「黒炎の隼」

蛙鮫

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「結巳と光」

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頭上で怪物の鳴き声聞こえる中、隼人は結巳、揚羽、そして再会したばかりの親友。鳳鷹と森の中を走っていた。

 しかし、突然の再会ということもあり隼人は心が揺れ動いていた。

「実感が湧かない?」

「少しな」
 すぐ隣で鷹が微笑んだ。六年前と何一つ変わらない優しい笑顔。それを見るとどっか安心感を覚えた。

「なら! 走ろう!」

「えっ?」
 突然の発言に驚いていると鷹が風を切りながら、走って行った。隼人も負けじと足を動かしていく。

「覚えている? よく鬼ごっこした事」
 その言葉をきっかけに隼人の脳裏にかつての情景が浮かんだ。日が暮れるまで山の中を駆け回った日々だ。

「ああ、いつもお前に負けてた。でも!」
 隼人は足に力を入れて、強く地面を蹴った。拮抗し合う二人。あまりの速さに後方にいた結巳と揚羽がなんとも言えない表情が作っていた。

「負けるかああ!」
 なんと隼人は鷹を追い越したのだ。

「早くなったね」
 鷹が眉を八の字のようにして、笑った。友と共に走り、競争で勝った。僅かな幸福感が隼人の内心を満たした。



 しばらくすると怪物のすぐそばまで近づいた。ヘリでも近づけない以上、直接背に登るしか討伐する手段がない。

「分かっていたけど、とんでもなくでかいな」

「これに登るのね」

「一苦労しそうだね」

「気を引き締めていこう」
 隼人達は覚悟を決めて、怪物の胴体に足をつけた。不安定な足元に気を配りながら、確実に上へと進んでいく。

「やっぱり安定しないな」

「まあ、怪物の背中だからね」
 不満を垂らしながらも、進んでいると前に見える怪物が不規則に動いているのが見えた。

 するとそれはやがて一つの形となって姿を見せた。

「忌獣」
 隼人は聖滅具を構えていると周囲から次々と似たような姿の忌獣が出現してきた。

「走るわよ!」
 結巳の言葉に従い、隼人達は迫り来る忌獣達を次々と斬り伏せていく。

 隼人は忌獣達を討伐しつつ、鷹の姿を横目で確認した。彼の動きも凄まじく忌獣を瞬く間に細切れにしてきた。

 迦楼羅の息子は伊達ではない。そんな事を考えて、進んでいるととある事に気がついた。

「ここ。ヘリが落とされた場所だ」
 つい先ほどまで隼人達が乗っていたヘリコプター。それが攻撃されたのがちょうどこの位置だったのだ。

「ここでヘリは光に攻撃された。あそこから出た閃光に」
 隼人は怪物のさらに上を指差した。

「光。まさか」
 結巳が隼人の指差したを睨みつけた。彼女は察しているのだ。ヘリコプターを墜落させた犯人を。

「隼人。聖堂寺さんはそっちに行って。あそこにいるのはおそらく首長だ」

「鷹は?」

「僕と白峰さんは父を止めにいく。おそらく頭上にいる」

「私もお父様を止めたい」
 鷹と揚羽が目を合わせた。血は繋がっていないとはいえ、同じ父親に育てられたもの同士だ。

「俺達もなるべく早くそっちに追いつく」
 隼人は言葉に鷹が頷いた。そうして隼人と結巳。鷹と揚羽でそれぞれの戦場に向かった。

 


 遠くから戦闘員の叫び声と破壊音が聞こえる中、隼人と結巳は目的地まで進み続けた。しばらくすると一人の人物の姿が見えた。

「おや、松阪くん。それと結巳」
 
「聖堂寺光」

「兄さん」
 結巳が緊張したような表情で光に目を向けた。

「去りなさい、結巳」
 光が途端に威圧するような目を結巳に向けてきた。少し萎縮したが、すぐに気持ちを切り替えて、剣を抜いた。

「あなたを止めます」

「無謀ですね。私を止めるのもこの怪物を止める事もね」
 光がそう言い、足元で蠢く怪物の背中に目を向けた。

「この怪物はなんですか?」

「ヴリトラ。遥か昔に私達の先祖が討伐した怪物です。V因子も元をたどれば、この怪物の細胞なんですよ」

「ならこいつから全てが」

「ええ。我らの先祖が討伐し、血肉を食った事から全てが始まった」
 光が氷のように冷たい視線を隼人達の方に向けて来た。殺気とも虚無感ともとれるその目は言いようのない違和感を孕んでいた。

「聖堂寺の繁栄も呪われた歴史も、今日に至るまでの争いは全てこの怪物から始まった。だから鳥籠との因縁も対策本部との争いの歴史もこの怪物を以って全て終わらせる」
 光が刀剣型の聖滅具を取り出すと、周りに流れる空気が一気に張り詰めた。

 死闘が始まる。隼人は体の節々で感じていた。
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