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「闇夜の蝶」
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休憩を終えた隼人と結巳は夜の森を駆けていた。奏との戦いで疲労を感じているが、長く休んでいる暇はない。
いち早く迦楼羅と光を止めてこの戦いに終止符を打つ。その時、近くに茂みが揺れた。
これまでの経験で何が飛び出て来るかは容易に想像できた。
「グオオオオオオ!」
「ギャオオオオオオ!」
忌獣の群れが木の枝や葉を散らして、暗闇が出て来た。獣や爬虫類、虫。様々な姿をした忌獣が鋭い目をこちらに向けている。
「はああ!」
隼人と結巳は迫り来る忌獣を次々と蹴散らしていく。腕、脚、首、空を舞う鳥のように軽やかに討伐する。
しかし、倒されるたびに忌獣が茂みの中からぞろぞろと姿を見せた。
「くそ! キリがない! なんでこんなに多くなっているんだ?」
「おそらく本部に近づいているという事でしょう」
「なるほどね。でもこれだけ多いなら近づくなんて無理だろう」
そうこうしていると次々と忌獣が出て来る。
「私が忌獣達の気を引く。だから松阪君は先に行って」
「だめだ。この数を一人で相手取るのは無謀だ」
「頃合いを見計らって逃げるわ。あなたの向かう場所は向かう場所は分かっているし。どうするの? このまま二人、共倒れになるか」
隼人は逡巡した。この無数の忌獣の中に結巳を一人、残すのには抵抗感がある。
しかし、時間はない。一刻も早く迦楼羅と光を止めたい。隼人の中で決心が固まった。
「必ず追いついてこいよ」
「当然!」
結巳が勢いよく、地面に剣を突き刺した。すると忌獣達の真下から一斉に氷柱が伸びた。
「さあ! 行って!」
「おう!」
忌獣が足止めされている隙に隼人は全速力で森を駆け抜けた。
しばらく進んでいるとある事に気がついた。
「忌獣がいない?」
先ほどまで蛆のように沸いていた忌獣が一体も出てこないのだ。それどころか足跡もない。
「少なくともここはさっきのところよりはアジトに近い。一体なぜ」
「あっ! 松阪くん! 久しぶり」
聞き覚えのある声が耳に入った。声のする方に目を向けると太い木の幹に彼女がいた。
白峰揚羽。隼人と結巳の友人がいたのだ
「白峰。なんでここに」
「ん? 私もお仕事だよ」
白峰が眩しいばかりの笑みで応えた。しかし、隼人は違和感を抱いた。
「お仕事?」
「そうだよ。うん。松阪君達の足止めって言うね」
そういい彼女がにこやかな笑顔を浮かべたまま、日本刀を取り出した。
「どういうつもりだ」
「もう。この状況で大体、察しはついているでしょ?」
彼女のいう通りだ。ただ信じたくなった。
「それにしても松阪君って強いよね。尊さんや文化祭でお父様と戦っても死なないんだもんね」
「お父様?」
隼人は脳内で思考を巡らせていく。するとある事を思い出した。合宿の時、彼女は父と電話していた時の事だ。
そして、先ほどの発言。思い浮かぶ考えは一つだった。
「お前だったんだな。鳥籠のスパイ」
「正解! よく分かりましたね!」
揚羽が花開いたような笑顔で拍手をした。
「合宿の時に幹部を島に連れて来たのもか?」
「そうだよー お父様の命令でね」
正体を明かしてもなお、一定のテンションで話し続ける彼女に隼人は不気味さを覚えていた。
感情の機微が一切、感じられない。その事があまりにも不自然で恐ろしく感じたのだ。
「いやー。松阪くんとは一対一で戦いたかったんだ。どっちの方が強いか。同じ剣術を使うもの同士でね」
「へえ、でも刀を使えないんじゃーー」
言葉を続けようとした時、彼女が凄まじい速度で斬りかかってきた。一瞬だった。
隼人は間一髪交わしたが、あと少し遅ければ首が飛んでいた。
「これで説明はいらないね」
「そうだな」
隼人は聖滅具を起動させて、剣先を向けた。
「いくよ。松阪くん」
彼女は隼人がこれまでとは想像もつかないほど、狂気と殺意に満ちていた。
いち早く迦楼羅と光を止めてこの戦いに終止符を打つ。その時、近くに茂みが揺れた。
これまでの経験で何が飛び出て来るかは容易に想像できた。
「グオオオオオオ!」
「ギャオオオオオオ!」
忌獣の群れが木の枝や葉を散らして、暗闇が出て来た。獣や爬虫類、虫。様々な姿をした忌獣が鋭い目をこちらに向けている。
「はああ!」
隼人と結巳は迫り来る忌獣を次々と蹴散らしていく。腕、脚、首、空を舞う鳥のように軽やかに討伐する。
しかし、倒されるたびに忌獣が茂みの中からぞろぞろと姿を見せた。
「くそ! キリがない! なんでこんなに多くなっているんだ?」
「おそらく本部に近づいているという事でしょう」
「なるほどね。でもこれだけ多いなら近づくなんて無理だろう」
そうこうしていると次々と忌獣が出て来る。
「私が忌獣達の気を引く。だから松阪君は先に行って」
「だめだ。この数を一人で相手取るのは無謀だ」
「頃合いを見計らって逃げるわ。あなたの向かう場所は向かう場所は分かっているし。どうするの? このまま二人、共倒れになるか」
隼人は逡巡した。この無数の忌獣の中に結巳を一人、残すのには抵抗感がある。
しかし、時間はない。一刻も早く迦楼羅と光を止めたい。隼人の中で決心が固まった。
「必ず追いついてこいよ」
「当然!」
結巳が勢いよく、地面に剣を突き刺した。すると忌獣達の真下から一斉に氷柱が伸びた。
「さあ! 行って!」
「おう!」
忌獣が足止めされている隙に隼人は全速力で森を駆け抜けた。
しばらく進んでいるとある事に気がついた。
「忌獣がいない?」
先ほどまで蛆のように沸いていた忌獣が一体も出てこないのだ。それどころか足跡もない。
「少なくともここはさっきのところよりはアジトに近い。一体なぜ」
「あっ! 松阪くん! 久しぶり」
聞き覚えのある声が耳に入った。声のする方に目を向けると太い木の幹に彼女がいた。
白峰揚羽。隼人と結巳の友人がいたのだ
「白峰。なんでここに」
「ん? 私もお仕事だよ」
白峰が眩しいばかりの笑みで応えた。しかし、隼人は違和感を抱いた。
「お仕事?」
「そうだよ。うん。松阪君達の足止めって言うね」
そういい彼女がにこやかな笑顔を浮かべたまま、日本刀を取り出した。
「どういうつもりだ」
「もう。この状況で大体、察しはついているでしょ?」
彼女のいう通りだ。ただ信じたくなった。
「それにしても松阪君って強いよね。尊さんや文化祭でお父様と戦っても死なないんだもんね」
「お父様?」
隼人は脳内で思考を巡らせていく。するとある事を思い出した。合宿の時、彼女は父と電話していた時の事だ。
そして、先ほどの発言。思い浮かぶ考えは一つだった。
「お前だったんだな。鳥籠のスパイ」
「正解! よく分かりましたね!」
揚羽が花開いたような笑顔で拍手をした。
「合宿の時に幹部を島に連れて来たのもか?」
「そうだよー お父様の命令でね」
正体を明かしてもなお、一定のテンションで話し続ける彼女に隼人は不気味さを覚えていた。
感情の機微が一切、感じられない。その事があまりにも不自然で恐ろしく感じたのだ。
「いやー。松阪くんとは一対一で戦いたかったんだ。どっちの方が強いか。同じ剣術を使うもの同士でね」
「へえ、でも刀を使えないんじゃーー」
言葉を続けようとした時、彼女が凄まじい速度で斬りかかってきた。一瞬だった。
隼人は間一髪交わしたが、あと少し遅ければ首が飛んでいた。
「これで説明はいらないね」
「そうだな」
隼人は聖滅具を起動させて、剣先を向けた。
「いくよ。松阪くん」
彼女は隼人がこれまでとは想像もつかないほど、狂気と殺意に満ちていた。
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