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「飛び立つ」
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静まり返った日本家屋の中、幼い白峰揚羽は一人で鞠を打っていた。
物心ついた時から毎日、主人である迦楼羅の為に礼儀作法や剣術、武術の鍛錬に追われる日々を送っていた。
多忙の中で唯一の息抜きでこうして、鞠と戯れるのだ。幼少の頃から親兄弟はおらず、ただ与えられたおもちゃで余暇を過ごしていた。
すると障子が静かに開いた。そこにいたのはいつも彼女に作法を教える講師の女性がいた。
「揚羽。迦楼羅様がお呼びです」
「はい」
遊んでいた鞠を畳の上に置くと、女性とともに迦楼羅のところへ向かった。
「迦楼羅様。お連れしました」
女性が襖を開けると座敷の中に黒い仮面をつけた人物が座っていた。
「お初お目にかかります。白峰揚羽と申します」
揚羽が折り目正しく、額を地面につけた。
「今日から君は私の娘だ。よろしくね、揚羽」
迦楼羅の大きな手が彼女の後頭部を優しく撫でた。その時、乾いた彼女の心に何か温かいものが染み込んだ
その日から迦楼羅の直接指導の元、彼女は剣術や武術を磨いた。
迦楼羅の望みは私対策本部最強の職員、北原ソラシノを倒せるほど強くする事と亡き息子の後釜にする事だった。
しかし、彼女が何度挑んでも迦楼羅にかすり傷一つつけられない。
「こんなものでは北原ソラシノはおろか、私を超えるなど不可能だ」
仮面の奥から放たれる冷たい声。期待に応えられない罪悪感から心臓が締め付けられるように苦しくなる。
「まだ! まだです!」
彼女は何度も立ち上がり、迦楼羅に挑んだが結果は同じだった。それから彼女は毎日休むことなく刃を振るい続けた。
ある日、迦楼羅がある青年の情報を耳に入れた。その青年は単独で忌獣を討伐するという事だった。
彼との接触及び、金剛杵学園と忌獣対策本部の工作活動を行うために金剛杵学園に入学することになった。
初めての学校。初めての授業。初めての友達。それまで世間における普通を知らなかった彼女にとって全てが新鮮だった。
その傍、対策本部内の情報収集や松阪隼人の暗殺なども企てていたが、いつしかそれを拒んでいる自分がいた。
学園での日々が楽しくなっていたのだ。確実に隼人やその友人である結巳達に情が生まれた。
いつしかその境目は彼女の心を蝕んでいた。
「ごめん」
「もういいんだ。自分を認めてやれ」
隼人は揚羽の頭を優しく撫でた。かつて頭の上に感じた迦楼羅の手の温もり。
再び、それを味わえる為なら血の滲むような努力も惜しまなかった。
彼女はただ、誰かに認められたかったのだ。誰かにとって掛け替えのない存在になりたかった。
「ごめん。ごめんさない」
揚羽の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていく。
今日、彼女は父という蛹から飛び立った。
物心ついた時から毎日、主人である迦楼羅の為に礼儀作法や剣術、武術の鍛錬に追われる日々を送っていた。
多忙の中で唯一の息抜きでこうして、鞠と戯れるのだ。幼少の頃から親兄弟はおらず、ただ与えられたおもちゃで余暇を過ごしていた。
すると障子が静かに開いた。そこにいたのはいつも彼女に作法を教える講師の女性がいた。
「揚羽。迦楼羅様がお呼びです」
「はい」
遊んでいた鞠を畳の上に置くと、女性とともに迦楼羅のところへ向かった。
「迦楼羅様。お連れしました」
女性が襖を開けると座敷の中に黒い仮面をつけた人物が座っていた。
「お初お目にかかります。白峰揚羽と申します」
揚羽が折り目正しく、額を地面につけた。
「今日から君は私の娘だ。よろしくね、揚羽」
迦楼羅の大きな手が彼女の後頭部を優しく撫でた。その時、乾いた彼女の心に何か温かいものが染み込んだ
その日から迦楼羅の直接指導の元、彼女は剣術や武術を磨いた。
迦楼羅の望みは私対策本部最強の職員、北原ソラシノを倒せるほど強くする事と亡き息子の後釜にする事だった。
しかし、彼女が何度挑んでも迦楼羅にかすり傷一つつけられない。
「こんなものでは北原ソラシノはおろか、私を超えるなど不可能だ」
仮面の奥から放たれる冷たい声。期待に応えられない罪悪感から心臓が締め付けられるように苦しくなる。
「まだ! まだです!」
彼女は何度も立ち上がり、迦楼羅に挑んだが結果は同じだった。それから彼女は毎日休むことなく刃を振るい続けた。
ある日、迦楼羅がある青年の情報を耳に入れた。その青年は単独で忌獣を討伐するという事だった。
彼との接触及び、金剛杵学園と忌獣対策本部の工作活動を行うために金剛杵学園に入学することになった。
初めての学校。初めての授業。初めての友達。それまで世間における普通を知らなかった彼女にとって全てが新鮮だった。
その傍、対策本部内の情報収集や松阪隼人の暗殺なども企てていたが、いつしかそれを拒んでいる自分がいた。
学園での日々が楽しくなっていたのだ。確実に隼人やその友人である結巳達に情が生まれた。
いつしかその境目は彼女の心を蝕んでいた。
「ごめん」
「もういいんだ。自分を認めてやれ」
隼人は揚羽の頭を優しく撫でた。かつて頭の上に感じた迦楼羅の手の温もり。
再び、それを味わえる為なら血の滲むような努力も惜しまなかった。
彼女はただ、誰かに認められたかったのだ。誰かにとって掛け替えのない存在になりたかった。
「ごめん。ごめんさない」
揚羽の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていく。
今日、彼女は父という蛹から飛び立った。
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