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「弄び 嗤う」
しおりを挟む結巳が露骨に動揺していた。目の前にいるのは六年前に殺害された父の姿だったからだ。
「お前の親父さんか?」
隼人は問いに彼女は答えない。沈黙は肯定。おそらくひどく動揺している為、質問どころではないのだ。
隼人自身もかなり驚いていた。
胡乱の姿が別人になったこともそうだが、それ以上に結巳の動揺の具合が尋常ではなかったのだ。
「どっ、どうして」
結巳が震えた声で話し始めると、それを合図に胡乱が凄まじい速度で向かって来た。
隼人はすかさず結巳と胡乱の間に割って入った。踵に力を入れて、後方に吹き飛ばされないように力を入れる。
「聖堂寺!」
「松阪君!」
隼人は結巳に叫び声を上げた。戦場で戦意喪失になるのは自ら首を差し出すようなもの。
強めに振り払うと胡乱が後方へと引き下がった。
「ごめんなさい」
「いや。いい。それにしても奴の能力。変異か?」
「その通りだよ」
胡乱が戯けるように口を開いた。
「俺の能力はトラウマ。相手の心の傷となった者を体現させる能力さ」
「この!」
彼女の白い肌が真っ赤に変色した。姿は自体は敬愛する父の姿だが、声は忌まわしい怨敵そのものだ。
しかし、彼女の怒りを嘲笑うように胡乱が身軽に躱していく。
「動きが早い!」
「あはは。俺はただトラウマを体現するだけじゃないよ。トラウマが強ければ強いほど、俺の身体能力が増すんだよ!」
胡乱がそう言って、素早く結巳の腹部に蹴りを食らわせた。
「体に力が漲っているよ。この強さからして、君の心の傷はなかなかのものだね」
「タチの悪い能力だな」
「好きなだけ言えばいいさ。勝者がモノを言う。それが戦闘だよ」
「!」
結巳が地面に剣を突き刺して、氷で出来た無数の針を生み出した。修行を重ねているのおかげか、以前よりも広範囲だった。
しかし、それでもなお、胡乱を仕留めるには足りない。壁を走ってこちらに周り混んできたのだ。
「そこだ!」
結巳が胡乱の攻撃をかわして、剣を振り下ろした。
「もうやめてくれ。結巳」
「お父さん」
「もう。戦うな」
胡乱が先ほどの戯けた声ではなく、結巳の父。輝の声を出したのだ。突然の出来事に動揺したのか、彼女の動きが止まった。
胡乱の懐からゆっくりと刃物が顔を出しているのが見えた。
「はあ!」
隼人は胡乱の攻撃から結巳を庇った。そして、攻撃をなぎ払い、刀身を力強く振って黒炎を生み出した。
「影焔!」
目を血走らせながら、熱くなっていく体で駆ける隼人。燃え盛る刀身を手に相手の目と鼻の先まで近づいた時、とある出来事が彼の歩みを止めた。
「酷いよ。隼人」
胡乱が次に変身したのは隼人の親友。鳳鷹だった。
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