「黒炎の隼」

蛙鮫

文字の大きさ
上 下
65 / 115

「反逆の森」

しおりを挟む
 裏口の方から侵入すると、中から戦闘員や忌獣の叫び声が聞こえた。既にこの廃墟は戦場と化しているようだ。

「死ね!」

「殺してやるよ!」

「グオオオオ!」
 叫び声から次は銃声まで混ざっており、一層激しさが増していた。今の隼人達の立場を考えると戦闘員と遭遇すれば、彼らとも争いになりかねない。早急に目的を達成する必要があった。

「とりあえず、信徒を一人、捕まえるぞ」
 隼人は結巳とともに息を殺しながら、進んで行く。その間、辺りから怒鳴り声や雄叫びが度々に聞こえる。

 降りて行くと鉈を持った構成員がいた。こちらを見るなり、鉈を振りかざしてきた。

「遅えよ」
 しかし、隼人にとって素人の動きなど隼人からすれば赤子の手をひねるも同然。

 瞬く間に鉈を取り上げて、無力化した。

「くっ! くそ! この!」

「抵抗したら〆るぞ」
 隼人はドスの効いた声で問いかけると、構成員の動きが止まった。隼人と結巳はそのまま、構成員を連れてアジトを脱出した。

「ココ以外のアジト。全て教えろ」

「だっ、誰が! てめえらなんかに」

「話さないなら戦闘員に突き出す。今の戦闘員達に突き出されたらどうなるか。分かるでしょ?」
 結巳の言葉が効いたのか、構成員が反発するのを辞めた。構成員達も今の対策本部の異常さに気付いているのだ。

 それから構成員から知っている限りのアジトを全て聞き出した。

「知っているのはこれで全部か?」

「ああ。さあ、話したから解放してくれよ」
 隼人は約束通り、構成員を解放した。敵とは言え、惨たらしい死を見るのは寝覚めが悪い。

「さあ、いくぞ。聖堂寺。これ以上ここにいるのはまずい」

「おい。あんた。今、聖堂寺って言ったか?」

「ああ、それが」
 構成員の雰囲気が先ほど別人のように変わった。憎悪に満ちたような目を向けていた。

「お前の、お前達の一族のせいで!」
 構成員が再び、襲いかかってきた。怒りが糧になっているのか、先ほどより攻撃に勢いがあるが、隼人は首元に強烈な一撃を加えた。

「くっ、そ」 
 構成員が白目をむいて、その場で倒れた。

「今、向こうで人の声がしたぞ!」

「まずい! いくぞ。聖堂寺!」

「えっ、ええ」
 隼人は呆然とした様子の結巳を連れて、夜の森を駆けた。

「よし、あと少しだ」
 森を抜けようとした時、森の茂みから何かが現れた。狼のような姿をした忌獣だ。大きさから推測する限り、夕方に見た個体と同じだ。

「ガアアア!」

「邪魔だ!」
 忌獣が唾液を垂らしながら、飛びかかってきた。隼人は聖滅具を起動させて、瞬時に切り裂いた。呻き声をあげながら、忌獣が白目をむいた。

 隼人は結巳を連れて、森を抜けた。彼女の表情はどこか上の空だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

理想郷 - 私と幼馴染みの異世界物語 -

由奈(YUNA)
ファンタジー
1ヶ月前、幼馴染みの井黒揚羽が行方不明になって、私の世界は一変した。 * どこかへ一人で行けるはずがない病弱な幼馴染みの謎の失踪理由を探して辿り着いたのが都市伝説“ユートピア”という異世界の話だった。 * 私はただ、アゲハを心配だったから、ただそれだけだったのに。 * 理想郷とは名ばかりのその世界で見たのは『破壊者と救済者』二つの勢力が争う荒れ果てた世界だった。 * * * 異世界で異能力を手に入れて戦う冒険物語。 ※タイトルほどポップな内容ではありません。

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...