「黒炎の隼」

蛙鮫

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「這いずる絶望」

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 松阪隼人は静かに一点を見ていた。眼前には迦楼羅。鳥籠の首領だ。その近くで鳳鷹と白峰揚羽が俯いている。

 宿敵を討伐して、達成感はあるが同時になんとも言えない虚しさも覚えた。

「隼人。父さんを許してほしい。とまでは言わないけど父もきっと苦しんでいたと思うんだ」

 迦楼羅の行いは許されるものでもないし、肯定されるべきもない。しかし、自身の祖父に剣を教えて友として思い続けた。迦楼羅が抱き続けていた苦悩はきっと隼人と同じものだ。

「ああ。分かった」
 隼人は口元に笑みを作って首肯した。

「みんな。乗ってくれ!」
 近くを飛んでいた柘榴がヘリを近くまで持ってきた。隼人は鵙の遺体を一瞥した後、機体に乗り込んだ。
「すまなかった。援護する間もなかった」

「いえ。私たちも手一杯だったんで」

「迦楼羅は討伐できましたが、もっと厄介な奴が残っています」
 隼人は未だに厄災をばら撒き続けるヴリトラを睨んだ。

「アレを倒さねえとこの災害は終わらない」

「オオオオオオオオオオオオオ!」
 突然、ヴリトラが耳を劈くような雄叫びを上げ始めた。隼人は耳を抑えながら、その光景に眼を向けた。

 すると体の至る所から忌獣がぞろぞろと姿を見せたのだ。

「ゲルル」
 姿形が異なる忌獣達が唸り声を上げている。おそらく迦楼羅との死闘を終えたので、動きが活発になったのだ。

 地面が崩壊しそうな程の轟音が辺りから聞こえる。ヴリトラが大地を荒らしているのだ。

「あとは脳みそぶっ潰すだけだってのに」
 隼人は手渡された水のペットボトルで額を冷やした。辺りを見ると皆、顔色が良くない。

 迦楼羅との壮絶な戦いによるものだ。その前にも結巳の兄である光とも死闘を繰り広げている。

 隼人の体は既に悲鳴を上げていた。それでも戦わなくてはいけない。

 隼人は腕を組んで、思考を回していく。幹部の柘榴も隼人達の邪魔をしようとする忌獣を撃ち殺すので体力をかなり使っている。

 地上にいる戦闘員に要請をかけても、待っているうちにヴリトラが街に到達してしまう。

「クソ。どうすれば」

「方法が一つだけある」
 張り詰めた空気に光明を指すように鷹が口を開いた。

「なんだ?」

「僕が再び、血で君の影焔を燃やす」
 その言葉で隼人は希望が持てた。迦楼羅との死闘で鷹の血は影焔を使用する上ですごく助かったのだ。

 しかし、明らかに鷹の様子は限界だった。

「僕や結巳さん、揚羽さんも攻撃の威力が足りない。だから君に任せたい」

「でもそれ以上、やったらお前」
 隼人は恐れていた。この答えが返って来ることだ。それは微かに察しがついていたからだ。

「僕は、命を落とすだろうね」
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