケオはしばらく討伐の余韻に浸っていた。
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