「黒炎の隼」

蛙鮫

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「反抗」

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朝。眩しい日差しが顔に差し込んだ。瞼を擦りながら、ゆっくりと体を起こした。

 隣のベッドでは結巳が寝息を立てていた。

「ああ、そうか。俺達」
 隼人は布団にくるまる結巳を見て、昨日の事を思い出した。仕度を終えた結巳と合致した後、学園から抜け出した。

 電車に乗り、遠くの駅に降りて付近の安いホテルに泊まったのだ。

 すると結巳がゆっくりと起き上がった。

「あ、おはよう」

「おう」
 隼人は睡眠で凝り固まった体を鳴らした。

「今後、どうするの?」
「忌獣が生息してそうな町外れの森や山に向かう」

「でもそれってかなり広範囲に意識を張り巡らせる必要があるわ」

「ああ、だけど対策本部だって動くだろ? 職員達をつけて、構成員の一人から残りのアジト聞き出すのも一つの手だ」
 結巳の言うとおり、無作為では体力を浪費するどころか、彼らの存在をアピールすることにも繋がる。

 一番良いのは自分達が先に忌獣と構成員を倒してアジトの情報を知り、対策本部より先に破壊する事だ。

「忌獣が活発に活動しだす夜まで町外れを巡ろう。出来る限り多く目を通していたい」

「分かったわ。なら早速!」
 結巳が何かを言おうとした時、彼女の腹の虫が鳴った。どうやら活動より栄養補給が先らしい。

「飯にするか」

「そうね」
 結巳が照れ臭そうに頰を赤くした。




「ええ。分かりました。失礼します」
 星野奏は困惑しながら、電話を切った。先ほど、寮長から松阪隼人と聖堂寺結巳が行方不明になった事を耳にしたからだ。

 二人の部屋からは生活必需品の類のみがなくなっており、予め計画されていたものだと予想された。

 現場でも活躍していた特待生二人の失踪は学園だけではなく、対策本部内をも震撼させた。

「気を取り直して授業に向かおう」
 教室の扉を開けると生徒達がこちらに目を向けた。挨拶を返して教卓に向かうと女子生徒の白峰揚羽が口を開いた。

「先生。松阪君と結巳ちゃんがいなくなって本当ですか?」
 既に情報は知られてしまっていたようだ。おそらく職員の会話を耳にしたのだろう。

「ええ。今、職員の方が探してくれているそうよ。数日中に見つかるといいんだけどね。さあ! 授業始めるわよ!」
 奏が空気を変えるように快活な声で出席を取り始めた。二人が失踪した理由はなんとなく分かっている。おそらく今の対策本部のやり方に賛同できなかったからだ。

 奏自身も経験不足で憎悪のみ掻き立てられた生徒達が戦場に行くのにひどい嫌悪感を抱いていた。

 行き場のない感情を孕んだまま、職務に臨んだ。



 夕方、隼人は結巳とともに山の中を進んでいた。忌獣の痕跡などを見つけるためだ。

 昼間から捜索していたが、あまりそれらしき痕跡は見つからなかった。

「あっ、あった」
 結巳がある一点を指差した。そこには獣より巨大な足跡がいくつも続いていた。

 間違いなく忌獣のものだ。

「この近くだな」
 隼人はこの近くにいる事を確信すると、遠くで車の走る音が聞こえた。それは確かに凄まじい速度でこちらに向かって来ている。

「隠れるぞ!」
 結巳とともに木の上に登り、身を隠した。忌獣対策本部の装甲車が辺りの木々を蹴散らす勢いで突き進んでいた。

「対策本部のやつだ。追うぞ。その先に鳥籠のアジトがある」

「ええ」
 装甲車の後を追い、アジトを目指していく。まずは一人。一人でも信徒からアジトに関する情報を聞き出せば良いのだ。

 草をかき分けて装甲車を見失わないように進んでいくと、そこには古びた廃墟があった。

「あれがアジトか。おそらくさっきの足跡の主もここから出たやつだろう」

「装甲車をつけて正解ね」

 装甲車の中から何人も戦闘員達が現れた。皆、身の回りから殺気を放ちながら、アジトの中に侵入していく。

「俺達も行くぞ」

「ええ」
 戦闘員達に見つからないように裏口から回ることにした。
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