62 / 115
「決意」
しおりを挟む
教室の中、隼人は目を見開いていた。原因は彼の目の前にいる白峰揚羽の発言である。
「揚羽も参加するのか」
「うん! 私も前線で戦う!」
揚羽が戦闘に参加すると言い始めたのだ。
「分かっているのか。戦場はこの前の一件どころじゃない。山ほど忌獣と遭遇するぞ」
「分かっているよ。危険だって事くらい。でもいつまで怯えてはいられない」
揚羽の硬い意志が宿ったような眼差しが隼人を捉えた。そこにはいつもの快活で戯けた雰囲気は感じ取れなかった。
一人の戦士として戦場に向かう者の目だ。
「えっ! 揚羽ちゃん! 現場行くの? どーしよ。私も行こうかなー」
「俺も行こう。この前の一件であいつらの恐ろしさを思い出した。あんな思い。他の人にはして欲しくない」
「私も!」
「俺も!」
揚羽の周りに次々とクラスメイト達が集まっていく。隼人には大きな渦に巻き込まれていく魚群に見えた。
「白峰さん。気をつけて」
「ありがとう! 結巳ちゃん!」
明るい笑顔を作る揚羽。それとは対照的に結巳の表情には陰りが見えた。
「まさか、揚羽までもがな」
「ええ。クラスメイトから志願者が出てくるとは思っていたけど、いざ出てくると思う所があるわね」
ロビーの自販機の近くで隼人と結巳は缶ジュースに口をつけていた。
「おふくろさんとは連絡取れているのか?」
「ええ。今は実家の方にいるとの事よ。ほとぼりが冷めるまで表には顔を見せられないみたいだわ」
「そうか」
隼人は安堵した。彼自身、何度か顔合わせをして、話をした仲だ。結巳ほどではないにせよ情がある。
ふと近くを見ると人集りができていた。その視線の際には一枚のポスターがあった。学生達に出陣を促すポスターだ。
「お前、参加するか?」
「俺は行くよ。あの一件のせいで母ちゃんのトラウマが再発した」
「私も弟があの日以来、ショックで部屋に引きこもっている」
教室と同じく生徒達が志願を胸に言葉を交わして行く。
「文化祭が終わってたった数日で色々変わっちまったな」
「まさか、こんなに変わるなんてね」
結巳が寂しげな目でポスターに目を向ける。特待生ならともかく、普通の訓練生を戦場に向かわせるなど普通ではない。
しかし、今の対策本部は明らかに正気を失っている。文化祭の一件で恐怖を抱いた生徒がいる一方、かつての忌獣への怒りを過度に燃え上がらせた者や、復讐心を植えつけられた者もいる。
心に傷を負った生徒の大半が学校にいない中、校内にいる生徒のほとんどが出陣を志願する者達だ。
「そういえば、今日だったわね。兄さんの提案への返事。どうするの?」
「それはー内緒だ」
隼人は唇に指を添えて、笑みを浮かべた。
「何よ。それ」
「まあ、後からどうせ分かるからいいだろ?」
眉をひそめる結巳。その様子を観て、隼人はクスリと笑った。彼が選んだ選択。
それは対策本部からの離脱。
即ち、ここから去る事だったのだ。
「揚羽も参加するのか」
「うん! 私も前線で戦う!」
揚羽が戦闘に参加すると言い始めたのだ。
「分かっているのか。戦場はこの前の一件どころじゃない。山ほど忌獣と遭遇するぞ」
「分かっているよ。危険だって事くらい。でもいつまで怯えてはいられない」
揚羽の硬い意志が宿ったような眼差しが隼人を捉えた。そこにはいつもの快活で戯けた雰囲気は感じ取れなかった。
一人の戦士として戦場に向かう者の目だ。
「えっ! 揚羽ちゃん! 現場行くの? どーしよ。私も行こうかなー」
「俺も行こう。この前の一件であいつらの恐ろしさを思い出した。あんな思い。他の人にはして欲しくない」
「私も!」
「俺も!」
揚羽の周りに次々とクラスメイト達が集まっていく。隼人には大きな渦に巻き込まれていく魚群に見えた。
「白峰さん。気をつけて」
「ありがとう! 結巳ちゃん!」
明るい笑顔を作る揚羽。それとは対照的に結巳の表情には陰りが見えた。
「まさか、揚羽までもがな」
「ええ。クラスメイトから志願者が出てくるとは思っていたけど、いざ出てくると思う所があるわね」
ロビーの自販機の近くで隼人と結巳は缶ジュースに口をつけていた。
「おふくろさんとは連絡取れているのか?」
「ええ。今は実家の方にいるとの事よ。ほとぼりが冷めるまで表には顔を見せられないみたいだわ」
「そうか」
隼人は安堵した。彼自身、何度か顔合わせをして、話をした仲だ。結巳ほどではないにせよ情がある。
ふと近くを見ると人集りができていた。その視線の際には一枚のポスターがあった。学生達に出陣を促すポスターだ。
「お前、参加するか?」
「俺は行くよ。あの一件のせいで母ちゃんのトラウマが再発した」
「私も弟があの日以来、ショックで部屋に引きこもっている」
教室と同じく生徒達が志願を胸に言葉を交わして行く。
「文化祭が終わってたった数日で色々変わっちまったな」
「まさか、こんなに変わるなんてね」
結巳が寂しげな目でポスターに目を向ける。特待生ならともかく、普通の訓練生を戦場に向かわせるなど普通ではない。
しかし、今の対策本部は明らかに正気を失っている。文化祭の一件で恐怖を抱いた生徒がいる一方、かつての忌獣への怒りを過度に燃え上がらせた者や、復讐心を植えつけられた者もいる。
心に傷を負った生徒の大半が学校にいない中、校内にいる生徒のほとんどが出陣を志願する者達だ。
「そういえば、今日だったわね。兄さんの提案への返事。どうするの?」
「それはー内緒だ」
隼人は唇に指を添えて、笑みを浮かべた。
「何よ。それ」
「まあ、後からどうせ分かるからいいだろ?」
眉をひそめる結巳。その様子を観て、隼人はクスリと笑った。彼が選んだ選択。
それは対策本部からの離脱。
即ち、ここから去る事だったのだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
箱庭物語
晴羽照尊
ファンタジー
※本作は他の小説投稿サイト様でも公開しております。
※エンディングまでだいたいのストーリーは出来上がっておりますので、問題なく更新していけるはずです。予定では400話弱、150万文字程度で完結となります。(参考までに)
※この物語には実在の地名や人名、建造物などが登場しますが、一部現実にそぐわない場合がございます。それらは作者の創作であり、実在のそれらとは関わりありません。
※2020年3月21日、カクヨム様にて連載開始。
あらすじ
2020年。世界には776冊の『異本』と呼ばれる特別な本があった。それは、読む者に作用し、在る場所に異変をもたらし、世界を揺るがすほどのものさえ存在した。
その『異本』を全て集めることを目的とする男がいた。男はその蒐集の途中、一人の少女と出会う。少女が『異本』の一冊を持っていたからだ。
だが、突然の襲撃で少女の持つ『異本』は焼失してしまう。
男は集めるべき『異本』の消失に落胆するが、失われた『異本』は少女の中に遺っていると知る。
こうして男と少女は出会い、ともに旅をすることになった。
これは、世界中を旅して、『異本』を集め、誰かへ捧げる物語だ。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

1001部隊 ~幻の最強部隊、異世界にて~
鮪鱚鰈
ファンタジー
昭和22年 ロサンゼルス沖合
戦艦大和の艦上にて日本とアメリカの講和がなる
事実上勝利した日本はハワイ自治権・グアム・ミッドウエー統治権・ラバウル直轄権利を得て事実上太平洋の覇者となる
その戦争を日本の勝利に導いた男と男が率いる小隊は1001部隊
中国戦線で無類の活躍を見せ、1001小隊の参戦が噂されるだけで敵が逃げ出すほどであった。
終戦時1001小隊に参加して最後まで生き残った兵は11人
小隊長である男『瀬能勝則』含めると12人の男達である
劣戦の戦場でその男達が現れると瞬く間に戦局が逆転し気が付けば日本軍が勝っていた。
しかし日本陸軍上層部はその男達を快くは思っていなかった。
上官の命令には従わず自由気ままに戦場を行き来する男達。
ゆえに彼らは最前線に配備された
しかし、彼等は死なず、最前線においても無類の戦火を上げていった。
しかし、彼らがもたらした日本の勝利は彼らが望んだ日本を作り上げたわけではなかった。
瀬能が死を迎えるとき
とある世界の神が彼と彼の部下を新天地へと導くのであった

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる