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「下準備」
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夕日が差し込む放課後の教室。隼人はクラスメイト達と文化祭の準備に取り組んでいた。
普段なら鍛錬の時間だが今の時期は微調整を行なって、少し遅らせている。
明日は休日という事もあり、同級生達はこれでもかという勢いで取り組んでいた。
「松阪。あとでこっちも手伝ってくれ」
「ああ。今いく」
隼人はクラスメイトに呼ばれて、手伝いに向かった。彼も着々とクラスメイトと交流を深めている。入学当初の彼からは考えもしなかった事だ。
「みんなー差し入れだよー! 休憩しよー」
両手にドーナツの袋を持った揚羽や他生徒が教室に入ってきた。他の生徒達が一気に力を抜き始めた。
隼人もそれに乗じて、休憩を取ることにした。
甘いドーナツの糖質が疲れた体に染み渡る。普段、糖質を積極的に取らない彼にとって久しぶりの糖分だ。
「ドーナツってうまいんだな」
「なかなか捗っているみたいね」
「おかげさまでな」
ドーナツを頬張っていると結巳が隣にやってきた。彼女は別のところで飾り付けを行なっていたのだ。
「そっちの進捗は?」
「問題なしね。あとは色塗りね」
彼女がそう言って、両手を組んで伸ばした。鍛錬ではないといえ疲れは溜まるものだ。
「さて、戻りますか」
隼人は残りのドーナツを口に放り込んで、作業に戻った。
午後八時。教官に促されて隼人達は寮へと戻ることになった。
「お疲れー」
「また明日」
同級生達に別れを告げたあと、隼人はトイレに向かった。用を済まして、手を洗っていると個室の扉が開いた。
入っていたのは見覚えがある生徒だった。赤間透。数ヶ月前、模擬試合で対戦した相手だ。
あまり出くわしたくないのか、隼人を見るなり引きつったような顔を浮かべた。
彼とは模擬戦以降、顔をあわせることもなかった。故に会うのはかなり久しぶりだ。
「まっ、松阪隼人!」
「赤間」
「あんたもこの時間まで文化祭の準備を」
「まっ、まあね。父上も来るのでね。程度の低いものにはしたくないのさ」
赤間が以前に見た済ました顔を作って答えた。
以前、彼の家は代々、優秀な戦闘員を輩出している名家だと聞いた。きっとそういう側面もあり、文化祭に力を入れているのだ。
「あ、あと、わっ、悪かったね。以前見下したような事を言って」
「良いよ。気にするな」
「そっ、そうか。文化祭。互いに良いものにしよう」
「ああ」
赤間が照れ臭そうに顔を赤らめて、トイレを後にした。隼人自身、心の中に引っ掛かっていた破片が取れたような感覚を抱いた。
寮に戻った後、ジャージに着替えてランニングに向かった。夜のランニングは日中とは違い、日が出ていないので涼しさを感じながら走ることが出来る。
羽根のように軽い足取りでアスファルトの上を進んでいく。身軽で気温も適温のため、快い。
「気分がいいな」
どこまで走っていける。そんな気がするのだ。一歩、また一歩と視界に広がる世界に飛び込んて行った。
ランニングを終えてシャワーを浴びた後、ベッドの上で横になっていた。明日の事を脳内で巡らせていると携帯電話が鳴った。相手は結巳だった。
「よう」
「こっ、こんばんは」
「どうした?」
「あの実は白峰さんに買い出しを頼まれて、一緒に来てくれない?」
「ああ、いいぞ」
彼女からの頼みを承諾した。文化祭関連のことなら断る理由はない。
「それじゃあ、明日。九時に寮の外れの公園で」
「了解」
「そっ、それじゃあ。おやすみ」
「おやすみ」
隼人は一言告げた後、電話を切った。充実感に胸を躍らせながら、瞼を閉じた。
普段なら鍛錬の時間だが今の時期は微調整を行なって、少し遅らせている。
明日は休日という事もあり、同級生達はこれでもかという勢いで取り組んでいた。
「松阪。あとでこっちも手伝ってくれ」
「ああ。今いく」
隼人はクラスメイトに呼ばれて、手伝いに向かった。彼も着々とクラスメイトと交流を深めている。入学当初の彼からは考えもしなかった事だ。
「みんなー差し入れだよー! 休憩しよー」
両手にドーナツの袋を持った揚羽や他生徒が教室に入ってきた。他の生徒達が一気に力を抜き始めた。
隼人もそれに乗じて、休憩を取ることにした。
甘いドーナツの糖質が疲れた体に染み渡る。普段、糖質を積極的に取らない彼にとって久しぶりの糖分だ。
「ドーナツってうまいんだな」
「なかなか捗っているみたいね」
「おかげさまでな」
ドーナツを頬張っていると結巳が隣にやってきた。彼女は別のところで飾り付けを行なっていたのだ。
「そっちの進捗は?」
「問題なしね。あとは色塗りね」
彼女がそう言って、両手を組んで伸ばした。鍛錬ではないといえ疲れは溜まるものだ。
「さて、戻りますか」
隼人は残りのドーナツを口に放り込んで、作業に戻った。
午後八時。教官に促されて隼人達は寮へと戻ることになった。
「お疲れー」
「また明日」
同級生達に別れを告げたあと、隼人はトイレに向かった。用を済まして、手を洗っていると個室の扉が開いた。
入っていたのは見覚えがある生徒だった。赤間透。数ヶ月前、模擬試合で対戦した相手だ。
あまり出くわしたくないのか、隼人を見るなり引きつったような顔を浮かべた。
彼とは模擬戦以降、顔をあわせることもなかった。故に会うのはかなり久しぶりだ。
「まっ、松阪隼人!」
「赤間」
「あんたもこの時間まで文化祭の準備を」
「まっ、まあね。父上も来るのでね。程度の低いものにはしたくないのさ」
赤間が以前に見た済ました顔を作って答えた。
以前、彼の家は代々、優秀な戦闘員を輩出している名家だと聞いた。きっとそういう側面もあり、文化祭に力を入れているのだ。
「あ、あと、わっ、悪かったね。以前見下したような事を言って」
「良いよ。気にするな」
「そっ、そうか。文化祭。互いに良いものにしよう」
「ああ」
赤間が照れ臭そうに顔を赤らめて、トイレを後にした。隼人自身、心の中に引っ掛かっていた破片が取れたような感覚を抱いた。
寮に戻った後、ジャージに着替えてランニングに向かった。夜のランニングは日中とは違い、日が出ていないので涼しさを感じながら走ることが出来る。
羽根のように軽い足取りでアスファルトの上を進んでいく。身軽で気温も適温のため、快い。
「気分がいいな」
どこまで走っていける。そんな気がするのだ。一歩、また一歩と視界に広がる世界に飛び込んて行った。
ランニングを終えてシャワーを浴びた後、ベッドの上で横になっていた。明日の事を脳内で巡らせていると携帯電話が鳴った。相手は結巳だった。
「よう」
「こっ、こんばんは」
「どうした?」
「あの実は白峰さんに買い出しを頼まれて、一緒に来てくれない?」
「ああ、いいぞ」
彼女からの頼みを承諾した。文化祭関連のことなら断る理由はない。
「それじゃあ、明日。九時に寮の外れの公園で」
「了解」
「そっ、それじゃあ。おやすみ」
「おやすみ」
隼人は一言告げた後、電話を切った。充実感に胸を躍らせながら、瞼を閉じた。
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