「黒炎の隼」

蛙鮫

文字の大きさ
上 下
37 / 115

「傲岸不遜 尊」

しおりを挟む
 
最悪。彼を見た隼人が最初に抱いた感情だ。絶海の孤島で対策本部の人間がいない中で幹部との遭遇。心臓の鼓動が微かに早くなっていた。

「あれ? よく見たら君」
 尊が隼人をまじまじと見つめた後、口角を上げた。

「そうか! 君が鎌鼬を倒したやつか! そうかそうか!」
 尊がいきなり一人ではしゃぎ始めた。尊の口ぶりからして『ハンプティ・ダンプティ』の一件は敵に知られているようだ。

「僕がここにきたのはね? 君を殺すためだよ。でもね。僕も苦しませながら、人を殺すのは寝覚めが悪いのさ。だから抵抗しないっていうなら楽に殺してあげる」

「あいにく、俺にはまだやりたいことがあるんだ。お前らを全員殲滅するっていう大仕事がな」
 隼人は刃の先を尊に向けた。慈悲はない。そして、殺されるつもりも毛頭ない。 

「ふーん。それじゃあ死んで?」

 尊が隼人に向かって親指で中指を抑えた後、強く弾いた。

 その瞬間、凄まじい衝撃波が隼人に向かって飛んできたのだ。隼人は間一髪かわして、難を逃れた。

「今の、衝撃波か」

「そっ。まあ知ったところで意味ないけどね。どうせ死ぬんだし」
 尊が隼人に向けた手のひらを合わせた瞬間、指とは比べ物にならないほどの爆風が襲ってきた。

 尊の異能。それは衝撃波だった。指を弾く、対象に向かって強く両手を叩く。その時に巻き起こった衝撃を何十倍にして相手に向けるというものだ。

「その前にあんたの首をとる」
 覚悟を胸に地面を踏みしめて、一歩を踏み出した。相手は鳥籠の幹部。忌獣や並の宿主とは比較にならない程、強い。

 それは『ハンプティ・ダンプティ』でも一件で明らかになっている。

「拍手!」
 先ほど同じく両手を合わせて、衝撃波を生み出した。肉眼で衝撃を確認できるが、凄まじい勢いで迫ってくるため、避けるのも一苦労だ。

「ふーん。なかなか頑張るね」

「あんたが早急に立ち去ってくれればこんなに苦労しないんだけどな!」
 隼人は茂みの中に入って、尊が自信を認識できないようにした。その際も近くの木々や草が尊の生み出す衝撃波で吹き飛ばされて行く。

「いまだ!」
 尊が衝撃を打ち終えた寸前を見計らい、背後の茂みから勢いよく飛び出した。

「なっ!」
 態勢を低くして、刀身を尊の右腕に振るいあげた。刀は見事に右腕を捉えて切り落とした。

「よし!」
 しかし、喜んだのもつかの間、途端に切り落とした腕が時を戻したように治っていった。

「やっぱり、幹部ってのは再生能力高いな」

「あのさあ、再生はするけど痛くないわけじゃないんだよ。この僕の腕を切り落とすとかさ。加虐さも極まったものだよ!?」

「人の事言えたタマかよ」
 隼人は支離滅裂な理由で癇癪を起こし続ける俗物に睨みつけた。

「気分悪いよ。本当に!」
 尊が勢いよく腕を腕を振ろうとした時、隼人との間に割り込むように氷の壁が出現した。

「間一髪ってところね」
 そこにいたのは額から少し汗を流していた結巳だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

異世界の剣聖女子

みくもっち
ファンタジー
 (時代劇マニアということを除き)ごく普通の女子高生、羽鳴由佳は登校中、異世界に飛ばされる。  その世界に飛ばされた人間【願望者】は、現実世界での願望どうりの姿や能力を発揮させることができた。  ただし万能というわけではない。 心の奥で『こんなことあるわけない』という想いの力も同時に働くために、無限や無敵、不死身といったスキルは発動できない。  また、力を使いこなすにはその世界の住人に広く【認識】される必要がある。  異世界で他の【願望者】や魔物との戦いに巻き込まれながら由佳は剣をふるう。  時代劇の見よう見まね技と認識の力を駆使して。  バトル多め。ギャグあり、シリアスあり、パロディーもりだくさん。  テンポの早い、非テンプレ異世界ファンタジー! *素敵な表紙イラストは、朱シオさんからです。@akasiosio

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...