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「傲岸不遜 尊」
しおりを挟む最悪。彼を見た隼人が最初に抱いた感情だ。絶海の孤島で対策本部の人間がいない中で幹部との遭遇。心臓の鼓動が微かに早くなっていた。
「あれ? よく見たら君」
尊が隼人をまじまじと見つめた後、口角を上げた。
「そうか! 君が鎌鼬を倒したやつか! そうかそうか!」
尊がいきなり一人ではしゃぎ始めた。尊の口ぶりからして『ハンプティ・ダンプティ』の一件は敵に知られているようだ。
「僕がここにきたのはね? 君を殺すためだよ。でもね。僕も苦しませながら、人を殺すのは寝覚めが悪いのさ。だから抵抗しないっていうなら楽に殺してあげる」
「あいにく、俺にはまだやりたいことがあるんだ。お前らを全員殲滅するっていう大仕事がな」
隼人は刃の先を尊に向けた。慈悲はない。そして、殺されるつもりも毛頭ない。
「ふーん。それじゃあ死んで?」
尊が隼人に向かって親指で中指を抑えた後、強く弾いた。
その瞬間、凄まじい衝撃波が隼人に向かって飛んできたのだ。隼人は間一髪かわして、難を逃れた。
「今の、衝撃波か」
「そっ。まあ知ったところで意味ないけどね。どうせ死ぬんだし」
尊が隼人に向けた手のひらを合わせた瞬間、指とは比べ物にならないほどの爆風が襲ってきた。
尊の異能。それは衝撃波だった。指を弾く、対象に向かって強く両手を叩く。その時に巻き起こった衝撃を何十倍にして相手に向けるというものだ。
「その前にあんたの首をとる」
覚悟を胸に地面を踏みしめて、一歩を踏み出した。相手は鳥籠の幹部。忌獣や並の宿主とは比較にならない程、強い。
それは『ハンプティ・ダンプティ』でも一件で明らかになっている。
「拍手!」
先ほど同じく両手を合わせて、衝撃波を生み出した。肉眼で衝撃を確認できるが、凄まじい勢いで迫ってくるため、避けるのも一苦労だ。
「ふーん。なかなか頑張るね」
「あんたが早急に立ち去ってくれればこんなに苦労しないんだけどな!」
隼人は茂みの中に入って、尊が自信を認識できないようにした。その際も近くの木々や草が尊の生み出す衝撃波で吹き飛ばされて行く。
「いまだ!」
尊が衝撃を打ち終えた寸前を見計らい、背後の茂みから勢いよく飛び出した。
「なっ!」
態勢を低くして、刀身を尊の右腕に振るいあげた。刀は見事に右腕を捉えて切り落とした。
「よし!」
しかし、喜んだのもつかの間、途端に切り落とした腕が時を戻したように治っていった。
「やっぱり、幹部ってのは再生能力高いな」
「あのさあ、再生はするけど痛くないわけじゃないんだよ。この僕の腕を切り落とすとかさ。加虐さも極まったものだよ!?」
「人の事言えたタマかよ」
隼人は支離滅裂な理由で癇癪を起こし続ける俗物に睨みつけた。
「気分悪いよ。本当に!」
尊が勢いよく腕を腕を振ろうとした時、隼人との間に割り込むように氷の壁が出現した。
「間一髪ってところね」
そこにいたのは額から少し汗を流していた結巳だった。
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