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「羽化」
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雑草を踏みしめて、隼人は揚羽に斬りかかった。揚羽がそれに対応するように剣を振るってきた。
さすがは迦楼羅の娘というべきだろう。そんな事を思っていると鋭い一撃が飛んできた。
「何か考え事でもしてた?」
「いいや。今、頭にあるのはお前を戦闘不能にすることだけだ!」
隼人は揚羽を押し切って、黒炎を刀身に灯した。芯から体温が上昇するのを感じながら、斬りかかって行く。
「本当。その炎厄介だよね。身体能力上がっているし、斬られたら痛いし」
「なら降参するか!?」
「いいえ!」
揚羽が再び、V因子を纏った刀身を振りかざしてきた。隼人も負けじと刃を重ねた時、ぶつかった衝撃で凄まじい勢いで突風が巻き起こった。
勢いのあまりに後ずさる隼人。目の前を見ると揚羽も後ずさって、余裕のある笑みを向けていた。
「すげー強いな。ここまで強いと思わなかったよ」
隼人は傷ついた体をゆっくりと起き上がらせた。予想以上の彼女の猛攻の数々に彼はかなり疲弊していた。
「嬉しい。松阪くん。あまり人を褒めるイメージじゃないから」
「他人を褒めてやれるほど、腕が立っていないからな。でも、負ける気はしねえ」
隼人は静かに刀を構えて、闘志を再び刃に込めた。
額から汗を流しながら、隼人は眼前の少女に意識を集中する。どうやって懐を入り込むか。
仕掛けるタイミングを見計らっているそれを知ったいたかのように揚羽がこちらに走って来た。
何度も重なる刃と刃。しかし、隼人は察していた。彼女の動きが勢い任せになっているのだ。
故に動きも乱雑で読みやすくなっていた。
「さっきより動きがぎこちなくなっているぞ。なんか迷っているのか?」
「迷い? 戦場は迷った方が負けちゃうんだよ? 迷いなんて私にはないよ!」
「なんで白峰は戦うんだ?」
「当主になるためだよ。そうしたらお父様に認めてもらえる。私は満たされる!」
揚羽が再び、黒い蝶を大量に発生させた。触れるものを枯らせる無数の毒蝶。
これ以上、戦いを長期させるのは今後の迦楼羅との死闘に影響しかねない。隼人は早急に終わらせようと自身の血を刀身に注いだ。
「燃え上がれ! 影焔!」
刀身を燃え盛る黒炎が覆い尽くしていく。体の芯から燃え上がるような熱さを感じる。
そして、迫り来る脅威を焼いていく。燃え散っていく蝶の死骸の尻目に揚羽の元へ走る。
「なっ! 早い!」
予想外の速度だったのか、彼女の表情には焦燥感が見られた。このまま行けば勝てる。
勝利は目前だった。しかし、隼人に迷いがあった。本当にこのまま打ち取って良いのかという疑問だ。
「はああ!」
隼人は揚羽の首ではなく、彼女が持っていた刀の刀身を叩き切った。折れた頭身が地面に落ちて、辺りに静けさが漂った。
「何のつもり?」
「まだやり直せる」
「情に訴えるのはやめて。私たちは敵同士よ」
「お前は楽しくなかったのか? 俺達と過ごした日々は」
左手で揚羽の手首を掴んで、渾身の力で引き寄せた。
「なっ! 何のつもり?」
少し動揺したのか、揚羽が上ずったような声で訪ねてきた。無理もない。先ほどまで死闘を繰り広げていた相手に諭されているのだ。
「俺は楽しかったぞ」
時折、距離が近すぎる彼女。それでも人付き合いを避けてきた隼人にとって他者と触れ合うきっかけを作ってくれた人物だ。
「やめて。聞きたくない」
「白峰のおかげで俺、人と関わるのが少し楽しくなったぞ」
例えそれが全て、嘘だったとしても隼人にとって楽しい日々だったのは事実である。
「やめてって言っているでしょう!」
「じゃあ、なんで今まで殺さなかった! タイミングならいくらでもあったはずだ。二人で屋上に上がった時もそうだ!」
本当に殺す気ならいつでも殺すタイミングはあった。しかし、彼女はそれをしなかった。
「それは」
言葉が詰まっているのか、彼女が口元を小刻みに震わせている。隼人は彼女の周りから漂っていた殺意が薄れていくのを感じた。
さすがは迦楼羅の娘というべきだろう。そんな事を思っていると鋭い一撃が飛んできた。
「何か考え事でもしてた?」
「いいや。今、頭にあるのはお前を戦闘不能にすることだけだ!」
隼人は揚羽を押し切って、黒炎を刀身に灯した。芯から体温が上昇するのを感じながら、斬りかかって行く。
「本当。その炎厄介だよね。身体能力上がっているし、斬られたら痛いし」
「なら降参するか!?」
「いいえ!」
揚羽が再び、V因子を纏った刀身を振りかざしてきた。隼人も負けじと刃を重ねた時、ぶつかった衝撃で凄まじい勢いで突風が巻き起こった。
勢いのあまりに後ずさる隼人。目の前を見ると揚羽も後ずさって、余裕のある笑みを向けていた。
「すげー強いな。ここまで強いと思わなかったよ」
隼人は傷ついた体をゆっくりと起き上がらせた。予想以上の彼女の猛攻の数々に彼はかなり疲弊していた。
「嬉しい。松阪くん。あまり人を褒めるイメージじゃないから」
「他人を褒めてやれるほど、腕が立っていないからな。でも、負ける気はしねえ」
隼人は静かに刀を構えて、闘志を再び刃に込めた。
額から汗を流しながら、隼人は眼前の少女に意識を集中する。どうやって懐を入り込むか。
仕掛けるタイミングを見計らっているそれを知ったいたかのように揚羽がこちらに走って来た。
何度も重なる刃と刃。しかし、隼人は察していた。彼女の動きが勢い任せになっているのだ。
故に動きも乱雑で読みやすくなっていた。
「さっきより動きがぎこちなくなっているぞ。なんか迷っているのか?」
「迷い? 戦場は迷った方が負けちゃうんだよ? 迷いなんて私にはないよ!」
「なんで白峰は戦うんだ?」
「当主になるためだよ。そうしたらお父様に認めてもらえる。私は満たされる!」
揚羽が再び、黒い蝶を大量に発生させた。触れるものを枯らせる無数の毒蝶。
これ以上、戦いを長期させるのは今後の迦楼羅との死闘に影響しかねない。隼人は早急に終わらせようと自身の血を刀身に注いだ。
「燃え上がれ! 影焔!」
刀身を燃え盛る黒炎が覆い尽くしていく。体の芯から燃え上がるような熱さを感じる。
そして、迫り来る脅威を焼いていく。燃え散っていく蝶の死骸の尻目に揚羽の元へ走る。
「なっ! 早い!」
予想外の速度だったのか、彼女の表情には焦燥感が見られた。このまま行けば勝てる。
勝利は目前だった。しかし、隼人に迷いがあった。本当にこのまま打ち取って良いのかという疑問だ。
「はああ!」
隼人は揚羽の首ではなく、彼女が持っていた刀の刀身を叩き切った。折れた頭身が地面に落ちて、辺りに静けさが漂った。
「何のつもり?」
「まだやり直せる」
「情に訴えるのはやめて。私たちは敵同士よ」
「お前は楽しくなかったのか? 俺達と過ごした日々は」
左手で揚羽の手首を掴んで、渾身の力で引き寄せた。
「なっ! 何のつもり?」
少し動揺したのか、揚羽が上ずったような声で訪ねてきた。無理もない。先ほどまで死闘を繰り広げていた相手に諭されているのだ。
「俺は楽しかったぞ」
時折、距離が近すぎる彼女。それでも人付き合いを避けてきた隼人にとって他者と触れ合うきっかけを作ってくれた人物だ。
「やめて。聞きたくない」
「白峰のおかげで俺、人と関わるのが少し楽しくなったぞ」
例えそれが全て、嘘だったとしても隼人にとって楽しい日々だったのは事実である。
「やめてって言っているでしょう!」
「じゃあ、なんで今まで殺さなかった! タイミングならいくらでもあったはずだ。二人で屋上に上がった時もそうだ!」
本当に殺す気ならいつでも殺すタイミングはあった。しかし、彼女はそれをしなかった。
「それは」
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