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「道化と快楽」
しおりを挟む「このアニメいいよなー」
「このお洋服かわいいー」
子供の頃から退屈だった。全てに関心が持てない。周りの好きなものや考え方。どうにか理解しようとしたが、それが分からなかった。
彼には周囲の人間がよしとするものがなんともつまらなく思えて仕方がなかったのだ。
両親も普通の人だった。どこにでもいるような普通の人。彼を愛し、育てた。
ある日、学校の帰り道。重いランドセルを背負いながら川沿いを歩いているとあるものが目についた。
カマキリが立派な大鎌でバッタを捕らえていたのだ。捕食者は今にはバッタに食らいつこうとしていた。
不意に彼の手がカマキリに伸びた。カマキリが不機嫌そうに暴れて、鎌からバッタが離れた。
「えい」
彼はそのまま、カマキリの首を引き抜いた。突然の出来事で脳が機能不全を起こしているのか、カマキリの体がガタガタと痙攣し始めた。
両鎌と太い体。細い手足にかけて小刻みに震えている。彼は笑った。死んでいるのにも、関わらず生きていると思い込んでいるカマキリの滑稽さがおかしくて堪らなかったのだ。
そして、次は捕食寸前で命拾いしたバッタに目を向けた。バッタが安心したようにゆっくりと草むらへと向かっている。
彼は踏み潰した。彼は笑った。安心しきった生き物から余裕を奪うのが心地よかったのだ。
「これだ」
この日、彼は自分が夢中になれるのを見つけた。生き物を殺した時は日頃、溜まっていたストレスが波のように引いて言った。
そして、いつしか胸に抱いた衝動は他生物ではなく、同族に向くのには時間が有さなかった。
初めて殺したのは老人だった。電車内で威張り散らしていた老人の後をつけて、殺したのだ。
「わっ、悪かった。ゆっ、許してくれ」
傲慢な振る舞いをしていた老人が手の平を返したように頭を垂れて、許しを乞うている。
「ダメ」
彼はその願いを聞き入れる事なく、老人を刺し殺した後、山に埋めて虫に食わせた。
自分がいつでも相手の命を奪える立場になった時の優越感。これはこの世のあらゆる物よりも甘美で中毒性にあふれる物だった。
しかし、この立場を維持し続けるには自分自身が強くならなければならない。
彼は趣味を満たすからわら、武器の扱い方も覚えていった。
欲求を満たすために色々な人を欺き、誘い殺した。友人や恋人を作り、信頼を募った後に殺すと言った過程を重んじた殺害。
子供を攫い、嬲り殺しにすると言った少し野蛮な快楽的な殺害。気分と状況。その時々で楽しんでいたのだ。
そんな事を繰り返しているとやはり警察の目につくのは時間の問題だった。正義の執行官は彼に拳銃を向けた。
「さあ、大人しくお縄についてもらおうか」
拳銃を向ける警察官が五人。さすがに武器持ち五人は勝てない。胡乱は逃走を図ろうとした時、いきなり警察官五人の首が跳ね飛んだ。
真っ赤な血が周辺に飛び散り、遅れたタイミングで警官の体が膝から崩れた。
崩れたと同時に一人の人物の姿が目に映った。黒い鳥の仮面。黒いローブ。そして周囲から漂う凄まじい威圧感。
彼は生唾を警戒した。
「なっ。何者だ。あんた」
「私は迦楼羅。貴方と契約をしに来た者です」
「契約?」
「貴方に力を与えましょう。その代わり、私に力を貸してください」
迦楼羅が懐から一枚の黒い羽根を取り出した。彼は笑った。
そして、迦楼羅に勧誘されてから三年で彼は戦果を上げ続けて、幹部に躍り出たのだ。
組織の中で栄光を浴び続けた胡乱の体が今、みるみるうちに崩れていっている。
「ああ、マジかよ。手足の感覚もなくなってきた。音が聞こえなくなって来た。くそ、なんの音も聞こえねえし、感覚もない。死ぬのって・・・・・・退屈だな」
悔恨が混じった戯論を口からつらつらと零し、事切れた。
「やっと倒した」
ぶつけた際に痛めた右肩をさすりながら、討伐の達成感に浸る。
側では結巳が倒れていた。疲労だと思ったが、とある物が目に入りその予想はかき消された。
針が刺さっていたのだ。
「なっ!」
その時、隼人の背中に針で刺されたような小さな痛みが走った。その瞬間、一気に眠気が襲ってきた。靄がかかる視界。
落ちていく意識の中、無数の足音とともに人の声が聞こてきた。
「見つけたぞ! 松阪隼人と聖堂寺結巳だ! 捕縛しろ!」
結巳が見覚えのある格好の男達に担がれていく。忌獣対策本部の戦闘員だ。
助けようとしたが、体が動かない。結巳を見つめていくうちに意識が闇に落ちた。
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